7 号(7 月)2012〕 補酵素の誕生と進化 401 ミニレビュー 補酵素の誕生と進化 The origin and evolution of coenzymes 補酵素がどのように誕生し,進化してきたかという 始の代謝が組織的に行われたとは考えにくいとしてい ことは他の生体分子の進化と同様興味深い問題であ る 2).当時,現在のタンパク質の役割をしていたのが る.補酵素の誕生と進化を解明することは,代謝の成 核酸酵素であり,原始的な補酵素は核酸酵素の中に組 立と発展,ひいては生命のシステムを理解することに み込まれることによって高い触媒活性を有することが つながるために,学問的意義が高い. 「進化」は再現で できた.換言すれば,現在の補酵素が単独では触媒能 きないので科学の対象にはなり難いとよく言われる 力が低いことが,取りも直さず原始の補酵素が核酸酵 が,化学進化については実験条件の改善などで原始に 素の中で働いていたことを示すというわけである.そ 起こったことの再現に近づくことができるようにな の補酵素は核酸酵素に結合するためにヌクレオチドの り,また,代謝の確立については原始の代謝の名残を 構造を持っており,後に進化の過程で核酸酵素がタン 残す生物の代謝の解析からかなりのことが推察される パク質酵素に置き換えられるようになった後も,ヌク ようになってきている.本稿では補酵素の誕生と進化 レオチドの構造が部分的に残り,それが今日,核酸酵 についての初期のさまざまな重要な洞察を踏まえて最 素時代の痕跡として認められることになった.以上が 近の知見を整理してみた. White が最初に考えた補酵素の誕生と進化についての 1.初期の洞察 考察である. さらに White は核酸酵素について以下のように考察 補酵素は多くの場合,ヌクレオチドとなっている. した.原始の核酸酵素による代謝においては,核酸酵 1972 年に Kuhn はリボソームにおけるタンパク質合成 素の基質認識能力はタンパク質酵素ほど高くなく,基 系の確立以前に RNA の自己増殖が起こっていた可能 質が異なっても反応の種類が同じであれば,それらの 性を指摘した 1).1976 年に White は,補酵素はタンパ 反応は同一の核酸酵素で触媒されていたであろう.後 ク質合成系の確立前に存在した“核酸酵素 nucleic acid に翻訳系ができるようになると,作られたタンパク質 enzyme( 現在言うところの ribozyme のもととなる概 が核酸酵素に結合し,そしてそれまでになかったよう 念)”の「生き残った名残」であると唱えた 2).RNA は な基質認識を可能とした.次第にタンパク質は核酸に 自己複製するのに対し,タンパク質は自己複製ができ 取って代わって酵素の大部分を占めるようになるが, ない.そこで,進化の初期には RNA を中心に進化が タンパク質の機能は基質認識に向けられ,触媒は核酸 起こり,タンパク質合成系はずっと後になってできた が担った.それが今日の補酵素である.今日の補酵素 ものであることが想像される.Eakin はそのような“タ がどれほど原始の核酸酵素の構造を反映しているか ンパク質の酵素がないような時代”にも代謝は行われ は,補酵素によってまちまちであるが,一つの極端な ており,その代謝の進化の過程で補酵素の原型が生ま 例として,tRNA は最も巨大な補酵素(アシル基の運搬 れたと考えた 3).進化は,形態的に単純で化学的に複 体と見なすのであれば CoA と同様の補酵素である)と 雑な原始の状態から,形態的には複雑であるが化学的 考えられるので,原始の核酸酵素を最もよく残してい には単純な状態への変化と捉えることができる.この ると言えるし,逆 にチアミンは核酸の構造を痕跡的に 変化の転換期が生命の誕生であり,その時に代謝が確 持っている(4-amino-2-methylpyrimidine の部分は今日 立し,その過程で補酵素と代謝が協調して進化したと のピリミジン塩基に類似しており,原始の核酸酵素で 考えられる 3).現在,補酵素はそれ自体でも触媒能力 は核酸塩基部分にチアゾールが結合していた可能性が を持っているとみなされているが,その触媒能力はタ ある)と考えられる.その一方で,ビオチンやリポ酸 ンパク質なしでは極めて低い.原始では高温の環境と は核酸の構造を完全に失っている.Brack と Orgel 4)に 膨大な時間のために触媒能力の低さがカバーできてい よると初期のタンパク質は疎水性のアミノ酸と親水性 るという考えかたもできるが,White は,それでは原 のアミノ酸が交互に配列してβ-シート構造を取って 林 秀行 402 〔ビタミン 86 巻 いたという.逆平行β-シート構造は RNA 分子と結合 を還元する過程でエネルギーの獲得と炭素骨格の合成 しやすいので,おそらく原始の核酸酵素に結合した初 を行い,副産物としてそれぞれ酢酸とメタンを生成し 期のタンパク質も同様の構造であったであろう.その ている(図 1).これらの菌の代謝経路は Wood-Ljung- 初期のタンパク質の中で補酵素と相互作用した部分の dahl 経路と不完全(クエン酸とイソクエン酸を欠く)か 構造が今日 Rossmann フォールド(これは平行 β-シー つ逆行するクエン酸回路を組み合わせたものである. ト構造だが)として知られるヌクレオチド結合部位の Fuchs はこれが生命の進化において最初に成立した代 構造として残っているのであろうということである. 謝経路を反映していると考えた 5).その考えに基づき, 以上の考えはもう 30 年以上も昔のものである.し Martin と Russell は以下のような展開を想定した 6). かし,次節以降明らかとなるように,その考えは今日 最初に成立した代謝経路においては,まず H2 を電 でも基本的に継承されている.核酸酵素は後にリボザ 子供与体,CO2 を電子受容体とし,アセチルチオエス イム ribozyme と,また RNA を中心として進化が進行 テ ル が 生 成 す る(Wood-Ljungdahl 経 路 に 類 似 し た 経 していた頃の世界は RNA ワールドと,それぞれ呼ば 路).