2011年 原子核三者若手 夏の学校 2011 高エネルギーパート 2011/08/19-20 山崎祐司(神戸大) 第1講:現代の素粒子物理概観 第2講:陽子衝突実験の原理,加速器 第3講:標準模型,top,SUSY/exotic search の結果 第4講:Higgs 粒子探索法,結果 2 高エネルギー実験で理解したい未知の問題 力の統一 粒子の質量の起源と Higgs 粒子 宇宙の成分としての素粒子 ▪ 暗黒物質と超対称性,ダークエネルギー Extra-dimension (この世は何次元?) M2 以上の人には,場合によっては M1 の人にも, ちょっと退屈な内容かもしれません。 復習の意味も兼ねて… 3 質量が 全然違う 第4世代は (たぶん)ない なぜ3世代か?? 全くわからない ただし,3世代あることが,小林・益川理論の鍵 4 ne nm nt e- m t . . . u d s c b top quark - - u d s c b anti-top quark . - - ne nm nt e+ m t gluons (質量なし) W+, W- Z (陽子の質量 = ) ニュートリノと top quark の質量差 > 1011 以上 (たぶん > 1014 以上) 5 6 物質は,点状の素粒子(クォーク,レプトン)で できている。 4種の相互作用(重力,電磁気,弱い力,強い力) も素粒子が担っている。 ただし,「重力子」は,理論もわからず,発見されてもいない この世を構成する(我々のまわりで見つかる)材料が出揃った 説明に困っていない(=理論がわかっている)のか? 他にないのか? 7 電磁相互作用と「弱い力」はすでに統一 その先は? 8 高校で習うこと 慣性 F外力 = mia (慣性質量) 重力 F重力 = mgg (重力質量) この2つは等しい そうでないと,どうなるか? 今日のお話し: おもに慣性質量のほう 慣性=重力 慣性≠重力 9 エネルギーと質量は等価 E mc 2 運動している物体では E ( pc) 2 (mc 2 ) 2 p : 運動量 静止エネルギーを持つ 速度との関係 : pc (v / c) E m 0 なら E pc v c m 0 なら E pc v c 質量のある物質は光速に届かない 質量のない物質は光速でしか走れない 質量は,止まる「能力」 10 相対論では,エネルギーと質量は等価 光(質量ゼロの粒子)も エネルギーに比例して重力を受ける 慣性もエネルギーに比例 ▪ 重力レンズ,など 例:束縛状態の質量のない2粒子 遠くから見ると,質量があるように見える = 静止エネルギーを持つ 強く束縛されている粒子は,重くなる 11 質量を「追い越しやすさ」として再定義 質量のない粒子(光)は,決して追い越せない 同じエネルギーなら,質量が重いほうがゆっくり 簡単に追い越せる スピンの進行方向成分は 追い越すと反転 速度は追い越すと逆向き スピンは追い越しても同じ向き 自分より早く 進んでいる粒子 追い抜いて 後ろへ去っていく 質量は,スピン反転しやすさの度合い 12 質量がない粒子は 右巻き/左巻き(カイラリティー) のどちらかの基底状態だけを持つ つまり,粒子によって右・左が 一意に決まる ▪ カイラル対称性と呼ぶ 質量があると 右巻き/左巻きの基底状態の混合状態 係数は,見ている人の相対速度で変わる ▪ カイラル対称性が 「破れている」という 13 超伝導体内では電子が引き合う(クーパー対) スピン逆向きでくっつく スピン0のボーズ粒子状態(スカラー粒子) ▪ すいすい泳げる そこに対でない電子が入り込むと… ▪ クーパー対のポテンシャルに 落ちたりはい上がったりして, なかなか進まない ▪ スピンの向きも逆転可能 電子は超伝導体内で重くなる 14 クォークも,宇宙が超伝導体なら重くなれる クォークにとって一番エネルギーの低い状態 (束縛状態)はクォーク・反クォーク対 (𝑞𝑞)と考える ▪ 宇宙は 𝑞𝑞 対(スカラー束縛状態)の海 ▪ クォークはトラップされて 動きにくくなる ハドロン(クォークの 束縛状態)の質量を生む qq対(スカラー状態)が質量を生む正体 15 実験的検証,理論的検証が行われてきた 決定打: クォーク物質のコンピュータ シミュレーション 