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近接伴星によって
誘起される恒星彩層活動
宇宙理論研究室
成田 憲保
目次
 恒星彩層活動とそのindicator
 近接伴星の存在による恒星活動
– 簡単な理論予想
– 観測例:ER Vulpeculae
 系外惑星系への応用
– HD 192263, γCep.
– HD 179949, τBoo., υAnd., HD 209458
 今後の展望
太陽型恒星の構造
<光球>
コロナ
光球
内側は輻射層、外側は対流層となっていて
表面は4000-7500Kの黒体輻射を放っている
<彩層>
光球の外にある数千kmの薄い大気の層
恒星内部からの加熱によって6000~20000K
まで加熱されている
<コロナ>
彩層
彩層の外側に広がる大気の層
~100万Kまで加熱されている
太陽型恒星の構造
©仙台市天文台
恒星彩層活動とindicator
彩層の加熱源
1. 対流層で生じる衝撃波
• 恒星の対流層の深さ(有効温度や重力)などによる
2. 磁場の変化によるカレント、MHD波の伝播
• 恒星の自転周期、差動回転の度合いなどによる
こうした恒星の状態を反映して、彩層の温度が変化する
この温度変化によって彩層輝線の強度が変化する
Ca II HK(H:3968, K:3933Å), Mg I b (5184Å),
He D3(5876Å), Hα(6563Å), Ca II IR(8662Å)
Ca HK lines
HD 179949
K
H
Opacityが大きいため吸収線として見えている
Ca HK lines
<K1>
光球表面(~6000K)での吸収によるfeature
K3部分のoptical depthが非常に大きいため
広がっている
<K2>
少し温度が高い部分(~8000K)からの放射
Line coreの拡大図
(太陽:inactive)
<K3>
Ca HK lineのcore
温度が非常に高い部分(8000~20000K)が
存在する時だけ放射が現れる
いろいろな星のCa HK lines
上段:非常にactiveな星
中段右:inactiveな星
下段左:太陽に近い星
この吸収線のフラックスを観測
することで、恒星の活動状態を
調べることができる
彩層活動についてのこれまでの研究
Mount Wilson H-K Project
40年にわたって数千の恒星のHK fluxをモニターし続けている
恒星の活動周期の決定
恒星の自転周期の決定
彩層活動研究の現在
40年間での天文学の進展
• 観測技術の向上
– 望遠鏡、CCD、Echelle分光器など
• 解析技術の向上
– 連星系スペクトルの解析方法(BF)など
• 理論的予言の精度向上
– MHDシミュレーションの発展
基礎を作るだけでなく、exoticな現象・新しい物理を探す時代
最近の研究まとめ
最近の彩層活動にまつわる研究
理論面(太陽磁場のMHD研究)
‧ Fawzy et al. 1998, Cuntz 1999
観測面(連星系の彩層活動の大規模サーベイ)
• Fernandez-Figueroa et al. 1994, Montes et al. 1996
観測面(特に活動性の高い連星系ER Vul.の観測)
• Piskunov 1996, Gunn and Doyle 1997
解析面(連星系のスペクトルを分離する手法)
• Lu and Rucinski 1999, Rucinski and Lu 1999
1995年 太陽系外惑星(ホットジュピター)の発見
最近の研究まとめ
最近の彩層活動にまつわる研究
理論面(恒星活動についてのMHD)
• Cuntz et al. 1999, Cuntz and Suess 2001
理論面(ホットジュピターによる彩層活動への効果予想)
• Cuntz et al. 2000
観測面(系外惑星の親星の彩層活動)
• Saar and Cuntz 2001,
• Shkolnik et al. 2003, Shkolnik et al. 2005a
観測面(ER Vul.の観測)
• Duemmler et al. 2003, Shkolnik et al. 2005b
まだ具体的な観測は始まったばかり
研究している人
近接伴星による恒星への効果
潮汐力による主星の歪みの効果
Porb/2 の周期で現れる
強さは r-3 に比例する
伴星磁場との相互作用の効果
Porb の周期で現れる
強さは r-2 に比例する
Cuntz et al. 2000
近接連星系の場合
これまでの観測のターゲット
RS Canum Venaticorum systems (RS CVn)
• 強い彩層活動を持つ、2つの主系列星からなる近接
連星系(接触連星ではない)
• 多くの場合、Porb = Prot (tidal locking)
• 磁場の効果と自転の効果が縮退する
• 吸収線がblendしていて解析が複雑だが、誘起される
だろう変動のシグナルは大きい
• Photometryとあわせることで、主星と伴星のspotや
hotspotの存在もわかる(主星と伴星はほぼ対等)
ER Vulpeculaeの観測
最も研究されてきた(ほぼ唯一の)RS CVn system
System Parameters
• Orbital Period : Porb = 0.698 days
• Orbital Separation : 3.97 RSun
• Radius (Primary and Secondary) : Rp ~ Rs = 1.07 RSun
• Mass Ratio : 0.947
• Orbital Inclination : 67°
• Spectral Types : G1-2 V & G3 V
• Rotational Velocities : (V sin I)p ~ (V sin I)s = 97 km/s
• Magnitude : V = 7.4
スペクトルの例
2つの高速自転星スペクトルがドップラーシフトして重なったもの
解析方法
a(左上):テンプレート(G0 Vの星) b(右上):Broadening Function
c(左下):aとbの畳み込み d(右下):ER Vul. のスペクトル
Residual Spectra(一例)
dからcを引いたもの
Broadening Function(全部)
下から上へ位相が 0.09~0.96 まで
これをもとに視線速度が決定できる
Radial Velocity Curves
白丸:Primary 黒丸:Secondary
Rossiter効果は見てはいけないらしい
Residual Spectraの解析
位相 0.090~0.437
(0の時Secondaryが手前)
Residual Spectraの解析
位相 0.460~0.761
Residual Spectraの解析
位相 0.781~0.965
Residual Spectraの解析
位相 0.25
3つのガウシアン成分に分けられる
Residual Spectraの解析
上:位相 0.09~0.39
coreから 320 km/s redshiftした
peakが存在
下:位相 0.60~0.90
coreから 320 km/s blueshiftした
peakが存在
しかしfluxが小さくなっている
Primary から Secondary へガス流?
その他のデータの解析
位相 0.4付近にexcess
hotspotあり
hotspotなし
Integrated HK Flux Data
Photometric Data
潮汐由来(Porb/2 周期)の効果は見当たらない
Secondary の sub-binary point 付近に hotspot があると考えられる
(観測位相が不十分だが、 Primary にも hotspot がある可能性)
この系の恒星活動のモデル
上から見た図(反時計周りに連星が公転)
hotspot
ガス流
P
S
ガス流の温度が高く
densityの大きな部分が
第三成分を作る
Shkolnik et al. 2005b
この系の恒星活動のシナリオ
ガス流が Primary から Secondary へ降り積もり、
その付近に hotspot を形成している
小まとめ:近接連星系の場合
• 一般に近接連星系の彩層活動は強い
• まだ詳細な観測例はまだ ER Vul. のみ
– 伴星へのガス流とhotspotの発生が見られた
– 他のRS CVn系でも同様のことがあるのか、潮汐力
の効果が見えるのかが今後の観測課題
• デメリット
– 解析が複雑
– 磁場と自転の効果が縮退して物理として解けない
– シミュレーションが非常に複雑
系外惑星系への応用
• ターゲットはまだ少ないが次第に増えてきている
• メリット
– 一般に恒星の自転周期と惑星の公転周期が違う

