資料3 地域社会における子育て支援 ~支援政策の効果分析研究の視点から~ 2014年5月26日 鳥取環境大学 地域イノベーション研究センター 主題 支援政策の効果分析研究の視点からの考察 経済学的視点からの分析要素 子育て支援の問題定義 政策推移のサーベイ 経済的枠組みからみた子供を育てる意味 出生率を説明する要素 定量的分析 出生率に関する研究サーベイから 出生率の国別、都道府県別、県内市町村別差異 米国とスエーデン 県内市町村特性と支援 現代の子育て政策の社会的位置(家族社会学から) 2 子育て環境・支援の経済的視点 経済学の基本テーマ 「限られた資源の効率的配分」 投入、産出(生産)、支出 資源の最適構成での投入、生産価値最大化、生産価値の支出効 率最大化 個人の投入要素・支出要素 時間=労働=価値=金、資産(ストック) 支出・金=消費 機会費用(選択肢の取捨選択) 制度 文化・慣習 宗教、男女の役割、企業・組織・地域文化、親子・家庭 観、公私の領域(国家観) 国の経済環境による生産形態 財・サービス生産体制 3 日本的雇用制度(終身、年功、企業別組合) 長期雇用を前提とした社会保障制度 法制度 労働法制、親族法 子育て支援の社会・経済的意味 少子化の経済的意味 若年人口減→労働力人口減→生産力減→経済規模の縮小 現状の社会保障制度 現役労働者による制度維持 財政の持続性困難 国の政策への制約、 社会の持続性の困難 資源投入(投資・投資)による社会・経済の持続性確保 政策目標 4 出生率の増加 労働力の維持←→女性就業率の引き上げ 日本における子育て支援の政策の概要 政策としての取り組み契機 1989年 合計特殊出生率 1.57←1966年の1.58を下回る。 社会として少子化対策の必要性認識 解決すべき問題の定立=「出生率向上」 手段の一環としての「子育て支援」 問題解決のための手段 保育施設整備の継続的取り組み 女性の負担軽減と就労支援 男女役割の不均衡是正、制度整備 子育ての経済的費用対応、 出生年代層の経済的自立、健康で豊 かな生活を送れる環境 5 子育てに伴う経済的費用、ケア(世話)、時間を公的に支援・補償 児童手当(子ども手当)政策、保育政策、育児休業制度等 社会・経済環境への注目 1990年代半ばから現在までの少子化対策 少子化対策研究からみた4区分(守泉(2008)) 第1期は1990年から1996年まで 事業の拡充を中心とした少子化対策の必要性を国民に 喚起した時期→問題の定立 1994年「今後の子育て支援のための施策の基本的方向 について」(エンゼルプラン・関係閣僚合意)策定 「緊急保育対策等5か年事業」として1999年を目標年度 とする保育サービスの充実と地域子育て支援センターに 重点を置く施策実施→施設整備 6 第2期は1997年から2001年まで 保育事業の拡充に加え雇用環境や働き方の改善を視 野に入れた時期 1999年「少子化対策推進方針」決定 実施計画「重点的に推進すべき少子化対策の具体的 実施計画について」(新エンゼルプラン)策定(関係閣僚 合意) 保育事業のほか「仕事と家庭の両立」,「子育ての負 担感」の軽減,雇用・教育分野での事業にも実施範囲 を拡大した。 育児休業・再就職支援、性別役割の解消、地域で子育 て支援、学校の週5日制(教育コスト)、ゆとりある住生 活→女性の子育て負担の軽減 7 第3期は2002年から2004年の間 少子化対策関連の法整備の進展 2002年には「少子化対策プラスワン」(総理指示)(新エンゼルプラン+) 「夫婦出生力の低下」という新たな現象を踏まえ、少子化対策推進基本方針 の下で、もう一段の少子化対策を推進 「子育てと仕事の両立支援」に加え、「男性を含めた働き方の見直し」、「地域 における子育て支援」、「社会保障における次世代支援」、「子供の社会性向上 や自立の促進」など4つの柱に沿った対策推進。待機児童ゼロ作戦 2003年に「次世代育成支援対策推進法」制定 地方自治体及び事業主への行動計画作成を義務付け←組織義務 2009年に前期行動計画の見直し,明示的な政策効果測定を目指す。 