クォークとレプトン

先端融合科学特論I
最先端加速器で探る素粒子と時空の物理
准教授 山崎祐司(神戸大)

第1講:この講義
現代の素粒子物理概観

第2講:最高エネルギー陽子衝突実験 LHC
 実験内容の解説
 陽子の内部構造の解説

第3講:散乱粒子の測定技術
 位置,運動量,エネルギーの測定
 粒子の種類の識別
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先端融合科学特論I
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
素粒子の種類
 物質:クォークとレプトン
 その間に働く力:4つの相互作用

粒子の質量の起源と Higgs 粒子

宇宙の成分としての素粒子
 ダークマター,ダークエネルギー

さらなる現代素粒子物理の謎
 フレーバーの起源
 理論に潜む問題
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先端融合科学特論I
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
顕微鏡でのぞいてみよう
結晶
← ミドリムシ
(光学顕微鏡)
分子
鳥インフルエンザ
ウィルス
(電子顕微鏡)→
原子
インフルエンザウィルスは,なぜ
(ふつうの)顕微鏡で見えない?
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先端融合科学特論I
原子核(陽子,中性子)
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←放射光で見た
生体物質の結晶
結晶
分子

原子
たとえば,
Spring8 で
原子核(陽子,中性子)
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ラザフォード
(イギリス)1911 年
原子
アルファ線(ヘリウム
原子核)を金にぶつけ
原子の中心に原子核が
あることを発見
原子核
(陽子,中性子)
陽子
SLAC-MIT 1967 年
可視光の1000万倍のエネルギーの電子ビーム
→ 陽子の中身(クォーク)がみえる
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先端融合科学特論I
電子
クォーク
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
電子とクォークは「素粒子」
原子
 これ以上分解できない
 大きさがゼロ

ただし,今のところの話
 実験事実は
原子核
(陽子,中性子)
▪ 電子,クォークとも壊れない
▪ 大きさ:10−18 m 以下

陽子
陽子(中性子)の質量は
電子の約 2000 倍
 重さは原子の中心に集まる
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先端融合科学特論I
電子
クォーク
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
電子の仲間,
クォークの仲間とも
「3世代」ある
 だんだん重たくなる

電子の仲間
(電子とニュートリノ)
を「レプトン(軽粒子)」
とよぶ

すべてスピン 1/2 の
フェルミ粒子
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
ニュートリノは,電子に化ける
 他の物質と相互作用
(弱い相互作用)して,
電荷を奪い取り電子になる

でも性質は似ていない
 電荷がない
 質量がほとんどない
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
E  h
アインシュタインの光量子仮説
 光は,振動数に比例した
エネルギーを持つ粒子(光子)
静電気力,磁気力は
光子を交換して伝わる
e
(電子)
プランク定数 振動数
e
光子が
飛ぶ!
はね
かえる
e

e
量子場の理論として発展

湯川:中間子説(陽子,中性子間の相互作用)

朝永,Feynman, Schwinger:電磁量子力学の完成
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先端融合科学特論I
時間
力も粒子が伝達!
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先ほどのグラフを横倒しにした反応も存在する。
ところが,時間を逆に走る粒子が出てくる。それは変

「反粒子」として解釈
 電荷が反対(電子 → 陽電子)
 粒子とぶつかると,消滅

E 2  (mc2 ) 2  ( pc) 2
粒子・反粒子の対を,高エネルギー状態から生成
e
e
e
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e
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e+
e
e
e+
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
クォークを陽子・中性子内に閉じこめる力
 グルーオン(糊粒子)が伝達
クォーク

クォークは
3種類の電荷を持つ
グルーオン
陽子
 赤,緑,青
(光の3原色)に例える

陽子は3色混ざって白色
 色電荷を持たないので
強い力を受けない
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
力が弱いので,反応がめったに起きない

