1

テノゼット錠300mg
製造販売承認申請書添付資料
第2部(モジュール2)
2.6.
CTDの概要(サマリー)
非臨床試験の概要文及び概要表
2.6.1.
2.6.2.
2.6.3.
緒言
薬理試験の概要文
薬理試験概要表
グラクソ・スミスクライン株式会社
Aug 12 2013 11:54:15
非臨床概要 薬理試験の目次
項目 - 頁
2.6.1. 緒言....................................................................................................
2.6.1
~xr1i- p. 1
2.6.2. 薬理試験の概要文 ..............................................................................
2.6.2
~xr2i- p. 1
2.6.2.1. まとめ..........................................................................................
2.6.2
~xr3i- p. 1
2.6.2.2. 効力を裏付ける試験....................................................................
2.6.2
~xr4i- p. 2
2.6.2.3. 副次的薬理試験 ...........................................................................
2.6.2
~xr5i- p. 12
2.6.2.4. 安全性薬理試験 ...........................................................................
2.6.2
~xr6i- p. 14
2.6.2.5. 薬力学的薬物相互作用試験.........................................................
2.6.2
~xr7i- p. 15
2.6.2.6. 考察及び結論...............................................................................
2.6.2
~xr8i- p. 16
2.6.2.7. 図表 .............................................................................................
2.6.2
~xr9i- p. 20
2.6.2.8. 参考文献 ......................................................................................
2.6.2
- p. 20
~xr10i
2.6.3. 薬理試験概要表..................................................................................
2.6.3
- p. 1
~xr11i
2.6.3.1. 薬理試験:一覧表 .......................................................................
2.6.3
- p. 1
~xr12i
2.6.3.2. 効力を裏付ける試験....................................................................
2.6.3
- p. 2
~xr13i
2.6.3.3. 副次的薬理試験 ...........................................................................
2.6.3
- p. 2
~xr14i
2.6.3.4. 安全性薬理試験 ...........................................................................
2.6.3
- p. 3
~xr15i
2.6.3.5. 薬力学的薬物相互作用試験.........................................................
2.6.3
- p. 3
~xr16i
Aug 12 2013 11:54:15
2.6.1、2.6.2 及び 2.6.3 の略号等一覧
略語(略称)
ART
AUC
AUC(0-∞)
AUC(0-tau)
AMP
CC50
CHB
Cmax
CMV
dAMP
dATP
dNTP
DNA
HBV
HIV
HIV-1
HSV-1
IC50
HTLV-1
IC90
Ki
Km
LC-MS/MS
MTT
NRTI
PBMC
PCR
RNA
TDF
WHV
Aug 12 2013 11:53:50
内容
抗レトロウイルス療法
血漿(血清)中濃度-時間曲線下面積
無限時間までの血漿(血清)中濃度-時間曲線下面積
投与 0 時間後から投与間隔までの血漿(血清)中濃度-時間曲線下面積
アデノシン一リン酸
50%の細胞を障害する濃度
B 型慢性肝疾患
最高血漿(血清)中濃度
サイトメガロウイルス
デオキシアデノシン一リン酸
デオキシアデノシン三リン酸
デオキシヌクレオチド三リン酸
デオキシリボ核酸
B 型肝炎ウイルス
ヒト免疫不全ウイルス
ヒト免疫不全ウイルス 1 型
単純ヘルペスウイルス 1 型
最大阻害作用の 50%の阻害作用を示す濃度
ヒト T 細胞白血病ウイルス 1 型
最大阻害作用の 90%の阻害作用を示す濃度
阻害定数
ミカエリス定数
液体クロマトグラフ・タンデム質量分析
メチルチアゾールテトラゾリウム
ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬
末梢血単核球
ポリメラーゼ連鎖反応
リボ核酸
テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩
ウッドチャック肝炎ウイルス
2.6.1.
2.6.1.
緒言
テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)は B 型肝炎ウイルス(HBV)-DNA ポリ
メラーゼ阻害薬であり、「B 型肝炎ウイルスの増殖を伴い肝機能の異常が確認された B 型慢
性肝疾患における B 型肝炎ウイルスの増殖抑制」を効能・効果として承認申請するもので
ある。
本邦において TDF は、抗ウイルス化学療法剤として既にヒト免疫不全ウイルス 1 型
(HIV-1)感染症の効能・効果を取得している。
図 2.6.1-1
TDF の構造式
TDF は投与後に加水分解されてテノホビルに変換され、更に細胞内でリン酸化を受けテノ
ホビル二リン酸となり、HBV-DNA ポリメラーゼの活性を阻害する。
「B 型肝炎ウイルスの増殖を伴い肝機能の異常が確認された B 型慢性肝疾患における B
型肝炎ウイルスの増殖抑制」の効能・効果における申請用法・用量は以下のとおりである。
【用法・用量】
通常、成人にはテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩として 1 回 300 mg を 1 日 1 回経口
投与する。
Aug 12 2013 11:53:51
2.6.1 - p. 1
緒言
2.6.2.
2.6.2.
2.6.2.1.
薬理試験の概要文
薬理試験の概要文
まとめ
テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)は、本邦において抗ウイルス化学療法剤
としてヒト免疫不全ウイルス 1 型(HIV-1)感染症の効能・効果を取得している[ビリアード
錠 300mg 添付文書, 2013]。今回、B 型慢性肝疾患(CHB)の効能・効果取得のための承認申
請にあたり新たに実施した非臨床薬理試験成績を以下に要約した。
効力を裏付ける試験
テノホビルは、B 型肝炎ウイルス(HBV)を産生する HepG2 2.2.15 細胞及び HepG2 細胞
において、抗ウイルス活性を示した。また、TDF はテノホビルよりも低濃度で抗ウイルス活
性を示し、その活性はラミブジンと同程度であった。テノホビルは、in vitro でラミブジン
及びエンテカビル等に耐性を示す多剤耐性 HBV(変異型と野生型ウイルスとの IC50 の比
(IC50 比):7.0~4000 超)に対して抗ウイルス活性を示した(IC50 比:0.6~6.9)。TDF
を含む抗 HBV/HIV 薬の長期投与によって出現した rtA194T 変異 HBV に対して、テノホビ
ルは野生型 HBV と同程度の抗ウイルス活性を示した。ウッドチャック肝炎ウイルス
(WHV)感染ウッドチャックにおいて、TDF は 4 週間反復経口投与により血清中 WHVDNA 量を用量依存的に低下させた。また、TDF 単独の 48 週間反復経口投与により投与期間
中持続的に血清中 WHV-DNA 量を低下させた。TDF とラミブジン又はエムトリシタビンと
の併用投与では、投与 36 週以降での血清中 WHV-DNA の最大低下量がそれぞれの単独投与
よりも大きく、併用による効果の増強が認められた。
テノホビル二リン酸は、基質である α-33P-dATP に対して競合的な HBV-DNA ポリメラー
ゼ阻害作用を示し、その阻害定数(Ki)は 0.18 µM であった。ヒト肝細胞をテノホビル
(10 µM)とインキュベートすると、細胞内のテノホビル二リン酸濃度は時間依存的に上昇
し、24 時間後には約 5 µM になった。消失半減期は 95 時間と推定された。ヒト DNA ポリメ
ラーゼ α、β 及び γ 並びにラット DNA ポリメラーゼ δ 及び ε に対するテノホビル二リン酸の
Ki は HBV-DNA ポリメラーゼに比べて約 29~530 倍高濃度であり、dATP の結合親和性
(Km を指標)との比である Ki/Km は 1.93~82.6 であった。ヒト DNA ポリメラーゼ α、β
及び γ によるテノホビル二リン酸の DNA への相対的取込み効率は、基質である dNTP の
0.06~1.4%と低かった。
副次的薬理試験
111 種類の標的蛋白質(神経伝達物質受容体、イオンチャネル、トランスポーター及び核
受容体)のリガンド結合試験において、テノホビル及び TDF は 10 µM の濃度でいずれの標
的蛋白質のリガンド結合に対しても、明らかな影響を及ぼさなかった。
テノホビルは細胞培養試験において、ヒト肝及び骨格筋細胞に対して高濃度でのみ細胞障
害作用を示し、ヒト近位尿細管上皮細胞に対しては 2000 µM まで明らかな細胞障害作用を
示さなかった。テノホビルは、最高 300 µM まで、HepG2 細胞、ヒト骨格筋細胞及び近位尿
細管上皮細胞のミトコンドリア DNA 量に影響を及ぼさず、HepG2 細胞及びヒト骨格筋細胞
の乳酸産生量も増加させなかった。
Aug 12 2013 11:53:52
2.6.2 - p. 1
2.6.2.
