1 『世界市民』 by 矢根 真二 ([email protected]) 資料URL http://rio.andrew.ac.jp/~yane/class/water/ <11> ジレンマからの脱出? ⇒ Y <第4-5章> 本日の課題 ■ 戦略的思考(ゲーム理論)の水問題への適用 1 囚人のジレンマ(共有地の悲劇) 2 水争いは共有資源の争奪戦 3 水利権と効率的取引: ITQ 例題 絶滅する動物・繁殖する動物 2 1. バイソンの絶滅理由は? バッファロー: 6000万頭 ⇒ 1900年:400頭 2. 牛が絶滅しそうにない理由は? 3. 象が増える国と減る国,減る国に共通する政策は? 戦略的思考の重要性<S6> 共有資源 ゲーム理論 1. マンキュー (05) 『経済学<1> ミクロ編』 p.316 2. ミラー (10): 生物生存率は0.02%,but 大半は人類以前 1 囚人のジレンマ(共有地の悲劇) 3 非協力同時ゲームの著名パターン ≓ 個々の利得(私益)追求が,その集団の利得を減少 ⇒ 多人数: 共有地の悲劇,社会的ジレンマ 「囚人のジレンマ」 ⇐ マンキュー(05, p.472) 1.強盗容疑の2人組(8年) but 要自白 2.拳銃不法所持(1年) but 個別に司法取引 自分だけ自白 ⇒釈放(0年), 自分だけ黙秘 ⇒20年 囚人のジレンマの利得表 4 犯人B 黙秘 自白 黙秘 -1年,-1年 -20年,0年 自白 0年,-20年 -8年,-8年 犯人A 犯人Aの最適反応戦略 1. 2. 3. Bの最適反応? 均衡? Bが黙秘するなら,自白が最適反応 Bが自白するなら,自白が最適反応 ∴いずれにせよ自白が最適反応 均衡は? なぜ「ジレンマ」なのか? 5 なぜ囚人は愚かなのか? 1. 2. 犯人の行動目的: 自分の利益追求 But 結果(均衡)は,(自白,自白) 3. ⇒ 両犯人共に 8年の刑 もし(黙秘,黙秘)なら,双方とも 1年 ⇒ 両犯人共に(∴その集団も) 大損! (社会全体は?) 愚かなのは「囚人」だけか? モデル ≒ 寓話 Q1 軍拡競争の利得表と結果 6 1. かつての米ソのような利得表は? 1. 2. 3. 互いに軍縮すれば,共に 2 互いに軍拡すれば,共に 1 一国だけ軍縮し他国が軍拡すれば,軍縮国は 0,軍拡国は 3 2. 両国の最適反応,結果の均衡は? 3. このゲームパターンは? なぜ? A1 囚人のジレンマとしての軍拡 7 ソ連 軍縮 軍拡 軍縮 2,2 0,3 軍拡 3,0 1,1 米国 2 3 両国共に「軍拡」 ⇒(軍拡,軍拡) 囚人のジレンマ ⇐ (軍縮,軍縮)が両国共にbetter 2 水争いは共有資源の争奪戦 8 水争いの「水」 = <4> 共有資源 注: 公共財ではない 1. 2. 水が希少(=経済財)で競合 排除不可能: 国際河川,広域帯水層(地下水) 共有資源の争奪 ⇒ 囚人のジレンマ 1. 国際河川,広域な湖や帯水層(地下水) 2. 海洋水はまだ自由財(低い希少性) 他の例: 鯨・鮪・蟹,バイソン・象,清浄な空気 節水で維持可能なのに争う理由 9 B国 節水努力 取水拡大 節水努力 1,1 -1,3 取水拡大 3,-1 0,0 A国 ∴ 自己利益 ⇒(取水,取水) ⇒水不足 1 How(節水,節水)で合意できるか? 2 約束したとしても,裏切りの誘因は強い? 水争奪戦からの脱却への合意 10 合意形成を容易にする環境要因 1. 水不足が軽度 ( but 深刻だから問題) 2. 少数の利害関係者で,監視が容易 3. 目先だけでなく,将来の利益・関係を重視 4. 歴史・民族・交流等で大きな共感 自由貿易・国際交流 合意を担保する戦略的要因 長期関係下の監視 と 罰則等の実効性 自主的な合意の成功例 11 長野県山形村 ⇐ 中村(04, 12章) 1. 7農民が,1859年松本藩に取水申請 2. But 難事業12km・資金不足で頓挫 3. 結局35年で,今日の黒川堰が完成 4. 水利用組合・地域の聖田会の設立 1. 上流・下流地域の放水量の決定 2. 複数の水見人(監視人)の選出 水不足:中,関係者:少,共感:高 争奪戦から脱却できない例 12 オガララ帯水層 ⇐ ミラー(95,5章),中村(04,7章) 1. 米国西部穀倉地帯の巨大な帯水層(地下湖) 西部諸州地下に,日本の面積の1.2倍 2. 