2009年度日本語教育学会秋季大会 [パネルセッション]

第6回 名古屋大学ホームカミングデイ・国際言語文化研究科
学術講演会
[日本語教育研究のフロンティア]
講演3(Part 1)
中国人日本語学習者の誤用に関する一考察
名古屋大学 杉村 泰
1.学習者中間言語コーパス
学習者中間言語コーパス
科学研究費補助金(基盤研究(C))(課題番号19520451)
「中国語話者のための日本語教育文法の開発と学習者中間コーパスの構築」
(研究代表者:杉村泰、研究分担者:張麟声)
1.魯東大学会話コーパス
・魯東大学の日本人教師1人と中国人学生延べ405人との会話
・収集データ: 2006年6-7月(1年生59人、2年生28人、3年生20人、4年生27人)
2007年6-7月(1年生30人、2年生55人、3年生26人)
2007年12月(2年生56人、3年生50人、4年生54人)
2.華東政法大学作文コーパス
・2年生の作文
・テーマ:「夏休みの思い出」、「クラスメート」、「アルバイト」、「英語を大学の必修に
すべきか」、「心を打たれたこと」、「親子とろば」など
・収集データ: 2006年1学期(2年生20人)
2007年1学期(2年生21人)
魯東会話コーパスの特徴
① 中国国内の現役日本語学習者が対象
② 学習環境がほぼそろっている
③ インタビュアーが1人に固定されている
④ 被験者数が延べ405人と多い
⑤ 日本語レベルはそろえていない
会話例
Teacher: では、もうそろそろ一年生も終わりですが、あなたの学生生活は
どうですか。
Student: 面白いです。大学は暇なとき 〈はい〉 沢山あります。〈はい〉 私は
いつも図書館へ行きます。〈うん〉 図書館は本や雑誌や、雑誌など、雑誌
などがたくさんあります。〈はい〉 それで私いつも行きます。
T: そうですか。〈はい〉 はい、では、今度の夏休みはふるさとに帰るつもりで
すか。
S: はい、〈はい〉 私はふるさとは懐かしい、とても懐かしいです。〈そうです
ね〉 私のふるさとは遠いです。〈はい〉 それで、とても懐かしい。〈そうです
ね〉 この夏休みは、〈はい〉 私は、私は山、山をのぼ、登ります。〈そうで
すか〉 登るつもりです。〈はい〉 友達、友達、友達に会い、会います。
0684Ⅰ070629(03:36)
○ 学習者の自己訂正過程が見える
(1) 寮へかえ、かえ、帰る後で、帰った後で、友達と質問をしま
す。(2年)
(2) えー、多くの、たくさんの友達が今、家で、家に帰りました。
(3年)
(3) お腹がすきです、すいています。(3年)
(4) お皿を洗いま、洗うことが、したことがあります。(2年)
○ 誤用の産出過程が見える
(1) 新聞を相談します(→読みます)。冗談をします(→言いま
す)。食べるします(→食べます)。(1年)
(2) 昨日の天気はどうですか。〈うーん〉忘れしました(→忘れま
した)。 (2年)
(3) 先生は今年は夏休みはかえ、帰国しですか。 (→帰国しま
すか)(2年)
2.自他動詞の誤用
自他動詞の誤用
会話データ
(1) 先生がゆたゆたした歩い方を見ると、いつも感動されました
(→感動しました)。(2年)
(2) 私は、もう、多分、自分の夢、自分の夢は実現する時に、
んー、頑張って続いて(→続けて)います。(2年)
(3) ほかの町に生んで、生んだ、生んだ、生んだ(→生まれた)
学生と私の“普通话”はあのう良くないです。(2年)
自他動詞の誤用
(4) 最初の頃は、まずは研究室で研究して、あのう、あんまり口
が開けなかった(→開かなかった)んですけど、(3年)
(5) もし、大連で、仕事が、見つけなかったら(→見つからなかっ
たら)、煙台、煙台で仕事をしたい。(3年)
(6) (泥棒に財布を盗られて)彼は、20、20元だけ残しました(→
残っていました)。(3年)
→自動詞を使ったほうがいいときに他動詞を使ってしまう。