薬理試験の概要文
安全性薬理試験
ラットへの TDF の単回経口投与によりいずれも最高用量(500 mg/kg)でのみ運動能の軽
度低下、胃排出速度の低下、並びに尿量及び種々の尿中無機イオン量の低下がみられた。ま
た、モルモット摘出回腸の各アゴニスト誘発収縮を TDF の最高濃度(100 µM)でのみ軽度
に抑制した。
薬力学的薬物相互作用試験
HBV を発現する HepG2 AD38 細胞を用いて他のヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬
(NRTI)との併用によるテノホビルの抗ウイルス活性に及ぼす影響を検討したところ、
NRTI とテノホビルとのいずれの 2 剤併用においても相加的な抗ウイルス活性が認められた。
2.6.2.2.
効力を裏付ける試験
TDF は投与後に加水分解されてテノホビルに変換され、更に細胞内でリン酸化を受けテノ
ホビル二リン酸となる[ビリアード錠 300mg 添付文書, 2013]。テノホビル二リン酸は、HIV-1
逆転写酵素の基質である dATP と競合すること及び DNA に取り込まれた後に DNA 鎖伸長
を停止させることにより、HIV-1 逆転写酵素(RNA 依存性 DNA ポリメラーゼ)の活性を阻
害する[ビリアード錠 300mg 添付文書, 2013]。
HIV-1 逆転写酵素及び HBV-DNA ポリメラーゼはいずれもウイルス DNA ポリメラーゼで
あり、同じドメイン構造を持ち、ドメイン間のアミノ酸配列の相同性が高い[Bartholomeusz,
2004]。そのため、NRTI は全般的に HBV-DNA ポリメラーゼを阻害し[HIV 感染症及びその
合併症の課題を克服する研究班, 2013]、また、両酵素は、相同性が特に高いそれぞれの触媒
部位において同じ阻害薬(例えばラミブジン)に対して同じアミノ酸変異により耐性を示す
[Bartholomeusz, 2004]。CHB 治療の目的は、HBV-DNA の複製を阻害し長期間血中 HBV 量を
低下させることで、肝硬変や肝がんの発症を抑制することにある[Reijnders, 2009]。したがっ
て、他の抗ウイルス薬治療と同様に、HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬治療における主たる問
題点は各薬剤に対する耐性 HBV の出現である。これまでに臨床で使用されている抗 HBV
薬(ラミブジン、アデホビル及びエンテカビル)に対してはいずれも耐性 HBV が出現して
いるが、テノホビルはそれらの抗 HBV 薬に対する耐性 HBV に対して臨床的に有効性が示
されている[Reijnders, 2009]。また、テノホビルは、長期臨床試験において、これまでに 240
週時までの治療で耐性 HBV の発現は認められていない(2.7.3.3.2.6.2)。
したがって、現在、本邦で CHB 治療に使用可能な HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬(ラミ
ブジン、アデホビル及びエンテカビル)にテノホビルが加わることは、高い意義があるもの
と考えられる。
2.6.2.2.1.
In vitro 抗ウイルス活性
テノホビルの HBV に対する抗ウイルス活性を、HBV を産生する培養肝細胞を用いて検討
した。
Aug 12 2013 11:53:52
2.6.2 - p. 2
2.6.2.
2.6.2.2.1.1.
薬理試験の概要文
野生型 HBV に対する抗ウイルス活性
[方法]
HepG2 2.2.15 細胞(野生型 HBV ゲノムが細胞の遺伝子に組み込まれている培養肝細胞)
をテノホビル、TDF 又はラミブジンとともに 2 週間培養した後、細胞から抽出した HBVDNA をサザンブロットハイブリダイゼーション法で定量した(P4331-00038)。
また、同様に野生型 HBV を発現する HepG2 細胞をテノホビルとともに 1 週間培養し、細
胞から抽出した HBV-DNA をリアルタイム PCR 法で定量した(PC-164-2004)。
[結果]
テノホビル及び TDF は HepG2 2.2.15 細胞における HBV 産生をそれぞれ 1.1 及び 0.018 µM
の IC50 で阻害した。TDF の阻害活性はラミブジン(IC50=0.055 µM)と同程度であった。
テノホビルは HepG2 細胞における HBV 産生を 0.63 µM(2 例の平均)の IC50 で阻害した。
[まとめ]
テノホビルは、HBV を産生する HepG2 2.2.15 細胞及び HepG2 細胞において、抗ウイルス
活性を示した。また、TDF はテノホビルよりも低濃度で抗ウイルス活性を示し、TDF の抗
ウイルス活性はラミブジン(IC50=0.055 µM)と同程度であった。
2.6.2.2.2.
薬剤耐性 HBV に対する抗ウイルス活性
CHB の適応を持つ HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬(ラミブジン、アデホビル、エンテカ
ビル及び telbivudine(本邦では未承認))に対して、HBV は HBV-DNA ポリメラーゼのア
ミノ酸を変異させることで耐性を獲得する[Poordad, 2010]。各種 HBV-DNA ポリメラーゼ阻
害薬耐性 HBV に対するテノホビルの抗ウイルス活性を in vitro で検討した。
2.6.2.2.2.1.
既知の薬剤耐性変異を有する HBV に対する抗ウイルス活性
[方法]
野生型 HBV の HBV-DNA ポリメラーゼ遺伝子に種々の HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬耐
性変異を導入した HBV-DNA を作製し(表 2.6.2-1)、HepG2 細胞にトランスフェクトした
(PC-174-2003)。細胞をテノホビル及び種々の抗 HBV 薬(テノホビル及びアデホビル 0.1、
0.5、1、5 及び 10 µM、それ以外 0.001、0.01、0.1、1 及び 10 µM)存在下で 1 週間培養した
後、細胞内の HBV-DNA 複製中間体を抽出し、32P-HBV プローブを用いたサザンブロットハ
イブリダイゼーション法で定量した。
Aug 12 2013 11:53:52
2.6.2 - p. 3
2.6.2.
表 2.6.2-1
薬理試験の概要文
抗 HBV 薬耐性に関与する HBV-DNA ポリメラーゼのアミノ酸変異部位
WT: 野生型 HBV, マーカー部分は野生型と異なるアミノ酸を示す
rtT184G, rtS202I 及び rtM250V: エンテカビル耐性変異
M250V 以外のすべての変異はラミブジン耐性を示す
Data source: PC-174-2003 の Table 1
[結果]
野生型 HBV の IC50 に対する変異型 HBV の IC50 の比(IC50 比)を表 2.6.2-2 に示した。
ラミブジンは M250V 変異型 HBV を除く変異型 HBV に対していずれも 4000 超の IC50 比を
示し、エンテカビルの変異型 HBV に対する IC50 比は 7.0~1333 であった。一方、テノホビ
ルの IC50 比はいずれの変異型 HBV に対してもより低値(0.6~6.9)であった。
変異型 HBV
L180M double1
L180M quad2
V173L triple3
I169T quad4
I169T quin5
M250V
表 2.6.2-2
変異型 HBV に対する各種抗 HBV 薬の IC50 比
LMV
(0.0025a)
>4000
>4000
>4000
>4000
>4000
0.1
IC50 比(IC50(変異型)/IC50(野生型))
FTC
ADV
TFV
ETV
(0.0073a)
(0.226a)
(0.088a)
(0.00003a)
>1370
2.9
2.3
70.0
>1370
1.8
6.9
366.7
>1370
0.8
1.5
7.0
>1370
0.4
0.6
63.3
>1370
0.7
0.6
1333
0.1
0.4
1.6
7.0
L-dT
(0.01a)
4.7
31.5
42.7
38.7
7.6
0.1
LMV: ラミブジン, FTC: エムトリシタビン, ADV: アデホビル TFV: テノホビル, ETV: エンテカビル, L-dT: telbivudine
a: 野生型 HBV に対する各種抗 HBV 薬の IC50 (µM)
1: L180M+M204V, 2: L180M+T184G+S202I+M204V, 3: V173L+L180M+M204V, 4: I169T+V173L+L180M+M204V
5: I169T+V173L+L180M+M204V+M250V
Data source: PC-174-2003 の Table 2A, Table 2B
[まとめ]
テノホビルは、ラミブジン及びエンテカビル等に耐性を示す多剤耐性 HBV(IC50 比:7.0
~4000 超)に対して抗ウイルス活性を示した(IC50 比:0.6~6.9)。
2.6.2.2.2.2.
A194T 変異 HBV に対する抗ウイルス活性
TDF を含む抗 HBV/HIV 薬の併用療法を 6 ヵ月以上継続した 35 人の HBV/HIV 二重感染患
者のうち 2 名から分離した HBV-DNA ポリメラーゼ遺伝子には、ラミブジン耐性変異
(rtL180M 及び rtM204V)に加えて、rtA194T 変異も出現していた[Sheldon, 2004]。これらの
変異を有する HBV を作製し、テノホビルの抗ウイルス活性を in vitro で検討した(PC-1042012)。
Aug 12 2013 11:53:52
2.6.2 - p. 4
2.6.2.
