健康かごしま21

看護職員等が知っておきたい
うつ・うつ病に関する基礎知
識
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鹿児島県川薩保健所
資料活用自由
Copyright Free
1
最近うつ・うつ病関係の報道や書籍
を多く見かけるようになりましたが,
なぜですか?
ストレスからうつ病になる人が
多くなってきていますし,
自殺者も過去に例を見ないくらいの
数になっていることも見逃せません。
2
これまでの3回の危機時でも最も高い山
35000
30000
25000
20000
(人)
15000
10000
5000
0
1950
1958
1986
1998
2001
厚生労働省:人口動態統計
3
鹿児島県内の自殺者の推移
人
600
500
400
300
200
100
0
142
112
119
120
116
107
66
86
53
99
54
89
63
84
97
107
109
117
107
95
85
99
96
83
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
62
40才代
50才代
60才代
70才代
その他
4
各種疾患等による死亡数の比較
(鹿児島県)
交通事故
白血病
自殺
男性
大腸癌
肝臓癌
女性
胃癌
0
(H10年-H14年)
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
人
5
県内の自殺者の状況は
どうなっているのでしょう
か?
自殺(男性)標準化死亡比
男性
100未満
100~125未満
125~150未満
150~200未満
200以上
基準人口:H12年国勢調査
自殺数:H10~H14総数
自殺(女性)標準化死亡比
女性
100未満
100~125未満
125~150未満
150~200未満
200以上
赤:全国2倍以上
青:全国水準並み
6
自殺の背景にあるうつへの対応
32,109人(平成15年)
精神疾患全体で
95%
気分障害(うつ病等) 30.2%
男性(5~12%)女性(10~25%)
気分障害(うつ病等) 17.6 %
統合失調症
14.1%
パーソナリティ障害
13.1%
出典:行政担当者のための自殺予防対策マニュアル
H16年4月(P106)
世界保健機関
※
自殺者
自「
殺自自
予殺殺
防予予
有防
識に防
者向対
懇け策
談ての
会のた
報提め
告言う
」つ
平 対
成 策
14 が
年 重
12
月 要
7
そうは言っても,うつとか自殺という
のは私には関係ないように思えるの
ですが・・・
うつにかかっている人は決
して少なくありません。
人間の自然な反応ですし、
誰でもかかる病気です
8
病気と単なる落ち込みとはどう区別
するのですか?
はっきりと区別はできません。
熱や痛みのようなものだと
思ってください。
9
うつ病は誰でもかかりうるもの
です
伊集院保健所管内成人人口約93,000人
自殺者
(年平均32人:平成8~12
年)
×
「自分が死んだ方が他の人が楽に暮らせ
る」
1,100~3,100人
(2.4±1.2%)
自殺予備軍
中等度のうつ傾向 8,500~13,000
うつ・うつ病
人
(11.6±2.5%)
軽度のうつ傾向 34.5~41.9千
ストレス
人
(41.1±4.0%)
健康状態
無作為抽出(成人)の1,130人対象
回収数922人(81.6%)平成13年
10
うつ病の症状を教えてください
1)憂うつな気分
かなしい
涙が出る
いらいらする
2)興味・喜びの喪失
何をやっても楽しくない
興味がわかない
11
うつ病の症状はほかにもありますか?
●食欲の変化、体重の変化
●睡眠の障害(例:午前3時症候群)
●体が動きにくい、落ち着かない
●疲労感・気力がわかない
●頭が回らない
思考力・集中力・判断力・記憶力の低下
●自分を責める(無価値感・罪責感)
●死について繰り返し考える
12
症状がそろえば、うつ病と診断される
のですか?
症状の重さ:辛い、できない
持続期間:2週間以上
13
急に不安になったり、細かいことが気
になったりするのもうつ病ですか?
●これは「不安障害」という
別の精神疾患です。
●うつ病と合併することもよくあります。
14
うつ病は気づき(かれ)にくいも
のです