「感動する」の誤用
作文データ
① 外はずいぶん寒くて、父は私にのんで寒い風の中を歩いで
いる姿を見ると、とても感動された。(→感動した)
② この返事こそ私を感動させた。 (→私は感動した)
③ 感動瞬間を覚えて、自分も他人を感動させることをもっとす
ると、世界はとても思う。
④ それだけでなくリーダのテツさんもがんばり屋で、バンドのこ
とをいつも命にしていて、本当に感動させられる。
「感動する」の誤用
⑤ 彼女の勇気と品質に非常に感動させられる。 (→感動した)
⑥ 彼女はとても薄着して、疲れる顔を見られだ。私は昨夜のこ
とを思い出して、とても感動られて(→感動して)、泣くなった
ところだ。
⑦ このドラマは悲劇ですが、ほんとに感動されました。 (→感
動しました)
⑧ このプレゼントには深い感情を含めて、このことを思い出す
と、思わず感動させた。 (→感動した)
→「感動する」が自然な場合に受身や使役が出現する。
*他動詞→自動詞
自動詞形の方が自然な場合に他動詞形を使う
① 今では、コンピューターの画面でマウスを移動すると、家を
出なくても、世界中のいろいろな情報を手に入れる(→情報
が手に入る)。
② しかし、この本を読んだあと、大きな変化を起こしました(→
大きな変化が起こりました)。
③ 休みや食事の時間まで利用して理科の本を読んでやっと成
績がぐんと上げた(→成績が上がった)。
④ 家庭経済の負担を減軽される(→負担が軽減する)と思って
います。
3.格助詞の誤用
格助詞の誤用
● 「に」→「を」→「が」
学習者は「に」を使うべきときに「を」を使い、「を」を使うべきとき
に「が」を使う誤用が多い。
●*が→を(23例)
(1) 毎日勉強します。映画が(→を)見ます。(1年)
(2) 高校のとき、いろいろな科目が(→を)習います。(1年)
*が→を(23例)
(3) 私は今年は日本語が(→を)勉強します。(1年)
(4) 土川先生は、犬の肉が(→を)食べませんでした。(2年)
(5) 二組の、学生は、ある人が携帯電話が(→を)、あー落とし
ました。例えば、○○さん、○○さん、あの二人の人は携帯
電話を落としました。(3年)
(6) 彼はバスでの、乗った時、財布が(→を)泥棒に、泥棒に盗
られました。(3年)
*が→に(7例)
(1) いろいろ友達が(→に)会いました。(1年)
(2) 一級テストが(→に)合格したいです。(2年)
(3) 残念ながら、一級テストが(→に)合格しなかったです。(3
年)
(4) 彼いつもいろいろ間違ったことが(→に)気が付きました。(2
年)
なぜ「が」が使われるのか?
学習者は「Nが」と言ってから適当な述語を探す。
つまり、「~は ~が ~だ/する」構文を基礎にして、
「Nについて言えば、Vである」と言ってしまうのではないか。
(1) (私は)映画が … 見ます。
(2) (私は)いろいろ友達が … 会いました。
○ 格助詞「が」の過剰使用1
大学に入って寮生活を始めました。それに、いろいろ友達が(→
に)会いました。いろいろ仲よい友達ができました。それは、私
はとてもうれしいです。それに、それに、井上先生に会えて、と
ても幸いです。私は日本語が大好きです。高校のとき、いろい
ろな科目が(→を)習います。大学に(→で)主な科目が(→を)
習いますので、自分はとてもうれしいです。(1年)
○ 格助詞「が」の過剰使用1
大学に入って寮生活を始めました。それに、いろいろ友達が(→
に)会いました。いろいろ仲よい友達ができました。それは、私
はとてもうれしいです。それに、それに、井上先生に会えて、と
ても幸いです。私は日本語が大好きです。高校のとき、いろい
ろな科目が(→を)習います。大学に(→で)主な科目が(→を)
習いますので、自分はとてもうれしいです。(1年)
○ 格助詞「が」の過剰使用1
大学に入って寮生活を始めました。それに、いろいろ友達が(→