生成したアセチルチオエステルはエネルギーの れるようになった. 供給源となる一方,H2 による還元とカルボキシル化を 受けてピルビン酸を作る.このとき,アセチルチオエ 2.最初の補酵素は何か? ステルのチオエステル結合の持つエネルギーと H2 の 補酵素がどのように生まれたかという問題は必然的 還元力が反応の駆動力となる.ピルビン酸は CO2 の付 に最初に生まれた補酵素は何かという問題に行き着 加を受けてオキサロ酢酸になり,高エネルギーリン酸 く.そのためには,代謝が成立したころにどのように 化合物からリン酸の転移を受けてホスホエノールピル なっていたかを知る必要がある. ビン酸になる.一方オキサロ酢酸からは,現在のクエ 酢酸生成菌(acetogens;酢酸菌(好気性細菌)とは異 ン酸回路を逆行する形でイソクエン酸が生成し,これ なる嫌気性細菌)とメタン菌(嫌気性アーキア)は CO2 がグリオキシル酸とコハク酸に解裂する.ここまでの ♧ߩวᚑ ࠛࡀ࡞ࠡઍ⻢ O O O– P OH Phosphoenolpyruvate HSCoA Pyruvate O O– O O H2 + CO2 SCoA HPO42– O O Glyoxylate O– –O O– O HO P O O –O CO2 O– OH O –O Acetyl-CoA –O O O O O O O– – O Isocitrate O O– O O Oxalacetate Wood–Ljungdhal ⚻〝 H2 + CO2 O HSCoA 4H2 2CO2 –O O– O O H2 + CO2 O –O O– Į-Ketoglutarate OH H2O O –O –O O– O O –O H2 O O SCoA O O– O 図 1 想定される初期の代謝経路 Wood-Ljungdhal 経路によりアセチル CoA が作られる.アセチル CoA はアセチルリン酸となり,これは初 期のエネルギー通貨であった可能性がある.一方,さらに還元とカルボキシル化を受けてピルビン酸とな り,ここからホスホエノールピルビン酸となって糖の合成に,また現在のクエン酸回路を逆行する形で種々 のケト酸を生成し,それらからアミノ酸を合成する. 7 号(7 月)2012〕 補酵素の誕生と進化 403 代謝経路ができ上がると,あとはホスホエノールピル ていたのであろう. ビン酸から糖が,ピルビン酸,オキサロ酢酸,α-ケト ただし,テトラヒドロ葉酸を担体とした場合は,ホ グルタル酸,グリオキシル酸といったケト酸からアミ ルミル基を還元するとメチレン基となり,さらに還元 ノ基転移(5. を参照)によってアミノ酸が作られる. することでメチル基を作ることができる(これは実際 この中でもアセチルチオエステルの合成経路が最初 に Wood-Ljungdahl 経路で行われていることである)が, にでき上がったとすると,その生成のためにチオール リン酸を担体とした場合は,ホルミル基を還元すると 化合物が必要である.前生物的にはこれは CO2 と H2S ホルムアルデヒドとリン酸に分解してしまう.すなわ と H2 から CH3SH が作られたのが最初と考えられる 7). ち,リン酸はメチル基供与のための担体とはなり得ず, CH3SH は FeS,Fe/NiS,NiS などの存在下で CO2 と H2 アセチルチオエステルの合成経路の補酵素としてはテ からアセチルメチルスルフィド CH(CO) SCH(現在 3 3 トラヒドロプテリン類がいずれ必要となる.そして, 8) のアセチル CoA に対応するもの)を形成する .そし それは GTP から作られたであろう.したがって,テ てこれが無機リン酸と反応して生成したアセチルリン トラヒドロプテリン類が初期の代謝の補酵素となって 酸が最初の高エネルギー化合物であったと思われる. いたかどうかは,そのときにどれだけ RNA の蓄積(上 その後,無機的なアセチルチオエステルの合成経路 述の通り,ホルミルリン酸が関与する)があったかに は次第に有機化合物の関与するものになった.それら よって決まると考えられる. の有機化合物は現在の酢酸生成菌やメタン菌ではテト このほかにも見られる“ニワトリと卵”の矛盾の種明 ラヒドロプテリン類と CoA である.もしも初期の代 かしは 6. において述べる. 謝においてもこれらが補酵素となっていたとしたら, これらが最初の補酵素ということになる.現在の CoA の生合成経路ではホルムアルデヒドの供給は N 5,N 10- 4.CoA は無駄に大きいのか? 一方,もう一つの補酵素 CoA について考えると, メチレンテトラヒドロ葉酸によってなされることから そもそもアセチルチオエステルを形成することが必要 すると,テトラヒドロプテリン類の方が CoA よりも であるならば,CoA でなくもっと単純なチオール化合 先にできたということになりそうである.テトラヒド 物でも良いはずである.ただし,RNA 生物として代謝 ロ葉酸は RNA ワールドにおいてプリン塩基を作るの を発展させていくためには RNA に結合するための にも必要なので,その意味でもテトラヒドロプテリン 取っ手となる部分(8. で詳説)が必要である.明らかに 類が最初の補酵素と考えても良さそうにみえる.しか CoA のヌクレオチド部分はその機能を果たしていると し,以下に述べるように,実際はそう単純ではなかっ 思われるが,メタンチオール CH3SH には取っ手に結 合させるための官能基がない.そこで,おそらくエチ たようである. レンスルフィド(チイラン)とアンモニアの反応によっ 3. “ニワトリと卵”の矛盾 て生成するシステアミンなど,ヘテロ三員環化合物の 現在,テトラヒドロプテリン類(テトラヒドロ葉酸 開裂によって作られチオール化合物が使われたものと (酢酸生成菌)とテトラヒドロメタノプテリン(メタン (図 2(a)).システアミンがアシル基の運 思われる 10) 菌))は GTP の塩基部分の加水分解と Amadori 転位に 搬あるいは活性化などの機能を持つ上での欠点は,チ よって作られている.