1 型糖尿病発症と ウイルス感染症,自然免疫

3 1 型糖尿病発症とウイルス感染症,自然免疫
特 集 1 型糖尿病の成因と病態
3
特 集 1 型糖尿病の成因と病態
IFNα/β
1 型糖尿病発症と
ウイルス感染症,
自然免疫
IFNα/β
ssRNA
dsRNA
WNV
NS1
A
LGP2
B
PPP
RIG-Ⅰ
3
MDA-5
R
TL
2)
Endosome
TR
急性発症 1 型糖尿病,劇症 1 型糖尿病の発症は,特有の遺伝因子を背景にエンテロウイルスなどのウイルス感
F-2
味でいずれの病型も自己免疫機序により糖尿病が起こるといえる.
AT
P
P
C
IL-1β
NLRP3
p50
Caspase-1
IKKɛ TBK1
?
Pro-IL-1β
IL-1β
を果たしている.自然免疫において,ウイルスの核酸や
ATF-2
c-Jun
c-
Ju
n
STING
IL-1β
p65
P
IRF3 IRF7
DENV
NS2B3
染が引き金となり,自然免疫に続いて獲得免疫が活性化し,β細胞が破壊されることがわかってきた.この意
8
P
7
MAVS
8
Myd
IF
1)山梨大学 医学部 第 3 内科
2)冲中記念成人病研究所
IL-1β
TLR
会田 薫 ,小林哲郎
1)
IFNα/β
AP-1
分子構造(pathogen associated molecular patterns;
PAMPs)はその受容体(pattern recognition receptors;
P
P
P
IRF3 IRF7
IRF
Type I IFN
p50
p65
NF-KB
Nucleus
細菌の細胞壁成分,鞭毛成分などの病原体構成成分の
はじめに
P
図 1 自然免疫反応
(文献 54)
ウイルス RNA は細胞内では RIG- Ⅰや MDA5 により認識され(A)
,endosome では TLR3 により認識される(B)
.その後,転写因子である IRF3/IRF7/NF-kB の
活性化が起こり,1 型 IFN の転写が起こる.
1 型糖尿病は特有の遺伝因子を背景に,免疫反応,環
PRRs)により認識される.ウイルス核酸を認識する主要
境因子により膵β細胞の廃絶が起こる疾患である.環境
な PRRs は Toll-like receptors(TLRs) と RIG-I-like
因子としては,ウイルス感染が重要であるが,食物因子,
receptors(RLRs)である.一方,獲得免疫は,B 細胞
成長,毒素なども挙げられている.本章では,ウイルス感
や T 細胞などのリンパ球により担われており,特異性の高
染と引き続く免疫反応,とくに自然免疫反応と 1 型糖尿
い抗原認識と免疫記憶を有しているが,その成立には日
病発症との関連について最近の知見をもとに解説する.
数がかかる(表 1).
認識機構
TLR3,8,9 は主に抗原提示細胞に発現しており,細
受容体
TLR,RLR,NLR,DAI(遺伝子再構成を行わない)
T cell receptor,B cell receptor(遺伝子再構成が起こる)
胞表面または endosome においてそれぞれ異なる核酸を
特異性
特異性低い
特異性高い
免疫学的記憶
なし
あり
ウイルス感染と自然免疫反応
1-4)
(
図1
)
認 識 す る.TLR3 は 二 本 鎖 RNA を,TLR7 は 一 本 鎖
表1
自然免疫と獲得免疫
担当細胞
自然免疫
獲得免疫
迅速な反応
日数がかかる
単球,マクロファージ,樹状細胞,好中球
T 細胞,B 細胞
病原体構成成分の分子構造
(pathogen associated molecular patterns;PAMPs)
蛋白質・ペプチドの詳細な分子構造,エピトープを認識
RNA を,TLR9 は非メチル化 DNA を認識している.細
胞内に侵入したウイルスの核酸あるいは細胞内で合成さ
免疫機構は自然免疫と獲得免疫の 2 つに大別される
れた核酸は RLRs によって認識される.RLRs は免疫担
)
.感染初期に迅速で重要な反応を示すのが自然
当 細 胞 に 限 らず 広 範 囲 の 細 胞 に 発 現 しており,RIG-I
triphosphate 構造や短い 2 本鎖 RNA を認識し,MDA5
これらの PRRs によりウイルス核酸が認識されると,転
免疫であり,主にマクロファージ,樹状細胞などの抗原提
(retinoic acid inducible gene I),MDA5(melanoma
は 2 kbp を超える比較的長い二本鎖 RNA を認識するとい
写因子である IRF-3,IRF-7,NF- κ B が活性化され 1 型
(
表1
示細胞により担われている.細菌,ウイルス,寄生虫など
differentiation associated gene 5,IFIH1 遺伝子産物)
,
われている.LGP2 は RIG-I と MDA5 経路を促進する働
インターフェロン(IFN)
(IFN- α , β)が産生される.分
の病原体の初期認識,病原体の貪食・消化,そして,そ
LGP2(laboratory of gene physiology 2)が知られてい
きをすることが示された.また,MDA5 は自己免疫疾患
泌された 1 型 IFN は周囲の細胞の IFN 受容体に結合し,
の後の炎症反応の惹起や獲得免疫の誘導に重要な役割
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る.RIG-I は RNA の 5' 末端にリン酸基が 3 つ付加した 5'-
5)
の発症に関与していることが報告されている .
Janus kinase(JAK)-signal transducer and activator
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