薬理試験の概要文
[方法]
野生型 HBV の HBV-DNA ポリメラーゼ遺伝子に rtA194T 及びラミブジン耐性変異
(rtL180M 及び rtM204V)を単独又は同時に導入した HBV-DNA を作製し、HepG2 細胞にト
ランスフェクトした。細胞をテノホビル(0.01、0.1、1、10 及び 50 µM)存在下で 1 週間培
養した後、細胞から抽出した HBV-DNA 複製中間体を、33P-HBV プローブを用いたサザンブ
ロットハイブリダイゼーション法で定量した。
[結果]
rtA194T 変異 HBV に対するテノホビルの抗ウイルス活性(IC50)は 0.19 µM であり、野
生型 HBV に対する抗ウイルス活性(IC50:0.13 µM)と同程度であった(表 2.6.2-3)。ま
た、ラミブジン耐性変異(rtL180M+rtM204V)及び rtA194T 変異を有する HBV に対するテ
ノホビルの抗ウイルス活性は、ラミブジン耐性変異(rtL180M+rtM204V)を有する HBV と
同程度であった(IC50:それぞれ 0.31 及び 0.27 µM)。
表 2.6.2-3
HBV
野生型
rtA194T 変異
(rtL180M+rtM204V)変異
(rtL180M+rtM204V+rtA194T)変異
rtA194T 変異 HBV に対する抗ウイルス活性
IC50 (µM)
(平均±標準誤差, n≥3)
0.13±0.043
0.19±0.059
0.27±0.16
0.31±0.041
IC50 比
(変異型 IC50/野生型 IC50)
1.0
1.5
2.1
2.4
Data source: PC-104-2012 の Table 2
[まとめ]
TDF を含む抗 HBV/HIV 薬の長期投与によって HBV/HIV 二重感染患者に出現した
rtA194T 変異を有する変異 HBV に対して、テノホビルの抗ウイルス活性は低下しなかった。
2.6.2.2.3.
In vivo 抗ウイルス活性
抗 HBV 薬の臨床的効果を評価するために確立された動物モデルである WHV 感染ウッド
チャック[Korba, 2000]を用いて、テノホビルの in vivo における抗ウイルス活性を検討した。
[方法]
試験 1(Menne, 2005):出生直後に WHV を感染させることで WHV 表面抗原(WHsAg)
が血漿中に確認され、慢性的な WHV キャリアーになったウッドチャック(4 匹/群)に、
TDF(0.5、1.5、5.0 及び 15.0 mg/kg/日)を 4 週間反復経口投与した。投与開始日から投与
16 週間後まで経時的に採血し、血清中の WHV-DNA 量をドットブロットハイブリダイゼー
ション法又はリアルタイム PCR 法で定量した。
試験 2(PC-174-2004):同様の方法で WHV 感染ウッドチャック(1 歳齢、5 匹/群)に、
TDF(試験 1 での最大抗ウイルス活性用量 15 mg/kg/日)、アデホビルピボキシル、ラミブ
ジン及びエムトリシタビン(いずれも 15 mg/kg/日)の単独、並びに TDF 又はアデホビルピ
ボキシルとラミブジン又はエムトリシタビンとの 2 剤併用で 48 週間反復経口投与し、経時
的に血清中の WHV-DNA 量を試験 1 と同様に定量した。
Aug 12 2013 11:53:52
2.6.2 - p. 5
2.6.2.
薬理試験の概要文
[結果]
試験 1:TDF の 4 週間の反復経口投与期間中に、1.5、5.0 及び 15.0 mg/kg/日群ではいずれ
の動物でも血清中の WHV-DNA 量が明らかに低下した(図 2.6.2-1)。血清中の WHV-DNA
量の投与前からの低下量(平均)は 0.5、1.5、5.0 及び 15.0 mg/kg/日群でそれぞれ最大で 0.3、
1.2、2.0 及び 1.8 log10 WHVge/mL 血清であり(いずれも投与前に比べて統計学的に有意、
p<0.05 又は p<0.01、Mann-Whitney 検定)、5.0 mg/kg/日以上で最大に達する用量依存的な抗
ウイルス活性が示された。
WHV ge: WHV ゲノム相当量, 図上部の灰色のバー: 投与期間, 凡例は個体識別番号
図 2.6.2-1
TDF の 4 週間投与による WHV 感染ウッドチャック各個体の血清中
WHV-DNA 量の経時的変化
Data source:(Menne, 2005)の FIG. 1
試験 2:投与開始直後からいずれの単独及び併用投与群においても血清中の WHV-DNA 量
は速やかに低下した(図 2.6.2-2)。TDF 投与群では 48 週間の投与期間を通して持続的に
WHV-DNA 量が低下したのに対して、他の単独投与群では投与 12 週以降 WHV-DNA 量の低
下は減弱した。また、TDF とラミブジン又はエムトリシタビンとの併用投与群における
WHV-DNA の低下量は投与 32 週まで TDF 単独投与群と同程度又はそれ以下であった。しか
し、投与 36~48 週では併用投与群の方が WHV-DNA の低下量は大きく、併用による効果の
増強が認められた(投与前と比べた WHV-DNA 低下量(平均)の最大値が、TDF、ラミブ
ジン及びエムトリシタビンの単独投与群でそれぞれ約 4.5、2.7 及び 3.0 log10 WHVge/mL 血
清であったのに対して、TDF とラミブジン又はエムトリシタビンとの併用投与群ではそれぞ
れ 5.6 及び 6.6 log10 WHVge/mL 血清)。
Aug 12 2013 11:53:52
2.6.2 - p. 6
2.6.2.
薬理試験の概要文
5 例の幾何平均
3TC: ラミブジン, FTC: エムトリシタビン, ADF: アデホビルピボキシル
vge: ウイルスゲノム相当量
図 2.6.2-2
各種抗 HBV 薬の単独及び 2 剤併用投与による血清中 WHV-DNA 量の低下
Data source: PC-174-2004 の Figure 3B
[まとめ]
WHV 感染ウッドチャックにおいて、TDF は 4 週間反復経口投与により血清中 WHV-DNA
量を用量依存的に低下させた。また、単独での 48 週間反復経口投与により投与期間中継続
的に血清中 WHV-DNA 量を低下させた。ラミブジン又はエムトリシタビンとの併用投与で
は、投与 36 週以降での血清中 WHV-DNA の最大低下量がそれぞれの単独投与よりも大きく、
併用による効果の増強が認められた。
2.6.2.2.4.
2.6.2.2.4.1.
作用機序
HBV-DNA ポリメラーゼに対する阻害作用
テノホビルの HBV-DNA ポリメラーゼに対する阻害作用を in vitro で検討した(Delaney,
2006)。
[方法]
テノホビル二リン酸(1.75、3.5 及び 7 µM)存在下で、リコンビナント HBV-DNA ポリメ
ラーゼを α-33P-dATP 及び活性化ウシ胎児胸腺 DNA とともにインキュベートした後に DNA
を沈殿させ、DNA に取り込まれた 33P の放射線量をシンチレーションカウンターで測定し酵
素活性の指標とした。HBV-DNA ポリメラーゼ活性に対するテノホビル二リン酸の阻害形式
を以下の式(1)に基づく Lineweaver-Burk プロットから推定し、Ki を算出した。
(1)1/V=1/Vmax+Km/Vmax (1+[I]/Ki)(1/S)
V:酵素反応の初速度、Vmax:最大反応速度、Km:酵素のミカエリス定数、[I]:被験物質濃度
S:α-33P-dATP (基質) 濃度
Aug 12 2013 11:53:53
2.6.2 - p. 7
2.6.2.
薬理試験の概要文
[結果]
Lineweaver-Burk プロットの解析の結果(図 2.6.2-3)、テノホビル二リン酸は基質である
33
α- P-dATP に対して競合的な HBV-DNA ポリメラーゼ阻害作用を示し、その Ki は 0.18 µM
であった。
TFV-DP: テノホビル二リン酸
図 2.6.2-3
テノホビル二リン酸の HBV-DNA ポリメラーゼに対する阻害作用
(Lineweaver-Burk plot)
Data source:(Delaney, 2006)の FIG. 1
2.6.2.2.4.2.
