平成27年度 社会福祉施設等における感染症予防講習会資料

社会福祉施設等における感染症対策
感染症を撲滅できると期待された時期もありましたが、
現在では、感染症と共存し、感染症の脅威をしのぐ
ことが重要と考えられるようになりました。
27年11月6日
東文化会館
堺市保健所 山﨑
今日のお話
①感染症の全体的な話
②集団感染となりうる主な感染症
・結核
・ノロウイルス
・インフルエンザ
・腸管出血性大腸菌
・水痘(保育施設等)
③感染予防対策
感染症の3要素
どこかを断ち切れば(なくせば)いいんだね。
感染症の3要素
感
染
源
病気の原因となる微生物
(細菌・ウイルスなど)
を持つ物や人、食品
拡げない・
増やさない
(消毒・清
潔保持)
感
染
経
路
病原体(細菌・ウイルス
など)が、体内に入る経
路
手洗い
感
あ受
る
人性
の
感染を受ける可能性のあ
る人(抵抗力の弱い人)
換気
十分な栄
養・睡眠・
予防接種
どこかを断ち切れば(なくせば)いいんだね。
感染経路
ほとんどの細菌やウイルスは、
粘膜から体の中に入ります。)
人の体に入る道筋:感染経路
感染経路
病原体の侵入経路
感染症の例
接触感染(経口
感染含む)
手指・食器・器具を介して感 腸管出血性大腸菌
染する
赤痢菌、ノロウイルス
もっとも頻度が高い
飛沫感染
咳・くしゃみのしぶきを吸っ
て感染する
飛沫粒子は落下し、空中を浮
遊し続けない。
空気感染
咳・くしゃみで飛び散ったし 結核
ぶきが飛沫核(5μm以下) 麻疹(はしか)
となり、吸い込んで感染。
水痘(みずぼうそう)
空中を浮遊し、飛散。
血液感染
注射・輸血
れて感染
インフルエンザ
風疹
流行性耳下腺炎(おたふ
くかぜ)
出血が粘膜に触 B型・C型肝炎
HIV(エイズウイルス)
我々の体の中には、沢山の細菌がいて常在細菌と呼ばれている。
体に害を与えることなく、病原体の侵入を防ぐなど有利な働きをする。
結核
1回の分裂に18~20時間
増え方が遅い菌
空気感染
結核(肺結核):結核菌が感染:空気感染
・感染経路は空気感染(飛沫核感染)
⇒「咳」によって空気中に撒き散らされ、ふわふわ浮
いている結核菌を吸い込むことによって感染。
⇒手を握る、同じ食器を使う、などでは感染しない。
結核(肺結核)
• 空調換気の悪い狭い場所などは、結核菌の飛沫(ひ
まつ)が長く滞留するため、感染源になる人が、目
の前にいなくても、知らないうちに感染してしまう
事例もある。
• 8時間以上の空間共有で、感染リスクが高くなる。
⇒換気
結核:世界各国と日本:2012年:人口10万人あたり
日本の罹患率は米国の5倍、オランダの3倍
結核罹患率(平成26年):人口10万人当たり
•
•
•
•
•
•
大阪市:36.8
名古屋市:23.2
京都市:21.8
堺市・神戸市:21.5
東京特別区:21.2
40
全国:15.4
30
・地域差あり。
・首都圏、中京、
近畿の大都市に
多い。
20
10
0
死因の26位
(昭和25年まで
死因の1位)
罹患率
年齢別新規結核患者数:全国
・結核はがんと同じく高齢者の病気、70歳以上の人が半数以上。
・堺市では、70歳以上の人の約1200人に一人が結核に罹患。
低い県
長野:8.1
宮城:9.0
山梨:9.2
新潟:9.3
秋田:9.5
高い府県
大阪:24.5
長崎:22.1
和歌山:19.6
京都:19.1
東京:18.9
感染と発病
☆感染=結核菌が体内に
入った状態≒保菌
⇒人にはうつさない
☆発病=結核菌が増え、
症状が出た状態
⇒人にうつす
☆100人感染⇒発病は10
~15人ぐらい。85~90
人は結核菌を抑え込み、
発病しない。
結核の症状
【結核の症状】
• 咳
• 発熱
• 痰・血痰
• 疲労感
• 胸痛
2週間以上続くと要注意
【高齢者の結核】
• 元気がない
• 食欲がない
• 痩せてきた
• 熱っぽい
高齢者の結核は、典型的な
症状を示さないことが多い。
ノロウイルス
人の腸の粘膜に感染
10~100個の少量で感染
冬場に流行
ノロウイルス:経口感染・接触感染
• 感染性胃腸炎の原因のひとつで、下痢・嘔吐の症
状を起こし、冬に多い。
• 100個以下の少量で感染
• 嘔吐・下痢が主な症状。血便はない。
• 熱はほとんど出ない。
• 3日以内に回復するが、1週間ほどウイルスを排出
する。
• アルコール消毒は効かない。
高齢者は、吐物による窒息や誤嚥による重症
肺炎で死亡することがあり要注意!
