企業システムの進化と多様性 清水耕一 第10講 経営危機と生産システムの進化 フォードのケース 10-1 フォードの生産モデル 第2次世界大戦後の生産モデル:スローン・モデルに 追随 事業部制に基づく多様化された大量生産 垂直的統合政策の放棄⇒外部サプライヤーの利用 サプライヤーは技術的にフォードに従属 家父長的労使関係の放棄⇒交渉に基づく労使関係 レイオフによる雇用調整 フォード・モデルの基本原則には忠実(企業文化) ガバナンス様式は中央集権的 生産物と作業の標準化 労働の細分化と分業の深化⇒「機械化原理」(資本労働代替の進展) テーラー主義的労働管理(構想と実行の分離)⇒労働に価値を認めな い 製品開発と製造部門の分離⇒長い開発期間 60年代末から困難に遭遇⇒1979~82年に深刻な経営危機 10-2 経営危機 1979~82年の経営危機の原因 経営環境の悪化 自動車市場の停滞, エネルギー節約・公害・安全に対する規制強化 日本車の進出 品質競争力の喪失⇒シェアの喪失(販売量の低下) 新モデルは時代遅れ⇦開発期間が長すぎるため ブランド・イメージの失墜:フォード車の品質はアメリカ・メーカー の中で最悪という評価 労働コストの上昇 生産性上昇率=0, 1人当たり賃金コスト上昇率3.7% > 1人当たり売上高成長率3.3% ガバナンスの危機 ヘンリー・フォードII世の経営権継承問題⇒決定過程が麻痺 マスタング開発者であったアイアコッカやスパーリックも解雇 10-3 経営再建(1) マツダをモデルとした生産モデルのリーン化 チームワークと従業員の集団的業務への参画が2つの柱 製品開発:マツダに学ぶ トーラスの開発にプロジェクト・チーム方式のサイマルテニアス・エンジ ニアリング(同期エンジニアリング)を導入 外注管理 サプライヤー数の削減と品質管理の強化 多頻度納入・在庫削減等 パートナーシップの促進 ただし外注比率は徐々にしか増加しない⇦内部サプライヤーの抵抗 製造部門 労働者に品質に関する責任を与える 品質管理部門を製造部門に統合 ブルーカラーにはチームワークは普及していない職務・職層区分は縮小 生産性・品質に関する提案制度やQCサークル活動は進む⇦1979年に労使共 同管理を決定 10-4 経営再建(2) 労使関係:1982年の譲歩交渉⇒協調的労使関係へ UAWはフォードの経営再建に協力 労働側は就業規則について経営側に対して大幅に譲歩 経営側は工場閉鎖(およびレイオフ)を停止 プロフィット・シェアリング制を導入 労使共同で従業員教育プログラムを運営 1984年の社内憲章 フォード社の基本的価値:製品と利潤,および従業員 実態:フォード主義的パラダイムの中でのリーン生産化 労働慣行に大きな変化なし 経営への参画はホワイト・カラーや管理者が中心(管理方法や管理業務 の効率化を課題) コスト削減の大部分は工場閉鎖(9工場)と人員削減によって実現(レ イオフによる雇用調整は放棄されていない) 労働生産性の上昇は設備の近代化・自動化による 原価低減は開発段階における部品の共通化と設計の単純化が中心 構想と実行の分離というガバナンス構造は強化 『朝日新聞』 2006年1月25日
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