うつ・うつ病にかかったことのある住民の割合は



Nagasaki
そのうち医療機関で治療を受けていた住民は


うつ病では15人に一人の割合
いずれかの不安障害では10人に一人の割合
Iwate
わずか1/4だけ
Kagoshima
→ 理由




自分で何とかしたかった
ひとりでに改善すると思っていた
どこに行けばいいかわからなかった
治療が効果があるとは思わなかった
3/4
2/3
1/3
1/5
Okayama
Japan
NIMH
「世界精神保健(WMH)の日本調査結果」
2002年,岡山県、長崎県、鹿児島県の2政令市、1市、1町のCIDI
による面接調査結果。N=1,664。
15
こころの健康問題で専門家を
受診したがらない地域の現状
合計(n=461)
専門家を
診する
男性(n=182)
絶対・おそら
受診する
300 (65.1%) 111 (61.0%)
絶対・おそら
受診しない
154 (32.4%)
68 (37.4%)
女性(n=279)
189
86 (30.8%)
受診が友
とても・いく 206 (44.6%) 81 (44.5%)
125
人に知れ
恥ずかしい
ら恥ずか
あまり・全く 250 (54.2%) 99 (54.4%)
151
い
ずかしくない
WMH(WHO World Mental Health)「心の健康疫学調査」平成14
年度調査
岡山市、吹上町、串木野市、長崎市
n=1664
16
なかなか精神科を受診しない主な理
由
理 由
受診の遅れ
の理由
(n=29)
全体(n=461)
自力で対処したかった
22 (76%)
ひとりでに改善するだろうと思った
18 (62%)
それほど困らなかった
14 (48%)
どこに行けば良いかわからなかった
10 (34%)
交通、時間等の都合がつかない
8 (28%)
他人がどう思うか心配だった
7 (24%)
治療が効果があるとは思わなかった
6 (21%)
WMH(WHO World Mental Health)「心の健康疫学調査」平成14
年度調査
岡山市、吹上町、串木野市、長崎市
n=1664
17
うつ病は気づかれにくい理由?



気持ちの問題:「情けない」
身体愁訴(仮面うつ病):「体が悪
い・・・」
行動障害:「性格が悪くなった」
18
身体的症状が表に出てうつ状態に気づき
にくい場合もあります (仮面うつ病)
•痛みや倦怠感
・重く締め付けられるような頭痛
・肩こり
・からだの節々の痛み
•消化器症状
・食欲不振や胃の痛み
・下痢や便秘
•循環器症状
・頻脈・徐脈
・血圧上昇
•内分泌系
・ほてり、性機能低下
・発汗・息苦しさ
19
身体疾患に及ぼすうつ病の影響
患者さんの基礎疾患に対する治療意欲を低下し
ます。
基礎疾患の病態を悪化させます。
基礎疾患を遷延化させます。
基礎疾患の再発率が高くなります。
20
身体疾患患者のうつ病有病率
身体疾患
がん
慢性疲労症候群
慢性疼痛
冠動脈疾患
クッシング症候群
痴呆
糖尿病
てんかん
血液透析
HIV感染
ハンチントン舞踏病
甲状腺機能亢進症
多発性硬化症
パーキンソン病
脳卒中
有病率(%)
20~38
17~46
21~32
16~19
67
11~40
24
55
6.5
30
41
31
6~57
28~51
27
21
Wise MG et al.:American Psychiatric Prex, Washington, DC, 2002
うつ病の身体症状
症状
睡眠障害
出現率(%)
82~100
疲労・倦怠感
54~92
食欲不振
53~94
頭痛・頭重感
48~89
性欲減退
61~78
便秘・下痢
42~76
体重減少
58~74
22
川上富美郎:Clin Neurosci 15(9):1020, 1997より改変
うつ病にみられる症状
患者さんは、自分の症状をうまく伝えられません。
は患者自ら訴えた%
うつ病の主要な症状
26%
睡眠障害
身
体
症
状
精
神
症
状
は医師が聞き出した%
94%
58%
疲労感・倦怠感
首・肩のコリ
22%
頭重・頭痛
23%
意欲・興味の減退
4%
仕事能力の低下
3%
抑うつ気分
3%
84%
66%
91%
85%
70%
不安・取り越し苦労 3%
0
89%
58%
20
40
60
80
100 %
23
プライマリケアのためのうつ病診断Q&A, 北原出版, 1997
それでは,うつに対して私たちはどう
考え,どうしたら良いのでしょうか?
1.自分自身の気のもちかたを工夫する
2.周りの人たちの適切な支え
3.治療の上手な活用
の3つの柱が中心になります。
24
とても重要な人間関係
出典:「うつ病の対人関係療法」
(岩崎学術出版社)
25
周囲の支えがない場合の不幸な悪循
環
● 強いストレッサー
→ 気持ちが沈み込む
→ 無視して症状を隠そうとする
(そんなはずはない、恥ずかしい、迷惑かけ
る・・・)
→ 周囲の否定的反応
(たるんでいる、根性がない、自分勝手・・・)
→ やっぱりだめだ。自分にはその能力が無い。情けな
い
→ 無視をして症状を隠そうとする
(恥ずかしい、悪い・・・)
→ 周囲の否定的反応
(たるんでいる、根性がない、自分勝手・・・)
→ もう止めよう。死んじゃおう。
26
周囲の気づきのポイント
いつもとは違う




