自己調整機能を有したスマート柔構造物の振動制御 - ResearchGate

424 自己調整機能を有したスマート柔構造物の振動制御
Vibration Control of a Smart Flexible Structure with Self-Maintenance
正
Masayuki OKUGAWA
Minoru SASAKI
奥川雅之
(岐阜高専)
正
佐々木 実
(岐阜大学)
Gifu National College of Technology, Kamimakuwa, Shinsei, Motosu, Gifu
Gifu University. 1-1 Yanagido, Gifu
This paper addresses vibration control of a smart flexible cantilever sandwiched between a piezoelectric materials
(PZT). A method of achieving self-sensing without bridge circuit are proposed in this study. Analysis of the system
dynamics derives that the input-output relationship of a self-sensing system on the cantilever with PZT can be
described by the state space expression with a direct transmission part. Controller design of the proposed selfsensing system is considered in this paper. Calculated simulations are performed to evaluate the performance of the
designed controller via uncertainty by supposing a direct transmission part variation. Simulation results demonstrate
that H∞ optimal controller can be achieved to compensate of the robust stability for self-sensing system under a
direct transmission part with uncertainties.
Key Words : Smart Structure, Self-Sensing, Piezoelectric Material, H∞ Optimal Control, Observer,
Direct Transmission Part.
A1. はじめに
本論文では,片持ち梁を例に,圧電素子を貼付することによっ
てスマート化された柔軟構造物に関する振動制御問題について
述べる.提案手法による自己調整機能の導入は,直達項成分を
有するシステムに対する制御系設計問題であることを示し,制
御系設計時における問題点を挙げ,特に直達項の変動に対して
考察する.
徴としている (図 A1).このことにより,プログラマブルにモ
デル及び制御系更新が容易となり,自己調整機能を有すること
が可能になるものと考えられる.しかし,振動制御実験を実施
したところ制御性能が芳しくなかった.そこで今回は,自己調
整の実現を目指したセルフセンシングシステムに対する制御系
設計問題を取り上げた.
A3. 数値計算結果
A2. 自己調整を有する柔軟梁構造物
-3
P
P
+
+
K
ˆs
x
Feedback
gain
Fig. A1
Control input [v]
0
-2
0
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0
-5
-10
0
0.2
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
(a) LQ optimal control (Left: Tip displacement, Right: Control input)
-3
x 10
2
10
1
5
0
-2
0
0
-5
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
-10
0
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
(a) H∞ optimal control (Left: Tip displacement, Right: Control input)
Bridge
Circuit
Controller
5
-1
P
+
+
1
Control input [v]
P(xs ) Self-sensing system
P
10
-1
Output [v]
本研究における自己調整とは,構造物自身が,不確定な物性
変動によって生じるアンバランスに対する再調整機能のことで
あり,人為的な介在を排し,自動的にメンテナンスが行えるこ
とを想定している.広義にはモデルの更新(再同定)および制
御系の再設計をも含む.プログラマブルな補償器を用いること
によって,コントローラを更新し,システムに生じた諸変化に
対して状態を評価し,構造物が周囲の環境変化に対して適応す
るものである.
Output [v]
x 10
2
Fig. A2 Simulation results of initial response
O(xˆs )
Observer
Structure of the proposed self-sensing system
[Left:Previous (Bridge circuit), Right:Proposed]
本手法は,セルフセンシング問題に対して,圧電素子と片持
ち梁のダイナミクス構造に注目し,セルフセンシングシステム
の入出力関係に関して直達項を含んだ状態空間モデルとして扱
い,ブリッジ回路の調整をシステム同定問題に帰着した点を特
図 A2 に数値計算結果の例を示す.LQ 最適制御系の場合,直
達項ゲイン(D ゲイン)の変動に対して,コントローラの構造
からコントローラを不安定化させることになるためその影響を
受け易く,制御性能を上げるためにタイトに設計するとコント
ローラが不安定化してしまうことがわかった.その反面,H∞
最適制御系の場合,今回の数値計算例では,安定なコントロー
ラが導出された.また,その解はオブザーバによるロバスト性
の劣化を補償したものが得られる.