日本第2のスパコンで検証 「生のクォーク」を相互作用 させると質量が生まれた カイラル対称性の破れによる 理論と一致 16 ここまで:スピン½の粒子(フェルミ粒子)に質量を生み出 すしくみを見た スピン1の力を媒介する粒子(ゲージボゾン)にも重いもの はある 弱い相互作用を媒介 する W±, Z0 粒子 どうやって質量を 与えるか? これだけ 質量なし あとはみんな 質量あり 17 磁場は,超伝導体内に 侵入できない(マイスナー効果) 磁場は,電磁相互作用光によって伝えられている 光が侵入できない = 光子が抵抗力を受けて止まる = 質量がある 巨視的には 磁場を打ち消す方向に電流が流れる(レンツの法則) 普通は電流が止まるが,超伝導なので流れ続ける ミクロのレベルでは,何が起きているか? 18 強磁性体の例 隣り合った原子のスピンの向きが揃ったほうが エネルギーが低くなる物質 高温では,分子運動によりスピンの 向きはバラバラ ▪ どちらから見ても同じ(対称) 高温 冷やすと, ある方向を向く 磁石になる ▪ 対称性が破れた 低温 高温 低温 2次元平面上で,向きが 揃っている度合いを表す量 19 例:強磁性体を伝わるスピン波(マグノン) スピンが揃った(対称性が破れた)物質でのみおこる 対称性が破れた場合にのみできる「粒子」 20 もしマグノンの波の伝わる速さが早い (遠くまで届く)と,スピンはほぼ同時に 協同して揺れる 遠くまで届く力を「いなす」ことができる = 力が遠くに伝わらなくなる その結果,力の伝達粒子は重くなる 21 「スカラー粒子」を使う ヒッグスです 先ほどクーパー対,qq対のところで出てきた 真空と同じ量子数を持ち,気づかれずに存在 複素スカラー場に対して 低温 高温 そのうち1つだけが 大きな「値」を持つとき, エネルギーが最小だとする ▪ 対称性が破れた状態 「いなす」粒子(NG ボゾン) 底をぐるぐる回る 22 Higgs スカラー場が 真空中で(内部空間に)一定の値を持ち 対称性を破り 光に質量を与え(マイスナー効果) 「もの」=フェルミ粒子にも質量を与える (Higgs によるカイラル対称性の破れ) クォークはさらに質量を獲得 クォーク対によるカイラル対称性の破れ 23 Higgs 場からの 「抵抗」が慣性を生む Higgs 場に付随して Higgs 粒子が存在 質量:114 GeV 以上 (LEP実験からの下限値) Higgs 粒子が見つかって,初めて標準模型の完成 24 宇宙は膨張している 宇宙の始まり:爆発 自らの重み(重力)で収縮する? 遠くのことは,昔に起こったこと (光の伝わるスピードは,有限) → 遠くの星を見ると, 宇宙初期がわかる 遠くの星の運動を調べると, 宇宙の運動がわかる → 宇宙の「総重量」がわかる 25 宇宙背景輻射:38万年前の「晴れ上がり」 それより前は,宇宙はプラズマ(荷電粒子のガス) ココ このとき初めて原子ができた 宇宙の大きさ: 今の1100分の一,温度: 3000 K それが膨張して現在の背景輻射(2.7K) になった WMAP衛星 (アメリカ) 2003年の結果 26 宇宙全体の振動の「ばね定数」 から宇宙の質量がわかる 光らない物質の量もわかる 暗黒物質(ダークマター) 宇宙の膨張が加速している おかしい… 重力で拡張はだんだん 宇 宙 定 数 項 遅くなるはずなのに。 圧力を及ぼす何かがある 暗黒エネルギー(ダークエネルギー) 宇宙の物質の質量 27 回転速度と重力から 銀河団の温度や衝突から 銀河団が衝突し,暗黒物質(青)が先に 進み,普通の物質(赤)が取り残される様子 28 宇宙は未知のもので満ちている われわれの知っている物質(クォークとレプトン)4 % (そのうち星として光っているものは,わずか 0.4%) 引力を及ぼすダークマター:23% ▪ 普通の暗い星ではない(重力レンズで見えるはず) ▪ ニュートリノでもない(温度高すぎ) ▪ 未知の素粒子? 斥力のもとダークエネルギー: のこり全部 ▪ まともな仮説すらない 29 背景輻射 ニュートリノ LHC 背景輻射の向こうは, 人工的に作るか ニュートリノで見るか 暗黒物質「で」見るか 30 降ってくる暗黒物質をとらえる もうすぐ 宇宙背景ニュートリノをとらえる 宇宙始まりの1秒後まで見えるが…検出器開発中 地上で作ってみよう! 