テノホビルの細胞内代謝
TDF は体内で血清エステラーゼによって加水分解されてテノホビルに変換された後、細胞
内で 5-phosphoribosyl-1-pyrophosphate synthetase 及び AMP (dAMP) kinase による 2 段階のリン
酸化反応を介してテノホビル二リン酸になると考えられている[De Clercq, 2003]。In vitro で
3
H-テノホビルをヒト末梢血単核球細胞(PBMC)と 24 時間インキュベートしたときのテノ
ホビル二リン酸濃度及び半減期は静止状態の細胞で 1.24 µM 及び 49.7 時間、増殖刺激を与
えた細胞で 0.40 µM 及び 10.1 時間であること、並びにサルに 14C-テノホビルの 30 mg/kg を
単回皮下投与したときの PBMC 中でのテノホビル二リン酸濃度は最高で 0.9 µM、半減期は
50 時間超であることが、抗 HIV 薬としての開発過程で明らかになっている[Robbins, 1998;
ビリアード錠 300mg, 公開資料概要, 2004]。そこで、HBV の標的細胞であるヒト肝細胞にお
けるテノホビルの細胞内代謝について検討した(Delaney, 2006)。
[方法]
初代培養ヒト肝細胞及び HepG2 細胞を 10 µM のテノホビルと 2、6 及び 24 時間インキュ
ベートした後 70%メタノールで処理し、細胞抽出液の遠心上清を液体クロマトグラフ・タン
デム質量分析(LC-MS/MS)法により、テノホビル及びテノホビルリン酸化体を定量した。
また、初代培養ヒト肝細胞とテノホビルを 24 時間インキュベートした後テノホビルを除去
し、更に最大 96 時間後までインキュベートしたときの複数の時点でのテノホビル二リン酸
を定量し、細胞内半減期を算出した。
Aug 12 2013 11:53:53
2.6.2 - p. 8
2.6.2.
薬理試験の概要文
[結果]
初代培養ヒト肝細胞及び HepG2 細胞をテノホビルとインキュベートすると、テノホビル
二リン酸濃度は時間依存的に上昇し、24 時間後にはいずれの細胞でも約 5 µM になった(図
2.6.2-4)。また、初代培養ヒト肝細胞とテノホビルとの 24 時間のインキュベート後にテノ
ホビルを除去して更に細胞をインキュベートすると、細胞内のテノホビル二リン酸は徐々に
消失したが、96 時間後でも約 2.5 µM が存在し、消失半減期は 95±6 時間であった(図
2.6.2-5)。
A: 初代培養ヒト肝細胞, B: HepG2 細胞, TFV-MP: テノホビル一リン酸, TFV-DP: テノホビル二リン酸
図 2.6.2-4
ヒト肝細胞におけるテノホビル二リン酸の生成
Data source: (Delaney, 2006)の FIG. 2
Aug 12 2013 11:53:53
2.6.2 - p. 9
2.6.2.
図 2.6.2-5
薬理試験の概要文
初代培養ヒト肝細胞におけるテノホビル二リン酸の消失
Data source: (Delaney, 2006)の FIG. 3
[まとめ]
ヒト肝細胞をテノホビル(10 µM)とインキュベートすると、細胞内のテノホビル二リン
酸濃度は時間依存的に上昇し、24 時間後には約 5 µM であった。消失半減期は 95±6 時間で
あった。
2.6.2.2.5.
哺乳類 DNA ポリメラーゼに対する影響
5 種類の哺乳類 DNA ポリメラーゼ(α~ε)の中で、DNA ポリメラーゼ α、δ 及び ε は体
細胞 DNA の複製(α が複製開始時点で DNA の 20~30 塩基を合成し、その後 δ 及び ε が
DNA 鎖を伸長する)に、DNA ポリメラーゼ β は DNA の修復に、並びに DNA ポリメラー
ゼ γ はミトコンドリア DNA の複製にそれぞれ関与する酵素である[Hübscher, 2002]。
テノホビル二リン酸の HIV 逆転写酵素及び HBV-DNA ポリメラーゼに対する阻害作用の
選択性を明らかにするため、哺乳類 DNA ポリメラーゼに対する作用を検討した(Kramata,
1996; Cherrington, 1995)。
ヒト DNA ポリメラーゼ α、β 及び γ 並びにラット DNA ポリメラーゼ δ 及び ε を介する
DNA 合成に対するテノホビル二リン酸の阻害作用を表 2.6.2-4 に示した。これらの哺乳類
DNA ポリメラーゼに対するテノホビル二リン酸の Ki は 5.2~95.2 µM であり、HBV-DNA ポ
リメラーゼの Ki より約 29~530 倍高濃度であった。また、天然基質(dATP)の DNA ポリ
メラーゼに対する結合親和性(Km を指標)とテノホビル二リン酸の結合親和性(Ki を指
標)との比(Ki/Km)は、HBV-DNA ポリメラーゼに対して 0.47、HIV 逆転写酵素に対して
0.44 及び 0.34 といずれも低値であり、テノホビル二リン酸は基質である dATP よりも高親和
性で両酵素に対して結合し阻害作用を示すことが明らかになった。一方、各種哺乳類 DNA
ポリメラーゼに関しては、ヒト DNA ポリメラーゼ α に対して Ki/Km が 1.93 でありテノホ
ビル二リン酸の結合親和性は dATP より少し低い程度であったが、その他の DNA ポリメラ
ーゼに対しては Ki/Km が 10.2~82.6 であり、dATP より明らかに低親和性であった。
Aug 12 2013 11:53:53
2.6.2 - p. 10
2.6.2.
表 2.6.2-4
薬理試験の概要文
哺乳類の各種 DNA ポリメラーゼ及びウイルス DNA ポリメラーゼ/逆転写
酵素に対するテノホビル二リン酸の阻害作用
酵素
HBV-DNA ポリメラーゼ 1)
逆転写酵素活性
(RNA テンプレート)
2)
HIV 逆転写酵素
DNA ポリメラーゼ活性
(DNA テンプレート)
ヒト DNA ポリメラーゼ α2)
ヒト DNA ポリメラーゼ β2)
ヒト DNA ポリメラーゼ γ2)
ラット DNA ポリメラーゼ δ3)
ラット DNA ポリメラーゼ ε3)
Ki (µM)
dATP
Km (µM)
Ki/Km
0.18
0.38
0.47
0.022
0.05
0.44
1.55
4.58
0.34
5.2
81.7
59.5
7.2
95.2
2.7
5.6
0.72
0.71
6.1
1.93
14.6
82.6
10.2
15.6
1) 2.6.2.2.4.1, 2)(Cherrington, 1995), 3)(Kramata, 1996)
Data source: (Delaney, 2006),(Cherrington, 1995)の Table 1,Table2,(Kramata, 1996)の TABLE 1
[まとめ]
ヒト DNA ポリメラーゼ α、β 及び γ 並びにラット DNA ポリメラーゼ δ 及び ε に対するテ
ノホビル二リン酸の Ki は HBV-DNA ポリメラーゼに比べて約 29~530 倍高濃度であり、基
質 dATP の結合親和性(Km を指標)との比である Ki/Km は 1.93~82.6 であった。
2.6.2.2.6.
ヒト DNA ポリメラーゼへの基質としての取込み効率
テノホビル二リン酸がヒト DNA ポリメラーゼの基質になる可能性を検討するため、ヒト
DNA ポリメラーゼ α、β 及び γ により DNA プライマー/テンプレートにテノホビル二リン
酸が取り込まれるか否かについて検討した(Cihlar, 1997)。その結果、テノホビル二リン酸
の DNA ポリメラーゼよる DNA テンプレートへの相対的取込み効率(天然基質 dNTP の取
込みを 100%としたときの被験物質の取込み効率)は、DNA ポリメラーゼ α では 1.4%であ
り、この値は、ラミブジン三リン酸及び同様の作用機序を有する 3 種類の HIV 逆転写酵素
阻害薬の三リン酸体の相対的取込み効率の範囲内(0.05~6.3%)であった(表 2.6.2-5)。
DNA ポリメラーゼ β 及び γ での取込み効率はそれぞれ 1.3 及び 0.06%であり、いずれも検討
した被験物質の中で最も低かった。
Aug 12 2013 11:53:53
2.6.2 - p. 11
2.6.2.
表 2.6.2-5
ヒト DNA ポリメラーゼによるテノホビル二リン酸の DNA への取込み
ウイルス DNA ポリメラーゼ/逆転写酵素阻害薬
(活性代謝物)
抗 HBV/HIV 薬
抗 HIV 薬
薬理試験の概要文
テノホビル二リン酸
ラミブジン三リン酸
ジデオキシアデノシン三リン酸 2)
ジデオキシシチジン三リン酸 3)
サニルブジン三リン酸
α
1.4
0.05
0.25
0.1
6.3
相対的取込み効率 1) (%)
DNA ポリメラーゼ
β
1.3
9.0
80
125
142
γ
0.06
0.13
20
25
8.0
1) 相対的取込み効率=(Vmax(被験物質)/Km(被験物質))/(Vmax(dNTP)/Km(dNTP))×100
2) ジダノシン(ddI)の活性代謝物, 3) ザルシタビン(ddc)の活性代謝物
Data source:(Cihlar, 1997)の Table 4
[まとめ]
ヒト DNA ポリメラーゼ α、β 及び γ によるテノホビル二リン酸の DNA への相対的取込み
効率は、基質である dNTP の 0.06~1.4%と低かった。
2.6.2.3.
