標準模型ゲージ群の有限群 ∆(27) による 半直積拡大におけるクォークとレプトンの質量行列 平成 24 年度 三重大学大学院工学研究科 博士前期課程 物理工学専攻 橋本貴明 目次 1 序論 3 2 標準模型とその拡張 4 2.1 標準模型ゲージ群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 2.2 Higgs 機構 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 2.3 繰り込み不可能な相互作用項 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 2.4 シーソー機構 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 2.5 MNS 行列と CKM 行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 2.6 標準模型が説明不能な点 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 研究の動向 12 3.1 2 面体群 D4 に基づく模型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 3.2 4 次交代群 A4 に基づく模型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 3.3 有限群 ∆(27) に基づく模型 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 半直積群 GSM ⋊ ∆(27) に基づく模型 22 4.1 GSM の ∆(27) による半直積拡大 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 4.2 模型その 1 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 4.3 模型その 2 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25 4.4 模型その 3 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27 5 まとめ 33 6 謝辞 35 付録 A 群と表現 36 A.1 群の定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36 A.2 表現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36 A.3 表現についての諸定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37 有限群 ∆(27) 38 定義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38 3 4 付録 B B.1 1 B.2 線形表現とその指標表 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38 B.3 線形表現のテンソル積の既約分解 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 40 B.4 射影表現とその指標表 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41 B.5 射影表現のテンソル積の既約分解 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 43 B.6 線形表現と射影表現のテンソル積の既約分解 . . . . . . . . . . . . . . . . 44 B.7 必要なテンソル積の基底 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45 参考文献 47 2 1 序論 現在素粒子とされているクォーク, レプトン, ゲージボソンおよび Higgs ボソンと, これ らの間の相互作用は, ゲージ群 GSM = SU (3)c × SU (2)L × U (1)Y に基づく相対論的な場 の量子論で記述され, これを「標準模型 (Standard Model : SM)」とよんでいる。今のと ころ, この模型はどの実験結果ともよい一致を示している。しかし, ゲージ相互作用に対 して同じ性質を持つクォークとレプトンが 3 組(3 世代とよぶ)繰り返し現れ, それらが世 代間に質量階層構造を持つことや, クォークは CKM(Cabibbo-Kobayashi-Maskawa), レ プトンは MNS(Maki-Nakagawa-Sakata) とそれぞれよばれている特徴的な混合行列にな ることを, 原理的に説明することができない。これはクォークとレプトンの質量行列を構 成する原理が存在しないということである。 クォークとレプトンの質量と混合を半ば現象論的に説明するために, 有限群 Γ を導入す ることが試みられている。例えば, Γ として 4 次交代群 A4 や SU (3) の有限部分群 ∆(27) を採用して, レプトンの 3 世代を Γ の 3 次元表現に当てはめる(変換則を定める)こと で, MNS 行列についての実験的特徴(ほぼ TBM(Tri-bimaximal) 混合)を再現できるこ とが分かっている。 本研究の目標は, クォークとレプトンそれぞれの世代間質量階層構造と両者の混合行列 の違いについて, 統一的枠組みで自然に説明することのできる模型の構築である。そのた めに, 本研究では GSM の ∆(27) による半直積拡大 GSM ⋊ ∆(27) を新たなゲージ群とし て採用する。他の研究では GSM とは無関係に Γ を導入しているので, 対称性の群として は直積群 GSM × Γ を考えていることになる。半直積群 GSM ⋊ Γ では GSM の積に Γ の元が関与するので, 直積群の場合とは異なった理論的特徴が現れると期待される。とく に後述するように, GSM の表現と Γ の表現の間にある種の関係が生じ, クォーク(レプ トン)が SU (3)c の 3(1)次元表現であることから, Γ に対してクォークは射影表現, レ プトンは線形表現となる。この表現の違いが, 両者の混合行列の違いに反映すると期待さ れる。 以下, 各章の概要を述べる。第 2 章では, 標準模型の概要(とくに質量生成機構(Higgs 機構))を説明する。その際, 標準模型が説明不能な実験的事実を指摘し, その解決のため にこれまで考えられてきている標準模型の拡張 (Beyond Standard Model : BSM) の例 を紹介する。第 3 章では, 有限群 Γ に基づいた標準模型の拡張について議論する。第 4 章 では, 上述の新たなゲージ群に基づいた模型を構築し, その予言と実験との整合性につい て検討する。第 5 章ではまとめを行う。 3 2 標準模型とその拡張 2.1 標準模型ゲージ群 素粒子とそれらの間の相互作用は標準模型によって記述される [4]。標準模型とは標準 模型ゲージ群 GSM = SU (3)c × SU (2)L × U (1)Y に基づいた相対論的な場の量子論で ある。ここで, SU (3)c は量子色力学(グル―オンやクォークのようなカラーを持つ粒子 の, 強い相互作用の理論)のゲージ対称性で, SU (2)L × U (1)Y は電弱相互作用(ウィー クゲージボソン (W + , W − , Z 0 ) が媒介する弱い相互作用と, 光子 (γ) が媒介する電磁相 互作用)の理論のゲージ対称性である。 クォークとレプトンは, ローレンツ群の下で 4 成分の Dirac スピノルとして変換する。 Dirac スピノルは, 右手成分と左手成分を定義することができて, これらは GSM の下で振 る舞いが異なる。4 成分 Dirac スピノルの代わりに 2 成分の Weyl スピノル表示を採用す る。つまり, Dirac スピノル Ψ を, 左手 Weyl スピノル ΨL と右手 Weyl スピノル ΨR を 使って ( ΨL ΨR Ψ= ) (1) と書く。 以後全ての場において左手成分を基底として考える。つまり, Ψ は左手成分であり, Ψc は右手成分の荷電共役として書き表す。例えば, e(eC )は電子場の左手(右手)成分を意 味する。 2.2 Higgs 機構 標準模型において, 全ての既知のフェルミオン(クォークとレプトン)とゲージ対称 性(GSM )の自発的破れを引き起こすボソン(Higgs ボソン)は, GSM (= SU (3)c × SU (2)L × U (1)Y ) の下で表 1 の表現(変換則)を持つ。U (N ) は N × N ユニタリー行 列が構成する群であり, SU (N ) は行列式が 1 の N × N ユニタリー行列が構成する群で ある。以後, このような物質場に対する表現の割り当てをアサインメントとよぶ。ここ で, ℓ は左手のレプトン, q は左手のクォーク, H (添え字は電荷を意味し, +1 を + と略し て書いている)は Higgs ボソンを表す。また, ニュートリノ (νe , νµ , ντ ), 荷電レプトン (e, µ, τ ), アップ側のクォーク (u, c, t), ダウン側のクォーク (d, s, b) について, それぞ れ左から第 1 世代, 第 2 世代, 第 3 世代とよぶ。今, 同一の物質場において, GSM の下で 4 の変換則は世代番号に依存しない。これは, 標準模型において 3 世代の存在理由が説明で きていないことを意味する。 表 1 において, 例えば ℓ の (1, 2, − 1) は, それぞれ SU (3)c , SU (2)L , U (1)Y に対す る変換則を表している。また, SU (3)c や SU (2)L について, 1(1 次元表現), 2(2 次元 表現), 3(3 次元表現)はそれぞれ, 一重項 (singlet), 二重項 (doublet), 三重項 (triplet) ともよび, U (1)Y ∋ eiθ に対応した場の変換 ψ → eiyθ ψ における値 y をハイパーチャージ とよぶ。ここで, SU (3)c や SU (2)L に対して 1 であるとは, その群に対して不変である ことを表す。例えば, レプトンは SU (3)c に対して不変であるが, これはグル―オンとは 相互作用しないことを意味する。 