2003年「少子化社会対策基本法」施行 夫婦の出生力低下への対策 若者の自立、子育て不安・負担軽減、支え合い 2004年「少子化社会対策大綱」が閣議決定 8 同年「少子化社会対策大綱に基づく具体的実施計画」(子ども・子育て応援プラ ン)決定 2005年度から2009年度までの具体的な施策(130項目)の具体的内容と目標設 定 第4期は2005年以降現在 官民で少子化対策に対応する体制が確立されつつある時期 2006年「新しい少子化対策」を策定 新生児・乳幼児期から小中高,大学への各種支援や就労支援, 「国民運動の推進」として家族・地域の絆の再生や社会全体で子ど もや生命を大切にする運動を提言 2007年「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」お よび「仕事と生活の調和推進のための行動指針」の策定 就労による経済的自立可能性,労働時間や有給休暇取得率,多様 な働き方についての2017年までの数値目標を提示 ←労働環境の悪化 2008年「新待機児童ゼロ作戦」(平成20-22年度) 9 10年後の目標値として,保育サービス(3歳未満児)の提供割合を 現行の20%から38%にする等の数値目標を提示している。 子育てにおける経済的分析枠組み (会計検査研究№. 19 1999年 ) 企業行動 人間行動 目 的 利潤最大化 効用最大化 制 約 初期資本および収入 初期保有量および収入 企業は,初期保有の資本(初期投下資本)とその後の企 業活動の収入の範囲内で投資を行い,企業活動を通じ て収益を最大化することを目差す。 人間も,初期保有量(例えば遺産)とその後の労働収入 の範囲内で消費活動を行い,生涯の効用を最大化する。 10 少子化の経済的説明 消費財(子供を育てる楽しみ)と想定した場合の出生率 所得水準と教養娯楽費支出と出生率 出生率=-所得水準上昇(マイナス効果)-教養娯楽費支出 上昇(マイナス効果)+子供保有の効用(プラス効果) →所得上昇によって支出減少=消費財として下級財 教育費とその他財・サービスとの関係 11 出生率=-(教育費上昇率>所得水準上昇率)(マイナス効 果)-(教養娯楽費上昇率<教育費上昇率)(マイナス効果) 少子化の経済的説明2 投資財としての想定 老後の保障 出生率=-女性賃金/男性賃金(マイナス)+子供の資金還元 (プラス効果) 生産財としての想定 労働力 12 農家、生業的産業での労働力としての評価 出生率=-経済の高度化(マイナス効果)-高所得産業への シフト(マイナス効果) 平成4年 国民生活白書 少子化の問題定義 13 H4年 国民生活白書による出生率の計量分析 B=-0.906-0.881×G(-2)-3.629×E+0.218×Y t: (-1.45) (-2.90) (-1.57) (2.17) R2 =0.628 S46年~H2年 B:合計特殊出生率の対前年度変化率(%) G:女性の大学・短大進学率(2期ラグ)の対前年比変化 率(%) E:教育関係費への支出割合の対前年比変化率(%) Y:名目収入/消費者物価指数の対前年比変化率(%) 14 H4年 国民生活白書による 都道府県別出生率の要因 B=1.619-0.005×G+0.005×P-0.11×H+0.359×D t:(7.63) (-2.50) (2.10) (-4.25) (4.26) R=0.751 B:合計特殊出生率(H2年 47都道府県) G:20~34歳女性の高学歴者比率 P:25~34歳の男/女比率 H:民営家賃/地域物価指数 D :沖縄ダミー 当時の鳥取県、島根県の合計特殊出生率は推計値を大 幅に上回る。 