この複雑な構造を見ると,プリ オエステルとなったシステアミンでは,アミノ基がチ ン塩基と糖が結合したものが存在しないとテトラヒド オエステルを分子内求核攻撃し,より安定なアミドを ロプテリン類を作るのは困難に思える.現在の代謝と 形成してしまうことである.アミドとなってしまうと 同じようにプリン塩基の生合成がテトラヒドロ葉酸を アシル基転移やα-炭素の活性化が期待できない.そ 必要とするのであれば,自分が作られるための原材料 こで,システアミンのアミノ基があらかじめ保護され を自分自身が作るという“ニワトリと卵”の矛盾に陥る ていると都合が良い.この保護のためのアシル化に使 ことになる. われたのがパントテン酸である.パント酸はイソブチ この問題については,ある種のメタン菌のプリン合 ルアルデヒドとホルムアルデヒドのアルドール縮合の 成においてホルミルテトラヒドロ葉酸の代わりにホル あと,Strecker 合成,すなわち HCN との反応によるシ ミルリン酸が使われていることが Ownby らによって アノヒドリンの形成,加水分解によって容易に作られ 9) 発見されたことで説明がつくようになった .おそら る(図 2(b)).パント酸はβ-炭素に水素がないために く RNA の合成経路が成立したばかりのころはホルミ γ-水酸基が脱離せずに保たれること,またβ-炭素に ルリン酸がプリン塩基合成における C1 供給源となっ 2 つメチル基が結合しているので環状化してラクトン 林 秀行 404 〔ビタミン 86 巻 NH3 (a) S SH H2N H2S N H (b) OH HCHO O H2N (c) O HO HCN O HO OH COOH HO O H N N OH HO O Pantoic acid O OH O H2N OH OH COOH HO Pantolactone H N O (d) OH H2O OH HO O H N H N O OH O Pantothenic acid SH (5)-Pantetheine 図 2 CoA の成分の前生物的合成 (a)システアミンはエチレンスルフィド(チイラン)とアンモニア,あるいはエチレンイミン(アジリジン) と硫化水素の反応等で作られる. (b)イソブチルアルデヒドとホルムアルデヒドの反応,シアノヒドリン の形成と加水分解によってパント酸が作られる. (c)パント酸はラクトン(パントラクトン)を作りやすく, パントラクトンとグリシン,β-アラニンが反応する.β-アラニンとの反応でパントテン酸が作られる. (d) 現在の生命に存在する (R)-パンテテイン. を形成しやすいことが特徴である.ラクトンはアミノ 能的要請というよりも,進化の過程を反映したものと 酸と反応して開環するが,その際に単純なアミノ酸で 言えそうである. あるグリシンやβ-アラニンといったものと反応した CoA の生合成にはシステアミンとβ-アラニンとい であろう(図 2(c)).グリシンの方がβ-アラニンより う,それぞれシステインとアスパラギン酸の脱炭酸に 量的に多かった上に,反応も速い.そのために前生物 よって生成するアミンが使われるが,現在の代謝では 的にはパントイルグリシンがパントテン酸よりも遥か この脱炭酸はピリドキサールリン酸ではなく,ピルビ に多く作られていたと考えられる.しかし,パントイ ン酸を補因子とする酵素によって行われている.この ルグリシンでシステアミンをアシル化すると,パント ことは,初期の代謝が確立したころ,テトラヒドロプ 酸部分のα-水酸基が六員環中間体を作ることによっ テリン類と CoA が存在し,ピリドキサールリン酸が てシステアミンとのアミド結合を攻撃し,システアミ 存在しない時期があったことを示唆している.次節で ンを切り離してしまう.パントテン酸によるアシル化 述べる通り,この時期にはアミノ基転移がアミノ酸と であれば,同様の反応を起こそうとすると不利な七員 ケト酸の間で直接行われていたと思われる. 環中間体を経ることになるので,最終的に安定なアシ アミノ基転移によるアミノ酸の合成経路ができ上が ル基の供給源としてパントテン酸が選ばれたというわ る前に,アセチル CoA から炭素 骨格が作られる経路(す けである 11) . なわち上記の不完全かつ逆行するクエン酸回路;図 1) 進化というものは行き当たりばったりであると言わ が確立している必要がある.この経路にはアセチル れる.これは,後になってみればもっとうまく作れた CoA からピルビン酸,スクシニル CoA からα-ケトグ ということがわかっても,そのようなことまで見越し ルタル酸が作られる過程があるので,ここでチアミン て進化は行われないということである.進化がそのよ 二リン酸が必要となる.そうすると,チアミン二リン うなものであるために,生命の構造の中には試行錯誤 酸はピリドキサールリン酸よりも先にできた補酵素で のあとがしばしば見出される.CoA の複雑な構造は機 あるということになる. 7 号(7 月)2012〕 補酵素の誕生と進化 R1 H2N O R1 OH O HOOC 405 R2 H2O HOOC R1 O N O H R2 R1 N HOOC O H2O CO2 NH2 CO2 R2 HOOC R2 図 3 アミノ酸とケト酸のシッフ塩基形成によるアミノ基転移 ピリドキサールリン酸の触媒によらず,アミノ酸とケト酸が直接シッフ塩基を形成してアミノ基転移を行 おうとすると,プロトトロピーよりも協奏的な脱炭酸とプロトン化が起こり,もとのアミノ酸はアルデヒ ドとなる. 5.初期のアミノ基転移はピリドキサールリン 酸なしに行われたかもしれない て B が作られる(図 4(a)).そしてそのうちに,B が 他の代謝産物と反応して A を作る経路が生じる,とい うことは十分起こり得ることである(図 4(b)).また, アミノ酸代謝の根幹であるアミノ基転移は,ピリド B が A の機能を代替する場合も考えられる(図 4(c)). キサールリン酸(あるいはピリドキサール)がなくても 補酵素が自分自身の生合成の補酵素となっているとい アミノ酸とケト酸の間で進行することが認められてい う“ニワトリと卵”の関係はこのようにして成立したと る 12) .