表1 各物質場の GSM に対するアサインメント 物質場 SU (3)c SU (2)L U (1)Y 1 2 −1 ec = ec , µ c , τ c ( ) ( ) ( ) u c t q= , , d s b 1 1 2 3 2 1 3 uc = uc , cc , tc 3 1 − 43 d c = d c , sc , b c ( ) H+ H= H0 3 1 2 3 1 2 1 ℓ= ( ) νe e , ( ) νµ µ , ( ) ντ τ GSM に対して不変(ゲージ不変)な, 繰り込み可能であるラグランジアン密度は L = LK + LYukawa + V (2) と書ける。ここで, LK は運動項, LYukawa は質量に関係する Yukawa 相互作用項(フェ ルミオンとボソンの相互作用項), V はスカラーポテンシャルである。具体的な Yukawa 相互作用項は, 和の記号 ∑3 i,j=1 を省略して ˜ † qj + (Yd )ij dci H † qj + h.c. LYukawa = (Ye )ij eci H † ℓj + (Yu )ij uci H (3) ˜ = iσ 2 H ∗ と定義した。σ i (i = 1, 2, 3) は Pauli 行列である。ま と書き下せる。ここで, H た, i と j は各フェルミオンの世代番号であり, 例えば ec1 = ec , ec2 = µc , ec3 = τ c を意味 5 する。各 Yij (i, j = 1, 2, 3) は理論からは決まらない無次元のパラメータであり, Yukawa 結合定数とよばれている。以後, とくに断りのない限り Yukawa 相互作用項のみを議論す るので, 添え字の Yukawa は省略する。 Yukawa 相互作用項 (3) は, Higgs ボソンが SU (2)L 二重項として真空期待値 ( ) 1 0 ⟨H⟩ = √ 2 v (4) を持つと, 対称性が自発的に破れて(SU (2)L × U (1)Y → U (1)em ), L = (Me )ij eci ej + (Mu )ij uci uj + (Md )ij dci dj (5) となり, 各フェルミオンが質量を獲得することが分かる(場の量子論によれば, フェルミ オンの 2 次の項の係数は質量を意味する)。ここで, v (Mα )ij = √ (Yα )ij (α = e, u, d) 2 (6) であり, Me , Mu , Md はそれぞれ荷電レプトン, アップ側のクォーク, ダウン側のクォー クの質量行列である。 2.3 繰り込み不可能な相互作用項 一般に, m 個のフェルミオン ψ と n 個のボソン ϕ の相互作用項は, エネルギーの次元 を持つパラメータ Λ を使って ϕn ψ m 3 Λn+ 2 m−4 (7) と書ける。Yukawa 相互作用項の場合, m = 2 であり, ϕn 2 ψ Λn−1 (8) となる。標準模型は繰り込み可能な項(n = 1)のみを採用しているが, 繰り込み可能性は 原理ではないので, 繰り込み不可能な項(n > 1)であってもゲージ不変であれば模型に組 み込んでも構わない, と考えることができる。つまり, 標準模型が繰り込み可能な項のみ で成功していたのは, 低エネルギー領域 (∼ 102 GeV) の模型だからであり, Λ が大きいス ケール(例えば大統一理論 (Grand Unified Theory : GUT) のスケール (∼ 1015 GeV)) のパラメータであるがために, 標準模型が成功している低エネルギーのゲージ相互作用で はその寄与が無視できていた, と考えるのである。 6 くりこみ不可能な相互作用項によって, 標準模型が説明不能な点を記述できる可能性が ある。例えば O5 の項 [5] LO5 = ˜ † ℓj ˜ † ℓi H 1 H (Yν )ij 2 Λ (9) は Higgs ボソンが真空期待値 (4) を持つと LO5 = (Mν )ij νi νj , (Mν )ij = (Yν )ij v2 4Λ (10) となり, 標準模型において零質量(マスレス (massless))の粒子として扱われているニュー トリノが質量を獲得することが分かる。実際, 後述するように, ニュートリノの質量は他 のフェルミオンに比べて極めて小さいが, 零ではないことが実験的に観測されている。 2.4 シーソー機構 標準模型では, ニュートリノが質量を持ち, 且つそれが他のフェルミオンに比べて極め て小さい理由を説明することができない。この問題点の解決を試みた標準模型に繰り込み 可能な拡張を施す手法の一つとしてシーソー機構がある。具体的には「まだ観測されてい ない」という立場で様々な仮説的粒子を導入し, その質量が大きいためにニュートリノの 質量は小さくなる, と主張する機構である。3 種類が提案されているが, その内 2 種類を 以下に紹介する。 2.4.1 I 型 GSM に対して (1, 1, 0) の変換則を持つ(つまり, ゲージボソンと相互作用しない), 右 手のニュートリノ ν c = νec , νµc , ντc を導入する。このとき, Yukawa 相互作用項には ˜ † ℓj + 1 (MM )ij νic νjc + h.c. LI = (YD )ij νic H 2 (11) が新たに加わる。ここで, 添え字の D と M は Dirac 項と Majorana 項を意味する。 Higgs ボソンが真空期待値 (4) を持つと, 完全なニュートリノの質量行列(6 × 6 行列) は, ブロック行列の形で書くと ( ν ν 0 ν c MD νc ) T MD MM (12) となる。従って, ニュートリノの質量行列は −1 T Mν = −MD MM MD 7 (13) で与えられる。このとき, Majorana 項が他の Yukawa 相互作用項に比べて大きいスケー ルである(つまり, 右手ニュートリノの質量が大きい)とすると, ニュートリノ質量の小さ さを説明できる [6]。 2.4.2 II 型 GSM の表現が (1, 3, 2) である Higgs ボソン ∆ = (∆1 , ∆2 , ∆3 ) を導入する。以後, と くに区別する必要があるときは, SU (2)L 二重項 (三重項) の Higgs ボソンを Higgs 二重 項 (三重項) とよぶ。 Higgs 三重項は Pauli 行列を使って ) ( + √ 3 1 ∑ i ∆++√ ∆ / 2 ∆= √ σ ∆i = (14) ∆0 −∆+ / 2 2 i=1 √ √ と書ける。ここで, ∆0 = (∆1 + i∆2 )/ 2, ∆+ = ∆3 , ∆++ = (∆1 − i∆2 )/ 2 であ り, 添え字は電荷を意味する。このとき, Yukawa 相互作用項には 1 LII = − (Y∆ )ij ℓ¯c i iσ 2 ∆ℓj + h.c. 2 1 1 1 = − (Y∆ )ij νi ∆0 νj + √ (Y∆ )ij νi ∆+ ej + (Y∆ )ij ei ∆++ ej + h.c. 2 2 2 (15) が新たに加わる。Higgs 三重項が SU (2)L 三重項として真空期待値 δ ⟨∆0 ⟩ = √ 2 (16) δ mν = Y∆ √ 2 (17) を持つと, ニュートリノ質量は となる。ここで, U (1)em が破れないために ∆+ と ∆++ は真空期待値を持たない。 今, Higgs 三重項に関係するスカラーポテンシャルを書き下すと V = 2 M∆ tr[∆† ∆] ) 1( † † ˜ + λ∆ M∆ H ∆ H + h.c. 2 (18) となる。ここで, 場の量子論によれば, M∆ は Higgs 三重項の質量を意味する。Higgs 二 重項が真空期待値 (4) を持つと ⟨∆⟩ ∼ λ∆ v2 M∆ (19) であることが分かる。故に, δ ∝ v 2 /M∆ より, M∆ が v より大きいスケールであるとする と, ニュートリノ質量の小ささを説明できる [7]。 8 2.5 MNS 行列と CKM 行列 質量行列 M によって構成したユニタリー行列 M M † は と対角化できる。ここで, UL M M † UL† = D2 (20) UR† = M † UL† D−1 (21) を定義すれば, 質量行列 M はユニタリー行列を使って UL M UR† = D (22) と対角化できることが分かる。従って, このときの各固有値が各世代の質量を意味する。 今, クォークの質量行列を UL Mu UR† = Du , VL Md VR† = Dd (23) と対角化したとき, 物質場は u → uUL , uc → UR† uc (24) d → dVL , dc → VR† dc (25) と再定義されることを意味する。このとき, W + と W − に対する相互作用項は L = uγ µ Wµ+ d† + dγ µ Wµ− u† † → uγ µ Wµ+ UCKM d† + dγ µ Wµ− UCKM u† (26) となり, アップ側とダウン側の間に世代をまたぐ相互作用(混合)が現れることがわかる。 ここで, 左手クォークを再定義する行列のずれ UCKM = UL VL−1 (27) がクォークの混合行列であり, CKM(Cabibbo-Kobayashi-Maskawa)行列とよばれてい る [8, 9]。 同様に, レプトンの質量行列を UL Me UR† = De , VL Mν VR† = Dν (28) と対角化をしたとき, 左手レプトンを再定義する行列のずれ UM N S = UL VL−1 (29) がレプトンの混合行列であり, MNS(Maki-Nakagawa-Sakata)行列とよばれている [10]。 9 2.6 標準模型が説明不能な点 以上のように, 標準模型は素粒子とその間の相互作用について, 非常によく記述できて いるが, 全ての実験結果を説明することは原理的に不可能である。以下に, 質量と混合に ついての実験値 [11] を示し, 標準模型が説明不能な実験的事実を列挙する。 本研究では, これらを統一的枠組みで記述する模型の構築を試みている。 2.6.1 ニュートリノ質量 標準模型において, ニュートリノは零質量(マスレス (massless))の粒子として扱われ る。しかし, ニュートリノ質量については, 2 乗の差が ∆221 = m2ν2 − m2ν1 = (7.50 ± 0.20) × 10−5 eV2 (30) × 10−3 eV (31) |∆232 | = |m2ν3 − m2ν2 | = (2.32+0.12 −0.08 ) 2 と測定されている。つまり, 他のフェルミオンに比べて極めて小さい(電子と比べても 10−(8∼9) 倍程度)が, ニュートリノは質量を持つ。この標準模型では記述できない実験 的事実を説明する常套手段が前述のシーソー機構であり, 本論文でもシーソー機構を採用 する。 