伴星による磁場の効果が分離できるはず
– 伴星(惑星)のスペクトルはほぼ無視できる

解析が比較的容易
– シミュレーションは難しいが、ある程度オーダー評価
できるかもしれない
• デメリット
– シグナルは観測限界より小さいかもしれない
惑星発見のきっかけ
γCephei と HD 192263
視線速度変化に同期したCa HK fluxの変動が過去に報告された
当初は視線速度変化は恒星活動だと思われ惑星説は否定
その後Ca fluxの変動が静まっても視線速度変化が継続
現在では惑星系として認識されている
代表的な系外惑星系の観測
公転周期が5日以下のhot Jupiter
(系外惑星業界では有名な星たち)
τBoo. だけtidal locking
他の惑星系では 3Porb < Prot
自転による変動と区別できる
Porb/2 (潮汐力)か Porb (磁場)に
由来した変動を探す
解析方法
HD 179949のスペクトル
解析方法
Normalizeして目的の吸収線以外のベースを合わせる
解析方法
結果例:HD179949
Shkolnik et al. 2003
2001~2002年にかけての観測データ
位相 0.6, 0.95 付近で年を越えて同じ値
結果例:HD179949
Shkolnik et al. 2005a
2003年の観測データ(◇)ではいきなり活動性が増加
恒星が活動期に入った?
結果例:υAnd.
Shkolnik et al. 2005a
2002~2003年の観測データでは弱い周期性が見える
2001年(○)は活動性が弱い
結果例:その他の惑星系
周期性はこの観測だけでは見えていない
小まとめ:系外惑星系の場合
• 観測をしているのは現在1チームのみ
• HD 179949 と υAnd. で兆候が報告された
– 観測が不十分でIntrinsicな彩層活動との区別がまだ
• 過去にHD 192263 とγCephei でも同様の報告がある
• 数年スケールで不定期に、惑星の公転に同期した活動が
誘起されている可能性が示唆されている

一般に起こっているかどうかはこれからの観測次第
‧ より近い惑星系(very hot Jupiter)がよりよいターゲット
‧ 連星系よりいくつかの面でメリットがある
今後の展望
この物理がわかると何が面白いのか?
1. 今までのMount Wilson HK Projectから、効率的に惑星を
探す方法が確立できると期待できる
2. 潮汐力の効果と磁場の効果が理論的にわかると、それを
もとにCa HK線のモニター観測から惑星の質量、磁場への
情報が得られるようになる
まとめ
近接伴星によって誘起される彩層活動
• 2000年頃から指摘され、観測や理論予想がされるように
なった
• まだ観測例は少なく、連星系での結果は混沌としている
• いくつかの系外惑星系では活動の兆候が報告されている
今後の研究発展に必要なこと
1. Hot Jupiterの存在によって誘起される彩層活動の評価、
(シミュレーション)
2. 惑星を持つ恒星のCa HK fluxの継続的なモニター観測
3. スタンダードなdifferential spectroscopy解析技術の確立