日本機械学会〔№01-5〕 Dynamics and Design Conference 2001 CD-ROM論文集〔2001.8.6-9,東京〕 2. 自己調整を有する柔軟梁構造物
本研究における自己調整とは,構造物自身が,不確定な物性
変動によって生じるアンバランスに対する再調整機能のことで
あり,人為的な介在を排し,自動的にメンテナンスが行えるこ
とを想定している (6)(7) .広義にはモデルの更新(再同定)お
よび制御系の再設計をも含む.プログラマブルな補償器を用い
ることによって,コントローラを更新し,システムに生じた諸
Self-Maintenance
Renew
Controller
Renew
model
Evaluation of state
現在,国際宇宙ステーションの開発が進められているが,こ
のような大型宇宙構造物では,そのメンテナンスの無人化及び
自動化が望まれている.本研究では,トラス構造物や人工衛星
の太陽電池パドルなどのような大型柔軟構造物に対して,構造
材料の軽量化・高剛性化だけではなく,材料・構造物のスマート
化を目指し,外乱に対する振動抑制とともに宇宙空間など極限
環境下における自動メンテナンス化について検討を行っている.
圧電素子を構造材料と複合させることで,構造物自身が圧電
効果の可逆特性からアクチュエータとセンサの両機能を有する
ことが出来る.そのため,別途センサやアクチュエータを用意
することなく構造物に生じた振動を構造物自身が抑制すること
ができる.アクチュエータ機能とセンサ機能を同時に使用する
場合,観測出力に混在する制御入力信号とセンサ出力信号の分
離が問題となる.これをセルフセンシング問題と言い,RC あ
るいは CC ブリッジ回路の導入が提案されている (1)(2) .しか
し,ブリッジ回路のバランス(平衡)時の調整が不十分な場合,
システムが不安定化することも指摘されている (3) .そのため,
ハード的な再調整が必要となる.そこで,筆者らは,この問題
に注目し,陽に信号の分離を考えるのではなく,セルフセンシ
ングシステムが直達項を有する状態空間表現で記述されること
から,オブザーバの導入によって,入出力情報が混在する観測
出力から内部状態の推定が可能であることを示した (4) .その
結果,セルフセンシングシステムのチューニングは,システム
同定および状態推定問題に帰着され,人為的な調整に依存する
ことのない,構造物自身による調整が期待される.このような
構造物を筆者らは自己調整機能を持つスマート構造物と呼んで
いる.
一方,セルフセンシングシステムを構成することにより,コ
ロケーションが本質的に成立するため,システムの伝達零点が
左半平面に存在して,必ず,最小位相系になることから,制御
系設計に関して都合がよい (5) .例えば,LAC (Low Authority
Control) と呼ばれるシステムのパラメータに依存しない直接速
度フィードバック (DVFB) あるいは速度及び変位フィードバッ
ク (DVDFB) によって,ロバスト安定性が確保されることが知
られている.しかし,静的フィードバックである LAC では,よ
り高い制御性能は望めないことから,システムの速応性や外乱
感度等の制御性能を改善するために H∞ 制御理論などに代表さ
れる動的補償器による HAC (High Authority Control) を適用
する必要がある.特に柔軟構造物では,モデルベースで制御系
を設計する場合,制御および観測スピルオーバに対するロバス
ト性を確保しなければならない.
本論文では,片持ち梁を例に,圧電素子を貼付することによっ
てスマート化された柔軟構造物に関する振動制御問題について
述べる.提案手法による自己調整機能の導入は,直達項成分を
有するシステムに対する制御系設計問題であることを示し,制
御系設計時における問題点を挙げ,特に直達項の変動に対して
考察する.
変化に対して状態を評価し,構造物が周囲の環境変化に対して
適応するものである.図 1 にセルフセンシングシステムにおけ
る自己調整の概念図を示す.本論文では,セルフセンシング問
Variation of system
Structures
P
Characteristics
and so on...
Learning
Fig. 1 Self-Maintenance
題に対して,圧電素子と片持ち梁のダイナミクス構造に注目し,
セルフセンシングシステムの入出力関係に関して直達項を含ん
だ状態空間モデルとして扱い,ブリッジ回路の調整をシステム
同定問題に帰着した点を特徴としている (7)(9) .この点に関し
て,仮想ブリッジ回路とは相違がある (8) .このことにより,プ
ログラマブルにモデル及び制御系更新が容易となり,自己調整
機能を有することが可能になるものと考えられる.しかし,振
動制御実験を実施したところ制御性能が芳しくなかった (7)(10) .
