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Transmission Spectroscopy
and the Rossiter-McLaughlin Effect
東京大学大学院 成田憲保
共同研究者
太田泰弘、樽家篤史、須藤靖 (東大)
Joshua N. Winn (Hubble Fellow)
Edwin L. Turner (Princeton)
田村元秀、山田亨、青木和光(国立天文台)
佐藤文衛(岡山観測所)
2005年4月19日 系外惑星系セミナー
目次
1.
HD209458におけるPhotometric Transmission
Spectroscopyの最終結果報告(20分)
2.
Transit惑星系におけるRossiter効果(10分)
3.
TrES-1における分光・測光同時観測について(5分)
4.
Rossiter効果の大気吸収探索への応用(5分)
Transmission Spectroscopy
系外惑星の大気成分を検出する方法
原理的には惑星外層大気中の元素を検出できる
HD 209458
最もよく知られた系外惑星系
Radial Velocityにより発見され、Transitが初めて確認された
ホットジュピター(Charbonneau, Brown et al. 2000)
現在でも最も明るいTransit惑星系として観測がなされている
Basic data
HD209458 G0V V = 7.64 → 太陽に似た明るい星
HD209458b Orbital Period 3.524738 ± 0.000015 days
inclination
86.1 ± 0.1 deg
Mass
0.69 ± 0.05 MJ
Radius
1.43 ± 0.04 RJ
from Extra-solar Planet Catalog by Jean Schneider
これまでの検出例
過去のHSTの観測結果
2002年 中性NaのD線で0.02%の吸収量の増加が報告された
Charbonneau et al. 2002
2003年 中性水素のLy α線で15%の大きな吸収量の増加
Vidal-Madjar et al. 2003
2004年 中性酸素と炭素イオンでも~7%の吸収量の増加
Vidal-Madjar et al. 2004
http://www2.iap.fr/exoplanetes/images_hd209458.html
地上からの大気吸収探索
過去の可視光領域の観測結果
0.3Åの原子吸収線中心部において
• Bundy & Marcy (2000) Keck I /HIRES < 3 %
• Moutou et al. (2001)
VLT /UVES
~1%
赤外領域の観測結果
2.3μm付近(4320~4330 cm-1)のCO吸収線に対して
• Deming et al. (2005) Keck II /NIRSPEC < 0.016 %
地上からの系外惑星大気の検出・確認はまだなされていない
観測
すばる /HDS による高分散分光観測
2002年10月の1晩でTransitを含む
30フレームのデータを取得
公転周期3.5日
内訳:in 12 out 12 half 6
観測パラメータ
観測波長領域 4100~6800Å
観測phase
波長分解能
45000
露光時間
~ 500 秒
SN / pix
~ 350
解析方法の概要
取得した全てのフレームを
足し合わせてテンプレートを作成
時系列ごとのそれぞれのフレームに
total fluxおよびline shiftが合うよう
テンプレートを較正
引き算をした結果のresidualを積分し
較正したテンプレートに対する
変化の割合を求める
何が問題か?
地上観測の障害
• 観測機器の安定性(Instrumental profile)
• 大気分子による吸収(Telluric)
解析における課題
赤と青 : 2.5時間離れた時刻のスペクトル
緑 : 青÷赤の比率のスペクトル
10%
二年前の苦戦の様子
黒:Winn
赤:成田
2003年11月 系外惑星系セミナー発表時
Instrumental Profileの補正方法
連続したオーダーの比率のスペクトルがほぼ同じことに着目
目的の吸収線の両隣の比率スペクトルを用いる
それぞれのスペクトルをS1,S2、R = S1/S2として
(フラックスの較正)
(波長変動の較正)
Winn et al. 2004
補正結果
10%
補正によってほぼポアソンノイズに収まった
ターゲットの選択
過去の結果から以下のようにターゲットを選んだ
Hα, Hβ, Hγ, Na(D1, D2), Li, Fe, Ca
1.広がった水素外層大気の存在が報告されている
2.Na,Liでは理論的に吸収量の増加が予想されている
(実際にNaで吸収量の増加が報告されている)
3.過去の地上観測との比較(Fe,Caなど)
Hα, Na(D1, D2) および過去の結果との比較
残差スペクトル
0.3Åと2Åの積分範囲で残差の変化を調べた
時間
テンプレート
大気吸収線(と星間物質)
残差の解析
ターゲット吸収線のまわりで残差の積分を求める
その量の平均と標準偏差をトランジットの内外で比較
Na D線(2Å)の積分結果
Na D線(0.3Å)の積分結果
ポアソンノイズの大きさ
line center ~0.15%
continuum ~0.08%
過去の地上観測との比較
Narita et al. 2005
結果の考察
残った変動の原因を探るため以下のことを確認した
1. フラックスの大きいコンティニューム領域で同様に
積分を行い、どの程度変動があるか?