これはアミノ酸とケト酸がシッフ塩基を形成す 考えることができる.GTP からテトラヒドロ葉酸が作 ることで起こるのであるが,この方式でのアミノ基転 られ,テトラヒドロ葉酸が GTP の塩基であるプリン 移はアミノ酸側の脱炭酸を伴ってしまう(図 3).ケト 塩基生合成の補酵素となっていることは図 4(c)に該 酸との単純なシッフ塩基ではアミノ酸の Cαのプロト 当する.ピリドキサールリン酸の現在の生合成経路の ンがあまり活性化されないため,プロトトロピーより 一段階にエリトロース 4-リン酸とグルタミン酸の間で も,協奏的な脱炭酸とイミノ基炭素のプロトン化の方 のアミノ基転移が起こっている.初期の代謝において が進行する 12).その結果,ケト酸はアミノ酸となるが, 前述のようにこのアミノ基転移がアミノ酸とケト酸の アミノ酸の方はアルデヒドとなってしまう.このよう 間で直接行われているのであれば,図 4(c)に該当する. にもとのアミノ酸の骨格が失われるため,この方式で もしも図 4(b)の場合であるとすると,前生物的なピ のアミノ基転移は非効率的である.金属イオンが存在 リドキサールリン酸の合成が必要なことになる. すると,ピリドキサールリン酸とアミノ酸のシッフ塩 ピリドキサールのようなピリジン誘導体はかなり簡 基は Cαのプロトンを活性化し,またカルボキシル基 単に作られ,例えば 1 分子の NH3 と 3 分子のグリコー を静電的かつ立体化学的に安定化するため,脱炭酸を 行わずにアミノ基転移を進行させることができる.こ のようにしてピリドキサールリン酸が登場したものと (a) A B 考えられる. ピルビン酸を補因子とするアミノ酸脱炭酸酵素があ るが,これらをピリドキサールリン酸の登場以前にケ (b) ト酸とアミノ酸の直接的なアミノ基転移が起こってい C A B たことの名残とする考え方がある 12).ただし,現存す るこれらの酵素では上記のようなイミノ基炭素のプロ (c) トン化が起こらず,アミノ基転移なしに脱炭酸を起こ すようになっている. 6.補酵素の前生物的合成 初期の代謝が形作られた頃には,そうした代謝に よって生まれた産物が互いに反応して新たな化合物を 非酵素的に形成するようになったと考えられる.例え ば,A という補酵素が前生物的合成によって十分量存 在したとする.A が補酵素として働く代謝経路によっ B B 図 4 補酵素生合成における“ニワトリと卵”の関係を生 み出す機構 (a)前生物的合成で蓄積していた A が B の合成経路のあ る段階に必要な補酵素となる. (b)B が C と反応して(直 接的あるいは間接的に)A を生じる.これにより,A が安 定して供給される経路が確立する. (c)あるいは B が A の 機能を代替するということも考えられる. 林 秀行 406 〔ビタミン 86 巻 ルアルデヒドからピリドキシンに類縁の 3-ヒドロキシ そのような前生物的合成から初期の代謝への移行を -4-ヒドロキシメチルピリジンが作られる 13).また, 考える上で興味深いのがニコチン酸の合成である.前 prop-2-yneimine と pent-2,4-diyne-1-al が水分子の付加 項で説明した前生物的合成の経路とは別に,アスパラ を伴って結合して生じた 4-al-2,5-dimethenyl-3-hydrox- ギン酸とリボースまたはデオキシリボースから非酵素 ylpyridine にリン酸が付加して直接ピリドキサールリン 的にキノリン酸(ニコチン酸の前駆体)やニコチン酸が 酸が生じる経路が理論的に起こり得る経路として提案 作られることが確認された 19).この際にはリボースま 14) されている (図 5). たはデオキシリボースからメチルグリオキサールが生 上述のピリドキサールリン酸の由来の一つと考えら 成して,それがアスパラギン酸と反応して以後の反応 れる prop-2-yneimine に類似した cyanoacetylene(prop-2- が進行する(図 6(a)).そこで,前生物的合成の段階 ynenitrile)は,様々な天体に存在することが認められ でこの経路によるキノリン酸合成が起こっていた可能 ていることから,原始の地球にも存在したと考えられ 性がある.ところが,ジヒドロキシアセトンリン酸は る.cyanoacetylene はシアン酸や尿素と反応してシト リボースまたはデオキシリボースよりも効率よくメチ シンを形成する.その他,シアン化水素の重合によっ ルグリオキサールを生成するので,初期の代謝でジヒ てアデニンが作られたという説もよく知られている. ドロキシアセトンリン酸が登場するころにニコチン酸 前生物的合成の段階で,このような核酸塩基やピリジ の合成経路に変化があったのかもしれない.現在の生 ン環を持つ化合物などヘテロ環化合物が原始大気にお 物では,アスパラギン酸とジヒドロキシアセトンリン ける放電の結果作られた化合物を元として形成された 酸から出発するキノリン酸の生合成経路(図 6(b))が ことは間違いがないであろう. 最も単純で,真核生物,細菌,アーキアの 3 つに共通 ニコチン酸アミドやニコチン酸の前駆体であるニコ して存在することから,進化的に最も古いものと見な チ ノ ニ ト リ ル も cyanoacetaldehyde,propiolaldehyde, されており,ジヒドロキシアセトンリン酸とアスパラ NH3 といったものから前生物的に簡単に作られたよう ギン酸からキノリン酸が作られる経路がそのまま,非 である 15).また,チアミン二リン酸については,前生 酵素的な反応から酵素的な反応へと発展してできた可 物的合成に相当する反応の実証はないが,理論的に可 能性がある.ただし,反応機構は非酵素的な反応と酵 能な経路が提唱されている 16). 素的な反応では異なっている(図 6).また,これはカ ルバモイルリン酸とアスパラギン酸からピリミジンヌ 7.前生物的合成と初期の代謝 クレオチド合成系に類似しており,おそらく RNA 生 初期の代謝経路が RNA 生物の中で発展してくると, 物の RNA 合成経路の確立と関連しているものと思わ そうした生命を構成する物質群の合成も前生物的合成 れる.