そこで今回は,自己調整の実現を目指したセルフセンシングシ
ステムに対する制御系設計問題を取り上げる.
3. 圧電素子で構成された片持ち梁
本研究では,図 2 に示すようなパラレル結線されたフィル
ム型圧電素子を金属シム材の両面に貼り合わせた片持ち梁を考
える.
m
c
1. はじめに
Metal Shim
(Thickness ut)
y
-
+
z
Piezo Film
(Thickness uq)
Fig. 2 Structure of a cantilever with the PZT
3.1. 圧電方程式
梁の長手軸方向を x,その垂直軸方向を
y とし,x − y 平面における振動を考える.応力 T ,ひずみ S
の機械量と電界 E ,電気変位(電束密度)D の電気量との電気
機械結合関係より,次の圧電方程式を得る.
S = sE T + dE
D = dp T +
T
E
(1)
(2)
ここで,sE は電界の強さを一定にした場合の弾性コンプライア
ンス (1/Y Y :ヤング率), T は応力を一定にした場合の誘電
率,dp は圧電ひずみ定数である.
3.2. 梁の曲げ振動
図 2 に示した片持ち梁に対して,オイ
ラー・ベルヌーイ梁理論を適用し,印加電圧 v¯(t) によって生じ
る梁の曲げ振動に関する運動方程式を導出すると,次のような
偏微分方程式が得られる.
∂ 2 y(x, t)
∂ ∂ 4 y(x, t)
)
+
ρA
∂t
∂x4
∂t2
dδ(x)
dδ(x − l)
= N v¯(t){
−
}
dx
dx
Cf
PZT
qm
Cp
vc (t)
Rf
vp (t)
Charge
Amp.
qf
qf
Rb
LF412
+
vs (t)
Charge Amp.
Y I(1 + γ¯
Fig. 3 Instrumentation circuit
(3)
ここで,A は梁の断面積,I は断面2次モーメント,ρ は密度,
δ(x) は Dirac のデルタ関数,γ
¯ は内部構造減衰係数である.こ
のとき,梁先端(x = l)と根元位置(x = 0)における境界条件
は一端固定,他端自由と仮定する.そこで,一般解を次式とし,
き,制御入力 vc (t) を端子間に印加した場合,圧電素子には,
vp (t) + vc (t) の電圧が生じると同時に,qm (t) の電荷が生じる.
qm (t) = qc (t) + qp (t)
(10)
= Cp [vp (t) + vc (t)]
(11)
∞
y(x, t) =
Xi (x)fi (t)
(4)
i=1
片持ち梁の正規モード関数 Xi (x) の直交性を利用することによ
り,i 次の固有振動モードに関する一般化座標 fi (t) をパラメー
タとした次の運動方程式を得る.
¯ i vc (t)
f¨i (t)+ γ¯ ωi2 f˙i (t)+ωi2 fi (t) = Wi v¯(t) = W
0 < ε ≤ 1.
∂ 2 y(x, t)
+
∂x2
T
E
∞
¯
vs (t) = Cα
i=1
∞
(7)
となる.ただし,wp は梁の中立軸から圧電素子の中心軸までの
距離である.圧電素子内に生じる総電荷 qp (t) は
¯
= Cα
i=1
(14)
dXi (l)
¯ c (t)
fi (t) + Cv
dx
(15)
Ü (t) = [Ü (t) · · · Ü (t) · · · Ü
Ü (t) = f (t) f˙ (t)
DdA
T
1
i
∂ 2 y(x, t)
+
∂x2
b(dwp Y
0
dXi (l)
¯
fi (t) + C(βε
+ 1)vc (t)
dx
T
i
T
T
∞ (t)]
(16)
T
A
l
=
(13)
このように測定される電圧は梁先端のたわみ角に比例した量
となっているため,振動抑制のみならずサーボ問題への応用も
可能となる.
3.5. 状態空間表現
ここで,状態変数として xs (t) を次の
ようにおく.
s
qp (t) =
(12)
したがって,図 3 に示した検出回路の関係は, 式(9)より
β ≈ 0 なので,次のセンサ方程式を得る.