2.6.2 フェルミオンの世代間質量階層構造 GSM に対して同じ変換則を持つ荷電レプトンとクォークが, それぞれ 3 世代存在する ことが観測されていて, 質量はそれぞれ 表2 レプトン質量の実験値 [MeV] me = 0.510998928 ± 0.000000011 mµ = 105.6583715 ± 0.0000035 mτ = 1776.82 ± 0.16 表3 クォーク質量の実験値 [MeV] mu = 2.3+0.7 −0.5 mc = 1275 ± 25 3 mt = 160+5 −4 × 10 md = 4.8+0.7 −0.3 ms = 95 ± 5 mb = 4180 ± 30 と測定されている。このように, 荷電レプトンとクォークには明らかな世代間の質量階層 構造が存在する。標準模型において, パラメータ(Yukawa 結合定数)を調整して実験値 10 と整合させることは可能であるが, 同じ Yukawa 相互作用項の係数に対して, 階層構造を 仮定することは不自然である。そこで, 前述の繰り込み不可能な相互作用項を導入し, 次 元を持つパラメータによって質量階層構造が自然に現れる模型が考案されている [12]。 2.6.3 特徴的な混合行列 3 × 3 ユニタリー行列は一般に, c12 c13 −s12 c23 + c12 s23 s13 −s12 s23 − c12 c23 s13 s12 c13 c12 c23 + s12 s23 s13 c12 s23 − s12 c23 s13 s13 −s23 c13 c23 c13 (32) と書ける。ここで, sij = sin θij , cij = cos θij であり, 各 θij は, 混合角とよばれている。 MNS 行列の混合角は sin2 (2θ12 ) = 0.857 ± 0.024 sin2 (2θ23 ) > 0.95 (33) sin2 (2θ13 ) = 0.00232+0.00012 −0.00008 と測定されている。これは, TBM(Tri-bimaximal) 混合 (sin θ12 √ √ 2/3 1/ 3 0 √ √ √ (34) UT BM = −1/√6 1/√3 −1/√ 2 −1/ 6 1/ 3 1/ 2 √ √ = 1/ 3, sin θ13 = 0, sin θ23 = 1/ 2)に非常に近いため, その背後には何らか の対称性が隠されていることを示唆している。このことに注目し, 有限群 Γ を導入するこ とで TBM 混合を導く模型が考案されているが, (1, 3) 行列要素 sin θ13 は式 (33) のよう に小さいが零ではない。実際, 式 (33) に対応する MNS 行列要素の値は UM N S 0.824+0.011 −0.010 = 0.500+0.027 −0.021 0.267+0.044 −0.027 0.547+0.016 −0.014 0.582+0.050 −0.023 0.601+0.048 −0.022 0.145+0.022 −0.031 0.641+0.061 −0.023 +0.052 0.754−0.020 (35) となっている [13]。 一方, CKM 行列は, UCKM 0.97427 ± 0.00015 = 0.22520 ± 0.00065 −3 (8.67+0.29 −0.31 ) × 10 0.22534 ± 0.00065 0.97344 ± 0.00016 −2 (4.04+0.11 −0.05 ) × 10 −3 (3.51+0.15 −0.14 ) × 10 −2 (4.12+0.11 −0.05 ) × 10 +0.000021 0.999146−0.000046 (36) と測定されており, 単位行列に近いため, クォークの混合は小さいと言える。 このように, クォークは小さい混合であるのに対して, レプトンは比較的大きな混合を 持つ。この実験的事実を, 標準模型は原理的に説明できない。 11 3 研究の動向 クォークとレプトンの質量と混合についての実験的特徴を説明するために, 標準模型に 対して追加的な離散対称性(フレーバー対称性 Gf )を導入することが試みられている。 ここで, フレーバー対称性はスペクトルには現れていないため, 自発的に破れていなけれ ばならない。離散対称性を採用する理由は, もし連続対称性を追加導入した場合, 新たな 粒子(ゲージ(局所)対称性であるなら対応するゲージボソン, 大域対称性であるなら零 質量の Goldstone ボソン)の存在が予言されるが, 観測されていないからである。 具体的には, GSM の有限群 Γ による直積拡大 GSM × Γ を採用した模型が考案され ている。つまり, クォークとレプトンの 3 世代を Γ の表現にそれぞれアサインすること で, 3 世代の存在を理由付けると共に, その背後にある対称性によって, 質量や混合の実験 的特徴が現れていると考える。 例えば, Γ として 4 次交代群 A4 や SU (3) の有限部分群 ∆(27) などを採用して, レプ トンの 3 世代を Γ の規約 3 次元表現に当てはめることで, 3 世代の存在を理由付けると共 に, ニュートリノ混合についての実験的特徴(ほぼ TBM 混合)を再現することが試みら れている。 また, GSM に対して変換せず, Γ のみに変換する新たなボソン(フレーボンとよぶ)を 導入し, 模型に繰り込み不可能な相互作用項も含めることで, 世代間質量階層構造を再現 する模型も提案されている。 以下, D4 , A4 , ∆(27) に基づいた模型の例を紹介する。ただし, いずれもレプトン側の みを議論している。 12 3.1 2 面体群 D4 に基づく模型 標準模型に離散群を導入する際, 2 次元以上の既約表現を持つ群を採用して, アサインメ ントによって 3 世代の存在を理由付けることが試みられている。とくにここでは, 非アー ベル群(2 次元以上の既約表現を持ちうる)の簡単な場合として, 2 面体群 D4 を考える。 D4 は O(2) の有限部分群であり, 2 次元の既約表現を持つ。 D4 は 8 個の元を持ち, 生成子 a, b を使って ⟨ ⟩ D4 = a, b | a4 = e, b2 = e, bab = a−1 (37) と定義される。つまり, 生成子 a, b は基本関係 a4 = e, b2 = e, bab = a−1 を満たし, D4 の任意の元は aα bβ (α, β = 1, 2, · · · ) の形で一意に書くことができる。D4 の既約表現に は 4 つの 1 次元表現と 1 つの 2 次元表現があり, それらを 1++ , 1+− , 1−+ , 1−− , 2 (38) と書く。また, 既約表現同士のテンソル積は ( ) ( ) α1 β1 2: , α2 β2 (39) 2 × 2 = 1++ + 1+− + 1−+ + 1−− (40) として 1++ 1+− 1−+ 1−− : α1 β1 + α2 β2 : α1 β1 − α2 β2 : −α1 β1 + α2 β2 : −α1 β1 − α2 β2 1pq × 1rs = 1tu (41) (42) と既約分解される。ここで, p, q, r, s = ± であり, t = pr, u = qs である。 今, レプトンの混合行列(MNS 行列)の実験的特徴を再現するにあたって Yukawa 相 互作用の余分な項を制限するために, 更なる追加的な対称性として 2 次巡回群 Z2 を導入 ⟨ ⟩ する。Z2 は 2 個の元を持ち, Z2 = z | z 2 = e と定義される。2 個の 1 次元既約表現を 持つが, その表現を便利のため 1, − 1 と表す(そのまま数字のように扱ってテンソル積 が計算できる)。 従って, 今考察する模型のフレーバー対称性は, Gf = D4 × Z2 となる。この群に対して 13 表4 D4 × Z2 に対するアサインメント ℓe ℓµτ ec ecµτ νec c νµτ H1 H2 H3 χ12 D4 1++ 2 1++ 2 1++ 2 1++ 1++ 1+− 2 Z2 1 1 −1 1 −1 −1 −1 1 1 1 とアサインし, 模型を構築していく [14]。ここで, ℓµτ ( c) ( ) ( ) ( c) νµ χ1 ℓµ µ c c = , eµτ = c , νµτ = c , χ12 = ℓτ τ χ2 ντ (43) であり, 3 つの Higgs ボソン (H1 , H2 , H3 ) と 2 つのフレーボン (χ1 , χ2 ) を導入して いる。 表 4 のアサインメントに対して GSM および Gf 不変な Yukawa 相互作用項は Le = Ye1 ec H1† ℓe + Ye2 ecµτ H2† ℓµτ + Ye3 ecµτ H3† ℓµτ + h.c. c ˜† ˜ † ℓe + YD2 νµτ LD = YD1 νec H H1 ℓµτ + h.c. 1 LM = c YM 1 νec νµτ χ12 + Λ(YM 2 νec νec + c c YM 3 νµτ νµτ ) (44) + h.c. と書ける。ここで, 添え字の e, D, M は荷電レプトン項, Dirac 項, Majorana 項を意味 する。3 つの Higgs ボソンがそれぞれ SU (2)L に対して真空期待値 1 ⟨Hi ⟩ = √ 2 ( ) vi (i = 1, 2, 3) 0 (45) を持つとき, 荷電レプトン項は, テンソル積の既約分解の基底(今の場合 (41) 式)を考慮 すれば(以後, この一文は省略する) ] 1 [ Le = √ Ye1 ec ev1 + Ye2 (ecµ eµ + ecτ eτ )v2 + Ye3 (ecµ eµ − ecτ eτ )v3 2 (46) となる。従って, 質量行列は対角型であり, 荷電レプトンの質量は me = |Ye1 v1 | |Y v + Y v | |Y v − Y v | √ , mµ = e2 2√ e3 3 , mτ = e2 2√ e3 3 2 2 2 (47) となる。次に, フレーボンが D4 に対して真空期待値 ⟨χ1 ⟩ = ⟨χ2 ⟩ = W (48) を持つとき, Dirac 項と Majorana 項は ] 1 [ LD = √ YD1 νec νe + YD2 (νµc νµ + ντc ντ ) v1 + h.c. 2 [ ] LM = YM 1 W (νec νµc + νec ντc ) + Λ YM 2 νec νec + YM 3 (νµc νµc + ντc ντc ) + h.c. 14 (49) となり, それぞれの質量行列は v1 MD = √ diag(YD1 , YD2 , YD2 ), MM 2 YM 2 Λ = YM 1 W YM 1 W YM 1 W YM 3 Λ 0 YM 1 W 0 YM 3 Λ (50) となる。