アップクォーク,ダウンクォークの入れ替えもする
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

質量が
全然違う

第4世代は
(たぶん)ない
なぜ3世代か,全くわからない
 ただし,3世代あることが,小林・益川理論の鍵
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e m t e- m t
.
.
.
u d s
c
b
top quark
- - u d s
c
b
anti-top quark
.
- - e m t e+ m t
 gluons
(質量なし)
W+, W-
Z
(陽子の質量 =
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)
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
重力は,とても変な力
 質量に比例する (正確には,エネルギー)
 むちゃくちゃ弱い。
▪ 陽子に働く重力は,静電気力の 1037 分の1
 なのに感じるのは,符号がなくて,
いつでも引力だから。
▪ 電気の力は,引力,斥力ともあって,キャンセルしている

重力も粒子で媒介されているはず
 古典物理学:アインシュタインの一般相対論 (1915-16)
 でも,だれも重力場の理論を立てるのに成功していない
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
物質は,点状の素粒子(クォーク,レプトン)で
できている。

4種の相互作用(重力,電磁気,弱い力,強い力)
も素粒子が担っている。
 ただし,「重力子」は,理論もわからず,発見されてもいない

この世を構成する(我々のまわりで見つかる)材料が出揃った
 説明に困っていない(=理論がわかっている)のか?
 他にないのか?
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数字は粒子の質量 [GeV=10⁶eV] 陽子は 0.938
1.3
179
0.1
4.2
0.002
有限 (110⁻⁷ 程度)
5.1110⁻⁴
0.105


1.78
80.4
91.2
場の量子論では,質量を持った粒子は許されない
標準模型ではどうしたか?
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
質量を別の方法で表すと
V
 質量のない粒子:光速
追い越せない
▪ スピン右巻きの粒子は,どこ
から見ても右巻き
 質量のある粒子は追い越せる
▪ 右巻きにも左巻きにも見える

φ0
真空が0でない「期待値」
をもつと
(右巻き)φ0(左巻き)
右と左を入れ替える反応を作れる
y
カイラル対称性の破れ
南部陽一郎ノーベル賞
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x
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Higgs 場からの
「抵抗」が慣性を生む
Higgs 場に付随して
Higgs 粒子が存在
質量:114 GeV 以上
(LEP実験からの下限値)

Higgs 粒子が見つかって,初めて標準模型の完成
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
宇宙は膨張している
 宇宙の始まり:爆発
 自らの重み(重力)で収縮する?


遠くのことは,昔に起こったこと
(光の伝わるスピードは,有限)
→ 遠くの星を見ると,
宇宙初期がわかる
遠くの星の運動を調べると,
宇宙の運動がわかる
→ 宇宙の「総重量」がわかる
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
宇宙背景輻射:38万年前の「晴れ上がり」
 それより前は,宇宙はプラズマ(荷電粒子のガス)
 このとき初めて原子ができた
ココ
宇宙の大きさ: 今の1100分の一,温度: 3000 K
それが膨張して現在の背景輻射(2.7K) になった
WMAP衛星 (アメリカ) 2003年の結果
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

宇宙全体が振動していた
振動の「ばね定数」から
宇宙の質量がわかる
 見えている質量よりずっと
たくさん物質がある
光っていないのでわからない
暗黒物質(ダークマター)
宇
宙
定
数
 宇宙の膨張が加速していることがわかった
項
 おかしい… 重力で拡張はだんだん
遅くなるはずなのに。
 「反重力」を及ぼす何かがある
暗黒エネルギー(ダークエネルギー)
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先端融合科学特論I
宇宙の物質の質量
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
宇宙は未知のもので満ちている
 われわれの知っている物質(クォークとレプトン)4 %
(そのうち星として光っているものは,わずか 0.4%)
 引力を及ぼすダークマター:23%
▪ ニュートリノではない
▪ 未知の素粒子?
 斥力のもとダークエネルギー:
のこり全部
▪ まともな仮説すらない
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銀河団が衝突し,暗黒物質(青)が先に
進み,普通の物質(赤)が取り残される様子
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
そもそも,なぜ3世代あるのかわからない
 3世代は CP非保存を実現するのに最低限必要
▪ 荷電共役(C, Charge conjugation): 物質と反物質の交換
▪ パリティ(P) 変換:空間座標の反転

なぜ質量が違うのか,なぜこんなに違うのか?

