スライド 1

地球温暖化による生物多様性
への影響と適応策
2011年12月6日(火)14:45~15:45
松田裕之 横浜国立大学教授
グローバルCOE
「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」
プログラムリーダー
1
今日の話題
1. 地球温暖化による生物多様性への影響
– 地球温暖化≠気候変動
– 気候変動は最優先課題ではない
2. それに対する適応策とその進め方
3. 今回の震災、台風12号の被害を踏まえて
の考え
梶光一氏
http://www.geocities.jp/bokata94/pascua.htm
丸山康司氏
2
気候変動≠地球温暖化
• 気候変動
– 確実なのはCO2濃度上昇=海洋酸性化
– 平均気温上昇は95%区間推定ではない
– 気温は慨十年変動(Regime shift)などとの複合
影響
3
キーリング曲線が示すCO2濃度上昇
4
http://cdiac.ornl.gov/trends/co2/sio-mlo.htm
地球と生命の歴史
46 億年前(冥王代) 地球誕生
約38億年前(太古代) 生命誕生
約27億年前(原生代) 真核生物
の誕生
24~22億年前 全球凍結?
4.4億年前 オルドビス紀/シルル紀
(O/S)境界大量絶滅
4.43~4.17億年前 シルル紀 植物の
最初の上陸。
3.7億年前 デボン紀後期 大量絶滅
約21億年前 多細胞生物の誕生
2.48億年前 ペルム(二畳)紀末 大量
絶滅
約9億年前 ロディニア超大陸
中生代 2:5 億年前
7.6~7億年前 全球凍結?
2.06億年前 三畳紀末 大量絶滅
パンゲア超大陸
5:4 億年前(古生代) カンブリア大
爆発(多様な動物の進化)
6500万年前 白亜紀末 大量絶滅
6500万年前 新生代第三紀
180万年前 新生代第四紀
7000~6000年前 縄文海進
5
http://www.bell.jp/pancho/travel/saitama/sinpukuji%20kaiduka.htm
現代は第6の大量絶滅の時代?
6
二酸化炭素濃度の地球史
7
過去40万年のCO2濃度と気温
8
http://www.ngdc.noaa.gov/paleo/icecore/antarctica/vostok/vostok_co2.html
国連ミレニアム生態系評価(横浜国大21世紀COE訳)
過大評価
未M
来A
が
の
予
絶
想
滅
す
の
速る
さ過
去
、
現
在
、
9
日本の維管束植物の絶滅速度
過去と将来予想
Past
Number of indigenous
flora in Japan
10
8
6
4
7000
ほぼ絶滅
CR(PE*)
EX or野生絶滅
EW
絶滅・
2
0
19
20
19
30
19
40
19
50
19
60
19
70
19
80
19
90
20
00
不
明
No of extinction
種数
14
12
Future
6800
6600
6400
6200
Endemic species loss
Non-endemic species loss
6000
Year
Extinction rates
(per decade)
553
Extinct
7.9%
Year
8.6 species
6.3-times larger
*PE = Probably extinct (no report of extant grids)
55.3 species
反証済み
10
2048年までに世界の水産資源が
枯渇する?Worm et al. (2006 Science)
Boris
Worm
Boris
Worm
11
最初はCoMLの主要成果のひとつとみなされた
Rebuilding Global Fisheries
(Worm et al. 2009 Science)
□ 世界の水産資源の約1/3は過
去に乱獲され、今も乱獲されて
いる。
□ ほかの約1/3は過去に乱獲され
たが、現在の漁獲率は制限さ
れ、回復しつつある
□ 残りの1/3は、資源が十分にあ
り、漁獲率が低い。つまり、増
産可能である。
Boris
Worm
現
在
の
相
対
漁
獲
率
(
M
S
Y
=
1
水産学者との共著論文
)
日本の著者とデータはな
い
現在の相対資源量(MSY=1)
現在の資源量と漁獲率を166の系群で評価 12
地球平均気温の上昇
http://www.grida.no/climate
/ipcc_tar/wg1/563.htm
将来予想は不確実
2~4.5度
(67%信頼区間?)
過去1000年の推定気温
ホッケースティック曲
線(M.Mann et al. 1998)
自然は人知を
超えた存在
IPCC 2002
13
地球環境の最優先課題は?
③
•
②•
•
•
•
•
•
石油資源の枯渇(ピークオイル説)
食糧危機(不均等分配、貧困・飢餓)
①
土地利用変化(砂漠化、熱帯林減少)
人口問題(貧困)
気候変動(温暖化、海面上昇、酸性化、?)