従って, I 型のシーソー機構 (13) により, ニュートリノの質量行列は −1 T Mν = −MD MM MD x y = y z y w y w z (51) の形になる。この質量行列はユニタリー行列 cos θ√ V = − sin θ/√2 − sin θ/ 2 を使って, sin θ√ cos θ/√2 cos θ/ 2 0√ 1/ √2 −1/ 2 Dν = VL Mν VR† = V † Mν V = diag(m1 , m2 , m3 ), (52) (53) と対角化できる。今, 荷電レプトンの質量行列は対角型であったので, UL は単位行列とな る。従って, MNS 行列は UM N S = UL VL−1 = V (54) となる。 この模型では D4 に対して, レプトンの第 1 世代を 1++ , 第 2 世代と第 3 世代を 2 とア サインすることで, MNS 行列の実験的特徴((1, 3) 成分が零に近い)を再現できている。 しかし, 前述のように MNS 行列の (1, 3) 成分は零でないことが実験的に確かめられてい る。また, 世代間の質量階層構造が自然に再現できていない。 15 3.2 4 次交代群 A4 に基づく模型 次に, 3 次元既約表現を 3 世代に当てはめる模型を考える。とくにここでは, 4 次交代群 A4 を採用する。A4 は 3 次回転群 SO(3) の有限部分群であるので, 明らかに 3 次元の表 現を持つ。そして, 付録 A3 の定理を使うと既約表現に 3 次元表現があることが分かる。 また, A4 は 4 面体群と同型である。 A4 は, 12 個の元を持ち ⟨ ⟩ A4 = S, T | S 2 = (ST )3 = T 3 = 1 (55) と定義される。既約表現は 3 つの 1 次元表現と 1 つの 3 次元表現 1, 1′ , 1′′ , 3 (56) の 4 つである。また, 既約表現同士のテンソル積は β1 α1 β2 3 : α2 , β3 α3 (57) として αβ3 1′ × 3 = 3 : αβ1 αβ2 αβ2 1′′ × 3 = 3 : αβ3 αβ1 (58) (59) 3 × 3 = 1 + 1′ + 1′′ + 3S + 3A (60) 1 : α1 β1 + α2 β3 + α3 β2 1′ : α3 β3 + α1 β2 + α2 β1 1′′ : α2 β2 + α1 β3 + α3 β1 2α1 β1 − α2 β3 − α3 β2 3S : 31 2α3 β3 − α1 β2 − α2 β1 2α2 β2 − α1 β3− α3 β1 α2 β3 − α3 β2 3A : 13 α1 β2 − α2 β1 α3 β1 − α1 β3 (61) と既約分解される。 16 以下に, レプトンの混合と世代間質量階層構造について, A4 群に基づいて再現を試みた 模型を紹介する。 まず, ラグランジアン密度の余分な項を制限するために, 更なる追加的な対称性として 3 ⟨ ⟩ 次巡回群 Z3 を導入する。Z3 は 3 個の元を持ち, Z3 = z | z 3 = e と定義される。3 個の 1 次元既約表現持つが, 便利のため 1, ω, ω 2 と表す。ここで, ω は原始三乗根(ω 3 = 1) を意味する。 また, 新たな対称性として U (1)F N も導入する。ここで, 添え字の FN は Froggatt- Nielsen を意味し, その表現を FN チャージとよぶ。これに加えて, 他の群に対しては変換 せず, −1 の FN チャージを持つ場(フレーボン)θ を導入する。そして, 繰り込み不可能 な相互作用項を含めた模型を構築することで, 質量階層構造の再現が試みられている。 従って, 今考察する模型のフレーバー対称性は, Gf = A4 × Z3 × U (1)F N となる。この 群に対して 表5 A4 A4 × Z3 × U (1)F N に対するアサインメント ℓ ec µc τc H θ φT φS ξ 3 1 1′′ 1′ 1 1 3 3 1 2 2 1 1 1 ω ω 0 −1 0 0 0 2 Z3 ω ω U (1)F N 0 2 ω 1 ω 0 とアサインし, 模型を構築していく [15]。ここで, φT , φS , ξ はフレーボンである。 表 5 のアサインメントにおいて GSM 及び Gf 不変な Yukawa 相互作用項は, A4 の 3 次元表現としての添え字(つまり, フェルミオンの世代番号と φT , φS の番号)を省略 して Ye 2 c † Yµ 2 c † Yτ c † θ e H ℓφ + θ µ H ℓφ + τ H ℓφT + h.c. T T Λ3 Λ2 Λ Yν2 Yν1 ˜ † ˜ † ˜ † ℓH ˜ † ℓ + h.c. Lν = 2 ξ H ℓH ℓ + 2 φS H Λ Λ Le = (62) と書ける(以後, このように複数の項を代表して書き表す)。ここで, e と ν は荷電レプト ン項とニュートリノ項を表す。今, Higgs ボソンが真空期待値 (4) を持ち, フレーボンが A4 の 3 次元表現として真空期待値 w w ⟨ξ⟩ ⟨θ⟩ ⟨φT ⟩ ⟨φS ⟩ = 0 , = cb w , = ca w, =t Λ Λ Λ Λ 0 w 17 (63) を持つとき, 荷電レプトンの質量行列は Y t2 vw e 0 Me = √ 2 0 0 0 Yµ t 0 0 Yτ (64) となる。今, 全ての Yukawa 結合定数が同程度のオーダーとしても, パラメータ t によっ て自然に質量階層構造が現れることが分かる。これは, 各世代に U (1)F N を適切にアサイ ンすることで, θ の数(つまり Λ の次数)を調整しているためである。この模型では別々 の役割(フレーバー対称性を破る役割と質量階層構造を持たせる役割)を持つ 2 種類のフ レーボンを導入している。 また, ニュートリノの質量行列は a + 2b/3 v −b/3 Mν = Λ −b/3 2 −b/3 −b/3 2b/3 a − b/3 a − b/3 2b/3 (65) v2 = diag(|a + b|, |a|, | − a + b|) Λ (66) の形となるので, Dν = VL Mν VR† = UT† BM Mν UT BM と対角化できる。従って, MNS 行列は UM N S = UL VL−1 = UT BM (67) となる。 この模型では, レプトンに対して A4 の 3 次元表現をアサインすることで, 3 世代の存 在を理由付けながら, MNS 行列の実験的特徴(ほぼ TBM 混合)を再現できている。同 時に, 荷電レプトンの世代間質量階層構造も再現できている。しかし, 前述のように MNS 行列は TBM 混合行列からの有意なずれが実験的に観測されている。また, この模型のよ うな, 必要に応じた多数のフレーボンの導入は幾分恣意的であると言える。 18 3.3 有限群 ∆(27) に基づく模型 最後に有限群 ∆(27) を採用した模型を考える。∆(27) は SU (3) の有限部分群であり, 3 次元の既約表現を持つ(詳しくは付録 B を参照)。 Gf = ∆(27) に対して 表6 ∆(27) に対するアサインメント ∆(27) ℓ ec H ∆ 3 3 3 3 とアサインして, 模型を構築していく [16]。ここで, Higgs ボソン(Higgs 二重項 (H) と Higgs 三重項 (∆))に対して ∆(27) の 3 次元表現をアサインすることは, それぞれ 3 個 (∆(27) の 3 成分)導入することを意味している。 表 6 のアサインメントにおいて GSM 及び Gf 不変な Yukawa 相互作用項は Lℓ = Ye ec H † ℓ + Y∆ ℓ¯c iσ 2 ∆ℓ (68) と書ける。ここで, 例えば第一項は既約分解によって 3 つの不変な項となり, それぞれ異 なる Yukawa 結合定数を持つが, その 3 つの Yukawa 結合定数を代表して Ye で表してい る(以後同様)。Higgs ボソンが ∆(27) に対して真空期待値 ⟨∆1 ⟩ δ1 v1 ⟨H1 ⟩ ⟨H⟩ = ⟨H2 ⟩ = v2 , ⟨∆⟩ = ⟨∆2 ⟩ = δ2 δ3 ⟨∆3 ⟩ v3 ⟨H3 ⟩ (69) を持ち, SU (2)L に対して真空期待値 ( ) 0 ⟨Hi ⟩ = , ⟨∆0j ⟩ = δi (i, j = 1, 2, 3) vi (70) を持つとき, 質量行列は Ye1 v1 Ye2 v3 Ye3 v2 Me = Ye3 v3 Ye1 v2 Ye2 v1 Ye2 v2 Ye3 v1 Ye1 v3 Y∆1 δ1 Y∆2 δ3 Y∆2 δ2 Mν = Y∆2 δ3 Y∆1 δ2 Y∆2 δ1 Y∆2 δ2 Y∆2 δ1 Y∆1 δ3 19 (71) (72) となる。このとき, ニュートリノは Majorana であるので, 質量行列は対称でなくてはな らない。 真空期待値を v = v1 = v2 = v3 と仮定すると, 荷電レプトンの質量行列は 1 1 √ 1 UL = UR = 3 1 1 ω2 ω 1 ω ω2 (73) を使って, UL Me UR† = Ye1 + Ye2 + Ye3 0 v 0 0 Ye1 + ωYe2 + ω 2 Ye3 0 0 0 2 Ye1 + ω Ye2 + ωYe3 (74) と対角化できる。また, δ = δ1 , δ2 = δ3 = 0 と仮定すると, ニュートリノの質量行列は 0√ 0√ 1/ √2 1/√2 −1/ 2 1/ 2 1 0 VL = VR = 0 を使って, Y∆1 † 0 VL Mν VR = δ 0 0 Y∆2 0 0 0 −Y∆2 (75) (76) と対角化できる。従って, このときの MNS 行列は UM N S = UL VL−1 √ 1/√3 = 1/√3 1/ 3 √ 2/3 √ −1/√6 −1/ 6 0√ i/ √2 −i/ 2 (77) となる。 今, MNS 行列に 0 U= 1 0 1 0 0 0 0 i (78) を右から作用させれば TBM 混合行列となる(UM N S U = UT BM )ことに注目して, √ √ 0 1/ 2 1/ 2 0√ 0√ VL′ = VR′ = U −1 VL = 1 0 i/ 2 −i/ 2 20 (79) を定義する。つまり, ′ ′ UM N S = UL VL −1 = UL VL−1 U = UM N S U (80) となるので, この場合のレプトンは TBM 混合となる。