2.6.2.3.1.
副次的薬理試験
各種蛋白質・リガンド結合に及ぼす影響
111 種類の標的蛋白質(神経伝達物質受容体、イオンチャネル、トランスポーター及び核
受容体)のリガンド結合試験において、テノホビル及び TDF(10 µM)の影響を検討した
(V2000020)。その結果、テノホビル及び TDF は 10 µM でいずれの結合試験においても、
明らかな影響を及ぼさなかった(-50%≦結合阻害率<50%)。
2.6.2.3.2.
細胞障害作用
テノホビルはヒト DNA ポリメラーゼに対して阻害作用を示した(2.6.2.2.5)。これらの
阻害作用の Ki は HBV-DNA ポリメラーゼよりも高濃度であり、DNA への相対的取込み効率
も低いが(2.6.2.2.6)、ヒトの細胞において体細胞 DNA 及びミトコンドリア DNA の複製を
阻害すること等により細胞障害作用を示す可能性は否定できない。テノホビルは抗 HIV 薬
として HIV の標的細胞である T 細胞に対する細胞障害作用が検討されており、PBMC 及び
MT-2 細胞(HTLV-1 感染により形質転換した培養ヒト T 細胞)に対して高濃度でのみ細胞
障害作用を示した(50%の細胞を障害する濃度(CC50)がそれぞれ 1200 及び 1250 µM、
HIV 逆転写酵素に対する Ki(表 2.6.2-4)の 50000 倍超)[Robbins, 1998]。
テノホビルの細胞障害作用の有無をヒトの肝細胞、骨格筋細胞及び近位尿細管上皮細胞を
用いて更に検討した(P4331-00037)。
[方法]
HepG2 細胞及びヒト骨格筋初代培養細胞(103 細胞/ウェル):24 時間培養した後、一連
の希釈系列の被験物質を加えてそれぞれ 8 及び 6 日間培養した。培養終了直前の 90 分間に
色素(ニュートラルレッド)を加え、細胞が取り込んだ色素を比色定量し生細胞数の指標と
した。
ヒト近位尿細管上皮初代培養細胞(2×104 細胞/ウェル):24 時間培養した後、テノホ
ビルを加えて 4 日間培養し、生細胞数を MTT 法で測定した。
Aug 12 2013 11:53:53
2.6.2 - p. 12
2.6.2.
薬理試験の概要文
[結果]
HepG2 細胞及びヒト骨格筋細胞に対する細胞障害作用(CC50)は、それぞれ 588 及び
870 µM(HBV-DNA ポリメラーゼに対する Ki(0.18 µM、2.6.2.2.4.1)の約 3300 倍及び 4800
倍)であり、他のウイルス DNA ポリメラーゼ阻害薬の中でラミブジンに次いで高濃度であ
った(表 2.6.2-6)。ヒト近位尿細管上皮細胞に対しては最高 2000 µM まで明らかな細胞障
害作用を示さなかった(CC50:2000 µM 超)。
表 2.6.2-6
ヒト肝臓 HepG2 細胞及びヒト骨格筋細胞に対する細胞障害作用
ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬
(NRTI)
抗 HBV/HIV 薬
抗 HIV 薬
テノホビル
ラミブジン (3TC)
アバカビル (ABC)
ジドブジン (ZDV)
ジダノシン (ddI)
ザルシタビン(ddC)
サニルブジン(d4T)
In vitro 細胞障害作用 (CC50, µM)
2 例の平均(個別値)
ヒト肝細胞 (HepG2)
ヒト骨格筋細胞
588 (430, 746)
870 (675, 1064)
1021 (974, 1068)
1230 (995, 1464)
320 (295, 345)
96.5 (87, 106)
87.2 (79.7, 94.6)
497 (510, 483)
280 (142, 417)
846 (667, 1025)
7.65 (7.7, 7.6)
90 (63, 117)
290 (274, 305)
65.7 (38.7, 92.6)
Data source: P4331-00037 の Appendix I, Appendix II
[まとめ]
テノホビルは細胞培養試験において、HIV の標的細胞である T 細胞と同様に、ヒト肝及び
骨格筋細胞に対しても高濃度(HBV-DNA ポリメラーゼに対する Ki の約 3300 倍以上)での
み細胞障害作用を示し、ヒト近位尿細管上皮細胞に対しては最高 2000 µM(HBV-DNA ポリ
メラーゼに対する Ki の約 11000 倍)まで明らかな細胞障害作用を示さなかった。
2.6.2.3.3.
ミトコンドリア毒性
HIV 感染患者への逆転写酵素阻害薬の長期投与と、ミオパチー、心筋症、ニューロパチー、
乳酸アシドーシス等のミトコンドリア毒性との関連性が示唆されている[Brinkman, 1998]。
ヒトの肝細胞、骨格筋細胞及び近位尿細管上皮細胞には human organic anion tansporter 1 が
発現しており、それを介して腎臓にテノホビルが蓄積する可能性が示唆されている[Cihlar,
2001]。HepG2 細胞、ヒト骨格筋及び近位尿細管上皮の初代培養細胞を用いて、テノホビル
のミトコンドリア障害作用の有無(ミトコンドリア DNA 含量及び乳酸産生量を指標)を検
討し、他の HIV 逆転写酵素阻害薬と比較した(P1278-00042)。
[方法]
HepG2 細胞、ヒト骨格筋及び近位尿細管上皮の初代培養細胞(それぞれ 3×103 細胞/ウ
ェル)を 24 時間培養した後、一連の希釈系列の被験物質を加えて 9~21 日間培養した。培
養終了後、DNA を抽出し、33P-ミトコンドリア DNA プローブを用いたサザンブロットハイ
ブリダイゼーション法で定量した。また、同様の条件で、HepG2 細胞及び骨格筋細胞を 30
及び 300 µM の被験物質存在下でそれぞれ 3 又は 6 日間培養した後、培養上清中の乳酸量を
市販のキットで定量した。
Aug 12 2013 11:53:53
2.6.2 - p. 13
2.6.2.
薬理試験の概要文
[結果]
テノホビル及びラミブジンは、最高 300 µM までの濃度で HepG2 細胞のミトコンドリア
DNA 量を低下させなかった。一方、ザルシタビン及びジダノシンは最高濃度でミトコンド
リア DNA を完全に消失させ、ジドブジン及びサニルブジンも最高濃度で部分的に低下させ
た(図 2.6.2-6)。同様に、ヒト骨格筋細胞及び近位尿細管上皮細胞においてもテノホビル
及びラミブジンは、最高 300 µM までミトコンドリア DNA 量を低下させなかった(P127800042 の Fig.2、Fig. 3 及び Table 2)。
HepG2 細胞及び骨格筋細胞の培養上清中乳酸量に対して、テノホビル及びラミブジンは
300 µM まで影響を及ぼさなかった(HepG2 細胞:300 µM でそれぞれ対照の 101 及び 121%、
骨格筋細胞:300 µM でそれぞれ対照の 116 及び 108%)(P1278-00042 の Table 3)。一方、
ジドブジンは 300 µM で両細胞の乳酸産生量を 2 倍以上増加させた。
3TC: ラミブジン, ZDV: ジドブジン, ddC: ザルシタビン, ddI: ジダノシン d4T: サニルブジン
NRTI: ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬
平均±標準偏差 (n=4)
図 2.6.2-6
HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬及び HIV 逆転写酵素阻害薬の HepG2 細胞の
ミトコンドリア DNA 量に及ぼす影響
Data source: P1278-00042 の Fig. 1
[まとめ]
テノホビルは、最高 300 µM まで HepG2 細胞、ヒト骨格筋細胞及び近位尿細管上皮細胞の
ミトコンドリア DNA 量に影響を及ぼさず、HepG2 細胞及びヒト骨格筋細胞の乳酸産生量を
増加させなかった。
2.6.2.4.
2.6.2.4.1.
安全性薬理試験
中枢神経系に及ぼす影響
雄 Sprague-Dawley ラット(10 匹/群)において、TDF は 50 及び 500 mg/kg の単回経口投
与の投与 2 時間後に、一般症状及び行動に影響を及ぼさなかった(R990152)。8 の字型迷
路法を用いた運動能の測定で、媒体投与群に比べて 500 mg/kg 群の投与 2 時間後の運動能が
約 20%有意に低下した(p<0.05、t 検定)。また、死亡例はみられず、投与 2 日後に安楽死
させ摘出した神経組織(脳、頸髄、胸髄及び腰髄)に肉眼病変は認められなかった。
Aug 12 2013 11:53:53
2.6.2 - p. 14
2.6.2.