環境汚染
◎
原発・放射能汚染・放射性廃棄物処理
14
ピークオイル説
(米国エネルギー省EIA)
• 究極可採量を3兆バレルと仮定
15
森林の衰退と回復
16
(要
環
J境因
B ・
O省負
二生荷
〇物指
標
一多に
〇様関
、 性す
二
る
総
一
有
一 合識
人 評者
分 価ア
、
ン
5 委ケ
択 員ー
)
17
会ト
イノシシ(Sus scrofa)
■は存在,■は不在,■はデータなし
18
19
注:松田はこのプロジェクトとは無関係
茨城大・環境研「温暖化影響総合予測プロジェクト」
ブナ適域の減少
20
茨城大・環境研「温暖化影響総合予測プロジェクト」
ブ全気
ナ国温
林均と
分一降
布に水
確変量
率化を
のさ現
変せ状
化たか
予時ら
測の
21
茨城大・環境研「温暖化影響総合予測プロジェクト」
コメ作収量の変化予測
22
茨城大・環境研「温暖化影響総合予測プロジェクト」
増約温
え千暖
る人化
恐?に
れ死よ
亡り
者年
が間
23
茨城大・環境研「温暖化影響総合予測プロジェクト」
温暖化による人と生態系への影響
• 水資源への影響=洪水氾濫、斜面災害、土砂堆積、
積雪水資源、水需給
• 森林への影響=ブナ林、マツ枯れ、チシマザサ、山
地湿原、ハイマツ、シラビソの分布面積減少
• 農業への影響=日本のコメ収量減少、世界の食料
減少
• 沿岸域への影響=高潮浸水、河川堤防、液状化危
険度、斜面災害リスク、失われる砂浜・干潟、
• 健康への影響=熱ストレス死亡リスク、熱中症、大
気汚染リスク、感染症
森林以外の生態系への影響は? 24
気候変化による生態系への影響
(IPCC報告書より)
世界(さんご礁13)
インド洋(さんご礁12)
豪州(植物多様性危機11)
欧州(植物多様性危機10)
アマゾン(崩壊の危機9)
豪州クイーンズランド(熱帯林8)
南アフリカ(ホットスポットFynbo7)
南アフリカ(ホットスポットSC6)
産業化以前からの世界平均気温の上昇幅
Hare, W. L. (2003). Assessment of Knowledge on Impacts of Climate Change –
Contribution to the Specification of Art. 2 of the UNFCCC.
http://www.wbgu.de/wbgu_sn2003_ex01.pdf.
25
25
イースター島の歴史
(ダイアモンド「文明崩壊」)
• 5c初: ポリネシア人が初入植、森林豊か
• 5~17世紀 モアイ像建造
• 17c:先住民の乱伐で森林消失
– カヌー用の木材もなくなる。漁もできない
– モアイ像を作る技術・文化・歴史の消失
– 深刻な食糧不足で人口減少
• 18c:西洋人到達 歴史を知らない先住民
• 教訓:生物多様性が地球規模で失わても、
人類が絶滅するというより、文明崩壊
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今日の話題
1. 地球温暖化による生物多様性への影響
2. それに対する適応策とその進め方
–
–
複合影響を克服する
地域の問題としてとらえる
3. 今回の震災、台風12号の被害を踏まえての考え
梶光一氏
http://www.geocities.jp/bokata94/pascua.htm
丸山康司氏
27
複合影響を克服する
• 気候変動は地球史の中で常にあったこと。
– 中生代末の隕石衝突?のほうが急激?
– 全球凍結、超大陸形成のほうが激甚
– 地球を救う<自然の恵みに依拠した人間を救う
• 問題は、人間活動によって生態系の回復力
が損なわれていること
– 結局は、人間活動(土地改変、乱獲、外来種、汚
染、気候変動)によって損なわれた生態系の回復
力を保全し、復元し、補うこと
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映画「Day After Tomorrow」
• 「千年以上かかって起こるかもしれないことを3日で表現」
http://movies.foxjapan.com/dayaftertomorrow/
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生物多様性=地域の問題
• 気候変動=地球環境問題
– どこでCO2排出しても、地球全体の問題
• 生物多様性=地域の問題
– アジアの土地開発を北米の湿地造成では償えぬ
• 地域の自然の恵みを守り、持続可能に使う
– 利用するための生物資源(持続可能性)
– 地域知、伝統知は科学知とともに重要
– 生物多様性も文化(価値観)多様性も重要
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今日の話題
1. 地球温暖化による生物多様性への影響
2. それに対する適応策とその進め方
3. 今回の震災、台風12号の被害を踏まえての考え
–
–
–
気候変動は最優先課題ではない(既出)
「科学万能論」の見直しとしての順応的管理
科学者の役割と「選択の自由」
梶光一氏
http://www.geocities.jp/bokata94/pascua.htm
丸山康司氏
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自然保護は「倫理の問題」
• アル・ゴア「不都合な真実」
– 立ち上がる時、この危機は実は政治の
問題などではないとひらめくだろう。これ
は倫理の問題であり、精神的な課題な