そこで, 改めてニュートリノの質 量行列 (72) を λd f Mν = f λe e d e d λf (81) † と書き, VL′ と VR′ で挟むと VL′ Mν VR′ † √ d + λ(e + √ f )/2 (e + f )/ 2 = (e + f )/ 2 λd √ λ(e − f )i/2 (−e + f )i/ 2 λ(−e + f )i/2 √ (e − f )i/ 2 −d + λ(e + f )/2 (82) となる。ここで, e, f ≪ d と仮定すれば, ニュートリノの質量行列は, VL′ に近い行列に よって対角化されると言える。従って, TBM 混合に近い MNS 行列が予言された。 この模型は, 標準模型に対して ∆(27) を追加導入することのみによって, レプトンの混 合が TBM 混合に近いという実験的特徴を再現できている。ただし, その際には真空期待 値に対して理由なく階層構造を課しているので, 質量階層構造について何の説明もできて いないことになる。 21 4 半直積群 GSM ⋊ ∆(27) に基づく模型 本研究では, GSM の ∆(27) による半直積拡大 G = GSM ⋊ ∆(27) を新たなゲージ群と して採用する。次節で示すように, この模型においてクォークは ∆(27) の射影表現, レプ トンは線形表現となる。この表現の違いが, 両者の混合行列の違いに反映すると期待して いる。 また, 前述した他の研究で行われている模型の拡張(フレーボンなどの仮説的粒子の導 入, 対称性の追加)を行うことで, クォークとレプトンの世代間質量階層構造と両者の混合 行列の違いについて, 統一的枠組みで自然に説明できる模型の構築を試みる。そこで, ま ずクォーク側のみを議論し, 最も実験と整合する模型をレプトン側へと拡張する。 4.1 GSM の ∆(27) による半直積拡大 直積群 Gc × Γ ∋ (g, s) における積の定義は, g ∈ Gc と s ∈ Γ に対して, (g, s)(g ′ , s′ ) = (gg ′ , ss′ ) (83) である。これに対し, 半直積群 Gc ⋊θ Γ ∋ (g, s) における積は (g, s)(g ′ , s′ ) = (gθs (g ′ ), ss′ ) (84) と定義される。ここで, θs (·) は Gc の自己同型写像, すなわち θs : Gc ∋ g → θs (g) ∈ Gc であって, 準同型性 θs (g)θs (g ′ ) = θs (gg ′ ) (g, g ′ ∈ Gc ) (85) を満たす全単射である。また, θs は s についての準同型性 θss′ (·) = θs (θs′ (·)) (86) を満たす。つまり, θ は Gc の自己同型群 Aut(Gc ) への準同型写像 Aut(Gc ) ∈ → ∈ θ: Γ s θs (87) を意味する。式 (84) のように半直積群では Gc の積に Γ の元が関与する。以後, とくに θ として内部自己同型 θs (g) = γs gγs −1 22 (88) を考える。このとき, γs ∈ Gc は γs γs′ = fs,s′ γss′ (89) を満たさなければならない。ここで, fs,s′ は Gc の中心元(Gc の全ての元と可換)であ り, その集合はファクターセット(因子団)とよばれている。 一般の半直積群 Gc ⋊ Γ ∋ (g, s) の線形表現 R(g, s) は, Gc の線形表現 R と, Γ の射影 表現 ρ のテンソル積 R(g, s) = R(gγs ) ⊗ ρs ∗ (90) ρs ρs′ = R(fs,s′ )ρss′ (91) で与えられる [17]。ただし, を満たす。今, GSM の ∆(27) による半直積拡大 GSM ⋊ ∆(27) = (SU (3)c × SU (2)L × U (1)Y ) ⋊ ∆(27) (92) を考える。このとき, SU (2)L × U (1)Y については直積群との実質的な違いは現れない が, SU (3)c について, クォーク(レプトン)は 3(1)次元表現であるために, ∆(27) の射 影(線形)表現となる。 23 4.2 模型その 1 クォークが ∆(27) の射影表現になるという条件のみを課し, アサインメントを 表7 ∆(27) に対するアサインメント ∆(27) q ¯l 3 uc dc H 3m 3n 3 として模型を構築していく。 表 7 のアサインメントにおいて不変な Yukawa 相互作用項は ˜ † q + Yd dc H † q + h.c. Lq = Yu uc H (93) と書ける。Higgs ボソンが ∆(27) に対して真空期待値 h1 ⟨H⟩ = h2 h3 (94) を持ち, それぞれが SU (2)L に対して真空期待値 1 ⟨hi ⟩ = √ 2 を持つとき, 質量行列は 0 Mu = Yu v3 0 0 0 v1 ( ) 0 (i = 1, 2, 3) vi v2 0 0 , Md = Yd 0 0 v2 (95) v3 0 0 0 v1 0 (96) となる。両者は係数を除いて転置の関係にあるので, 大きな混合が予想される。実際, v1 † UL Mu UR = Yu 0 0 0 v2 0 0 v1 † 0 , VL Md VR = Yd 0 v3 0 0 v2 0 0 0 v3 (97) と対角化したとき(各世代ごとのアップ側とダウン側のクォークの質量比が世代によらず 同じとなる), CKM 行列は UCKM = UL VL−1 0 1 = 0 0 1 0 0 1 0 となる。これは非常に大きな混合を意味し, 実験的特徴から逸脱している。 24 (98) 4.3 模型その 2 アップ側とダウン側のクォークに同様の質量行列を持たせる(つまり, 単位行列に近い CKM 行列を予言する)ために, 互いに逆符号のハイパーチャージを持つ 2 つの Higgs ボ ソン(Hv , Hw )を導入する (2 Higgs Doublet Model : 2HDM)[18]。右手のニュートリ ノを含めた標準模型に対して, (1, 2, 1) と変換する Hv と, (1, 2, − 1) と変換する Hw を導入したとき, ゲージ不変である繰り込み可能な Yukawa 相互作用項は ˜ v† ℓ + ν c Hw† ℓ) + Ye (ec Hv† ℓ + ec H ˜ w† ℓ) L2HDM = Yν (ν c H ˜ v† q + uc Hw† q) + Yd (dc Hv† q + dc H ˜ w† q) + Yu (dc H (99) と書ける。 ここで, 可能な Yukawa 相互作用項を制限するために, 追加の離散対称性として Z2 を 導入する。つまり, 今考慮する模型は (GSM ⋊ ∆(27)) × Z2 である。この模型に対してア サインメントを 表 8 ∆(27) と Z2 に対するアサインメント uc dc Hv Hw ∆(27) q ¯l 3 3m 3n 3 3 Z2 1 1 −1 −1 1 として模型を構築していく。 表 8 のアサインメントにおいて不変な Yukawa 相互作用項は Lq = Yu uc Hw† q + Yd dc Hv† q + h.c. (100) と書ける。Higgs ボソンが ∆(27) に対して真空期待値 (hv )1 (hw )1 ⟨Hv ⟩ = (hv )2 , ⟨Hw ⟩ = (hw )2 (hv )3 (hw )3 (101) を持ち, それぞれが SU (2)L に対して真空期待値 ( ) ( ) 0 wj ⟨(hv )i ⟩ = , ⟨(hw )j ⟩ = (i, j = 1, 2, 3) vi 0 25 (102) を持つとき, 質量行列は 0 Mu = Yu 0 w2 w3 0 0 0 0 w1 , Md = Yd 0 0 v2 0 w2 0 0 v1 0 , VL Md VR† = Yd 0 w3 0 v3 0 0 0 v1 0 (103) となる。また, w1 UL Mu UR† = Yu 0 0 0 v2 0 0 0 v3 (104) と対角化したとき, CKM 行列は UCKM = UL VL−1 1 0 = 0 1 0 0 0 0 1 (105) となる。 従って, この模型ではクォークの混合が小さいという実験的事実を再現できる。しか し, 1)CKM 行列の実験値は, 前述のように単位行列から無視できないほど大きくずれて いる。2)質量階層構造を説明するためには, Higgs ボソンの真空期待値に理由なく階層構 造を課す必要がある。などの問題を含んでいる。 26 4.4 模型その 3 4.4.1 模型構築の考え方 フェルミオンの世代間質量階層構造の傾向を実験値から考察する。今, クォークの世代 間質量比 mc /mt ≃ (7.6 ∼ 8.3) × 10−3 mu /mc ≃ (1.4 ∼ 2.4) × 10−3 ms /mb ≃ (2.1 ∼ 2.4) × 10−2 md /ms ≃ (4.5 ∼ 6.1) × 10−2 に注目すると, ϵu ∼ O(10−3 ), ϵd ∼ O(10−2 ) として, クォーク/レプトンの第 3 世代の質 量を O(1) と書いたとき, クォークは質量階層構造 O(ϵ2q ), O(ϵq ), O(1) (q = u, d) (106) を持つことが分かる。同様に, 荷電レプトンの世代間質量比 mµ /mτ ≃ 5.9 × 10−2 √ me /mµ ≃ 7.0 × 10−2 に注目すると, ϵe ∼ O(10−2 ) としたとき, 荷電レプトンは質量階層構造 O(ϵ3e ), O(ϵe ), O(1) (107) を持つことが分かる。 そこで, クォークと荷電レプトンの質量行列がそれぞれある一つの小さなパラメータ ϵ(∼ 10−(2∼3) ) に依存していると考え, 質量行列 M を ϵ のべきで展開して M = M 0 + ϵM 1 + · · · (108) とする。ここで, 式 (106) と式 (107) により, ϵ → 0 において第 1 世代と第 2 世代の質量は 零になるべきなので, M0 の固有値は (0, 0, O(1)) の形になる。さらに, det M が質量固 有値の積となるので, もし det M ∼ O(ϵ3 ) であれば, 各世代の質量は O(ϵ2 ), O(ϵ), O(1) となって, 質量階層構造が自然に現れる。このような質量行列として, 例えば O(ϵ) 0 M∼ 0 O(1) 0 O(ϵ) 0 0 O(ϵ) 27 (109) がある。 上述の議論を基にして, フレーボン f を導入し, 繰り込み不可能な相互作用を含めて質 量生成項を構成する。つまり, Yukawa 相互作用項を L ∼ Y (0) ϕψ 2 + Y (1) 2 Y (2) ϕψ f + 2 ϕψ 2 f 2 + · · · Λ Λ (110) などと書いて, (108) のような複数のスケールを持つ質量行列を構築する。ここで, ϕ と ψ はそれぞれボソンとフェルミオンを表す。