15 合計特殊出生率の決定要因(人口規模でサンプルを区分) 所得 女性賃金 地価 通学 保育所制約 決定係数 10万人以上 対数不使用 対数使用 -0.2458 -0.2847 (-4.28)** (-4.14)** 0.1823 0.1411 -1.68 -1.14 -0.1544 -0.1364 (-9.83)** (-7.87)** -0.4808 -0.4218 (-2.70)** (-2.17)* -0.9164 -0.7527 (-3.81)** (-2.91)** 0.2227 0.2155 10万人未満 全国(再掲) 対数不使用対数使用 対数不使用 対数使用 -0.0924 -0.0991 -0.1191 -0.1366 (-5.24)** (-6.48)** (-11.49)** (-8.34)** -0.3771 -0.463 -0.0866 -0.2652 (-12.14)** (-12.91)** (-3.18)** (-7.67)** -0.0176 -0.0314 -0.0275 -0.0602 (-14.20)** (-8.64)** (-25.40)** (-15.40)** -0.3511 -0.3844 -0.4755 -0.5297 (-9.08)** (-9.20)** (-12.23)** (-11.33)** -0.1202 -0.1228 -0.2385 -0.182 (-5.24)** (-4.60)** (-8.98)** (-4.92)** 0.3237 0.3023 0.4615 0.4144 会計検査研究№ 38、阿部、原田 「子育て支 援策の出生率に与える影響」2008年 16 出生率の動向に関する研究のサーベイ 内閣府ESRI Research Note No.17.2011年 育児休業制度と出生率との関係 育児休業制度が女性の出産に及ぼす影響に関する研究成 果をみると、10 年ほど前の一部の研究で有意な結果が得ら れなかったものがあるが、それ以降の研究については、育児 休業制度は、出産を促進するという結論が得られている。 保育サービスと出生率との関係 17 保育サービスが女性の出産に及ぼす影響に関する研究成果 をみると、都道府県別の時系列データを使った分析において、 保育サービスと出生率との間に有意な関係がみられないとい う結果が出ているが、それ以外のパネルデータやクロスセク ションデータを使った多くの分析では、保育サービスの充実が、 出生率に対してプラスの効果を与えるという結論が得られて いる。 出生率の動向に関する研究のサーベイ(続き) 経済的支援と出生率との関係 子育て費用が女性の出産に及ぼす影響に関する研究成果をみると、 子育て費用の高まりは、子ども数を減少させるという結果になっている。 また、児童手当等経済的支援と出生率との関係に関する研究成果で は、多くの研究で、児童手当等の経済的支援は、出生率に対してプラ スの影響を与えるが、その効果は大きくないという結論になっている。 夫の家事・育児参加と出生率との関係 18 夫の労働時間・通勤時間と出生率との関係に関する研究成果をみると、 労働時間との関係では有意な関係がみられないが、通勤時間が長い と出生率を引き下げるという結果が多くなっている。 また、夫の家事・育児参加と出生率との関係に関する研究成果をみる と、おおむね夫が家事・育児に積極的に参加すると出生率を引き上げ るという結論が多くなっている。 なお、夫の労働時間・通勤時間と家事・育児参加との関係については、 一部に関係がないという結果もあるが、ほとんどの研究が、夫の労働 時間を短縮することが夫の家事・参加を促進するとしている。 19 20 21 22 内閣府経済社会総合研究所 「少子化の動向と出生率に関する研究サーベイ」 国別・地域別の差の存在 広義の制度差異 政策支援(財政規模)による影響が大きい 低い財政支援と高い出生率 米国 スエーデン 財政の支援の規模と継続による影響、フランス、イギリス 財政支援が相対的に少なく出生率が低水準 ドイツ、イタリア、日本 移民の増加、多民族国家の影響 民族による出生率差 ヒスパニック >アジア系>黒人>白人→合計の特殊出生率への影響は少ないとの 研究 高所得、高女性学歴に対しては出生はマイナス効果 低学歴(高校中退)、若年層、低所得層での高い出生率→社会的な要 因による高出生率 ← 一人親世帯・貧困層の多さ 高所得者ほど政府の子育て支援に反対 