リーク化する社会 植田純司 論点 リークについて • 国家機密を出すのか出さないのか • 出すとすればどの程度出せばよいのか • 報道の自由と人命の危機の兼ね合いは? ジャーナリズムの変革 • ウィキリークスはジャーナリズムの一つか • ウィキリークスに対する海外および日本のメディアの対応は適切か? • リークサイトや新しいメディアの登場による既存メディアの役割の変化は? 発表の流れ 事例 • 概要、アフガニスタン機密文書、イラン機密文書、外交公電 特徴 • 内部告発の在り方を変化 • 無国籍でウェブ上のニュース機関 批判 • リークについて • ジャーナリズム的視点から • 既存メディアによる内部告発部門新設 未来のメ • 新聞と新しいメディアとの共存関係 ディア 法制度 • 告発者に対する法制度 • 報道機関に対する法制度 ウィキリークス概要・事例 ウィキリークス概要 ・ オーストラリア出身のジュリアン・アサンジが中心となって2006年 に設立、2010年のイラクにおける米軍誤射映像で有名に ・ 活動方針: 「あらゆる地域の政府、企業の非倫理的な行為を暴こ うと望むすべての人々の役に立ちたい」 ・ 情報の「ハブ」として活動、「科学的ジャーナリズム」としての立場 ・ 人権保護団体からの評価は高い一方、機密情報の 公開を巡っては評価が二分 • アサンジは現在、性的暴行の容疑で英国で軟禁状態 事例1:アフガニスタン戦争機密資料公開事件 • 2010年7月25日、「Afghan War Dairy] と題した約7万7000件の 文書を公開 • パキスタンの三軍統合情報部が裏でタリバンとつながっていること を示す文書 • 公開に先立ち、英紙「ガーディアン」、米紙「ニューヨークタイム ズ」、独週刊誌「シュピーゲル」に文書を公開し、事実の検証作業 を共同で行った • 公開されたファイルの中に個人の実名が残っていた 事例2:イラク戦争機密資料公開事件 • 2010年10月22日、イラク戦争に関する機密資料約39万 件が「Iraq War Logs」として公開 • 隠されたイラク市民の死者数や、イラク治安当局の捕虜虐 待、窃盗、殺人、レイプとそれに対する米軍の黙認をリーク • 前回の3メディアに加え、仏紙「ル・モンド」が加入 • 情報の公開の程度やアサンジュへの批判記事を巡り「ニュー ヨークタイムズ」との間に軋轢、協力関係は絶たれる 事例3:外交公電漏洩事件 • 2010年11月28日、世界274か国のアメリカ大使館をはじめとし た在外公館と米国務省の外交公電、約25万件を公開 • 西紙「エル・バイス」も参加、「ニューヨーク・タイムズ」は「ガーディ アン」から情報を提供 • 情報の公開に当たり個人情報の削除を実施 • 「ニューヨーク・タイムズ」は公開前に、政府に文書の掲載について 是非を問う ・ 後にパスワード流出により、WLは25万件の情報を未編集で公開 ⇒メディアからの批判 外交公電漏洩事件2 具体的な情報漏洩 ・米国による各国指導者の評価 「バットマンがプーチンで、メドベージェフは相棒ロビン」 「金正日は肉のたるんだ年寄り」 ・米国関連 「米国による同盟国(英国など)や国連に対するスパイ行為」 「従属国での汚職や人権侵害の黙認」 「サウディ国王は米国に圧力をかけてイランへの軍事行動を求めた」 ・日本関連 「アメリカ政府が迎撃ミサイルの欧州への輸出解禁について、日本に 武器輸出三原則の見直しを日本に迫った」、 「核密約へのこだわ り」 、「外務官僚『日米の対等求める民主政権は愚か』」 関係図 ウィキリーク ス 「処刑されるべき」 情報交換 など激しい批判 共同検証作業 癒着関係? 米国政府 既存メディア ウィキリークスの特徴 ウィキリークスの特徴 ① 内部告発の在り方を変化 <旧型> メディア 告発者 <新型> 告発者 ウィキ リークス メディア ⇒デジタル時代の新たな「競争」 例)アルジャジーラは内部告発者の受け口となる「トランスペア レンシーユニット」を開設 ウィキリークスの特徴 ② 無国籍なウェブ媒体のニュース組織 ・技術を駆使したウェブ • ウェブ上にはリーク情報が残り続ける • 告発者の情報が全く残らないようなシステムを採用 ・どこに問題の所在があるかがわからない (告発者? ウィキリークス? 既存メディア?) •いまだにリークに関してはどの国からも罪に問われていない •米国はアサンジュを「非国民」扱いという的外れの批判 ウィキリークスへの批判 (米国と日本の反応) 批判:リークについて ①リークには新味がない 新味でなかろうが人々に 事実を知らせることは公 益だ ②関係者の生命が危険 暴露がもとで犠牲者が 出たという具体的な事実 は知られていない ③外交政策に支障 隠れた文書で進められ る外交は妥当ではない 批判2:米国民の反応 米国安全保障情報に関する世論調査 National Security Concerns: The Public Has … 2% 25% Right to know everything No right to know national security secrets 73% Don't