15万本の井戸 ⇒ 毎年1m? の水位↓ 3. 農業散水効率性↑ & 保全区で許可制 but 他 方で,飲料水会社の進出 水不足: 重,関係者:多,共感:中 Q2 国際的な石油価格競争に学ぶ? 13 1. 石油をめぐる中東諸国OPECのような利得表は? 1. 2. 3. 互いに低価格にすれば,共に 1 互いに高価格にすれば,共に 2 一国だけ低価格・他国が高価格なら,低価格国は 3,高価格 国は 0 2. 両国の最適反応戦略,結果の均衡は? 3. この結果への中東諸国の対策は? A2 悪名高いOPECから学べること 14 サウジ 低価格 高価格 低価格 1,1 3,0 高価格 0,3 2,2 クウェート 両国共に「低価格」 ⇒ (低価格,低価格) 3 OPEC: 国際的な価格カルテル ⇒(高価格,高価格)への協調を組織・実行 But 常に裏切りのインセンティブ! 2 伝統的な統制型割当制度 15 適用が容易な条件 ⇒ 国内の水問題 1. 2. 利害関係者が少なく,将来を共有 歴史・民族等への共感度が高い 「統制型割当制度」の実効性の担保 「監視可能 + 罰則」の実効性 国際的な統制型割当制度の失敗要因 国内外の違反 + 割当への交渉力・ロビー活動 + 処罰の困難 3 水利権と効率的取引: ITQ 16 所有(水利・取水)権の配分の難しさ 公共 or 皆のもの? But 不足する現実 石油:埋蔵量 but 水:所有地 (地下 but 河川?) 明確な所有権 ⇒ 効率的な使用・取引 1. 2. 自分のモノ ⇒ 長期・効率的な使用 競争価格 ⇒ 効率的な売買・取引 自由な売買可能性の拡大が効率性↑ Q3 所有権とインセンティブ(誘因) 17 アフリカ象の減少に関する主要な2つの対策 マンキュー(05) 例題 1. 公的な保護区を設け,象の殺戮・象牙販売を禁止 ケニア,タンザニア,ウガンダ 2. 村人等による私的所有を認め,所有物の処理を認める ボツワナ,マラウイ,ナミビア 象が増加しているのはどっち? なぜ(論理)? 漁場での統制型割当制度の限界 18 1948年IWC(国際捕鯨委員会) ⇐ ミラー(10, 27章) 1. 2. 非加盟国(ブラジル,チリ) 加盟国の拒否権・罰則,調査捕鯨(2014年の日本の敗訴) 世界の漁場破綻(= 過去の10%以下) 1. 2. 1950年以来,毎年50カ所以上が破綻 すでに30%破綻,40年以内に全滅? 「日本海海洋牧場構想」 by 安藤忠雄 日本海漁業資源の共有資源化 → ??? ITQ: 譲渡可能な所有権創立による光明 19 ITQ(譲渡可能個別割当)制度: 所有権の割当 誘因 1. 2. 3. 許容可能な総量を決定 個々の取り分権(売却・賃貸可能)の配分 ⇒ 漁場価値の維持・向上の誘因↑ 漁場の個別割当制度の成功 1. 2. 漁業と漁場資源の回復 70年以降の漁場破綻の2/3は回避可能 深刻な水紛争地域へのITQの適用? 20 深刻な水紛争と漁場破綻の類似性 1. 2. 国際河川をめぐる多数の国の対立 断流等を伴う高い資源の希少性 ∴ ITQ(譲渡可能個別割当)の水への適用 1. 河川流域での総取水量を決定 2. 主要事業者の取り分権の設定 3. 他の流域も含めた水マーケット拡充 <13>世界だけでなく,日本でも重要な水マーケット 本日の要点&次回の準備 21 1. 水紛争は,囚人のジレンマ (共有地の悲劇) 1. 紛争下の水は,希少な共有資源 2. 共有資源の争奪は,囚人のジレンマ (共有地の悲劇) 2. ジレンマからの脱却法 1. 伝統的な統制型割当制による規制では, 限界 2. 所有権を明確化した, ITQ(譲渡可能割当制)が効率的 1. 水は無料ではなく,価格を伴い売買 2. そのシグナルが活用と保全を促す 次回: 世界の水メジャーと水ビジネス 例解 種ではなく,「所有権」が重要 22 1.バイソンは,共有資源だから みんなのものは誰のもの? 2.牛は,私的財だから 豚や鶏も, 誰の所有で,誰が管理・責任? <S6> 私的財と共有資源の相違 所有権が明確 3.象が減少している <S6> 経済財の4分類 ケニア・タンザニア 象の殺戮&象牙販売を禁止 増加 している国 と その理由は? Q3 ∴所有権の明確化 インセンティブの効果: <S1>
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