新粒子 陽子 暗黒物質,暗黒反物質の クォーク 対生成なら, 高エネルギー衝突で作れる 陽子 新(反)粒子 31 暗黒物質は銀河の重力 にもとらえられている 1リットルに1個くらい 100kg の物体に ぶつかるのを待つ XMASS実験@神岡 32 クォークと反クォークが衝突 対消滅 高エネルギー状態から重い 超対称粒子が対生成 暗黒物質 超対称粒子が崩壊 クォーク 宇宙初期を再現し, 作ってしまおう! 反クォーク 相互作用 粒子 超対称粒子 反超対称粒子 この世の粒子と性質がそっくりな 「ペア粒子」がある 反粒子とは,また違う粒子 ふだんは存在に気づかない 34 超対称粒子:同じ性質を持つ,違うスピンの粒子 スピン0の「もの」(ボーズ粒子) スピン ½ の「ちから」(フェルミ粒子) スピン½ フェルミ粒子 スピン0 ボーズ粒子 スピン1 ボーズ粒子 スピン½ フェルミ粒子 e- ~e- γ ~0 電子 スカラー電子 光子 ゲージーノ 35 重力は変な力 むちゃ弱 エネルギーに比例 (連続量!) xm x m ▪ 普通の力:電荷(とびとびの値)に比例 符号ない 一般相対論:時空の曲がりとして説明 一般座標変換 = 時空の座標系の再定義 に関する対称性から導かれる 36 V (r ) 重力も,超短距離で破綻 プランクスケール:重力が,重力源の質量のもつ エネルギーと等しくなる距離 or エネルギー 素粒子がブラックホールに なったりする? r m2 G mc2 r おなじ問題は原子核と電子にもあった 古典物理では,電子がまわっていると 放射光を出して原子核に落ちてしまう。 量子力学が,それがないことを保証 放射光 超短距離の重力理論は「量子重力」 37 超対称性ペアは,お互いに化けられる スピンと質量以外の性質は同じ e- 例:スカラー電子 ⇄ 電子 + 中性ゲージーノ ~e- ~0 「超対称性変換」を起こすたび, 一般座標変換が起きる 量子重力を説明できる? e- ~e- e- p m pm 38 e- ~e- e- p m pm 3つの力が同じ強さに (強い力,電磁気,弱い力) 時空のゆがみを引き起こす? (一般相対論=重力) 39 超対称演算子 𝑄 : boson-fermion を交換するオペレータ 𝑄|𝑓𝑒𝑟𝑚𝑖𝑜𝑛 = |𝑏𝑜𝑠𝑜𝑛 , 𝑄|𝑏𝑜𝑠𝑜𝑛 = |𝑓𝑒𝑟𝑚𝑖𝑜𝑛 反交換関係 𝜇 𝑄𝛼 , 𝑄𝛽 = 2𝜎𝛼𝛽 ⋅ 𝑃𝜇 : 2回演算すると,時空における平行移動 𝑄𝛼 , 𝑃𝜇 = 0 : 𝑚2 = 𝑃𝜇 𝑃𝜇 と交換する → 質量を変えない 全ての粒子に質量の同じパートナーが存在 ▪ 何でも,これ以外に時空の平行移動のオペレータを 内部対称性=ゲージ対称性と同居させる方法は ないそうな。 ▪ なので,理論屋さんはたいていSUSY は何らかの形態で 実在すると信じている。ただ,TeV スケールにあるかは別。 40 重い電荷のない粒子 重い ~2 ~1 ~0 一番軽い粒子はこれ以上崩壊できず,安定 もし超対称性が見つかれば, 素粒子・宇宙のみかたが全く変わる 軽い 暗黒物質 41 Higgs boson 質量の2次発散が防げる Fermion loop と Boson loop でキャンセル(符号反対) log の発散だけが残る 理論として安定 大統一 暗黒物質 超対称のたいていのモデルでは, R-parity conservation を仮定 𝑅𝑃 = −1 2𝑆+3(𝐵−𝐿) ▪ 普通の粒子は R > 0, 超対称粒子は R < 0 超対称粒子はペアで生成 すると,一番軽い超粒子 (LSP, lightest super particle) は安定 42 でないと,511 keV の 𝑒 が見つかるはず 質量は手で入れるのではなく,Lagrangean をちょっと変形すると 出てきてほしい 自発的対称性の破れで入れられるような, =低エネルギーで真空の期待値が0でないときのみ現れるような 超対称粒子とのみカップリングのある項の形は,決まっている ただし,カップリングのある項は,MSSM (= 最小セットの SUSY) の粒子によって dynamical に生み出されては困るらしい。 ▪ Higgs のように,scalar の期待値が質量を出すとかは,だめ SUSY の破れている世界 Hidden sector との相互作用により, これらの項が出てくるべし S. P. Martin: “A Supersymmetry Primer” hep-ph/9709356 43 ひとたび SUSY breaking で高いエネルギーでの質量が決まってしまえば, 低エネルギーでの質量スペクトラムは 輻射補正 = 繰り込み群方程式と 質量行列で決まる。 質量行列は実験により強い制限がかかる 輻射できる粒子が多いほど, 質量が走って重くなる Squark が slepton より Gluino が Bino, Wino より 第3世代粒子は軽いほうが軽い 右巻き,左巻きの混合が,Higgs との カップリングが大きい top では大きい 対角化すると,軽いもの,重いものに分かれる 44 実は弱くないのに,弱く見えているだけかも 次元が違うため,異なる Gauss の法則で減少していく e.g. 余剰次元 𝑑 = 2 なら, 𝐹 ∝ 1 𝑟4 他の力にとってはこの世は 3+1 次元 様々な精密実験で制限がついている 45 プランクスケールが TeV の可能性もあり 例:ADD model, 余剰次元 𝑑 4 + 𝑑 次元でのプランクスケールを 2 MF として 𝑀𝑝𝑙 = 𝑀𝐹2+𝑑 2𝜋𝑅 𝑑 2次元, 0.1mm ならMF = 1 TeV 余剰次元での「励起順位」から たくさんの重い粒子が出る KK 粒子,KK tower などとよぶ 松本重貴,瀬波大土 日本物理学会誌2008年4月号 解説記事「高次元理論と暗黒物質」より 46 例: domain-wall picture 普通の粒子は domain-wall に並行に光速で動く 重力子は,あるエネルギーより高ければ自由に動ける Massless KK graviton in bulk = 4 + extra dimension は 4次元では Massive KK graviton 高エネルギーではたくさんの状態が コンパクト化の スケールを 表すエネルギーだと 思ってよい domain-wall ゲージボソンを 閉じ込めるのは 難しいらしい 47 ものすごくざっくり言うと, 標準模型粒子が高次元方向に どのような波動関数を持っているかによって 境界条件からあり得ない物理を排除できる 例:左巻きのみの世界を作れる (SM!) 積分により質量やカップリングをコントロールできる 3世代構造なども,出せなくはないらしい つまり,SM で見えている物理「パラメーター」は 高次元での幾何学的構造からより必然的に出す たくさんのバリエーションがある 48 𝑧 = 0, 𝑧𝑐 に二つの brane, 𝑑𝑠 2 = 𝑎2 𝑧 𝜂𝜇𝜈 𝑑𝑥 𝜇 𝑑𝑥 𝜈 − 𝑑𝑧 2 プランク スケールの 世界 我々の 世界 𝑎 𝑧 = 𝑒 −𝑘 𝑧 , 𝑖. 𝑒. 𝑧 = 0 では 重力は Electroweak なみ 計量が小さくなるので 𝑧 = 𝑧𝑐 (我々の世界) では重力が弱い ちゃんと Einstein 方程式の解がでてくる Graviton と SM 粒子の結合は結構大きい 𝑧 = 0 から 𝑧𝑐 までの5次元めの波動関数の積分値で SM 粒子と graviton とのカップリングが決まる 𝑀𝑚𝑎𝑡𝑡𝑒𝑟 ~1/ 𝐺(5) 𝑘 より高いエネルギーでは カップリング大きい 重力が 行き来できる 49 4+n 次元のプランクスケールよりはるかに高いエネルギーで の衝突では,ブラックホールができる可能性がある インパクトパラメータが Schwarzschild 半径以下の時 ホーキング輻射によりすぐ 崩壊する 多粒子崩壊を観測する 50 素粒子:クォーク,レプトン,力の媒介粒子 だけど,わかっていないことだらけ 力の統一 質量起源 (Higgs ?) ダークマター ダークエネルギー (つまり,重力関係) 時空の構造(超対称性,ExtraDimension) フレーバーの3世代構造 宇宙論はなぜ,あまり新物理を必要としていない? ブレークスルーと期待:LHC実験 これまでのほぼ一桁上の衝突エネルギー 51
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