2.6.2.4.2.
薬理試験の概要文
心血管系に及ぼす影響
覚醒雄ビーグル犬(3 匹)において、TDF は 30 mg/kg の単回経口投与 24 時間後まで、心
拍数、平均血圧及び心電図パラメータに影響を及ぼさなかった(D990155)。
2.6.2.4.3.
呼吸系に及ぼす影響
雄 Sprague-Dawley ラット(10 匹/群)において、TDF は 50 及び 500 mg/kg の単回経口投
与により、投与 2 時間後の呼吸数及び呼吸パターンに影響を及ぼさなかった(R990152)。
2.6.2.4.4.
2.6.2.4.4.1.
消化管に及ぼす影響
アゴニスト誘発回腸収縮に及ぼす影響
テノホビル及び TDF(10、30 及び 100 µM)のモルモット摘出回腸(6 標本)の基礎張力
及びアゴニスト(アセチルコリン、ヒスタミン及び塩化バリウム)誘発収縮に及ぼす影響を
検討した(V2000009)。テノホビルは 100 µM まで、基礎張力及び各アゴニスト誘発収縮に
対して影響を及ぼさなかった。一方、TDF は 100 µM で、各アゴニスト誘発収縮を 12~14%
程度有意に抑制した。
2.6.2.4.4.2.
胃腸管輸送能に及ぼす影響
雄 Sprague-Dawley ラット(3 匹/群)に TDF の 50 及び 500 mg/kg を単回経口投与し、投
与 30 分後に胃腸管輸送マーカーとして活性炭を経口投与したところ、500 mg/kg 群において
胃排出速度が低下した(R990153)。
2.6.2.4.5.
腎機能に及ぼす影響
雄 Sprague-Dawley ラット(10 匹/群)に TDF の 50 及び 500 mg/kg を単回経口投与し、
投与 24 時間後まで蓄尿して腎機能パラメータを測定したところ、500 mg/kg 群で尿量、並び
に尿中カルシウム、ナトリウム、カリウム、塩素及び重炭酸塩量の有意な低下がみられた
(R990154)。いずれの投与群でもクレアチニンクリアランスは低下しなかった。
2.6.2.5.
2.6.2.5.1.
薬力学的薬物相互作用試験
抗ウイルス活性に及ぼす他の NRTI の影響
テノホビルは、他の NRTI との併用により HIV に対して相加又は相乗的な抗ウイルス活性
を示した[Mulato, 1997]。テノホビルの HBV に対する抗ウイルス活性に及ぼす他の NRTI の
影響の有無を in vitro で検討した(PC-174-2006)。
[方法]
HBV を発現する HepG2 AD38 細胞を、種々の濃度で組み合わせた(チェッカーボード
法)2 種類の NRTI 存在下で 4 日間培養した後 DNA を抽出し、リアルタイム PCR により
HBV レベルを測定して抗ウイルス活性の指標とした。テノホビルと他の NRTI との抗ウイ
ルス活性における薬力学的薬物相互作用(相加、相乗及び拮抗作用)を Bliss Independence
及び Loewe additivity モデルを用いて分析した。
Aug 12 2013 11:53:53
2.6.2 - p. 15
2.6.2.
薬理試験の概要文
[結果]
テノホビルは、検討したいずれの NRTI との 2 剤併用でも HBV に対して相加的な抗ウイ
ルス活性を示した。
表 2.6.2-7
テノホビルと他の NRTI との 2 剤併用での HBV に対する抗ウイルス活性に
おける相互作用
テノホビルとの併用薬
薬力学的薬物相互作用
Bliss Independence モデル
Loewe additivity モデル
(MacSynergyⅡプログラムでの解析)
(アイソボログラム分析)
アデホビル
エンテカビル
ラミブジン
エムトリシタビン
Telbivudine
相加作用
相加作用
相加作用
相加作用
相加作用
相加作用
相加作用
相加作用
相加/相乗作用
相加作用
Data source: PC-174-2006 の Table 2, Table3
2.6.2.6.
2.6.2.6.1.
考察及び結論
効力を裏付ける試験
抗ウイルス活性
テノホビル及び TDF は、HepG2 2.2.15 細胞における HBV 産生をそれぞれ 1.1 及び
0.018 µM の IC50 で阻害した。また、テノホビルは HepG2 細胞における HBV 産生を
0.63 µM の IC50 で阻害した。HB611 細胞においても、テノホビルは HBV 産生を HepG2
2.2.15 細胞と同程度の効力で阻害している(IC50=2.5 µM)[Yokota, 1994]。TDF の IC50 は
テノホビルの約 1/60 でありテノホビルよりも抗ウイルス活性が高かった。これは TDF の構
造(テノホビルの二つのホスホン酸の水酸基が無電荷で脂溶性の修飾基でマスクされてい
る)が、テノホビルよりも細胞膜を通過しやすい性質を有するためと考えられている
(Delaney, 2006)。
テノホビルは、野生型 HBV の HBV-DNA ポリメラーゼ遺伝子にラミブジン及びエンテカ
ビル等に多剤耐性を示す変異を導入した HBV(IC50 比:7.0~4000 超)に対して抗ウイルス
活性を示した(IC50 比:0.6~6.9)。同様に、臨床分離耐性 HBV に対しても、耐性 HBV の
ゲノムをクローン化してトランスフェクトした Huh7 細胞を用いた in vitro 試験で、ラミブジ
ン耐性 HBV(IC50 比(IC50(変異型)/IC50(野生型):156 超~1000 超)、エンテカビル耐性
HBV(IC50 比:210)、並びにラミブジン及びアデホビル耐性 HBV(IC50 比:それぞれ
1000~1000 超及び 4.0~10 超)に対して、テノホビルは野生型と同程度の抗ウイルス活性
(IC50 比:1.1~2)を示した[Brunelle, 2007]。これらの非臨床成績から、TDF は、既存の抗
HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬に耐性/多剤耐性の HBV に対して抗ウイルス活性を示す可
能性が推察される。実際に、テノホビルはラミブジン、アデホビル及びエンテカビル耐性
HBV に対して臨床的にも有効性が示されている[Reijnders, 2009]。CHB 治療の目的は、長期
間血中 HBV を低下させることで、肝硬変や肝がんの発症を抑制することにあり[Reijnders,
2009]、そのため、HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬治療において各薬剤に対する耐性 HBV が
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2.6.2 - p. 16
2.6.2.
薬理試験の概要文
出現することは、有効な治療の継続を阻む大きな要因である。現在推奨されている治療は 1
種類の HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬の治療を開始し、耐性 HBV が出現したら新たな阻害
薬を追加することであり[Reijnders, 2009]、この点で、現在、本邦において使用できる 3 剤の
HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬(ラミブジン、アデホビル及びエンテカビル)に加えて TDF
が臨床で使用できるようになることは、CHB 治療において高い意義があるものと考えられ
る。
TDF を含む抗 HBV/HIV 薬の併用療法を 6 ヵ月以上受けた HBV/HIV 二重感染患者の一部
において、rtA194T 変異を有する新たな HBV が出現しているが[Sheldon, 2004]、その変異
HBV に対するテノホビルの抗ウイルス活性は野生型 HBV と同程度であった。rtA194T 変異
HBV に関しては、テノホビル及びラミブジンに対して in vitro で部分的な耐性を示すという
報告[Amini-Bavil-Olyaee , 2009]、及びラミブジン治療のみで TDF が投与されていない患者由
来の HBV に rtA194T 変異が 10 例で検出されており、そのうち 5 例で TDF 単独又は TDF を
含む併用治療により有効性(HBV-DNA が 1/1000 を超える低下)が認められた[Fung, 2008]
という報告がある。したがって、rtA194T 変異がテノホビルに対する耐性変異か否かは明確
になっていない。±
WHV 感染ウッドチャックにおいて、TDF(0.5~15.0 mg/kg/日)の 4 週間反復経口投与に
より、血清中 WHV-DNA 量は用量依存的に低下した。本試験において測定した、最大の血
清中 WHV-DNA 量低下を示すと推測される TDF の 5 及び 15 mg/kg をウッドチャックに単回
経口投与したときの Cmax はそれぞれ 0.171±0.0687 及び 0.377±0.217 µg/mL、AUC(0-∞)は
それぞれ 0.635±0.162 及び 1.42±0.413 µg・h/mL であった(いずれも 6 例の平均±標準偏
差)(Menne, 2005)。また、アジア系米国人の CHB 患者 90 例に、本剤の予定臨床用量で
ある TDF の 300 mg を 1 日 1 回 48 週間反復経口投与したときのテノホビルの Cmax は
0.2419 µg/mL、AUC(0-tau)は 2.8237 µg・h/mL であった(2.7.2.2.1.2.2.2.)。したがって、TDF
はヒトに比べて同程度の Cmax、約 0.2~0.5 倍程度の AUC で、WHV 感染ウッドチャックに
おいて in vivo 抗ウイルス活性を示しており、本動物モデルにおける有効性の成績からヒト
における有効性が推察可能であると考えられる。また、WHV 感染ウッドチャックへの 48 週
間反復経口投与試験では、投与終了時に TDF と他の HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬である
ラミブジン又はエムトリシタビンとの併用による効果の増強が認められた。この成績は、多
剤併用が標準治療になっている抗 HIV 治療[HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研
究班, 2013]と同様に、CHB の治療においても、HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬の併用により
耐性発現を制御しながら長期にわたって有効な治療を継続できる可能性を示唆するものと考
えられる。
作用機序
Lineweaver-Burk プロットの解析から、テノホビル二リン酸は基質である α-33P-dATP に対
して競合的な HBV-DNA ポリメラーゼ阻害作用を示し、その Ki は 0.18 µM であった。この
濃度は基質(α-33P-dATP)の Km(0.38 µM)の約 1/2 である(Delaney, 2006)ことから、テ
ノホビル二リン酸は dATP よりも高い結合親和性で HBV-DNA ポリメラーゼに作用して活性
を阻害すると考えられる。更に、HBV-DNA ポリメラーゼ自体での検討は実施されていない
が、同様のウイルス DNA ポリメラーゼである HIV 逆転写酵素、CMV-DNA ポリメラーゼ及
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2.6.2 - p. 17
2.6.2.