感染経路
①経口感染・接触感染
・カキや2枚貝などの生食。
• 感染した人(不顕性感染)
が不十分な手洗いで調理し
て、食品を汚染。
• 吐物・糞便処理後、手につ
いたウイルスが口から入る
• 胃酸では、失活しない。
②飛沫感染
• 患者の吐物や下痢便が飛び
散り、飛沫になり吸い込ん
で感染⇒換気
発症者・非発症者の糞便中ノロウイルス量
患者数%
ノロウイルス量(コピー/g)
非発症者でも糞便中にかなりのウイルス量を持つ人がいる
⇒無症状保菌者からの感染がある⇒手洗い
防ぐには:普段から気を付けること
【調理・配膳する人、介助する人の健康管理】
・普段から自分が食べる物(特に生ガキ)や家族の健
康状態に注意。
・症状があるときは、食事の配膳や介助をしない。
【手洗い】
・トイレ後、盛り付け前に洗う。
特に入所者の体液(尿・便・血液・唾液など)に触
れる処置を行った後は丁寧に洗う。
・汚れの残りやすいところを丁寧に洗う。
防ぐには:下痢・嘔吐の患者が出た場合
①患者を個室に隔離。同じ症状の人を一カ所に。
②患者と健康者は、別の人が介助。
③患者の処置が終わったら、手袋をはずし、液体石鹸
と流水で手洗い。
④嘔吐物の処理時は換気。
⑤汚物がついたリネンはビニール袋に入れる。消毒は
塩素系消毒液か熱湯消毒。
⑥症状のある人は、最後に入浴するかシャワーのみ。
⑦トイレのドアノブ、水道の蛇口、手すりなど汚染さ
れやすい場所の消毒(塩素系)
吐物処理
①感染防止品の着用
処理従事者の感染防止、感染拡大防止
②立入りの制限
処理従事者以外は汚物に近づけない
③十分な換気
換気を行い、室内のウイルス量を減らす
④効果的な殺菌剤の使用
次亜塩素酸ナトリウム(1000ppm)
⑤広範囲の清浄化
広く飛散・高く舞い上がる
⑥処理後の手洗いとうがい
処理後は2度手洗い
(次亜塩素酸ナトリウムでの手洗いはしない)
インフルエンザ
のどの粘膜に感染
基礎疾患を持つ人は重症化しやすい
咳エチケット、手洗い
インフルエンザ:接触感染・飛沫感染
• インフルエンザウイルスによる呼吸器感染症
• 毎年12月下旬から3月上旬まで流行(A型⇒B型)、
約1000万人が発症。
• 潜伏期は1~3日で、ワクチンがある。
【症状】
• 38度以上の突然の発熱
• 頭痛、関節痛、筋肉痛など全身症状
• 咳・鼻汁・のどの痛み
高齢者がいる入所施設でインフルエンザがまん延すると肺
炎などを合併し死亡する入所者が出る可能性がある。
↓
施設内に持ち込まないように、施設内で発症した時は感染
拡大を最小限に抑えることが大切
【飛沫感染】
【接触感染】
①感染者のくしゃみや咳、つ
ばなどの飛沫と一緒にウイル
スが放出
①感染者がくしゃみや咳を手
で押さえる
②別の人がそのウイルスを口
や鼻から吸い込み感染
• 学校や職場など人が多く集
まる場所
②その手で周りの物に触れ、
ウイルスが付着
③別の人がその物に触り、ウ
イルスが手に付着
④その手で口や鼻を触り感染
• ドアノブ、手すりなど
インフルエンザへの対応
【事前の対策】
①入所者の情報
• 人数、基礎疾患を持つ人(
呼吸器疾患、心疾患など)
の人数を把握
【発症者が出たら】
①発症者を個室管理、1か所