今, 次元を持たない係数(Yukawa 結合定数) は全て O(1) 程度, 次元を持つスケールパラメータ ϵ= ⟨f ⟩ Λ (111) は O(10−(2∼3) ) 程度とする。一般に, これらのパラメータは物質場によって異なる値を 持つ。 ここで, 可能な Yukawa 相互作用項を制限するために, 4 次巡回群 Z4 を追加導入する。 ⟨ ⟩ Z4 は 4 個の元を持ち, Z4 = z | z 4 = e と定義される。4 個の 1 次元既約表現持つが, 便 利のため生成子 1, − 1, i, − i によって表す。 このような対称性とフレーボンを含む模型において, クォークとレプトンのアサインメ ントを適当に定める過程で, 実験データと比較的よく整合する質量・混合を与えた場合を 以下に提示する。 4.4.2 クォーク側 アサインメントを 表 9 ∆(27) と Z4 に対するアサインメント uc dc Hv Hw f ∆(27) q ¯l 3 3m 3n 3 3 3 Z4 1 i 1 1 i i としたとき, 不変な Yukawa 相互作用項は Lq = Yu(0) uc Hw† q + (1) (2) Yu ˜ v† qf ∗ + Yu uc Hw† qf ∗ f uc H Λu Λ2u (2) (1) Y (0) ˜ w† qf ∗ + Yd dc Hv† qf ∗ f + h.c. + Yd dc Hv† q + d dc H Λd Λ2d 28 (112) と書ける。∆(27) の 3 次元表現となっている Higgs ボソンとフレーボンが真空期待値 hv hw ϵ ⟨f ⟩ q ⟨Hv ⟩ = 0 , ⟨Hw ⟩ = 0 , = ϵq (q = u, d) Λq 0 0 ϵq (113) を持ち, SU (2)L の 2 次元表現の Higgs ボソンが真空期待値 ( ) ( ) 0 w ⟨hv ⟩ = , ⟨hw ⟩ = v 0 (114) を持つとする。このとき質量行列は (1) ϵu Yu1 v = 0 2 (2) ϵu Yu3 w Mu = Md (1) ϵd Yd1 w 0 (2) ϵ2d Yd3 v (0) (2) Yu w + ϵ2u Yu1 w (1) ϵu Yu2 v 0 (0) Yd v (2) + ϵ2d Yd1 v (1) ϵd Yd2 w 0 0 (2) ϵ2u Yu2 w , (1) ϵu Yu3 v 0 (115) (2) ϵ2d Yd2 v (1) ϵd Yd3 w となる。ここで, 両者の行列式は O(ϵ3q ) (q = u, d) であり, O(ϵ2q ), O(ϵq ), O(1) の質量階 層構造が現れることが予想される。実際, ϵ2q の項までを取って近似すると, 質量固有値は LO で (1) mu = ϵ2u md = ϵ2d v 2 Yu1 (0) Yu |w| (1) w2 Yd1 |v| (1) Yu2 (1) , mc = ϵu |v| Yu3 , mt = |w| Yu(0) (116) (1) (117) (1) Yd2 (0) Yd (0) , ms = ϵd |w| Yd3 , mb = |v| Yd と計算でき, クォークの質量階層構造をよく再現できたと言える。 CKM 行列は, LO で明らかに単位行列であるが, 繰り込み不可能な相互作用項によって 単位行列からわずかにずれて UCKM u) ϵd − ϵu 1 − (ϵd −ϵ 2 1 − (ϵd − ϵu )2 ∼ −(ϵd − ϵu ) −ϵd (ϵd − ϵu ) ϵd − ϵu + ϵ2d + ϵ2u 2 ϵu (ϵd − ϵu ) −(ϵd − ϵu ) + ϵ2d + ϵ2u 2 u) 1 − (ϵd −ϵ 2 (118) と予言される。ただし, Y ∼ O(1) として, ϵ の次数のみを書いている。この予言は, 実験 的に観測されている単位行列からのずれ(非対角成分の内 (1, 2) 成分と (2, 1) 成分が比較 的大きい)を再現できたと言える。 29 4.4.3 レプトン側 前述のように, クォーク側では実験をよく再現できている。そこで, クォーク側の模型 を崩さずに(Higgs ボソンとフレーボンのアサインメントは変更せずに)レプトン側へ拡 張し, 両者の実験的特徴を同時に再現する模型の構築を試みる。 アサインメントを 表 10 ∆(27) と Z4 に対するアサインメント ℓ ec µc τc ∆ ∆(27) 3 1 1 1 3 Z4 i 1 i −i −1 としたとき, 不変な Yukawa 相互作用項は Le = Ye(0) τ c Hv† ℓ (2) Ye + 2 τ c Hv† ℓf ∗ f Λe (3) (1) + Ye ˜ † ℓf f ∗ f ˜ † ℓf + Ye µc H µc H w w Λe Λ3e (3) (119) Ye + 3 ec Hv† ℓf f f Λe (2) Y (0) Lν = Y∆ ℓ¯c iσ 2 ∆ℓ + ∆2 ℓ¯c iσ 2 ∆ℓf ∗ f Λ∆ と書ける。Higgs 三重項 ∆ とフレーボンが ∆(27) に対して真空期待値 δ ϵ ⟨f ⟩ ℓ ⟨∆⟩ = 0 , = ϵℓ (ℓ = e, ∆) Λℓ 0 ϵℓ (120) を持ち, Higgs 三重項が SU (2)L に対して真空期待値 ∆01 = δ を持つとき, 荷電レプトン の質量行列は (3) ϵ3e Ye1 v (1) (3) Me = ϵe Ye1 wf + ϵ3e Ye4 w (2) ϵ2e Ye1 v (3) ϵ3e Ye2 v (1) (3) ϵe Ye2 wf + ϵ3e Ye5 w (2) ϵ2e Ye2 v (3) ϵ3e Ye3 v (1) (3) ϵe Ye3 wf + ϵ3e Ye6 w (121) (0) (2) Ye v + ϵ2e Ye3 v となる。ここで, 行列式は O(ϵ4e ) であり, O(ϵ3e ), O(ϵe ), O(1) の質量階層構造が現れるこ 30 とが予想される。実際, ϵ3e の項までを取って近似すると, 質量固有値は LO で (1) (3) (1) (3) Ye2 Ye1 − Ye1 Ye2 |v| √ me = (1) 2 (1) 2 Ye1 + Ye2 √ (1) 2 (1) 2 mµ = ϵe Ye1 + Ye2 |w| ϵ3e (122) mτ = Ye(0) |v| となり, 荷電レプトンの質量階層構造をよく再現できたと言える。 次に, ニュートリノの質量行列は (0) (2) Y∆1 + ϵ2∆ Y∆1 (2) Mν = δ ϵ2∆ Y∆4 (2) ϵ2∆ Y∆5 (2) ϵ2∆ Y∆4 (2) ϵ2∆ Y∆2 (0) (2) Y∆2 + ϵ2∆ Y∆6 (2) ϵ2∆ Y∆5 (0) (2) Y∆2 + ϵ2∆ Y∆6 (2) ϵ2∆ Y∆3 (123) となる。この場合, 行列式が O(Y∆ ) であるので, 他のフェルミオンのような桁違いの質量 階層構造は現れないことが分かる。一方, ニュートリノ質量の実験値については √ ∆m232 = ∆m221 √ m23 − m22 ≃ 5.3 ∼ 5.9 m22 − m21 (124) が分かっている。これは, 他のフェルミオンほどの質量階層構造はないことを意味する。 従って, この結果は実験と矛盾しない。ここで, Yukawa 結合定数に制限を加えて (0) (2) (2) (2) Y∆1 + ϵ2∆ Y∆1 ϵ2∆ Y∆4 ϵ2∆ Y∆4 (2) (2) (0) (2) Mν = δ ϵ2∆ Y∆4 ϵ2∆ Y∆2 Y∆1 + ϵ2∆ Y∆ (2) (0) (2) (2) ϵ2∆ Y∆4 Y∆1 + ϵ2∆ Y∆ ϵ2∆ Y∆2 ( ) (2) (2) (2) (2) Y∆ = Y∆1 − Y∆2 + Y∆4 (125) であると仮定すると VL Mν VR† = UT† BM Mν UT BM = diag(mν1 , mν2 , mν3 ) (126) と対角化できる。このとき, 質量固有値は (0) (2) (2) (0) (2) (2) (0) (2) mν1 = |δ| Y∆1 + ϵ2∆ (Y∆1 − Y∆4 ) mν2 = |δ| Y∆1 + ϵ2∆ (Y∆1 + Y∆4 ) (2) (127) (2) mν3 = |δ| Y∆1 + ϵ2∆ (Y∆1 − 2Y∆2 + Y∆4 ) 31 となり, 質量階層構造は現れていない。そして, この場合の混合行列を ϵ3e の項までを取っ て計算すると O(ϵ2e ) O(ϵ3e ) O(1) O(ϵe ) UT BM O(ϵe ) 1 − O(ϵ2e ) O(ϵ2e ) O(ϵ2e ) O(ϵe ) O(ϵe ) O(ϵe ) O(ϵe ) UM N S 1 −1 = UL VL ∼ O(ϵ2e ) O(ϵ3e ) O(ϵ2e ) ≃ UT BM + O(ϵe ) O(ϵe ) (128) となる。これは実験的に観測されている TBM からの有意なずれを再現できていると言え る。従って, この模型はレプトン混合の実験値とは矛盾しない。ただし, √ ( ∆m232 = ∆m221 (2) 2Y∆2 + (2) Y∆4 )( (2) 3Y∆4 (0) −2Y∆1 ( + ϵ2∆ (0) ( ( (2) −2Y∆1 + (2) (2) 2Y∆2 (2) 2Y∆1 + ϵ2∆ 2Y∆1 + Y∆4 )) − (2) 3Y∆4 )) (129) において ϵ∆ → 0 とすると (2) (2) 2Y +Y ∆m232 = − ∆2 (2) ∆4 ∼ 30 2 ∆m21 3Y (130) ∆4 より, (2) Y∆2 (2) Y∆4 ∼ O(10) (131) となる。従って, 実験結果を再現するためには Yukawa 結合定数に有意な階層構造が必要 となる。 この模型は, クォークと荷電レプトンの世代間質量階層構造と混合行列について, 実験 をよく再現できているといえる。ただし, ニュートリノ質量の実験値を自然に再現するこ とはできていない。 32 5 まとめ 標準模型は, 素粒子とその間の相互作用を実験と矛盾なく記述できる。しかし, 実験的 事実(他のフェルミオンに比べて極めて小さいニュートリノ質量の存在, フェルミオンが 持つ世代間の質量階層構造, クォークとレプトンの混合行列(CKM 行列と MNS 行列) の特徴)を原理的に説明することができない。 ニュートリノが質量を持ち, 且つそれが小さい理由を説明することのできる, 標準模型 の繰り込み可能な拡張(仮説的粒子の導入)として, シーソー機構が提案されている。本 研究では, その内 II 型のシーソー機構を採用した。 フェルミオンの 3 世代(標準模型の枠組みでは区別されない)の存在を理由付け, レプト ン混合の実験的特徴を再現するために, 標準模型に追加的な対称性として, 離散群 Γ を導 入する模型が提案されてきている。