(6)
一方,印加電界 E によって梁に曲げ
3.3. センサ方程式
応力が生じるときに圧電素子内部に発生する電気分極 D は,圧
電基本式(2)より,
D = dp wp Y
qm (t)
Cf
¯
= C [vp (t) + vc (t)]
vs (t) =
(5)
N dXi (l)
¯ i = εWi ,ε
ここで,ωi は i 次固有振動数,Wi = ρA
,W
dx
は図 3 に示す入力電圧 vc (t) に対する分圧比である.
v¯(t) = εvc (t),
また,チャージアンプの基準コンデンサの静電容量を Cf とす
ると,発生した電荷 qm (t) はすべて Cf にチャージされる.観
¯ = Cp /Cf とおく.
測出力電圧 vs (t) は,次式となる.ただし,C
∞
= bdp wp Y
i=1
T
vp (t) = α
i=1
dXi (l)
v (t)
fi (t) + β¯
dx
Ü˙ (t) = Ü (t) + v (t) y (t) = Ü (t) + d v (t)
i
(8)
i
i
となる.したがって,梁の曲げ振動による発生電圧 vp は,圧電
素子の静電容量を Cp とすると,vp (t) = qp (t)/Cp で与えられ,
∞
(17)
i
このとき,式(5)は次の状態空間表現として表すことができ
る.また,直達項が存在している点に注目してもらいたい.
E)dx
dXi (l)
b Tl
fi (t) +
v¯(t)
dx
tp
i
(18)
i c
i
(19)
i c
ここで,
i
=
i
=
(9)
となる.ここで,α = bdp wp Y /Cp ,β = b T l/(Cp tp ) である.
3.4. チャージアンプによる電荷計測
観測出力を測定する
ためには,高インピーダンスの計測回路を接続する必要がある.
そのため,ボルテージフォロワかチャージアンプを使用する.
今回は,図 3 に示すようなチャージアンプを使用した.このと
i
i
0
1
,
γ ωi2
−ωi2 −¯
¯ dXi (l) 0 ,
Cα
dx
i
=
di
=
0
Wi
,
¯
C.
例えば,1次および2次振動モードまでを考慮し,有限次
元化した場合,セルフセンシングアクチェータの状態空間表現
P( s ) は,観測出力を ys (t) = vs (t),制御入力 u(t) = vc (t) と
すると,式 (5) および (15) より,
Ü
Ü ) : Üy˙ (t)
(t)
P(
s
=
s
=
s
Ü (t) + u(t) Ü (t) + d u(t)
s
s
s
s
s
s
(20)
以上より,コントローラ K(s) が存在する必要十分条件は,
となる.
s
=
s
=
0
1
0
,
2
1
,
2
s
=
ds
=
(i)
1
2
(ii)
¯
C.
また,出力方程式の各項に対して次のような記号を用いる.
ys (t) = yp (t) + yc (t)
yp (t) =
s
Ü (t),
(21)
yc (t) = ds u(t).
s
ここで,dom(Ric) は Ric が属する空間, Ric(∗) は,ハミルト
ン行列 ∞ および ∞ で定義される Riccati 方程式の安定化
解であり,λmax (∗) は最大固有値である.
À
Ü
Ü
Ä
Ü
Ü
Ä
Ä
Ü
=Ê
È
Ä=Ê È
−1
f
−1
o
È È
T
s
f
(23)
o
T
s
(24)
À Æ
ここで, f , o は,次のハミルトン行列 lq , lq で定義さ
れる Riccati 方程式の安定化解である.ここで,重み行列 f ,
o , f , o は半正定行列である.
É Ê Ê
À
lq
Æ
lq
s
=
−
É
f
T
s
=
−
−
É
−
É
Ê
−1
T
s s
f
− Ts
Ê
−1 T
o
s
−
o
À
∞
=
Æ
∞
=
s
,
(26)
−
T
1
−
1
2
Ê
É
Æ
Ü˙ (t) = Ü(t) + Û(t) + Ù(t)
Þ(t) = É Ü(t) + Ê Ù(t)
Ý(t) = Ü(t) + ÆÛ(t) + Ù(t)
s
1
2
s



=

(28b)
(28c)
s

G(s) = 
(28a)
s
1
2

1
2
1
11
12
∗
1
2
21
22
0
s
É
1
2
0
s
0
0
0
0
0
Æ
s
0
Ê
1
2
s





2
,
(32)
y−
∞ (ˆ
2
y)
(33a)
(33b)
(33c)
2
(33d)
ここで,
∞
x2
x3
v
:= −
T
2
,
Ä
∞
:= −
T
2,
Á
/γ 2 )−1 .