薬理試験の概要文
び HSV-1-DNA ポリメラーゼ等とウイルス DNA ポリメラーゼ阻害薬との研究結果から、テ
ノホビル二リン酸が HBV-DNA ポリメラーゼと相互作用する過程で、HBV-DNA ポリメラー
ゼによって合成中の HBV-DNA 鎖 3'末端の水酸基に dATP の代わりにテノホビルが付加され、
テノホビルに水酸基がないためそれ以降の DNA 鎖伸長が阻害される(チェーンターミネー
ション)というような機序に基づく HBV-DNA 合成阻害作用も想定されている[De Clercq,
2003]。
HBV-DNA ポリメラーゼ阻害作用を示す細胞内活性代謝物であるテノホビル二リン酸の細
胞内濃度を測定するため、ヒト肝細胞をテノホビル(10 µM)とインキュベートした結果、
細胞内のテノホビル二リン酸濃度は 24 時間後には約 5 µM に達し、消失半減期は 95 時間と
推定された。HIV の標的細胞であるヒト PBMC を 3H-テノホビル(10 µM)とインキュベー
トしたときのテノホビル二リン酸濃度及び半減期は静止状態の細胞でそれぞれ 1.24 µM 及び
49.7 時間、増殖を刺激した細胞でそれぞれ 0.40 µM 及び 10.1 時間であった[Robbins, 1998]。
したがって、in vitro でのテノホビルとのインキュベーションにより、抗 HIV 薬としての標
的細胞であるヒト PBMC と同程度以上のテノホビル二リン酸がヒト肝細胞においても生成
されること、及びその半減期はヒト PBMC よりも長いことから、テノホビルは抗 HIV 薬の
用法・用量(300 mg、1 日 1 回)[ビリアード錠 300mg 添付文書, 2013]で CHB 患者において
も抗ウイルス活性を示す可能性が示唆される。
以上をまとめると、テノホビルは、細胞内で十分な濃度のテノホビル二リン酸に代謝され、
テノホビル二リン酸が HBV-DNA ポリメラーゼを阻害するとともに HBV-DNA に取り込ま
れチェーンターミネーションを誘発するという二重の機序で、HBV-DNA 合成を阻害するこ
とにより抗ウイルス活性を示すと考えられる。
テノホビルがヒトの DNA ポリメラーゼを阻害するか否かを、ヒト DNA ポリメラーゼ α、
β 及び γ 並びにラット DNA ポリメラーゼ δ 及び ε に対するテノホビル二リン酸の阻害作用
により検討したところ、各 DNA ポリメラーゼに対する Ki は HBV-DNA ポリメラーゼに比
べて約 29~530 倍高濃度であり、HBV-DNA ポリメラーゼに対する選択性が示された。また、
基質である dATP の結合親和性(Km)との比である Ki/Km は 1.93~82.6 であり、テノホビ
ル二リン酸はヒト又はラット DNA ポリメラーゼに対して全般的に基質よりも低親和性であ
ると考えられる。更に、ヒト DNA ポリメラーゼ α、β 及び γ によるテノホビル二リン酸の
DNA への相対的取込み効率は、基質である dNTP の 0.06~1.4%と低かった。検討したヒト
又はラット DNA ポリメラーゼの中でヒト DNA ポリメラーゼ α に対するテノホビル二リン
酸の Ki/Km は 1.93 であり、dATP に近い結合親和性を示した。しかし、チェーンターミネ
ーションに必要なテノホビルのヒト DNA ポリメラーゼ α による DNA への取込み効率は
dATP の 1.4%でしかなく、また Ki(5.2 µM)が HBV-DNA ポリメラーゼに比べて約 29 倍高
濃度であり、CHB 患者に臨床用量の TDF を投与したときのテノホビルの Cmax
(0.2419 µg/mL、0.84 µM)に比べても約 6 倍高濃度であることから、TDF が臨床用量で
DNA ポリメラーゼ α に対して阻害作用を示す可能性は低いと推察される。その他の DNA ポ
リメラーゼ(β~ε)に関しては、テノホビル二リン酸の Ki 及び Ki/Km はいずれもヒト DNA
ポリメラーゼ α よりも高値であり、ヒト DNA ポリメラーゼ β 及び γ の取込み効率もヒト
DNA ポリメラーゼ α より低いことから、TDF が臨床用量で DNA ポリメラーゼ β~ε に対し
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2.6.2 - p. 18
2.6.2.
薬理試験の概要文
て阻害作用を示す可能性は更に低いと推察される。以上のことから、予定臨床用量の TDF
の投与により、ヒトの DNA ポリメラーゼに対して阻害作用を示す可能性は低いと考えられ
る。
2.6.2.6.2.
副次的薬理試験
111 種類の標的蛋白質(神経伝達物質受容体、イオンチャネル、トランスポーター及び核
受容体)のリガンド結合試験において、テノホビル及び TDF は 10 µM の濃度で、いずれの
標的蛋白質のリガンド結合に対しても明らかな影響を及ぼさなかった。したがって、テノホ
ビル及び TDF はウイルス DNA ポリメラーゼに対して高い選択性を示し、少なくとも検討し
た多数の標的蛋白質が関与する生理作用に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。
テノホビルは in vitro 細胞培養試験において、HIV の標的細胞である T 細胞と同様に、ヒ
ト肝及び骨格筋細胞に対しても高濃度(HBV-DNA ポリメラーゼに対する Ki の約 3300 倍以
上)でのみ細胞障害作用を示し、ヒト近位尿細管上皮細胞に対しては最高 2000 µM(同様に
Ki の約 11000 倍)まで明らかな細胞障害作用を示さなかった。また、テノホビルは、最高
300 µM(同様に Ki の約 1700 倍)まで HepG2 細胞及びヒト骨格筋細胞のミトコンドリア
DNA 量に影響を及ぼさず、乳酸産生量を増加させなかった。2.6.2.6.1 で考察したように予
定臨床用量の TDF の投与により、ヒトの 5 種類の DNA ポリメラーゼ(α~ε)に対して阻害
作用を示す可能性は低いと考えられる。テノホビルが細胞障害作用を示す濃度は、HBVDNA ポリメラーゼに対する Ki の約 3300 倍以上であり、ミトコンドリア障害作用に関して
は Ki の約 1700 倍の濃度でも認められなかったことから、TDF は臨床用量で、ヒト DNA ポ
リメラーゼ α、δ 及び ε の阻害を介する細胞増殖抑制作用、並びにヒト DNA ポリメラーゼ β
及び γ の阻害を介する細胞障害作用を示さないと考えられ、したがってそれらの作用を介し
て重篤な副作用を示す可能性はほとんどないと推察される。
2.6.2.6.3.