know (CBSNEWS 調べ 2010年12月3日) ジャーナリズム視点からの批判 ウィキリークスに対して 既存の報道機関に対して ・ダブルスタンダード(調査報道 はなぜ許されるのか) る倫理観が不足している ・ウィキリークスと協力関係にあ (匿名処理の件) りつつも、ウィキリークスを批判 するという矛盾 ・既存のジャーナリズムが明ら かにできなかった事実を公開 ・政治的中立性への疑問 ・ウィキリークスが明らかにした した 事実を報道できなかった責任 ・プロの報道機関に求められ 日本の反応 東京の米国大使館からの公電数は三番目の多さ • 政治家 前原誠司「言語道断の犯罪行為」 • メディア 公電公開当時は海老蔵報道に重点 知る権利への貢献を評価しつつも、「暴露系サイト」による信頼性のない情 報だと決めつける(海外の報道は少なからず情報を隠匿していた政府を批 判している) 「朝日新聞」がウィキリークスのメディアパートナーとなる ⇒政府とメディアが一体となりウィキリークスを非難 新聞社の見解 朝日新聞 • 個人の生命、安全を危険にさらす恐れがあると判断した情報は掲載を見送りまし た。同時にWLに対しても文書を公表する際は該当箇所を削除するよう提案、WLも 削除に応じた上でサイトに掲載しました。朝日新聞が報道で取り上げた公電につい ては、現在のWLのサイトでも該当箇所が削除されたまま掲載されています。 • WLは「完全な透明性こそが民主主義を保障する」と唱えますが、保護されるべき 情報について配慮されないまま、公電のすべての情報が公開されることには賛同 できません。 読売新聞 • 報道機関を通さずに、直接すべての情報を公開できるインターネットがある限り、意 図的な情報拡散・内部告発をストップすることは難しい。情報管理が問題となってく るが、人間が関わる以上、100%の情報管理は不可能だ。流出や内部告発を受け ることを考慮に入れて、ファイルを外部に持ち出せないように設定したり、ファイル そのものを保存しないといった運用方針にするべきかもしれない。 ウィキリークス後のメディア ウィキリークス後のメディア リークサイトの続出 • 地域リークス 例)BalkanLeaks • 分野リークス 例)EnviroLeaks • 情報提供者としてのリークス 例)OpenLeaks 既存メディアの挑戦 • アルジャジーラの「透明性ユニット」 • ニューヨーク・タイムズの「ロックボックス」 新旧メディアの役割 分担? • 新:一次情報の入手 • 旧:事実の検証・信頼性による伝達 告発と報道の自由(法制度) 日本の法制度(告発者への) 国家公務員法守秘義務 「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後とい えども同様とする」 公益通報者保護法(2006年) 「保護対象者は労働者(公務員含む)で、告発者に対する解雇、減給、そのほかの不 利益な取り扱いを無効にする」 ⇒通報対象事実が刑罰に相当するものである時のみ適応 ⇒マスコミなどへの通報は規定が厳しい ⇒「秘密」に関しては明確な規定はなく、案件についてその都度 対処しているのが実態、法制度の未熟 日本の法制度(報道機関への) 表現(報道)の自由(日本国憲法第21条) 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由はこれを保証する 個人情報保護法における一部義務免除 放送、新聞社、通信社その他の報道機関が報道の用に供する目的 マスメディア特有の調査報道における優遇制度 国家公務員の守秘義務違反のそそのかし行為、オフレコ ⇒リーク情報の報道に関しては、事前検閲制がない国の場合、 各メディアの判断に委ねられている 論点 リークについて • 国家機密を出すのか出さないのか • 出すとすればどの程度出せばよいのか • 報道の自由と人命の危機の兼ね合いは? ジャーナリズムの変革 • ウィキリークスはジャーナリズムの一つか • ウィキリークスに対する海外および日本のメディアの対応は適切か? • リークサイトや新しいメディアの登場による既存メディアの役割の変化は? 参考文献 • • • • 小林恭子他『日本人が知らないウィキリークス』、洋泉社、2011 フレッグ・ミッチェル『ウィキリークスの時代』、岩波書店、2011 上杉隆『ウィキリークス以後の日本』、光文社新書、2011 朝日新聞社『Journalism 2011年4月号』第251号 • 「ウィキリークス全公電公開に波紋 欧米紙『援護できず』」 (asahi.com) http://www.asahi.com/international/update/0922/TKY2011092107 28.html • 「ウィキリークスとは何?内部告発について」(YOMIURI ONLINE) http://www.yomiuri.co.jp/net/security/goshinjyutsu/20101203OYT8T00730.htm
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