また,現在の代謝では,キノリン酸からニコチ の時代とは様相が異なったものになった.例えばピリ ン酸への脱炭酸はオロト酸からウラシルへの脱炭酸と ミジンヌクレオチドの前生物的合成は,リボース部分 同様,リボースとグリコシド結合を形成することで起 と塩基部分が同時に合成される機構が考えられるよう こる.ここにおいてもピリミジン合成系の酵素が用い (文献 18 で解説),後に確立した生 になっているが 17) られたと考えられる.また,NAD はジヒドロオロト 合成経路は明らかにこれとは異なっている. 酸からオロト酸を作るのに使われるので,ピリジンヌ O O H2O OH NH N O OH N H3PO4 HO O OH P O O OH N 図 5 ピリドキサールリン酸の前生物的合成の一つの仮説 実験的に証明されたわけではないが,原始の地球に存在した可能性のある化合物から僅か 3 段階のステッ プでピリドキサールリン酸が作られる機構は魅力的である. 7 号(7 月)2012〕 補酵素の誕生と進化 (a) O– P O O O HO Aspartate H2PO4– N O COO– COO– HO N HO COO– O O Methylglyoxal HO (b) 407 COO– COO– N H2O COO– COO– 2H N COO– O– P O O O COO– O COO– H2PO4– HO HN HO HN COO– COO– COO– HO H2O N COO– COO– H2O N COO– 図 6 キノリン酸の想定される前生物的合成と現存する最も簡単な生合成反応 (a)は文献 19 に基づく.メチルグリオキサールはリボース,デオキシリボースからも供給される. (b)は キノリン酸合成酵素の想定される反応機構 20). クレオチド合成系はピリミジンヌクレオチド合成系と 位置に特定のアミノアシル基を配置することが可能に 深い関係を保ちつつ共進化したものと思われる. なるということである.もしもこのような“遺伝コー 8.RNA ワールドにおける補因子 ド”がいい加減なものであるならば,優れた形質の選 択(能力の高いものを大量に複製)はあり得ないことに それでは RNA ワールドにどのようにしてタンパク なるので,早期にそういった“遺伝コード”が確立した 質が登場し,リボザイムの構造をどのように置換して ものと思われる. いったのであろうか.RNA 生物がうまくやっていたの このような遺伝コードが現在の遺伝コードに変わっ であれば,どうしてわざわざタンパク質の生物に置き ていく過程におけるアミノアシルリボヌクレオチドの 換わっていったのであろうか.これに関しては,Sza- 進化は驚くべき機構で行われたようである.それを示 thmáry の総説 21)に詳しく述べられている. す痕跡が今日の遺伝コードに見られる.通常,遺伝コー アミノ酸は,今日の酵素の中での役割からわかるよ ド表はコドンとアミノ酸の対応を示しているが,これ うに,様々な触媒活性を有しているものが多い.そう をアンチコドンとアミノ酸の対応を示す表に書き換 いったものがアミノアシル基として RNA に結合し, え,さらにアンチコドンの塩基の疎水性(A>G>C> リボザイムの中で働いていたであろう.アミノアシル U)の順番に並べ替えてみると,アンチコドンの 2 番目 基が結合する場所は 2’ - 位の水酸基以外には RNA の両 と 3 番目の塩基の疎水性/親水性とアミノ酸の疎水性 末端の 5’ - 位と 3’ - 位の水酸基が考えられるが,リボザ /親水性が見事に対応する 22).さらに,tRNA におい イムのそれらの場所にアミノアシル基として結合する てアミノアシル基がアンチコドンおよび識別位塩基と という機構のほか,アミノアシル化されたリボヌクレ 相互作用していることがモデルで示された 23).以上の オチドが用意されていて,それがリボザイム本体に相 ことは,アミノアシル tRNA の進化がアミノアシル基 補的な塩基対を形成することで結合するという機構が とアンチコドンの直接的な相互作用を通じてもたらさ 考えられる(図 7(a)).後者の機構の利点は,アミノ れ,それによって遺伝コードが決定したことを示して アシル化されたリボヌクレオチドのアミノ酸の種類と いる.また,こうして並べ替えた表の中では,隣接す 塩基配列の組合せが確立すれば,リボザイムの特定の るアミノ酸は生合成経路も近くなっている(図 8).例 林 秀行 408 〔ビタミン 86 巻 (a) CCH ࠕࡒࡁ㉄ CCH ㉂⚛ (b) 図 7 補因子の結合したヌクレオチドのリボザイムへの結合の模式図 (a)リボザイムの塩基対を形成していない部分に,アミノ酸や補酵素を末端にエステル結合で保持したリボヌクレオチ ドが結合する.このリボヌクレオチド部分を CCH と呼ぶ. (b)アミノ酸を持つリボヌクレオチドが連続して結合し,リ ボザイムをほぐして行く.これからペプチドと mRNA の原型が作られる.一方,補酵素はアミノ酸のように互いに連続 して結合を作る構造を有しないため,そのまま活性中心に保たれる.最終的にペプチドが大きくなったタンパク質が, 活性中心に補酵素を保持したものができる.補酵素には時としてヌクレオチドの構造が残る. を挙げると,アンチコドンとアミノ酸の対応表の最下 段を見るとアンチコドンが NAU となっているのはメ 9.アミノ酸と補酵素の分岐 チオニンとイソロイシンであり,その隣のアンチコド 上記のように,RNA ワールドの初期のリボザイムに ンが NGU であるのはトレオニン,さらに一番右のア おける補因子の結合したリボヌクレオチドというのが ンチコドンが(C/U)UU はリシン, (A/G)UU はアスパ coding coenzyme handle(CCH)と呼ばれる概念である. ラギンであり.この順番にアンチコドンの親水性とア この段階ではアミノ酸と,アミノ酸以外の今日の補酵 ミノ酸の親水性が増加している.