0.3Åの積分で0.1%程度の変動が残っていた
2. スペクトルの補正手順であるべき信号を消したり
おかしな振る舞いがないかどうか?

人工的に0.2%の吸収を入れて、それが解析の過程で
消されることなく実際に検出できることを確認した
3. 大気吸収が実際に検出できるか?


0.3Åの積分で0.5%の大気吸収が実際に検出できた
ターゲットの領域では大気吸収の影響は0.1%以下
本研究のまとめ
• すばる望遠鏡で初めて系外惑星大気の検出を試みた
• 可視光領域の吸収線について、トランジットに起因する
吸収量の増加は見られなかった

残った変動は観測機器の安定性によるものと考えられる

もともと10%程度あった変動を小さく抑えることができた

同程度の性能を持つ望遠鏡に比べて高い精度だったのは、
1晩でトランジットの前中後を観測した事が要因と考えられる
• 補正方法の妥当性について定量的な確認を行った
本研究でわかったこと
地上望遠鏡ではphotometric comparisonによる
大気吸収探索は今後も含めて非常に望みが薄い
地上観測では系外惑星の細かい研究は無理なのか?
地上望遠鏡 vs 宇宙望遠鏡
宇宙望遠鏡の利点
大気吸収がなく天候によるノイズがない
→ photometric comparisonには強い力を発揮する
地上望遠鏡の利点
寿命が長いカメラと大口径の望遠鏡
大気吸収も見方を変えれば正確な波長の指標
高い波長分解能と口径を活かしたサイエンス
→ Rossiter効果の観測
目次
1.
HD209458におけるPhotometric Transmission
Spectroscopyの最終結果報告(20分)
2.
Transit惑星系におけるRossiter効果(10分)
3.
TrES-1における分光・測光同時観測について(5分)
4.
Rossiter効果の大気吸収探索への応用(5分)
Rossiter効果とは何か?
惑星のTransitが引き起こす見かけの視線速度のずれ
視
線
速
度
の
ず
れ
惑星の公転軌道例
時間
Ohta, Taruya & Suto (2005)
惑星がどのようなalignmentを持って主星の前面を
通過するかによってずれのふるまいが決まる
Rossiter効果の何が面白いか
photometric transit
spectroscopic transit
惑星系の軌道パラメータに新しい情報を与える
Rossiter効果と惑星形成理論のつながり
現在の惑星形成理論の考え方
ホットジュピターは
flatな原始惑星系円盤内での惑星形成
+migrationによる動径方向の軌道変化
で形成されたと考えられている
主星の自転と惑星の公転はよくalignしているはず
このalignmentの角度がRossiter効果の観測量
惑星形成の過程で何が起こる?
alignしていることは一見明らかにも思える
• 微惑星・原始惑星同士の衝突
migration中に3次元方向の軌道変化?
 全太陽系惑星の公転面は完全には一致していない
(地球を基準として水星7°冥王星17°他1~3°)

• flee-floating planetの可能性


形成過程で投げ出された惑星が主星に捕獲される
可能性もある
太陽系の木星型惑星には逆周りの衛星がある
HD209458での観測例
http://exoplanets.org/
ELODIE on 193cm telescope
Queloz et al. (2000)
主星の自転と惑星の公転が同方向
系外惑星でRossiter効果が確認された唯一の例
観測ターゲット
現在確認されているTransit惑星は7つ


HD209458 V=7.65 (最高のターゲット)
OGLE planets (5つ) V=15~17
HD209458は非常に明るいため2m級望遠鏡で
Rossiter効果が検出できた
OGLE惑星は非常に暗いため8m級望遠鏡でも無理

