先端融合科学特論I 最先端加速器で探る素粒子と時空の物理 准教授 山崎祐司(神戸大) 第1講:この講義 現代の素粒子物理概観 第2講:最高エネルギー陽子衝突実験 LHC 実験内容の解説 陽子の内部構造の解説 第3講:散乱粒子の測定技術 位置,運動量,エネルギーの測定 粒子の種類の識別 2009/9/28 先端融合科学特論I 2 素粒子の種類 物質:クォークとレプトン その間に働く力:4つの相互作用 粒子の質量の起源と Higgs 粒子 宇宙の成分としての素粒子 ダークマター,ダークエネルギー さらなる現代素粒子物理の謎 フレーバーの起源 理論に潜む問題 2009/9/28 先端融合科学特論I 3 顕微鏡でのぞいてみよう 結晶 ← ミドリムシ (光学顕微鏡) 分子 鳥インフルエンザ ウィルス (電子顕微鏡)→ 原子 インフルエンザウィルスは,なぜ (ふつうの)顕微鏡で見えない? 2009/9/28 先端融合科学特論I 原子核(陽子,中性子) 4 ←放射光で見た 生体物質の結晶 結晶 分子 原子 たとえば, Spring8 で 原子核(陽子,中性子) 2009/9/28 先端融合科学特論I 5 ラザフォード (イギリス)1911 年 原子 アルファ線(ヘリウム 原子核)を金にぶつけ 原子の中心に原子核が あることを発見 原子核 (陽子,中性子) 陽子 SLAC-MIT 1967 年 可視光の1000万倍のエネルギーの電子ビーム → 陽子の中身(クォーク)がみえる 2009/9/28 先端融合科学特論I 電子 クォーク 6 電子とクォークは「素粒子」 原子 これ以上分解できない 大きさがゼロ ただし,今のところの話 実験事実は 原子核 (陽子,中性子) ▪ 電子,クォークとも壊れない ▪ 大きさ:10−18 m 以下 陽子 陽子(中性子)の質量は 電子の約 2000 倍 重さは原子の中心に集まる 2009/9/28 先端融合科学特論I 電子 クォーク 7 電子の仲間, クォークの仲間とも 「3世代」ある だんだん重たくなる 電子の仲間 (電子とニュートリノ) を「レプトン(軽粒子)」 とよぶ すべてスピン 1/2 の フェルミ粒子 2009/9/28 先端融合科学特論I 8 ニュートリノは,電子に化ける 他の物質と相互作用 (弱い相互作用)して, 電荷を奪い取り電子になる でも性質は似ていない 電荷がない 質量がほとんどない 2009/9/28 先端融合科学特論I 9 E h アインシュタインの光量子仮説 光は,振動数に比例した エネルギーを持つ粒子(光子) 静電気力,磁気力は 光子を交換して伝わる e (電子) プランク定数 振動数 e 光子が 飛ぶ! はね かえる e e 量子場の理論として発展 湯川:中間子説(陽子,中性子間の相互作用) 朝永,Feynman, Schwinger:電磁量子力学の完成 2009/9/28 先端融合科学特論I 時間 力も粒子が伝達! 10 先ほどのグラフを横倒しにした反応も存在する。 ところが,時間を逆に走る粒子が出てくる。それは変 「反粒子」として解釈 電荷が反対(電子 → 陽電子) 粒子とぶつかると,消滅 E 2 (mc2 ) 2 ( pc) 2 粒子・反粒子の対を,高エネルギー状態から生成 e e e 2009/9/28 e 先端融合科学特論I e+ e e e+ 11 クォークを陽子・中性子内に閉じこめる力 グルーオン(糊粒子)が伝達 クォーク クォークは 3種類の電荷を持つ グルーオン 陽子 赤,緑,青 (光の3原色)に例える 陽子は3色混ざって白色 色電荷を持たないので 強い力を受けない 2009/9/28 先端融合科学特論I 12 力が弱いので,反応がめったに起きない アップクォーク,ダウンクォークの入れ替えもする 2009/9/28 先端融合科学特論I 13 質量が 全然違う 第4世代は (たぶん)ない なぜ3世代か,全くわからない ただし,3世代あることが,小林・益川理論の鍵 2009/9/28 先端融合科学特論I 14 e m t e- m t . . . u d s c b top quark - - u d s c b anti-top quark . - - e m t e+ m t gluons (質量なし) W+, W- Z (陽子の質量 = 2009/9/28 先端融合科学特論I ) 15 2009/9/28 先端融合科学特論I 16 重力は,とても変な力 質量に比例する (正確には,エネルギー) むちゃくちゃ弱い。 ▪ 陽子に働く重力は,静電気力の 1037 分の1 なのに感じるのは,符号がなくて, いつでも引力だから。 ▪ 電気の力は,引力,斥力ともあって,キャンセルしている 重力も粒子で媒介されているはず 古典物理学:アインシュタインの一般相対論 (1915-16) でも,だれも重力場の理論を立てるのに成功していない 2009/9/28 先端融合科学特論I 21 物質は,点状の素粒子(クォーク,レプトン)で できている。 4種の相互作用(重力,電磁気,弱い力,強い力) も素粒子が担っている。 ただし,「重力子」は,理論もわからず,発見されてもいない この世を構成する(我々のまわりで見つかる)材料が出揃った 説明に困っていない(=理論がわかっている)のか? 他にないのか? 2009/9/28 先端融合科学特論I 18 数字は粒子の質量 [GeV=10⁶eV] 陽子は 0.938 1.3 179 0.1 4.2 0.002 有限 (110⁻⁷ 程度) 5.1110⁻⁴ 0.105 1.78 80.4 91.2 場の量子論では,質量を持った粒子は許されない 標準模型ではどうしたか? 2009/9/28 先端融合科学特論I 19 質量を別の方法で表すと V 質量のない粒子:光速 追い越せない ▪ スピン右巻きの粒子は,どこ から見ても右巻き 質量のある粒子は追い越せる ▪ 右巻きにも左巻きにも見える φ0 真空が0でない「期待値」 をもつと (右巻き)φ0(左巻き) 右と左を入れ替える反応を作れる y カイラル対称性の破れ 南部陽一郎ノーベル賞 2009/9/28 先端融合科学特論I x 20 Higgs 場からの 「抵抗」が慣性を生む Higgs 場に付随して Higgs 粒子が存在 質量:114 GeV 以上 (LEP実験からの下限値) Higgs 粒子が見つかって,初めて標準模型の完成 先端融合科学特論I 2009/9/28 21 宇宙は膨張している 宇宙の始まり:爆発 自らの重み(重力)で収縮する? 遠くのことは,昔に起こったこと (光の伝わるスピードは,有限) → 遠くの星を見ると, 宇宙初期がわかる 遠くの星の運動を調べると, 宇宙の運動がわかる → 宇宙の「総重量」がわかる 2009/9/28 先端融合科学特論I 22 宇宙背景輻射:38万年前の「晴れ上がり」 それより前は,宇宙はプラズマ(荷電粒子のガス) このとき初めて原子ができた ココ 宇宙の大きさ: 今の1100分の一,温度: 3000 K それが膨張して現在の背景輻射(2.7K) になった WMAP衛星 (アメリカ) 2003年の結果 2009/9/28 先端融合科学特論I 23 宇宙全体が振動していた 振動の「ばね定数」から 宇宙の質量がわかる 見えている質量よりずっと たくさん物質がある 光っていないのでわからない 暗黒物質(ダークマター) 宇 宙 定 数 宇宙の膨張が加速していることがわかった 項 おかしい… 重力で拡張はだんだん 遅くなるはずなのに。 「反重力」を及ぼす何かがある 暗黒エネルギー(ダークエネルギー) 2009/9/28 先端融合科学特論I 宇宙の物質の質量 24 宇宙は未知のもので満ちている われわれの知っている物質(クォークとレプトン)4 % (そのうち星として光っているものは,わずか 0.4%) 引力を及ぼすダークマター:23% ▪ ニュートリノではない ▪ 未知の素粒子? 