:= ( −
{2
F
O
{3
,
ct
.2
,
)tJ.Bt*
yt
dt
,
,
,
zt
,
et
H)t*
L)t*
Fig. 4 Generalized plant G(s) for H∞ control
Table 1 Controller design parameters
É
É
Ê
Ê
f
f
(29)
−
∞
o

T
2
(31)
22
(27)
このとき,一般化制御対象を次のように定義する.ここで, ,
, , は正定対象行列である.通常の H∞ 制御問題と違
うところは,D22 = 0 でないことである.解の導出に際しては,
従来の解法が適用できる.
T
2
−
T
1
1
2
T
T
2
1 /γ
1
−
܈˙ = ܈ + Ûˆ + Ù + Ä
܈ + u
yˆ =
٠= ܈
ˆ
Ûˆ =
/γ Ü
Û
γ>0
−
1
T
最悪外乱 (t) = w1 w2 に対
4.2. ∞ 最適制御系
して,||Gzw ||∞ を γ 以下にする出力フィードバックを用いた
H∞ 最適制御問題を考える.
||Gzw ||∞ < γ;
T
2
1 /γ
1
中心解を選んだ場合,次のようなコントローラ K(s) を得る.
(25)
s
Æ
À
Ä
Ä
À ) ≥ 0;
= Ric(Æ ) ≥ 0;
= Ric(
) < γ2 ;
(iii) λmax (
4. セルフセンシングシステムに対する制御系設計
4.1.LQ 最適制御系
システム P( s ) は,可制御・可観測
性をともに満たしている.したがって, ˆ (t) を状態変数とした
同一次元オブザーバ(ゲイン: )を設計し,状態変数の推定を
行うことが可能である.さらに推定された状態量をフィードバッ
ク(ゲイン: )することにより閉ループ系を構成する.以下に
LQ 制御理論に基づいた制御系を示す.次のような動的補償器
を用いることになる.
ˆ˙ (t) = ( s − s − s + s )ˆ (t)+ ys (t)
(22)
u(t) = − ˆ (t)
オブザーバゲイン およびフィードバックゲイン は,線
形2次形式評価関数に関する最適レギュレーション問題として
決定される.
À ∈ dom(Ric) and
Æ ∈ dom(Ric) and
o
LQ
6
Á
10 ×
2 × 105 ×
10
1
É
Á
Ê
Æ
H∞
Á
Á
104 ×
10−3 ×
2.1 × 10−3
10−4
5. 数値計算
(30)
5.1. 計算条件
提案手法の実現性を確認するために,簡単
な数値計算を行った.その際,使用した制御対象の状態空間モデ
ルは,富士セラミックス社のバイモルフ型圧電素子 (PZT:C82)
の技術資料 (11) に掲載されている物性値を参考に各パラメータ
|∆| < 1
ds + ∆σ(t),
(34)
10
1
5
Control input [v]
Output [v]
2
0
-1
-2
0
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0
-5
-10
0
0.2
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
(a) LQ optimal control (Left: Tip displacement, Right: Control input)
-3
x 10
2
10
1
5
Control input [v]
仮定 (a) 周期的な微小摂動が加法的に付加される
-3
x 10
Output [v]
を定義した.長さ 100 [mm] の片持ち梁を想定した.本来は,
文献 (9) で述べているように部分空間同定法を用いて獲得する
が,今回は物理もモデルを使用した.また,モデルの次元は,
D 行列成分の摂動に対するロバスト性に限定して評価を行うた
め,2次の有限次元モデルとし,高次振動モードに対するスピ
ルオーバ問題は考慮しないこととする.一方,各制御系におけ
る設計パラメータは,表 1 のように設定した.
5.2.D ゲインの変動仮定
D ゲインの変動に対するロバス
ト性を評価するため数値計算に際して,次のような外乱を仮定
することにした.