また,これらのアミ 素の原型のようなものが,いずれもこの CCH を持っ ノ酸はすべてアスパラギン酸から作られる.アスパラ てリボザイムに結合していたと思われる(図 7(a)). ギン酸自体のアンチコドンは(A/G)UC であり,アス ところが,その後,アミノ酸を結合したリボヌクレオ パラギンのアンチコドンと近い.このことは,アミノ チドは tRNA に発展しペプチド鎖を作るようになるが, 酸生合成系の進化と tRNA の進化は平行して起こった 補酵素の方はポリマーを作る構造を持たないため, ことを示唆している.これは本稿の筆者の考えである RNA との結合の構造は保たれる(図 7(b)). が,アミノ酸がアミノアシル基として RNA に結合し それでは,そのような分化が起こった頃の補酵素は た状態でアミノ酸生合成系が成立したとすると,代謝 どのような構造をしていたのであろうか.現在知られ 経路の改変によって新たなアミノ酸が生まれたとき, ている種々のリボザイムに ATP,FAD,NAD,シアノ 疎水的/親水的相互作用の条件を満たす限りにおいて コバラミン,CoA,ビオチンなどが特異的に結合する 類似したアンチコドンが選ばれたと説明できるであろ ことが知られている(文献 14 の Table 1 参照).このこ う.これに関連して,ヒスチジンだけが核酸の塩基か とは今日存在する補酵素が原始的な分子進化のリボザ ら作られるという,他のアミノ酸とは異質の生合成系 イムの補酵素となることも可能であることを示してい を持っているが,このことはこのアミノ酸がリボザイ る.RNA ワールドの後期には現在の補酵素の構造と ムの中で作られたことを示唆しており,興味深い. なっており,タンパク質のほうが補酵素の構造に合わ せた可能性が高い. 7 号(7 月)2012〕 補酵素の誕生と進化 409 ਛᄩߩႮၮ A A G Phe G C Cys U Tyr Ser A Trp C U A Leu G His Pro Arg C 3ƍ G Gln U A Asp Val Ala Gly C C Glu ⷫ᳓ᕈ G ᧃ┵ߩႮၮ ᧃ┵ߩႮၮ 5ƍ U A Ile G Ser Asn Thr C Met U Ile U Arg Lys ⷫ᳓ᕈ 図 8 アンチコドンで示した遺伝コード表 アンチコドン塩基の疎水性が高いと対応するアミノ酸の疎水性も高い.網掛けした部分は最初に成立した代謝経路から 作られたと考えられるアミノ酸であり,クラスターを作っている. 現在の細菌や植物のアミノ酸合成系におけるアミノ酸間の関連を線と丸で示した.線で結ばれたアミノ酸へは多くの場 合アンチコドンを 1 塩基だけ置換することで変わりうることに注意.アスパラギン酸のβ-カルボキシル基が高エネルギー リン酸結合を作ったものはアンモニアの供与を受けてアスパラギンを生成する一方,還元されて生じたアスパラギン酸 セミアルデヒドからリシンが合成される.アスパラギン酸セミアルデヒドがさらに還元されたホモセリンからトレオニ ンとメチオニンが作られる.また,トレオニンからイソロイシンが作られる.グルタミン酸からグルタミルリン酸が生 成し,これがアンモニアの供与を受けるとグルタミンを生成し,また還元されるとグルタミン酸セミアルデヒドとなり, これからアルギニンとプロリンが作られる.アラニンはピルビン酸,オキサロ酢酸を介してアスパラギン酸と,ピルビ ン酸を介してバリンと,それぞれつながる.バリンからロイシンが作られる.アスパラギン酸とグルタミン酸はアミノ 基を交換し合う. 表の上部には糖代謝の中間体から作られるアミノ酸群が位置している.セリンは 3-ホスホグリセリン酸から作られるが, 最初に成立した代謝経路で作られたグリシンから C1 化合物の転移を受けることでも生成する.セリンのコドンがこのよ うに分かれて存在するのは異なる代謝経路による生合成系を持っていることを反映しているのかもしれない. 10.おわりに という質的な変化をもたらしたと考えるわけである. この考え方はまさに本稿で説明したシナリオの基本で 今日の生命の起源の探究の門戸を開いたのは Oparin あり,今日ではその質的な変化のしくみが RNA ワー である.1924 年に Oparin が提出した考え方は,前生 ルドを中心として詳細に説明されるようになって来て 物的合成によって存在した分子を濃縮するような構造 いる.さらに Oparin はそのような前生物的合成を可能 体が出現し,取り込んだ分子をつなぎ合わせ,自然淘 にする原始の大気は還元的なものであると考えた.そ 汰に生き残ることによって最初の生命が成立したとい し て 1953 年 に Miller は Oparin の 考 え に 基 づ き,H2, うものであった 24).すなわち,生合成経路が先に成立 H2O,CH4,および NH3 を閉じ込めたガラス容器の中 する必要がなく,化学進化の量的な蓄積が生命の誕生 で放電を行い,アミノ酸の生成を観察した 25). 410 林 秀行 〔ビタミン 86 巻 今日の地球科学者は,原始の地球の大気は Miller の 化還元補酵素にその機能の多くを譲ることになった 用 い た ガ ス よ り も 酸 化 的 な 状 態 で あ り,N2,CO2, が,現在も鉄 - 硫黄クラスターとしてタンパク質の中 H2O,および CO を主体とし,海底火山の噴火口のよ に残っている.したがって,補因子としては鉄 - 硫黄 うな場所で生じる還元的なガス H2S,CH4,および H2 クラスターが最初のものであると考えられる 27).これ との間の反応を通じてエネルギー獲得と炭素骨格の合 らを含め,コバラミン,ビオチンなど他の多くの補酵 成がなされたと考えている(2. で詳述).ところが実は 素の進化についても興味深い事柄が多く存在し,これ Miller 自身,未発表ながら 1958 年に H2S,CH4,NH3, からも見つかっていくことであろう.それらについて および CO2 を含む混合ガスでの実験を行っていた.