に集める(感染していない人
と隔離)
②ワクチン接種
• 入所者と職員
③レクリエーションや食堂な
ど人の集まる場所の使用を控
えることを検討。
③面会
• インフルエンザ様の症状の
ある人の面会制限(理解を
求めるための掲示)
• どうしても面会の必要があ
るときは、マスク、手洗い
、個室で面会
②重症化した人は医療機関へ
④施設内での対応が困難な場
合は関連医療機関や保健所に
連絡。
インフルエンザワクチン:重症化を防ぐ
• ワクチンの効果が出るまでに、2~3週間かかる
⇒流行が始まるまでに接種を済ませる。
• 効果は、約4~5か月持続。
• 今年から、4価のワクチンになった。A型2種類、
B型1種類だったが、A型2種類、B型2種類になっ
た。(⇒ワクチンの値段も上がった。)
☆ワクチン接種した高齢者は、死亡の危険が1/5、入院の危険
が1/3~1/2に減少することが期待できるといわれている。
☆堺市の高齢者のインフルエンザワクチンの接種率は約5割。
腸管出血性大腸菌
ベロ毒素が腎臓・脳に障害を起こす
10~100個の少量で感染
プール、風呂で人⇒人感染(子ども)
腸管出血性大腸菌感染症:経口感染
• ベロ毒素を産生する大腸菌。(牛の1~2割は菌を
保有している)
• O157が最も多く、次いでO26(保育園では
O26が多い)、届け出数は年間4千人前後。
症状
• 潜伏期間:平均3~5日
• 下痢、腹痛、血便、熱は軽度(37度台)
• 約10%の人に、溶血性尿毒素症候群や脳症など
重症合併症が起こる(特に子どもと高齢者)
• 不顕性感染(菌を持っていても症状が出ない人:
保菌者)の人もいる。
• 少量の菌で発症する(10~100個)ので、2次感
染が起こりやすい(手についた菌で人→人感染)
保育所内での集団発生事例は、
毎年複数例報告。
ヒト⇒ヒト間の
接触感染による集団発生。
接触感染対策が重要
手洗いの励行
予防・対応
【食中毒予防】
• 調理前の手洗い、肉類は十分加熱。
• 調理器具の洗浄、殺菌。
• 下痢などの症状があるときは食品に触れる作業をし
ない。
【人から人への感染予防】
• 職員は食生活に注意(肉は十分加熱)
• トイレ後の手洗い、食事介助前の手洗い
• 東南アジアに旅行したら、屋台はやめておくのが無
難(保菌者にならないために)
水痘:水ぼうそう
空気感染
ウイルスは神経節に潜む
水痘:空気感染
• 感染力が強い。
• 高齢者は、子どもの頃に罹り、免疫をもっている
が、帯状疱疹を発症することがある。
• 子どもは、ワクチンが定期化されたので、減少し
ていく。ワクチンをうっていない1歳未満の児が要
注意。
帯状疱疹
水痘
• 水痘の罹患歴、水痘ワクチンの接種歴を把握してお
く。
• ワクチン接種していない児には、ワクチン接種を勧
める。
• 1歳未満はワクチンを接種していないことが多いの
で、隔離。
• 職員の罹患歴も確認。
• 帯状疱疹からもうつる。
感染予防対策:感染経路対策
①マスク
②手ぶくろ(プラスチック、ゴム)
③エプロン
④手洗い
感染症の3要素
どこかを断ち切れば(なくせば)いいんだね。
マスク
マスク
• 広げるのを防ぐ:咳をしている人の菌やウイルスの