0
-1
0
-5
σ(t) = sin ωt
-2
0
仮定 (b) D ゲインが定値摂動が加法的に付加される
0.15
-10
0
0.2
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
上記のように仮定した変動に対して,各制御系の初期値応答の
評価を行った.ただし,制御効果の評価を容易にするため,各
グラフの出力に関して,制御入力の影響を差し引いた振動成分
yp (t) のみとしている.また,実線は制御後,点線は制御前の応
答をそれぞれ示す.
5.3. ロバスト性評価
Fig. 5 Simulation results of initial response and control
input [Nominal performance]
図 6 に D ゲインの変動仮定 (a) に対する LQ 最適制御
系および H∞ 最適制御系の初期値応答を示す.このとき
の摂動 ∆ は 0.0001 および周波数 10[Hz] とした.グラフ
からもわかるように LQ 最適制御系では,発散している
のに対して,H∞ 最適制御系では,ほとんどノミナルモ
デルに対する応答と変わっていない.
(3) 仮定 (b) の場合: (∆ = 0.0001)
図 7 に D ゲインの変動仮定 (b) に対する LQ 最適制
御系および H∞ 最適制御系の初期値応答を示す.このと
きの摂動 ∆ は 0.0001 とした.仮定 (a) の場合と同様に
LQ 最適制御系では,発散しているのに対して,H∞ 最
適制御系では,速やかに収束している.
(4) 仮定 (b) の場合: (∆ = 0.00015)
H∞ 最適制御系に対して,さらに摂動 ∆ を 0.00015
とした場合を図 8 に示す.応答波形に影響は見られるが,
発散することはなかった.
5.4. 制御系の相違点
得られた数値計算結果に対して,各
制御系の感度関数と相補感度関数を解析することによって,考
察を行う.LQ 最適制御系と H∞ 最適制御系に関する感度関数
と相補感度関数および閉ループ系のゲイン線図を図 9,10 にそ
れぞれ示す.感度関数に大きな相違点は見られないが,LQ 最
適制御系の相補感度関数にオブザーバ併合によるロバスト劣化
が生じていることがわかる.しかし,H∞ 最適制御系では,相
補感度関数の高周波数域で十分に減衰されておりロバスト劣化
は見られないことがわかる.
1
5
0
-2
0
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0
-5
-10
0
0.2
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
(a) LQ optimal control (Left: Tip displacement, Right: Control input)
-3
x 10
Output [v]
(2) 仮定 (a) の場合: (∆ = 0.0001, ω = 10 × 2π)
10
-1
(1) ノミナルパフォーマンス
図 5 にノミナルモデルに対する LQ 最適制御系および
H∞ 最適制御系の初期値応答を示す.比較のためにノミ
ナルでの制御性能が同等になるよう設計した.制御入力
での相違が見られる.
2
Control input [v]
(35)
2
10
1
5
Control input [v]
|∆| < 1
0.1
Time [sec]
(a) H∞ optimal control (Left: Tip displacement, Right: Control input)
Output [v]
ds + ∆ds ,
0.05
0
-1
-2
0
0
-5
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
-10
0
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
(a) H∞ optimal control (Left: Tip displacement, Right: Control input)
Fig. 6 Simulation results of estimated output and control input [∆ = 0.0001,
ω = 10 × 2π]
6. 制御系設計時の問題
数値計算を行った際,LQ 最適制御系の場合,制御性能を上
げるためにオブザーバゲインおよびフィードバックゲインをタ
イトに設計するとコントローラの固有値が正になってしまいコ
ントローラが不安定化してしまうことがわかった.今回示した
数値例もコントローラは不安定である.セルフセンシングシス
テムは,その極–ゼロ配置からは p.i.p. 条件を満たしていること
がわかっており,強安定化が可能である.しかし,その設計範囲
は非常に限られており,保守的な制御系になってしまう.直達
項ゲイン(D ゲイン)の変動に対して,コントローラの構造か
らコントローラを不安定化させることになるためその影響を受
け易い.その反面,H∞ 最適制御系の場合,その解はオブザー
バによるロバスト性の劣化を補償したものが得られることがわ
かっている (12) .また,今回の数値計算例では,安定なコント
ローラが導出された.