こ 稿を改めて紹介したい. の実験は 2011 年に再現され 26),含硫アミノ酸の生成 のみならずγ-アミノ酪酸などの収量が増大したこと Key Words:coenzyme, evolution, prebiotic synthesis, が観測され,前生物的合成における H2S の重要な役割 ribozyme, nucleotide が再認識された. このように,前生物的合成の時代に起こったことは Department of Chemistry, Osaka Medical College かなり想像できるようになってきている.しかし,そ Hideyuki Hayashi れらの前生物的合成経路がそのまま現在の生物に生き 大阪医科大学化学 残っているわけではなく,むしろ全く別と言ってよい 林 秀行 合成経路に置き換わっている.Wood-Ljungdahl 経路を 中心とすると考えられる初期の代謝経路から出発し, その代謝中間体を組み合わせて新たな物質を生み出す 文 献 と同時に,既に前生物的合成によって存在している物 質についても,初期の代謝経路の中間体から安定して 1)Kuhn, H. (1972) Self-organization of molecular systems and evo- 供給する経路を作りだし,物質の合成経路全体を書き lution of the genetic apparatus. Angew. Chem. Int. Ed. 11, 798- 換えて来たと考えられる.すなわち,最初に CoA,チ アミン二リン酸といったものが RNA ワールドにおけ る初期の代謝経路とともに出来上がり,その後の代謝 経路の発展,RNA 生物の進化に伴い,GTP からテト 820 2)White, H. B. (1976) Coenzymes as fossils of an earlier metabolic state. J. Mol. Evol. 7, 101-104 3)Eakin, R. E. (1963) An approach to the evolution of metabolism. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 49, 360-366 ラヒドロプテリン類が作られて C 1 化合物の代謝が円 4)Brack, A., and Orgel, L. E. (1975) Beta structures of alternating 滑になった.また,アミノ酸とケト酸の間で直接的に polypeptides and their possible prebiotic signi¿cance. Nature 256, 行われていたアミノ基転移がピリドキサールリン酸を 383-387 仲介するようになり,この補酵素の登場によってアミ 5)Fuchs, G. (1989) Alternative pathways of autotrophic CO2 ¿xa- ノ基転移が効率化されただけでなく,アミノ酸の多様 tion. In Autotrophic bacteria (Schlegel, H.G. & Brown, B. eds.), な反応が可能となり,アミノ酸の合成・分解を革命的 に変えた. このように見てくると,進化は「行き当たりばった pp. 365-382, Science Tech Publishers, Madison 6)Martin, W., and Russell, M. J. (2007) On the origin of biochemistry at an alkaline hydrothermal vent. Philos. Trans. R. Soc. B Biol. Sci. 362, 1887-1925 り」と言いながらも,偶然の関与するところは意外に 7)Schulte, M. D., and Rogers, K. L. (2004) Thiols in hydrothermal 少なく,それぞれの補酵素の構造も必然の所産のよう solution: standard partial molal properties and their role in the or- に見えてくる.宇宙に存在する地球以外の生命も,地 ganic geochemistry of hydrothermal environments. Geochim. Co- 球と驚くほど似たものになっているのではないかとい schim. Acta 68, 1087-1097 う想像がふくらむ. 本稿ではピリジンヌクレオチドの合成については紹 介したが,それがどのような形で代謝に登場したかに ついてはまだ不明な点が多い.フラビン補酵素につい 8)Russell, M. J., and Martin, W. (2004) The rocky roots of the acetyl-CoA pathway, Trends Biochem. Sci. 29, 358-363 9)Ownby, K., Xu, H., and White, R. H. (2005) A Methanocaldococcus jannaschii archaeal signature gene encodes for a 5-formaminoimidazole-4-carboxamide-1-beta-D-ribofuranosyl 5’-monophos- ても同様である.最初に成立した代謝経路でのアセチ phate synthetase. A new enzyme in purine biosynthesis. J. Biol. ルチオエステルの形成において,FeS が H2 から CO2 Chem. 280, 10881-10887 への電子移動の仲介をしていた.FeS はその他の酸化 10)Miller, S. L., and Schlesinger, G. (1993) Prebiotic syntheses of 還元の補因子としても機能していたであろう.