政府の支援 welfare to work 米国文化 小さな政府への指向、 宗教的影響 国による家族文化、社会環境の差による影響 23 家族観の差 婚外子、若年妊娠、離婚 子育ての制約 経済的・精神的負担 都道府県別合計特殊出生率 H24年 2.00 1.90 1.80 1.70 1.60 1.50 1.40 1.30 1.20 1.10 1.00 B=1.970-0.00019×一人当たり県民所得 t: (14.882) (-3.885) R:0.501 F:0.0003 全北青岩宮秋山福茨栃群埼千東神新富石福山長岐静愛三滋京大兵奈和鳥島岡広山徳香愛高福佐長熊大宮鹿沖 国海森手城田形島城木馬玉葉京奈潟山川井梨野阜岡知重賀都阪庫良歌取根山島口島川媛知岡賀崎本分崎児縄 道 川 山 島 合計特殊出生率 標準偏差 H24 4.000 3.203 3.000 2.000 0.798 1.000 0.000 -1.000 全北青岩宮秋山福茨栃群埼千東神新富石福山長岐静愛三滋京大兵奈和鳥島岡広山徳香愛高福佐長熊大宮鹿沖 国海森手城田形島城木馬玉葉京奈潟山川井梨野阜岡知重賀都阪庫良歌取根山島口島川媛知岡賀崎本分崎児縄 道 川 山 島 -2.000 -3.000 24 -2.699 県内市町村の出生率 (年齢構成による回帰) 3.000 2.500 2.000 県内市町村合計特殊出生率標準偏差 (H24-H20平均) AV:1.518 SD:0.285 1.500 1.000 0.500 0.000 -0.500 -1.000 -1.500 -2.000 25 鳥米倉境岩若智八三湯琴北日大南伯日日江 取子吉港美桜頭頭朝梨浦栄吉山部耆南野府 市市市市町町町町町浜町町津町町町町町町 町 村 2.8 鳥取県市町村の出生率と市町村民支出 2.6 2.4 2.2 B=0.919+0.264×市町村民総支出 t: (2.829) (2.140) R:0.461,F:0.0472 2 1.8 1.6 1.4 1.2 1 26 実績 推計 鳥米倉境岩若智八三湯琴北日大南伯日日江 取子吉港美桜頭頭朝梨浦栄吉山部耆南野府 市市市市町町町町町浜町町津町町町町町町 町 村 地域の特性 所得水準の効果 地域による社会構造 都道府県別・所得水準はマイナス効果 県内市町村別比較所得水準はプラス効果 地域によって子供の効用が異なる可能性 若年での婚姻←出生可能期間←地域文化 家族による子育て支援←保育所制約←住宅の距離 有業主婦の多さ 27 社会的受容体制の進展 地域の子育てにおける課題 県内基礎自治体での20、30歳代女性の子育て支援策の評価 満足 10%、対策強化70%(アンケート調査) →何が不満なのかは不明。転出意向との関係が強い 30歳代、子育て・雇用政策への要望と居住意向との関係が強い 子供を育てつつ生活していくための環境 経済費用、保育所、その他支援制度の以外の生活ニーズ 子育て世代の住宅支援 宅配・ネットスーパーの利用者 子育て層が中心←買い物困難の主体 日常生活での支援→血の通った対策(制度を作れば利用できるか?) 地域で支える意味 制度の肉付け 28 企業による生活サービス支援 有業・子育て主婦の社会的配慮の浸透 家族社会学からの視点 現代に子育て政策の社会的位置 家族社会学からの問題提起 「家庭における子育てを支援する社会システムの構築」 →エンゼルプラン(1994年、「今後の子育て支援のための政策の基本 方向について」) 子育て私事論からの転換との関係 子育ての社会化:家族に帰属していた子育ての責任が広範な社会へ 外部化・共同化→子育ての社会化 支援論理と抑制論理の併存 家族制度の歴史 家族の役割主体 子育て支援現場の意識 社会化ではなく外注化 近代家族的核家族モデル→子育ての社会化→近代社会原理の転換 現代家族モデル 公的領域と私的領域の再編 家族と社会の関係 子育てにおける社会の役割 29 子育て支援における子供の利益の最大限の尊重
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