仕事上の問題:ミス、能率の低下など
勤務態度の問題:ポカ休、頻回の休み、遅刻、な
ど
対人関係の問題:孤立、口数の減少、いらだち、
など
原因不明の体調不良:頭痛、腰痛、下痢・便秘、
など
27
家族への助言
1)「何とかしてあげたい」「何とかならないのか」
→励まさない、患者のペース(主観的体験)を大切
に
2)「気のせいじゃないか」「遺伝は・・・」
→誤解を解く
気のせいではない、遺伝病ではない
3)「変なことを言うと傷つけるんじゃないか」
→必要以上に気を遣いすぎない→いつも通りに
4)「早く楽にしてあげたい」
→結論を急がず、問題解決の方向で話し合う
5)「薬に頼るなんて・・・」
→薬を上手に利用するように
28
患者への声かけ

高知県中村市の内科医、小笠原望さんは、うつ病の
治療を始めるときに次のようなことを本人に話され
るそうです。皆さんも日常の活動のなかで工夫して
みてください。
 肩の力を抜いて、そんなに頑張らない。
 理屈の世界から、少しいい加減な心に。
 人に頼ろう、人に頼もう。
 無駄遣いをせず、エネルギーを貯めよう。
 食べて、寝て、できるだけさぼろう。
 自分のしてきたことを認めよう。
 どんなに辛くても舞台は回る。
(厚生労働省:うつ対応マニュアル-保健医療従事者のために-)
29
そう言われると、
どのように接したらいいか迷ってしま
います。
普通に接してください。
話をゆっくり聴くことが大切です。
あまり
はげまさないようにしましょう。
30
話を聞く上での留意点

プライバシーに注意しながら、余裕を
持って話を聞く


自分自身に余裕のある時に
落ちついた雰囲気で


結論を急がない



酒の場ではなく
まず聞いてあげるだけで良いことも多い。
原因追及にこだわらない。
自分一人では抱え込まない。
31
酒でも飲んで気を晴らした方が良いと
友達から言われました。
アルコールはかえって
うつをひどくします。
睡眠を浅くします
依存の危険があります
糖尿病などの他の身体疾患へつながります
事故の危険性が高くなります
健忘などの脳障害がおきることさえあります
32
精神科ではどのような治療をされる
のでしょうか?
1)環境調整:ストレスを減らす
2)体に働きかける:薬の治療
3)気持を整理する:カウンセリング
33
専門医を受診した方が良いのですか?
最初は専門医にこだわることは
ありません。
かかりつけの医師など、
相談しやすい人に相談してください。
34
精神科の薬を飲むと
人間が変わってしまうのではないか
と心配なのですが・・・
精神科の薬は、脳の神経の働きを調
整するだけですから、あまり心配あり
ません。薬の副作用はありますが、飲
まないことの方がもっと心配です。
35
うつ病のシステム
(うつ病は,遺伝病ではあ
りません!
うつ病のときには,心のバ
ランスをつかさどるために
重要な働きをしている神
経・神経伝達化学物質(セ
ロトニン)等の伝達が不十
分になっています。
↓
伝達物質の流れを助ける
図のみ引用出典:UTU-NET(うつネット) (薬,休養,環境調整な
ど)

http://www.utu-net.com
36
薬物療法 3
薬剤により特徴も異なります
《うつ病治療に用いる薬剤》
SSRI
SNRI
フルボキサミン
パロキセチン
(デプロメール、
ルボックス)
(パキシル)
不安や焦燥の強い
うつ状態に効果
主な副作用
まれに不眠
→朝食後の1回投与
嘔気、嘔吐
うつ以外の適応
強迫性障害