これらの研究のほとんどは GSM とは無関係に導入し ている(直積群)が, 本研究では GSM の ∆(27) による半直積拡大 G = GSM ⋊ ∆(27) を 新たなゲージ群として採用し, 模型を構築した。なぜなら, 半直積群の性質により, クォー ク(レプトン)は SU (3)c の 3(1)次元表現であるために ∆(27) に対して射影(線形)表 現となる。この表現の違いが両者の混合行列の実験的特徴(クォークの混合は小さく, レ プトンの混合は TBM 混合に近い)に反映することが期待できるからである。 フェルミオンの世代間質量階層構造を再現するために, GSM で変換せずに Γ でのみ変 換するボソン(フレーボン)を新たに導入し, 繰り込み不可能な相互作用も含めた質量生 成項の構成が試みられている。本研究においても, ∆(27) でのみ変換するフレーボンを導 入した。 そして, 各物質場に ∆(27) の既約表現を適切に割り当てることで, クォークとレプトン の実験的特徴を統一的に記述する模型の構築を試みた。その際, 離散対称性 Z4 を追加導 入している。 繰り込み不可能な相互作用項によって現れるスケールパラメータ ϵ を使って, クォーク の世代間質量階層構造(O(ϵ2q ), O(ϵq ), O(1) (q = u, d))と荷電レプトンの世代間質量階 層構造(O(ϵ3e ), O(ϵe ), O(1))を自然に再現することができた。ここで, O(1) は各フェル ミオンの最も質量の大きい粒子のオーダーを意味し, ϵu ∼ O(10−3 ), ϵd ∼ O(10−2 ), ϵe ∼ O(10−2 ) である。 互いに逆符号のハイパーチャージを持つ 2 つの Higgs ボソンを導入することで, アップ 側とダウン側のクォークに同様の質量行列を持たせることが可能となり, 単位行列からわ ずかにずれた CKM 行列が予言された。これは実験をよく再現できている。 33 Yukawa 結合定数に制限を加えることで, TBM 混合から O(ϵe ) ∼ O(ϵ2e ) 程度ずれた MNS 行列が予言された。これは実験的に観測されている TBM からの有意なずれを再現 できていると言える。従って, この模型はレプトン混合の実験値とは矛盾しない。 ただし, ニュートリノ質量の実験値を自然に再現することはできていない。 以上のように, この模型は実験をよく再現できたといえる。しかし, 全ての可能な既約 表現の割り当てを行ったわけではなく, Higgs ボソンやフレーボンの真空期待値に仮定的 な制限を加えている。また, 今回はフレーボンを 1 つしか導入していないが, 複数導入す るなどの工夫の余地が存在する。 34 6 謝辞 今回の修士論文の執筆にあたり, 御多忙中にも関らず, 丁寧に御指導をして下さった松 永守准教授に感謝致します。また, 服部忠一朗, 松岡武夫の両氏には ∆(27) の射影表現に ついての未発表の結果の一部を使用させて頂いたことに感謝致します。そして, 愉快で頼 もしい量子物理学研究室のメンバーに囲まれ, 非常に有意義な二年間を過ごせたことに感 謝致します。 35 付録 A 群と表現 読者の便利のため, 以下に群論の概要を示す。 A.1 群の定義 ある 1 つの変換操作または演算を元とよび, 幾つかの異なる元の集合を G とする。G に属する任意の元について次の公理が満たされるとき G を群という。 1. G に属する任意の 2 つの元 a, b に対して積が定義されていて, 積 a · b または ab も また G の元に含まれる。 2. 3 つの元 a, b, c に対して結合則 (ab) · c = a · (bc) (132) が成り立つ。 3. G には単位元 e が含まれていて, 任意の元 a について ae = ea = a (133) が成り立つ。 4. すべての元 a に対して, その逆元 a−1 が存在して aa−1 = a−1 a = e (134) が成り立つ。 G にふくまれる元の数 r を群 G の位数という。単位元 e は恒等変換であり, 単位元や 逆元は一意的に定まる。 A.2 表現 群 G をベクトル空間 V の一次変換の集合 GL(V ) へ準同型写像したものを表現とい う。また, G の各元 gi に対応して d × d 行列 D(gi ) が存在し, 積 gi gj = gk に対応して D(gi )D(gj ) = D(gk ) (135) が満たされるとき, D(gi ) を群 G の d 次元表現という。とくに D(g) がユニタリー行列の 場合, それをユニタリー表現という。単位元 e に対する表現 D(e) は単位行列になる。gi 36 の逆元 gi−1 の表現は D(gi ) の逆行列 D(gi−1 ) = D(gi )−1 (136) となる。 各元 g の表現 D(g) のトレース χ(g) を指標という。 χ(g) = tr(D(g)) (137) 単位元 e の表現 D(g) は単位行列で与えられるから指標はその表現の次元 d に一致する。 A.3 表現についての諸定理 1. 位数 r の群 G の既約表現の個数 nr は, 類の個数 nc に等しい。 nr = nc 2. 指標の第一種直交性 nc ∑ (138) ri χ(α)∗ (Ci )χ(β) (Ci ) = rδαβ (139) i=1 が成り立つ。 3. 指標の第二種直交性 nr ∑ χ(α)∗ (Ci )χ(α) (Cj ) = δij α=1 r ri (140) が成り立つ。 4. 同値でない既約表現の次元数の 2 乗の和は群の位数 r に等しい。 d21 + d22 + · · · + d2nr = r (141) 5. 指標の関係式 ri rj χ(α) (Ci )χ(α) (Cj ) = dα ∑ k が成り立つ。 37 ckij rk χ(α) (Ck ) (142) 付録 B 有限群 ∆(27) B.1 定義 ∆(27)(= (Z3 × Z3 ) ⋊ Z3 )は 27 個の元を持ち, ∆(27) = ⟨ a, c, d | a3 = c3 = d3 = 1, aca−1 = c−1 d−1 , ada−1 = c, cdc−1 = d ⟩ (143) と定義される。また, SU (3) の有限部分群である。 B.2 線形表現とその指標表 線形表現の既約表現は 1(r,s) , 3, ¯ 3 (r, s = 0, 1, 2) (144) C1 : {e}, C2 : {c2 d}, C3 : {cd2 } C(0,1) : {c, d, c2 d2 } C(0,2) : {c2 , d2 , cd} C(1,p) : {acp , acp−1 d, acp−2 d2 } C(2,p) : {a2 cp , a2 cp−1 d, a2 cp−2 d2 } (145) で与えられ, 同値類は である。このとき指標表は 表 11 線形表現の指標表 class 1(r,s) 3 1C1 1 3 ¯ 3 3 2 1C2 1 3ω 1C3 1 3ω 3ω 2 3C(0,1) ωs 0 0 3C(0,2) ω 2s 0 0 3C(1,p) ω r+sp 0 0 3C(2,p) 2r+sp 0 0 ω となる。 38 3ω 1(r,s) は, c = d であるので a = ωr , c = d = ωs となり, 3 の具体的な形は 2 1 0 0 ω 0 0 ω 0 0 C1 : e = 0 1 0 , C2 : c2 d = 0 ω 2 0 , C3 : cd2 = 0 ω 0 , 0 0 1 0 0 ω2 0 0 ω 2 1 0 0 ω 0 0 ω 0 0 C(0,1) : c = 0 ω 0 , d = 0 1 0 , c2 d2 = 0 ω 2 0 , 0 0 ω2 0 0 ω 0 0 1 2 ω 0 0 1 0 0 ω 0 0 C(0,2) : c2 = 0 ω 2 0 , d2 = 0 1 0 , cd = 0 ω 0 , 0 0 1 0 0 ω 0 0 ω2 2 0 1 0 0 ω 0 0 ω 0 0 ω 2 , acd2 = 0 0 ω , C(1,0) : a = 0 0 1 , ac2 d = 0 2 1 0 0 ω 0 0 ω 0 0 0 ω2 0 0 1 0 0 ω 0 C(1,1) : ac = 0 0 ω 2 , ad = 0 0 ω , ac2 d2 = 0 0 1 , ω 0 0 ω2 0 0 1 0 0 0 ω 0 0 1 0 0 ω2 0 C(1,2) : ac2 = 0 0 ω , ad2 = 0 0 ω 2 , acd = 0 0 1 , ω2 0 0 ω 0 0 1 0 0 0 0 ω 0 0 ω2 0 0 1 0 , a2 cd2 = ω 0 0 , C(2,0) : a2 = 1 0 0 , a2 c2 d = ω 2 0 2 0 ω 0 0 1 0 0 ω 0 0 0 ω2 0 0 ω 0 0 1 C(2,1) : a2 c = 1 0 0 , a2 d = ω 2 0 0 , a2 c2 d2 = ω 0 0 , 0 ω 0 0 1 0 0 ω2 0 0 0 ω 0 0 ω2 0 0 1 C(2,2) : a2 c2 = 1 0 0 , a2 d2 = ω 0 0 , a2 cd = ω 2 0 0 0 ω2 0 0 1 0 0 ω 0 である。 39 B.3 線形表現のテンソル積の既約分解 線形表現のテンソル積は ¯= 3×3 2 ∑ 1(r,s) (146) ¯+3 ¯+3 ¯ 3×3=3 (147) 3 × 1(r,s) = 3 ¯ × 1(r,s) = 3 ¯ 3 (148) r,s=0 (149) と既約分解される。ここで, 既約分解後のそれぞれの基底は ¯= 3×3 2 ∑ 1(r,s) r,s=0 1(0,0) 1(0,1) 1(0,1) 1(1,0) 1(1,1) 1(1,2) 1(2,0) 1(2,1) 1(2,2) : α1 β1 + α2 β2 + α3 β3 , : α1 β1 + ωα2 β2 + ω 2 α3 β3 , : α1 β1 + ω 2 α2 β2 + ωα3 β3 , : α1 β2 + α2 β3 + α3 β1 , : α1 β2 + ωα2 β3 + ω 2 α3 β1 , : α1 β2 + ω 2 α2 β3 + ωα3 β1 , : α2 β1 + α3 β2 + α1 β3 , : α2 β1 + ωα3 β2 + ω 2 α1 β3 , : α2 β1 + ω 2 α3 β2 + ωα1 β3 , ¯+3 ¯+3 ¯ 3×3=3 α1 β1 α2 β3 + α3 β2 α2 β3 − α3 β2 ¯ : α2 β2 , 3 ¯ : α3 β1 + α1 β3 , 3 ¯ : α3 β1 − α1 β3 3 α3 β3 α1 β2 + α2 β1 α1 β2 − α2 β1 (150) となる。 