安全性薬理試験
TDF の単回経口投与により認められた影響は、いずれもラットでの最高用量
(500 mg/kg)における運動能の軽度低下、胃排出速度の低下、尿量及び種々の尿中無機イ
オン量の低下、並びに in vitro での TDF の最高濃度(100 µM)による各アゴニスト誘発モル
モット摘出回腸収縮の軽度抑制であった。雄ラットに TDF の 500 mg/kg を反復経口投与し
たときのテノホビルの投与 1 日及び投与 28 日の Cmax はそれぞれ 1.13 及び 1.57 µg/mL、投
与 28 日の AUC(0-24)は 17.0 µg/mL であり(2.6.4.3.1.1.1)、予定臨床用量を反復投与した時
の CHB 患者の Cmax(0.2419 µg/mL、0.84 µM)に比べてそれぞれ約 4.7 及び 6.5 倍、AUC(0tau)(2.8237 µg・h/mL)に比べて約 6 倍高値であった。また、in vitro で TDF がアゴニスト誘
発回腸収縮に影響を及ぼした濃度(100 µM)は、CHB 患者でのテノホビルの Cmax の約 120
倍高濃度であった。したがって、これらの安全性薬理試験で認められた知見に関連した有害
事象が臨床において発現する可能性は低いと推察される。
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2.6.2 - p. 19
2.6.2.
2.6.2.6.4.
薬理試験の概要文
薬力学的薬物相互作用試験
HBV を発現する HepG2 AD38 細胞を用いて他の NRTI との併用によるテノホビルの抗ウ
イルス活性に対する影響を検討したところ、テノホビルは、検討したいずれの NRTI との 2
剤併用においても相加的な抗ウイルス活性を示した。HIV/HBV の共感染者は全世界で 10%、
本邦においても少なくとも 6~10%と推定されており、HIV 感染者の増加に伴い共感染者の
総数も増加すると考えられている[HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究班,
2013]。テノホビルは HIV に対しても他の NRTI との併用で相加/相乗的な抗ウイルス活性
を示すことから[Mulato, 1997]、HIV/HBV の共感染者に対する他の NRTI との併用治療に有
効であると考えられる。既に、HIV/HBV の共感染者への推奨される治療法として、2013 年
の抗 HIV 治療ガイドラインにおいて「テノホビル(TDF)/エムトリシタビンあるいはテ
ノホビル(TDF)+ラミブジン(3TC)をバックボーンにした ART を施行する」と記載さ
れている[HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究班, 2013]。
2.6.2.6.5.
結論
非臨床薬理試験成績から、TDF の活性代謝物であるテノホビル二リン酸は選択的な HBVDNA ポリメラーゼ阻害作用を示し、標的細胞である肝細胞において抗 HIV 薬としての標的
である PBMC と同程度の濃度のテノホビル二リン酸が産生されること、テノホビルは既存
の HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬に対する耐性変異 HBV に対して in vitro で抗ウイルス活性
を示すこと、並びに細胞障害作用及びミトコンドリア毒性を発現する可能性は低いことが示
された。したがって、TDF は CHB 治療に安全で有効な薬剤であると考えられ、既存の抗
HBV-DNA ポリメラーゼ阻害薬治療に反応不良の CHB 患者に対しても有効である可能性が
示唆されることから、TDF は臨床において高い意義を有する新規 CHB 治療薬として期待さ
れる。
2.6.2.7.
図表
図表は本文中に記載した。
2.6.2.8.
参考文献
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(第 8 版). 2013.
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2.6.2 - p. 22
薬理試験概要表
2.6.3.
2.6.3.1.
薬理試験:一覧表
被験物質:テノホビル及び TDF
試験系
投与
方法
HepG2 2.2.15 細胞
HepG2 細胞
in vitro
in vitro
HepG2 細胞
in vitro
HepG2 細胞
in vitro
ウッドチャック
経口
(米国)
リコンビナント HBV-DNA ポリメラーゼ
初代培養ヒト肝細胞及び HepG2 細胞
ヒト DNA ポリメラーゼ α, β 及び γ
ラット DNA ポリメラーゼ δ 及び ε
in vitro
in vitro
in vitro
in vitro
ヒト DNA ポリメラーゼ α, β 及び γ
試験の種類
実施施設
報告書番号
添付場所
(米国)
(米国)
(オース
トラリア)
(米国)
P4331-00038
PC-164-2004
4.2.1.1
4.2.1.1
PC-174-2003
4.2.1.1
(米国)
(米国)
(チェコ)
(米国)
PC-104-2012
Menne, 2005
PC-174-2004
Delaney, 2006
Delaney, 2006
Cherrington, 1995
Kramata, 1996
4.2.1.1
4.2.1.1
4.2.1.1
4.2.1.1
4.2.1.1
4.2.1.1
4.2.1.1
in vitro
(米国)
Cihlar, 1997
4.2.1.1
in vitro
(台湾)
V2000020
4.2.1.2
in vitro
(米国)
P4331-00037
4.2.1.2
in vitro
(米国)
P1278-00042
4.2.1.2
効力を裏付ける試験
野生型 HBV に対する抗ウイルス活性
既知の薬剤耐性変異を有する HBV に対する
抗ウイルス活性
A194T 変異 HBV に対する抗ウイルス活性
In vivo 抗ウイルス活性
2.6.3 - p. 1
HBV-DNA ポリメラーゼに対する阻害作用
テノホビルの細胞内代謝
哺乳類 DNA ポリメラーゼに対する影響
ヒト DNA ポリメラーゼへの基質としての
取込み効率
副次的薬理試験
細胞障害作用
ミトコンドリア毒性
:
,
:
,
:
,
2.6.3.
神経伝達物質受容体, イオンチャネル,
トランスポーター及び核受容体
HepG2 細胞, ヒト骨格筋細胞及びヒト
近位尿細管上皮細胞
HepG2 細胞, ヒト骨格筋細胞及びヒト
近位尿細管上皮細胞
各種蛋白質・リガンド結合に及ぼす影響
薬理試験概要表
Aug 12 2013 11:53:57
2.6.3.1.
薬理試験:一覧表(つづき)
被験物質:テノホビル及び TDF
試験の種類
安全性薬理試験
中枢神経系に及ぼす影響
心血管系に及ぼす影響
呼吸系に及ぼす影響
アゴニスト誘発回腸収縮に及ぼす影響
胃腸管輸送能に及ぼす影響
腎機能に及ぼす影響
薬力学的薬物相互作用試験
抗ウイルス活性に及ぼす他の NRTI の影響
試験系
投与方法
ラット
イヌ
ラット
モルモット摘出回腸
ラット
ラット
経口
経口
経口
in vitro
経口
経口
HepG2 AD38 細胞
in vitro
実施施設
(カナダ)
(カナダ)
(カナダ)
(台湾)
(カナダ)
(カナダ)
(米国)
報告書番号
添付場所
R990152
D990155
R990152
V2000009
R990153
R990154
4.2.1.3
4.2.1.3
4.2.1.3
4.2.1.3
4.2.1.3
4.2.1.3
PC-174-2006
4.2.1.4
:
2.6.3 - p. 2
2.6.3.2.
効力を裏付ける試験
2.6.3.1 参照
2.6.3.3.
副次的薬理試験
2.6.3.1 参照
2.6.3.
薬理試験概要表
Aug 12 2013 11:53:57
安全性薬理試験
2.6.3.4.
被験物質:テノホビル及び TDF
2.6.3 - p. 3
試験の種類
動物種/系統又は
試験系
性別及び
動物数又は
標本数/群
投与
方法
投与量又は濃度
特記すべき所見
GLP
適用
報告書番号
添付場所
一般症状, 行動及び運動能
ラット/アルビノ
雄 10 匹
経口
TDF: 50 及び 500 mg/kg
500: 運動能の軽度低下
適
R990152
4.2.1.3
心拍数, 平均血圧及び心電図
パラメータ
イヌ/ビーグル
雄3匹
経口
TDF: 30 mg/kg
影響なし
適
D990155
4.2.1.3
呼吸数及び呼吸パターン
ラット/アルビノ
雄 10 匹
経口
TDF: 50 及び 500 mg/kg
影響なし
適
R990152
4.2.1.3
回腸収縮
モルモット回腸
n=6
in vitro
テノホビル及び TDF:
10, 30 及び 100 µM
テノホビル: 影響なし
TDF, 100: 各アゴニスト
誘発収縮を軽度抑制
非適
V2000009
4.2.1.3
胃腸管輸送能
ラット/アルビノ
雄3匹
経口
TDF: 50 及び 500 mg/kg
500: 胃排出速度の低下
適
R990153
4.2.1.3
腎機能パラメータ
ラット/アルビノ
雄 10 匹
経口
TDF: 50 及び 500 mg/kg
500: 尿量及び尿中無機
イオン量の低下
適
R990154
4.2.1.3
2.6.3.5.
薬力学的薬物相互作用試験
2.6.3.1 参照
2.6.3.
薬理試験概要表
Aug 12 2013 11:53:57