7. まとめ
本論文では,構造物に自己調整機能を持たせることを想定し
たセルフセンシングシステムが直達項を有する状態空間表現さ
-3
10
1
5
0
-1
-2
0
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0
0
-5
-10
0
0.2
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
(a) LQ optimal control (Left: Tip displacement, Right: Control input)
Gain [dB]
Control input [v]
Output [v]
x 10
2
-80
-3
x 10
2
10
1
5
Control input [v]
Output [v]
-40
0
Without Control
With Control
Sensitivity Func.
Complementaly Sens. Func.
-120
0
-1
-5
-2
0
-10
0
-160 1
10
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
2
3
10
10
4
10
Frequency [rad/sec]
0.2
(a) H∞ optimal control (Left: Tip displacement, Right: Control input)
Fig. 9 Gain plot of LQ control system
Fig. 7 Simulation results of initial response and control
input [∆ = 0.0001]
0
-3
x 10
2
-40
Gain [dB]
Output [v]
1
0
-1
-2
0
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
Without Control
With Control
Sensitivity Func.
Complementaly Sens. Func.
-120
10
Control input [v]
-80
5
0
-160 1
10
-10
0
2
10
3
10
4
10
Frequency [rad/sec]
-5
0.05
0.1
Time [sec]
0.15
0.2
Fig. 8 Simulation results of initial response and control
input (H∞ optimal control) [∆ = 0.00015]
れることを示し,その直達項成分の摂動に対するロバスト性を
評価した.今回は,H∞ 最適制御系を適用することによって,補
償しているが,摂動に対するその補償範囲には限界がある.し
かし,適宜モデルを更新することで D ゲインを自己調整し,安
定性を保つことが出来ると考える.今後は,実装実験にて本手
法の有効性を検証したい.
参考文献
(1) J. J. Dosch, D. J. Inman, and E. Garcia, ”A Self-Sensing
Piezoelectric Actuator for Collocated Control,” J. Intell.
Mater. Syst. and Struct., Vol. 3, January, pp. 166-185, 1992.
(2) Anderson, E. H., N. W. Hagood and J. M Goodliffe ”SelfSensing Piezoelectric Actuation:Analisis and Application to
Controlled structures,” AIAA-92-2465-CP, pp. 2141-2155,
1992.
(3) 大島和彦, 瀧上唯夫, 早川義一, セルフセンシング・アクチュエー
タを用いたはりのロバストな制振制御 , 日本機械学会論文集(C
編), Vol. 62, No. 604, pp. 4499-4506, 1996.
(4) 奥川雅之, 圧電素子で構成される片持ち梁の振動制御における
セルフセンシング問題 , 宇宙構造・材料シンポジウム講演後刷
集, pp. 60-63, 1999.
Fig. 10 Gain plots of H∞ control system
(5) たとえば,池田雅夫, 木田隆, 大型宇宙構造物におけるこれから
の制御技術 , 計測と制御, Vol. 31, No. 1, pp. 170-173, 1992.
(6) 奥川雅之, 自己調整を目指した梁構造物のスマート化 , 宇宙構
造・材料シンポジウム講演後刷集, pp. 174-179, 2000.
(7) M. Okugawa and M. Sasaki, “System Identification and
Controller Design of a Self-Sensing Piezoelectric Cantilever
Structure,” Proc. SPIE, Vol. 4326, 2001, to be published.
(8) 瀧上唯夫, 大島和彦, 早川義一, 仮想ブリッジ回路に基づくセル
フセンシング・アクチュエータを用いたはりの軌跡制御 , 日本機
械学会論文集(C 編), Vol. 64, No. 624, pp. 2931-2938, 1998.
(9) 奥川雅之, 原幸人, 佐々木実, スマート化された柔軟梁に対する
部分空間同定法の適用 , 第 45 回システム制御情報学会研究発表
講演会講演論文集, pp. 375-376, 2001.
(10) 奥川雅之, 佐々木実, 圧電素子を用いたセルフセンシング梁構造
のシステム同定と制御系設計 , 日本機械学会機械力学・計測制
御講演会アブストラクト集, No.00-6, Vol. B, p. 389, 729, 2000.
(11) (株)富士セラミックス, 圧電セラミック:テクニカル・ハンド
ブック 他
(12) M. Okugawa, M. Sasaki and F. Fujisawa, ”Robust Motion
Control of a Flexible Micro-Actuator using H∞ Control
Method,” Proc. 11th Korea Automatic Control Conference,
pp.397-400, 1996.