拡散をある程度は防ぐ効果
• 飛沫を防ぐ:近距離から咳・くしゃみされ、口・鼻
付近に飛沫(しぶき)が飛んで来て吸い込んでしま
うような時。
• 接触を防ぐ:ドアノブなどに飛沫と共に付着したウ
イルスを触った手で、自分の口・鼻を触って感染。
顔(粘膜のまわり)を頻繁に触る癖のある人などは
ガードとしての効果。
☆ほとんどの細菌やウイルスは、
粘膜から体の中に入ります。
☆顔には粘膜がある(目、鼻、口))
マスク
•
•
•
•
サイズが合っているマスクを
ひだ(プリーツ)は、下向き。
鼻の部分は合うように押さえる。
ゴムバンドを持ち、耳からはずす。
ノーズピースとプ
リーツ を合わせ
ていない
⇒鼻の横のすき
まから入ってし
まう。
着用していたマス
クを顎に
⇒顎の部分には
飛散物が付着し
ている恐れがあり、
マスクの内側につ
いてしまう。。
口だけを覆い、鼻
は出ている
⇒ 自 分の 咳が 飛
散しない効果はあ
るが、保護ができ
ない。
ゴムひもがゆるい
⇒肌との接着面
に隙間ができ、
入ってくる。
マスクのつけ方、はずし方
手ぶくろ
菌やウイルスで汚染されている表面を
触らないようにはずす
手ぶくろのはずし方
菌やウイルスで汚れている表面を触らないようにはずす。
エプロン
エプロンの前面は汚染されて
いると考え、手で触れないよ
うにはずす。
エプロンのはずし方
首にかけたひ
もの部分を強
く引く。
エプロンの前面は汚染さ
れていると考え、手で触
れないようにはずす。
裾を腰ひもの高さまで外側を内側
に織り込むように持ち上げる。
(エプロンの前面、汚染部を内側
に閉じ込める)
後ろの腰ひもを
引きちぎり丸め
こんで廃棄。
手洗い
液体せっけんと流水で
効果的な手洗い
感染者の便0.01gが手についていたら?
手洗いの方法
ノロウイルスの残存数(残存率)
手洗いなし
1,000,000個
流水で15秒
10,000個(1%)
70%アルコール噴霧後
流水で15秒すすぎ
10,000個(1%)
ハンドソープで30秒もみ洗い後
流水で15秒すすぎ
100~900個(0.01%)
ハンドソープで60秒もみ洗い後
流水で15秒すすぎ
10~90個(0.001%)
ハンドソープで10秒もみ洗い後
流水で15秒すすぎを2回繰り返す
1~9個(0.0001%)
どんな開け方をしていますか?
手洗い(液体せっけん)
感染症を予防する生活習慣:感染経路対策
☆手洗い:基本中の基本。水道栓、ドアノブ
などに付着した病原体が、手を介して口・
目・鼻等の粘膜から体内に入る。
☆咳エチケット:咳やくしゃみのしぶきには、
細菌やウイルスが含まれている。ティシュ
などで鼻と口を押さえ、顔をそむける。症
状のある人はマスクを着用。
☆換気・湿度:空気中にまき散らされた細菌
やウイルスを減らす。(結核・インフルエ
ンザ・ノロ)
最後に
• 感染症と共存し、感染症の脅威をしのぐことが
重要と考えられるようになりました。
• 『癖=習慣』になっている動作(顔をさわるな
ど)は、いざというときにもしてしまいます。
• 感染を広げにくい動作を『癖=習慣』にしてし
まいましょう。
ご清聴
ありがとうございました