のだ。
• 松田
– スターン報告やTEEBでは、自然保護が
経済的にPayすると主張する。しかし、そ
れは将来に対する経済的割引率を低く
仮定した「まやかし」である。やはり、自
然保護は「倫理の問題」と考えるべきで
ある。マンハッタンにいる金融投資家で
はなく、土と海に親しむ者が自然保護の
32
第一の担い手である。 http://www.tkd-randomhouse.co.jp/futsugo/message/index.html
Carbon Offsetと
中世キリスト教会の免罪符
indulgentia 免罪符
http://www.climatecare.org/britishairways/calculators/flight/
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イワンのばかと生物多様性Credit
「誰もかも手を使って働かなきゃならないなんて、
お前の国でももっとも馬鹿気た律法だ。・・・
「おれは頭で働く方法を一つ教えてやろう。そうす
りゃ手で働くより頭を使った方がどんなに得だか
わかるだろう。」・・・
そこで、れいの紳士は、塔のてっペンに立って演
説をしはじめ・・・
人民たちはこの紳士が手を使わないで頭で働く
方法を見せてくれるものと思っていました。しかし、
かれはどうしたら働かないで生活を立てて行ける
かということを、くりかえしくりかえし話しただけでし
た。(イワンのばか、トルストイ民話、菊池寛訳)
岩波少年文庫の表紙
青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/cards/000361/files/42941_15672.html
なぜ、自然を守る途上国よりも、生物多様性
Creditを取引する先進国の人が豊かなのか
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http://yellow.ap.teacup.com/thinkmon/1194.html
http://pub.ne.jp/newjei/?entry_id=3823685
放射線リスク
と差別
• 「津波で死なせてゴメン」「みんなで力を合わせてがん
ばろう」など,被災者がそれぞれ亡くなった家族への思
いや復興に向けたメッセージを書き込んでいた。
• 「高田松原を守る会」の鈴木義久会長は「風評被害は
恐ろしい。亡くなった方の冥福を祈る気持ちに水を差さ
れたようで残念だ」と話した。
• 「悔しい,人の心を踏みつけるような感じ」
• 「高田松原」の被災松が25日、成田山新
勝寺でたきあげられた。約2千人が集まり、
犠牲者の冥福と被災地の復興を祈った。
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http://www.asahi.com/national/update/0925/TKY201109250289.html
安心と「不浄」と差別は一体
• 人助けにはリスクを伴う。
• V.ユゴー「Les Miserables
(ああ無情)」に出てくるジャ
ン・ヴァルジャンはパンを盗
んで懲役刑になり、出所後ミ
リエル大司教に一宿一飯の
世話になる。その教会から彼
は銀の食器を盗んだ。が、捕
まえたジャベール刑事に対し
大司教は彼をかばった。
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緊急時のハザード
• 健康リスク:震災の死者不明者(>2万人)に比べ、
桁違いに少ないとみられる
(<数十万人中数百人?)
• 人道的問題:市民避難後に、事故終息のために「特
攻隊」が必要。多数の作業員が被曝
• 社会被害:近隣住民の長期避難。
– ストレス、社会と家庭の崩壊
• 経済被害:震災被害の2割-10倍程度?長期に及ぶ
– 電力不足:広域長期の電力不足に陥る
– 農漁業生産が制限され、出荷停止リスクを背負う
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農水省「食べて応援しよう」
• 放射線リスクを避けるのではなく、ほんの少しのリスク
を受け入れることで、被災農漁民の経済を支えよう!
• 自然保護とは、自分が食べる物(自然の恵み)の由来
を知り、(生産者との)つながりを取り戻す行為である
(鬼頭秀一「社会的リンク論」)
• ほんの少しの放射線で、生産者を切捨てるのか?
• 食事の前に誰に感謝しているのか?
• 今まで食べていたものを
食べなくなるという行為が、
被災農漁民を切り捨ててい
るという想像力の欠如
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所沢ダイオキシン騒動
• 所沢の農家は産廃業者の被害者。しかし、そ
の野菜は売れなくなった。
• ある宅配業者は「残念だが、所沢の野菜を扱
わなくしました」=顧客に合わせて「差別」に
加担
• ある生協は、逆に新たに所沢産を流通させた
• 今、ダイオキシンが問題にされることはほとん
どない(単なる流行)=説明責任の欠如
39
私の結論
•
•
•
•
•
•
•
気候変動は確実だが温暖化だけでない
その変動幅予測は不確実性がかなり高い
短期的な自然変動は人為影響より大きい
気候変動の最大影響は自然の恵みの損失
気候変動適応策は生態系の回復力の強壮
環境科学の知見は未実証のきわものが多い
専門を押し売りしない科学者を目指す
40