に)会いました。いろいろ仲よい友達ができました。それは、私
はとてもうれしいです。それに、それに、井上先生に会えて、と
ても幸いです。私は日本語が大好きです。高校のとき、いろい
ろな科目が(→を)習います。大学に(→で)主な科目が(→を)
習いますので、自分はとてもうれしいです。(1年)
○ 格助詞「が」の過剰使用2
日本語が(→を)初め、初め、初めて勉強します、日本語が難し
いと思います。そうです。先生が、でも、先生が親切です。生活、
生活が新しいです。私は初めて一人で寮に住んでいます。はい、
でも、私のうちは近います。私のふるさとは?です。でも懐かし
いがありますね。それから、私は、それから、私はがんばれ。大
学生にとって、たくさんものを勉強します。私、私は、今年は、今
年は日本語が(→を)勉強します。バスケットボールが(→を)勉
強します。コンピュータが(→を)二回、二回、二回のテストが
(→を)受けます。(1年)
○ 格助詞「が」の過剰使用2
日本語が(→を)初め、初め、初めて勉強します、日本語が難し
いと思います。そうです。先生が、でも、先生が親切です。生活、
生活が新しいです。私は初めて一人で寮に住んでいます。はい、
でも、私のうちは近います。私のふるさとは?です。でも懐かし
いがありますね。それから、私は、それから、私はがんばれ。大
学生にとって、たくさんものを勉強します。私、私は、今年は、今
年は日本語が(→を)勉強します。バスケットボールが(→を)勉
強します。コンピュータが(→を)二回、二回、二回のテストが
(→を)受けます。(1年)
*を→が(6例)
中国語からのマイナスの転移
(1) 雪を、雪を(→が)降ったとき、(“下雪”)(1年)
(2) 友達を、友達を(→が)できます(“交朋友”)(1年)
(3) いろいろの問題を(→が)ありました。(“有很多问题”)(2
年)
(4) 私は歴史、歴史を(→が)好きです。(“喜欢历史”)(2年)
(5) 「だから、お金を(→が)ほしい」(“要钱”)(3年)
*を→に(19例)
中国語からのマイナスの転移
(1) 両親を(→に)、両親に会って、(“见父母”)(2年)
(2) 黄山を(→に)登るつもりです。(“打算登黄山”)(2年)
(3) 大学の外国語、外国語大学を(→に)行きたいです。(“想上
外国语大学”)(1年)
(4) んー、船を(→に)乗ります。(“坐船”)(2年)
(5) 私は日本の会社を入、日本、日本の会社を(→に)入社した。
(“进日本公司”)(1年)
*に→を(2例)
(1) 私の目標は、例え、私の日本語の勉強に(→を)一生懸命に
します。(“努力学习日语”) (1年)
(2) 母に(→を)てつだ、手伝い、て、手伝います。(“帮妈妈的
忙”)(2年)
○ 「私は~が~だ/する」の過剰使用
① 私の大、大学生活楽しい、楽しくだ、楽しくだと思います。(1
年)
② 難しい、難しいじゃないと思います。(1年)
③ でも、その会社はあまりよくないだと思います。(4年)
④ 毎日勉強します。〈うん〉 映画が見ます。(1年)
⑤ んー私は、んー韓国語が勉強している。(2年)
対象ガ+他動詞(なぜ生じる?)
(1) 最初の頃は、あんまり口が開けなかった(→開かなかった)
(2) 大連で仕事が見つけなかったら(→見つからなかったら)、
煙台で仕事をしたい。
(3) (財布を盗られて)彼は20元だけ残しました(→残りました)。
(4) (私は)映画が … 見ます。
(5) (私は)いろいろ友達が … 会いました。
⇒ 「私は+対象ガ+他動詞」構文をとる点で共通している。
⇒Part 2 稲垣俊史先生に続く
第6回 名古屋大学ホームカミングデイ・国際言語文化研究科学術講演会
[日本語教育研究のフロンティア]
講演3「中国人日本語学習者の誤用に関する一考察」
日時:2010年10月6日(土)
場所:名古屋大学
名古屋大学 杉村 泰