主な副作用
嘔気、嘔吐
→制吐剤を併用
ミルナシプラン
スルピリド
(ドグマチール)
(トレドミン)
セロトニンおよびノル
アドレナリンの再取
り込みを阻害
意欲低下が著しい
うつ病に対する効果
軽症うつ病
ドーパミン(D2)受容体
阻害作用(高用量は統
合失調症に使用)
世界的に最も使用
食欲低下が強い抑うつ
状態に効果
うつ以外の適応
パニック障害
長期投与でアカシジア、
錐体外路系副作用
37
中村 純:
薬は、辛いときだけ飲むので良いで
しょうか?
きちんと飲み続けてください
良くなってからも「予防的に」
半年から1年は飲んでください
医師の指示を守りましょう
38
うつ病は治る病気です
完全に症状がなくなる 2/3
 ただし、再発率が高い
↓
服薬継続の必要性(=高血圧、高脂血症)

39
お薬に対する誤解を解きましょ
う
“薬に頼るな”の危険
1)副作用に対する恐怖感
依存:ナレ・クセ・ボケ
2)精神論
「心の病気にかかってしまった」
「薬に頼らないといけなくなって情け
ない」
3)心の悩みに薬は効くか
「心の病気」
→「脳の病気のために心で悩んでい
る」
40
うつ病の治療経過
出典:UTU-NET(うつネット)http://www.utu-
net.com
うつ病は直線的に改善するわけではなく、「よくなったり、悪くなったり」を繰り返しながら、徐々によく
なっていく病気です。あせらず、気長に治療に取り組むことも大切です。
41
生涯にわたる薬物療法が必要な場合
1)うつ病エピソードが3回以上
2)うつ病エピソードが2回で
a)家族歴
双極性障害
反復性大うつ病性障害
c)20歳以前の発病
d) 1年以内の再発
効果のあった薬物療法の中止後
e)過去3年以内の重篤な抑うつエピソード
(NIMH/NIH Consensus Development Conference Statement. Am J Psychiatry 1985)
参考資料:慶應義塾大学大野裕教授
42
副作用の心配はないのでしょうか?
心配な副作用はあまりありません
心配なときには医師に相談してください
43
服薬を継続できない理由
1)うつ病に特徴的な症状が継続を妨げます
方)
(無力感、悲観的な考え
2)薬物療法の効果がすぐにはあらわれない場
合もあります
3)薬物の副作用もあります



嘔気、下痢
口渇、動悸、便秘、排尿困難、目のかすみ、記憶の障害、眠気
眠気、倦怠感、体重増加、めまい、起立性低血圧、イライラ
4)精神疾患に対する偏見もあります
5)患者の性格の問題と思われがちです
(WPA/WHO Educational Program on Depressive Disorder)
44
向精神薬を服用するときの注意
1)効果と副作用について理解する;口渇、便秘、
排尿困難、胃腸症状
2)効果が出るまでには時間がかかる
3)必要なときにはしっかりと服用する
中途半端な服用ではかえって慢性化する
症状が良くなったからといって薬をやめ
ない
高血圧の治療と同じように考える
うつ病は再発しやすいが、服用を続けて
いると
再発率は大きく減少する
45
よくなったというのはどのように判断
するのでしょう?
気持が楽になるというのが
一番大事です。
46
危険な予兆



うつ病の症状
酒量の増加
身なりの変化


事故(転倒、墜落、交通事故)の多発、
価値あるものの喪失


朝方の身なりが整っていない
安全や健康に関する行動の変化


身体症状、表情、口数
家族の死亡、転居、退職
自殺や死を口にする
47
様子が変だと感じたら




お近くの保健センター保健師へ相談しましょう
言いにくければ保健所への相談も考慮しましょ
う
専門家(=精神科)への受診をすすめましょう
いのちの電話もあります 099-250-7000
48
精神科に行くことを勧めにくいのですが、
どのように話せばいいのでしょう?
薬の相談など、相談することを
具体的に挙げてお話してみてください。
49
精神科医への紹介にあたって重要なこと
●患者が見捨てられたという感覚を持たないように注意
●問題を具体的に取り上げながら、
その問題を専門家に相談してみることを勧める
●問題が解決した後に患者の希望がある場合には、
再度治療を引き受けることを伝える
●それでも患者が精神科受診を頑なに拒否するなら、
病状を家族に説明して受診を説得してもらうことも考える
50
自殺者の減少やうつ対策は個人の
力だけでは改善しません!
地域全体の力!
51