斥力のもとダークエネルギー: のこり全部 ▪ まともな仮説すらない 2009/9/28 先端融合科学特論I 銀河団が衝突し,暗黒物質(青)が先に 進み,普通の物質(赤)が取り残される様子 25 そもそも,なぜ3世代あるのかわからない 3世代は CP非保存を実現するのに最低限必要 ▪ 荷電共役(C, Charge conjugation): 物質と反物質の交換 ▪ パリティ(P) 変換:空間座標の反転 なぜ質量が違うのか,なぜこんなに違うのか? なぜ弱い相互作用だけがクォークフレーバーを 変えられるのか? なぜレプトンはフレーバーを変えられないのか? なぜニュートリノは混合し,荷電レプトンは 混合しないのか? 第4世代は本当にないのか? 2009/9/28 単なる「励起状態」なら,あるはず 先端融合科学特論I 26 重力は非常に弱い 重力ポテンシャルと質量が 同程度になるエネルギー: 10¹⁹ GeV − プランクスケール 強い力 弱い力 電磁気 ここより高いエネルギーの物理 法則は,全く不明 プランクスケール 標準理論はプランクスケール を前にして完全に破綻 理論の「大統一」ができない ヒッグス粒子の質量の2次発散 2009/9/28 mH2 ヒッグス粒子の質量が反応の エネルギーに比例して増加 先端融合科学特論I 2 27 プランクスケールまでは,今の理論体系が成り立つ 標準模型の上位模型が存在し,それが プランクスケールまで無矛盾な理論を構築 超対称性など いまのプランクスケールはうそ (もっと近いところにある) 2009/9/28 重力は短い距離では違う振る舞いをするとすればよい 近いプランクスケールの先は全く不明だが … 余剰次元など 先端融合科学特論I 28 現存のフェルミオンに対してボゾンが ボゾンに対してフェルミオンが 御利益 ヒッグス粒子の質量の2次発散を防ぐ 結合定数の収束→大統一へ 安定な弱相互作用中性粒子を 出せる:暗黒物質! 物質・反物質の不均等も 説明できるかも 問題:まだ見つかってない mH2 2009/9/28 + me~2 log 先端融合科学特論I 2 me~2 29 我々の生活では見えない次元が丸まっている プランクスケールが TeV の可能性もあり ▪ 例:ADD model, 余剰次元 4+ 次元でのプランクスケールを MF として M 2pl M F2 2R ▪ 2次元, 0.1mm ならMF = 1 TeV 余剰次元での「励起順位」から たくさんの重い粒子が出る 2009/9/28 先端融合科学特論I 松本重貴,瀬波大土 日本物理学会誌2008年4月号 解説記事「高次元理論と暗黒物質」より 30 4+n 次元のプランクスケールよりはるかに高いエネルギーで の衝突では,ブラックホールができる可能性がある インパクトパラメータが Schwarzschild 半径以下の時 ブラックホールが地球を 吸い込む? ホーキング輻射によりすぐ 崩壊するので安全です 安定なミニブラックホールが 存在しない証拠もあります http://www.kek.jp/ja/news/topics/2008/LHCsafety.html (日本語) 2009/9/28 先端融合科学特論I 31 降ってくる暗黒物質をとらえる 宇宙背景ニュートリノをとらえる 宇宙始まりの1秒後まで見える 待てないならば,地上で作ってみよう! 物質,反物質の対生成なら, 高エネルギー衝突で作れる 未知の相互作用を おこすことができる フレーバーの希な遷移を もっと細かく調べられる 新粒子 陽子 クォーク 陽子 新(反)粒子 2009/9/28 先端融合科学特論I 32 素粒子:クォーク,レプトン,力の媒介粒子 わかっていないこと 質量起源 (Higgs ?) ダークマター ダークエネルギー (つまり,重力) フレーバーの3世代構造 上記の4つのようなとても難しい問題だけではなく, 今の理論体系も ブレークスルーと期待:LHC実験 これまでのほぼ一桁上の衝突エネルギー 2009/9/28 先端融合科学特論I 33
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