後に酸 vitamin coenzymes: I. Cysteamine and 2-mercaptoethanesulfonic 7 号(7 月)2012〕 補酵素の誕生と進化 acid (coenzyme M). J. Mol. Evol. 36, 302-307 411 52, 73-77 11)Miller, S. L., and Schlesinger, G. (1993) Prebiotic syntheses of 20)Sakuraba, H., Tsuge, H., Yoneda, K., Katunuma, N., and Ohshi- vitamin coenzymes: II. Pantoic acid, pantothenic acid, and the ma, T. (2005) Crystal structure of the NAD biosynthetic enzyme composition of coenzyme A. J. Mol. Evol. 36, 308-314 12)Bishop, J. C., Cross, S. D., and Waddell, T. G. (1997) Prebiotic transamination. Orig. Life Evol. Biosph. 27, 319-324 13)Austin, S. M., and Waddell, T. G. (1999) Prebiotic synthesis of vitamin B6-type compounds. Orig. Life Evol. Biosph. 29, 287-296 14)Aylward, N., and Bo¿nger, N. (2006) A plausible prebiotic synthesis of pyridoxal phosphate: vitamin B6 -A computational study. Biophys. Chem. 123, 113-121 15)Dowler, M. J., Fuller, W. D., Orgel, L. E., and Sanchez, R. A. (1970) Prebiotic synthesis of propiolaldehyde and nicotinamide. Science 169, 1320-1321 16)Aylward, N. (2006) An ab initio computational study of thiamin synthesis from gaseous reactants of the interstellar medium. Biophy. Chem. 121, 185-193 quinolinate synthase. J. Biol. Chem. 280, 26645-26648 21)Szathmáry, E. (1999) The origin of the genetic code: amino acids as cofactors in an RNA world. Trends Genet. 15, 223-229 22)Jungck, J. R. (1978) The genetic code as a periodic table. J. Mol. Evol. 11, 211-224 23)Shimizu, M. (1982) Molecular basis for the genetic code. J. Mol. Evol. 18, 297-303 24)Oparin, A.I. (1924) Proiskhozhedenie Zhizni, Moskovskii Rabochii, Moscow (Reprinted and translated in Bernal, J.D. (1967) The origin of Life, Weidenfeld and Nicolson, London) 25)Miller, S. L. (1953) A production of amino acids under possible primitive earth conditions. Science 117, 528-529 26)Parker, E. T., Cleaves, H. J., Dworkin, J. P., Glavin, D. P., Callahan, M., Aubrey, A., Lazcano, A., and Bada, J. L. (2011) Primor- 17)Powner, M. W., Gerland, B., and Sutherland, J. D. (2009) Synthe- dial synthesis of amines and amino acids in a 1958 Miller H2S- sis of activated pyrimidine ribonucleotides in prebiotically plausi- rich spark discharge experiment. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. ble conditions. Nature 459, 239-242 18)林秀行(2009)ピリミジンリボヌクレオチドの前生物的合 成.ビタミン 83, 621-623 19)Cleaves, H. J., and Miller, S. L. (2001) The nicotinamide biosynthetic pathway is a by-product of the RNA world. J. Mol. Evol. 108, 5526-5531 27)Holliday, G. L., Thornton, J. M., Marquet, A., Smith, A. G., Rébeillé, F., Mendel, R., Schubert, H. L., Lawrence, A. D., and Warren, M. J. (2007) Evolution of enzymes and pathways for the biosynthesis of cofactors. Nat. Prod. Rep. 24, 972-87
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