なぜ弱い相互作用だけがクォークフレーバーを
変えられるのか?

なぜレプトンはフレーバーを変えられないのか?

なぜニュートリノは混合し,荷電レプトンは
混合しないのか?

第4世代は本当にないのか?

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単なる「励起状態」なら,あるはず
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

重力は非常に弱い
重力ポテンシャルと質量が
同程度になるエネルギー:
10¹⁹ GeV − プランクスケール
強い力
弱い力
電磁気
 ここより高いエネルギーの物理
法則は,全く不明
プランクスケール

標準理論はプランクスケール
を前にして完全に破綻
 理論の「大統一」ができない
 ヒッグス粒子の質量の2次発散
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mH2 
ヒッグス粒子の質量が反応の
エネルギーに比例して増加
先端融合科学特論I
 2
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プランクスケールまでは,今の理論体系が成り立つ

標準模型の上位模型が存在し,それが
プランクスケールまで無矛盾な理論を構築
超対称性など


いまのプランクスケールはうそ
(もっと近いところにある)




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重力は短い距離では違う振る舞いをするとすればよい
近いプランクスケールの先は全く不明だが …
余剰次元など
先端融合科学特論I
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
現存のフェルミオンに対してボゾンが
 ボゾンに対してフェルミオンが

御利益
 ヒッグス粒子の質量の2次発散を防ぐ
 結合定数の収束→大統一へ
 安定な弱相互作用中性粒子を
出せる:暗黒物質!
 物質・反物質の不均等も
説明できるかも

問題:まだ見つかってない
mH2 
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+
 me~2 log
先端融合科学特論I
2
me~2
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
我々の生活では見えない次元が丸まっている
 プランクスケールが TeV の可能性もあり
▪ 例:ADD model, 余剰次元 
4+ 次元でのプランクスケールを
MF として M 2pl  M F2 2R 
▪ 2次元, 0.1mm ならMF = 1 TeV

余剰次元での「励起順位」から
たくさんの重い粒子が出る
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先端融合科学特論I
松本重貴,瀬波大土
日本物理学会誌2008年4月号
解説記事「高次元理論と暗黒物質」より 30

4+n 次元のプランクスケールよりはるかに高いエネルギーで
の衝突では,ブラックホールができる可能性がある
 インパクトパラメータが Schwarzschild 半径以下の時

ブラックホールが地球を
吸い込む?
 ホーキング輻射によりすぐ
崩壊するので安全です
安定なミニブラックホールが
存在しない証拠もあります
http://www.kek.jp/ja/news/topics/2008/LHCsafety.html (日本語)
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先端融合科学特論I
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

降ってくる暗黒物質をとらえる
宇宙背景ニュートリノをとらえる
 宇宙始まりの1秒後まで見える

待てないならば,地上で作ってみよう!
 物質,反物質の対生成なら,
高エネルギー衝突で作れる
 未知の相互作用を
おこすことができる
 フレーバーの希な遷移を
もっと細かく調べられる
新粒子
陽子
クォーク
陽子
新(反)粒子
2009/9/28
先端融合科学特論I
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

素粒子:クォーク,レプトン,力の媒介粒子
わかっていないこと
 質量起源 (Higgs ?)
 ダークマター
 ダークエネルギー (つまり,重力)
 フレーバーの3世代構造
 上記の4つのようなとても難しい問題だけではなく,
今の理論体系も

ブレークスルーと期待:LHC実験
これまでのほぼ一桁上の衝突エネルギー
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