TrES-1 V=11.8 K0V (Alonso et al. 2004)
2004年8月にKeck/HIRESでconfirmされた
Transit中の視線速度は1点しか観測されていない
TrES-1でRossiter効果は見えるか?
検出可能性の検討手順
1. 視線速度の決定精度の見積り
2. Rossiter効果による視線速度のずれの予想
3. 予想曲線のまわりに視線速度の決定精度に
あわせてサンプルデータを散らばせる
4. そのデータをフィットし、パラメータの決定精度
を調べる
検討結果のまとめ
• すばる/HDSでの1晩の観測で、TrES-1のRossiter
効果の検出は十分に期待できる
• 非対称性などを見るには理論曲線の精度を上げる
ことも必要(Rossiter効果は理論曲線からのずれ)
• 一般にV<12 程度の明るさを持つ恒星のまわりに、
ホットジュピターのTransitが観測できれば、現在の
地上観測機器でRossiter効果の確認は十分可能
さらにわかったこと
「検出」から「精密測定」へ
• 3晩程度のTransit phaseの視線速度サンプルが
あれば、λを~2°程度の精度で決定できる
• 今後明るいTransit惑星系が発見されれば、主星
と惑星のalignmentを決めていくサンプルが増える
精密観測でわかるサイエンス
むしろちょっとずれてる方が普通かも知れない
今後複数のTransit惑星系でalignmentに
有意なずれがあることがわかれば
惑星形成理論のブレイクスルーになりうる
1990年代 Λがnon-zero (cosmology)
2000年代 λがnon-zero (exoplanetary science)
目次
1.
HD209458におけるPhotometric Transmission
Spectroscopyの最終結果報告(20分)
2.
Transit惑星系におけるRossiter効果(10分)
3.
TrES-1における分光・測光同時観測について(5分)
4.
Rossiter効果の大気吸収探索への応用(5分)
TrES-1の分光・測光同時観測
2005年7月7日
Subaru HDS (Hawaii) × MUGNUM (Maui)
“Measurement of the Rossiter Effect
During Transits of the Exoplanet TrES-1”
PI : Norio Narita
Co-Is : Yasushi Suto, Yasuhiro Ohta, Atsushi Taruya
Wako Aoki, Bun’ei Sato, Motohide Tamura, Toru Yamada
Josh Winn, Ed Turner
MUGNUM : Enya-san (ISAS)
何をやるか
Subaru HDS
Transit前中後の視線速度を
HDS with I2 cellを用いてモニター
MUGNUM
Transit前中後の光度を
参照星と共にモニター
期待している成果
天候が良ければ~6ms-1程度の精度で
トランジット中に15点のサンプルを得られる
1晩ではλの決定精度は15°程度とあまり良くはないが
トランジット外も含めて30点以上のサンプルが得られ、
今後観測を継続することでユニークで貴重なサンプルとなる
今後の方針
1. HD209458のRossiter効果も考える
2. ホットジュピターが主星に及ぼす効果(non-zero λ)
の可能性を理論的に考える
3. それらをもとに06Aで2~3晩のTrES-1観測を提案
4. 新しく候補天体が見つかった場合、世界に先駆けて
観測を行いたい(large λの惑星系を見つけたい?)
目次
1.
HD209458におけるPhotometric Transmission
Spectroscopyの最終結果報告(20分)
2.
Transit惑星系におけるRossiter効果(10分)
3.
TrES-1における分光・測光同時観測について(5分)
4.
Rossiter効果の大気吸収探索への応用(5分)
Eclipsing binary業界でのRossiter効果
そもそもeclipsing binary業界では、
Rossiter効果はHe II 4686Åの一本のlineで見る
km/s
(らしい)
Rauch & Werner 2003 A&A
alignmentに関する研究の記述は見かけない
(Rossiter効果の精密観測には興味がない??)
Rossiter効果をTransmission Spectroscopyに
系外惑星業界では視線速度の変動が小さいため、
視線速度決定には基本的にヨードセルが使われている
ヨードセルを使わなくても
Rossiter効果が見えている
Snellen 2004 MNRAS
Rossiter効果で大気吸収探索
各吸収線ごとのRossiter効果の大きさを
全体のaverageと比較することで
Transmission Spectroscopyの代わりになる
地球運動の補正
吸収線をフィットして中心を求める
などをやっています