40 (151) B.4 射影表現とその指標表 射影表現の既約表現は 30 , 31 , 32 (152) で与えられ, 指標表は 表 12 射影表現の指標表 class 30 31 32 3m 1C1 3 3 3 3 1C2 0 0 0 0 1C3 3C(0,1) 0 0 2 0 2 ω9 (ω + 2) ωω9 (ω + 2) 2 2 2 0 2 ω ω9 (ω + 2) 2 2 ω9 6m+4 (ω + 2) (ω 2 + 2) 3C(0,2) ωω9 (ω + 2) ω9 (ω + 2) ω ω9 (ω + 2) 3C(1,p) 0 0 0 0 3C(2,p) 0 0 0 0 となる。このとき射影表現 ρs は ρa 3 = e, ρc 3 = ρd 3 = ω 2 ρa ρc ρa −1 = ρc −1 ρd −1 ρa ρd ρa −1 = ρc ρc ρd ρc −1 = ρd を満たす。 41 ω9 3m+2 ここで 3m の具体的な形は 0 ω 0 0 1 0 0 0 , C2 : ρc2 d = 0 1 0 , C3 : ρcd2 = 0 ω 0 , 1 0 0 ω2 0 0 ω2 ω 0 0 1 0 0 C(0,1) : ρc = ω9 3m+2 0 1 0 , ρd = ω9 3m+2 0 ω 0 , 0 0 1 0 0 1 2 ω 0 0 ω 0 0 ρc2 d2 = ω9 3m+2 0 ω 0 , C(0,2) : ρc2 = ω9 6m+4 0 1 0 , 0 0 ω2 0 0 1 1 0 0 ω 0 0 ρd2 = ω9 6m+4 0 ω 2 0 , ρcd = ω9 6m+4 0 ω 0 , 0 0 1 0 0 1 0 1 0 0 1 0 0 ω 0 C(1,0) : ρa = 0 0 1 , ρac2 d = 0 0 ω 2 , ρacd2 = 0 0 ω 2 , ω 0 0 1 0 0 1 0 0 0 ω 0 0 1 0 C(1,1) : ρac = ω9 3m+2 0 0 1 , ρad = ω9 3m+2 0 0 1 , 1 0 0 ω 0 0 0 1 0 0 ω 0 ρac2 d2 = ω9 3m+2 0 0 ω 2 , C(1,2) : ρac2 = ω9 6m+4 0 0 1 , ω2 0 0 ω 0 0 0 ω2 0 0 ω 0 ρad2 = ω9 6m+4 0 0 1 , ρacd = ω9 6m+4 0 0 1 , 1 0 0 ω 0 0 0 0 1 0 0 ω2 0 0 ω2 C(2,0) : ρa2 = 1 0 0 , ρa2 c2 d = ω 0 0 , ρa2 cd2 = 1 0 0 , 0 1 0 0 1 0 0 ω 0 0 0 1 0 0 1 C(2,1) : ρa2 c = ω9 3m+2 ω 0 0 , ρa2 d = ω9 3m+2 1 0 0 , 0 ω 0 0 1 0 0 0 1 0 0 ω2 ρa2 c2 d2 = ω9 3m+2 ω 0 0 , C(2,2) : ρa2 c2 = ω9 6m+4 ω 2 0 0 , 0 1 0 0 ω 0 0 0 1 0 0 1 ρa2 d2 = ω9 6m+4 1 0 0 , ρa2 cd = ω9 6m+4 ω 0 0 0 ω2 0 0 ω 0 1 C1 : e = 0 0 0 1 0 である。 42 B.5 射影表現のテンソル積の既約分解 射影表現のテンソル積は ¯m + 3 ¯ n (m = 2(k + l), n = 1 + 2(k + l) 3k × 3l = 23 ¯l = 3 + 3 ¯+ 3k × 3 2 ∑ 1(r,s) (s = k − l mod 3) mod 3) (153) (154) r=0 と既約分解される。ここで, 既約分解後のそれぞれの基底の具体的な形は ¯m + 3 ¯ n (m = 2(k + l), n = 1 + 2(k + l) 3k × 3l = 23 α2 β3 ± α3 β2 α1 β1 ¯ m : α3 β1 ± α1 β3 , 3 ¯ n : α2 β2 3 α1 β2 ± α2 β1 α3 β3 ¯l = 3 + 3 ¯+ 3k × 3 2 ∑ 1(r,s) (s = k − l mod 3) (155) mod 3) r=0 α3 β2 α 2 β3 ¯ : α3 β1 , 1(r,s) : α1 β1 + ω r α2 β2 + ω 2r α3 β3 3 : α1 β3 , 3 α2 β1 α 1 β2 となる。 43 (156) B.6 線形表現と射影表現のテンソル積の既約分解 線形表現と射影表現のテンソル積は 3m × 1(r,s) = 3n (n = m + s mod 3) ¯ m × 1(r,s) = 3 ¯ n (n = m − s mod 3) 3 3m × 3 = 30 + 31 + 32 ¯ = 30 + 31 + 32 3m × 3 (157) (158) (159) (160) と既約分解される。ここで, 既約分解後のそれぞれの基底の具体的な形は 3m × 3 = 30 + 31 + 32 α3 β3 α3 β2 α3 β1 A0 : α1 β1 , A1 : α1 β3 , A2 : α1 β2 , α2 β2 α2 β1 α2 β3 ¯ = 30 + 31 + 32 3m × 3 α3 β2 α3 β1 α3 β3 A0 : α1 β1 , A1 : α1 β2 , A2 : α1 β3 , α2 β1 α2 β3 α2 β2 30 31 32 m=0 A1 A0 A2 m=1 A2 A1 A0 m=2 A0 A2 A1 となる。 44 (161) (162) B.7 必要なテンソル積の基底 模型を構築する際, 既約表現 3 つ以上のテンソル積を計算し, その基底を求める必要性 がある。例えば, 3 × 3 × 3 のテンソル積は ¯+3 ¯ + 3) ¯ × 3 ∼ 3 × 1(0,0) 3 × 3 × 3 = (3 と既約分解でき, 3 つの不変な 1 次元表現が現れる。その基底は, 前述の (150) と (151) を 使って 1(0,0) α1 β1 γ1 + α2 β2 γ2 + α3 β3 γ3 : (α2 β3 + α3 β2 )γ1 + (α3 β1 + α1 β3 )γ2 + (α1 β2 + α2 β1 )γ3 (α2 β3 − α3 β2 )γ1 + (α3 β1 − α1 β3 )γ2 + (α1 β2 − α2 β1 )γ3 (163) と計算できる。以下, 模型の構築に必要なテンソル積の例を列挙する。 ¯×3 ¯ = (3 ¯+3 ¯ + 3) ¯ × (3 + 3 + 3) ∼ 9 × 1(0,0) 3×3×3 1(0,0) α1 β1 γ1 δ1 + α2 β2 γ2 δ2 + α3 β3 γ3 δ3 α1 β1 (γ2 δ3 + γ3 δ2 ) + α2 β2 (γ3 δ1 + γ1 δ3 ) + α3 β3 (γ1 δ2 + γ2 δ1 ) α1 β1 (γ2 δ3 − γ3 δ2 ) + α2 β2 (γ3 δ1 − γ1 δ3 ) + α3 β3 (γ1 δ2 − γ2 δ1 ) (α2 β3 + α3 β2 )γ1 δ1 + (α3 β1 + α1 β3 )γ2 δ2 + (α1 β2 + α2 β1 )γ3 δ3 (α2 β3 + α3 β2 )(γ2 δ3 + γ3 δ2 ) + (α3 β1 + α1 β3 )(γ3 δ1 + γ1 δ3 ) + (α1 β2 + α2 β1 )(γ1 δ2 + γ2 δ1 ) : (α2 β3 + α3 β2 )(γ2 δ3 − γ3 δ2 ) + (α3 β1 + α1 β3 )(γ3 δ1 − γ1 δ3 ) + (α1 β2 + α2 β1 )(γ1 δ2 − γ2 δ1 ) (α2 β3 − α3 β2 )γ1 δ1 + (α3 β1 − α1 β3 )γ2 δ2 + (α1 β2 − α2 β1 )γ3 δ3 (α2 β3 − α3 β2 )(γ2 δ3 + γ3 δ2 ) + (α3 β1 − α1 β3 )(γ3 δ1 + γ1 δ3 ) + (α1 β2 − α2 β1 )(γ1 δ2 + γ2 δ1 ) (α2 β3 − α3 β2 )(γ2 δ3 − γ3 δ2 ) + (α3 β1 − α1 β3 )(γ3 δ1 − γ1 δ3 ) + (α1 β2 − α2 β1 )(γ1 δ2 − γ2 δ1 ) 45 (164) ( ¯l × 3 = 3k × 3 ¯+ 3+3 2 ∑ ) 1(r,s) × 3 ∼ 1(0,0) r=0 1(0,0) : α2 β3 γ1 + α3 β1 γ2 + α1 β2 γ3 ( ) 2 ∑ ¯l × 3 ¯ = 3+3 ¯+ ¯ ∼ 1(0,0) 3k × 3 1(r,s) × 3 (165) r=0 1(0,0) : α3 β2 γ1 + α1 β3 γ2 + α2 β1 γ3 ( ) 2 ∑ ¯l × 3 × 3 = 3 + 3 ¯+ ¯+3 ¯ + 3) ¯ ∼ 3 × 1(0,0) 3k × 3 1(r,s) × (3 (166) r=0 1(0,0) α3 β2 γ1 δ1 + α1 β3 γ2 δ2 + α2 β1 γ3 δ3 : α3 β2 (γ2 δ3 + γ3 δ2 ) + α1 β3 (γ3 δ1 + γ1 δ3 ) + α2 β1 (γ1 δ2 + γ2 δ1 ) α3 β2 (γ2 δ3 − γ3 δ2 ) + α1 β3 (γ3 δ1 − γ1 δ3 ) + α2 β1 (γ1 δ2 − γ2 δ1 ) ( ¯l × 3 ¯×3 ¯= 3k × 3 ¯+ 3+3 2 ∑ (167) ) 1(r,s) × (3 + 3 + 3) ∼ 3 × 1(0,0) r=0 1(0,0) α2 β3 γ1 δ1 + α3 β1 γ2 δ2 + α1 β2 γ3 δ3 : α2 β3 (γ2 δ3 + γ3 δ2 ) + α3 β1 (γ3 δ1 + γ1 δ3 ) + α1 β2 (γ1 δ2 + γ2 δ1 ) α2 β3 (γ2 δ3 − γ3 δ2 ) + α3 β1 (γ3 δ1 − γ1 δ3 ) + α1 β2 (γ1 δ2 − γ2 δ1 ) ¯0 × 3 ¯ = (30 + 31 + 32 ) × (3 ¯0 + 3 ¯1 + 3 ¯ 2 ) ∼ 3 × 1(0,0) 30 × 3 × 3 α1 β1 γ1 δ1 + α2 β2 γ2 δ2 + α3 β3 γ3 δ3 1(0,0) : α1 β2 γ1 δ2 + α2 β3 γ2 δ3 + α3 β1 γ3 δ1 α1 β3 γ1 δ3 + α2 β1 γ2 δ1 + α3 β2 γ3 δ2 46 (168) (169) 参考文献 [1] 吉川 圭二, “群と表現” (岩波書店, 1996). 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