企業システムの進化と多様性 清水耕一

企業システムの進化と多様性
清水耕一
第5講
量・多様化戦略とスローン・モデル
GM
5-1 ジェネラル・モーターズ(GM)
 GMの設立
1908年
 創設者 ウィリアム・C・デュラント
 デュラントの吸収合併による拡大政策





ビュイック(Buick)
オールズモビル(Oldsmobile)
キャデラック(Cadillac)
オークランド(Oakland)
シボレー(Chevrolet)
 問題点:放漫経営
 吸収された企業は独立性を維持⇒相互に競合
 全体を効率的に管理するガバナンス様式が未確立
 業績悪化にもかかわらず拡大戦略(資本集中)を続ける
 1910~20年にはしばしば倒産の危機
 筆頭株主デュポン・ドゥ・ヌムールがデュラントを解雇
 アルフレッド・P・スローンに再建を委ねる
5-2 スローンによる経営革新
事業部制の確立
 事業部制への移行:1920年
 中央本社への中央集権化と事業部への分権化
 中央本社の権限
 現金の集中管理,資金調達,投資計画,一定階層以上の管理者の
任免や給与変更,法律事項,労使間交渉,製品価格
 事業部の管理指標:投資利益率(ROI,Return on Investment)
 事業部間の役割分担の調整,全体的・総合的な統制
 事業部の権限と義務




製品系列ごとに事業部
独立採算制
作業方法,製品開発,工場労働者の雇用・給与決定等
本社に対して旬報,月例統計報告,事業予測を報告
 事業部制によって量・多様化戦略を展開
GMの事業部制(単純化したモデル)
事業部制
中央本社
シボレー
事業部
ビュイック
事業部
オールズ
事業部
5-3 製品戦略の革新ー量と多様性の結合
 シボレー・スペリア・K
 1924年に発売⇒成功(フォードTの市場を奪う)
 1927年にはT型フォードの生産量を越える
 箱形の2Boxカー
 フルライン政策と毎年のモデル・チェンジ
 所得階層毎に製品を供給
 シボレーK:450〜600ドル
 オークランド(ポンティヤック):600~900ドル
 ビュイック(4気筒):900~1,200ドル
 ビュイック(6気筒):1,200~1,700ドル
 オールズモビル:1,700~2,500ドル
 キャデラック:2,500~3.500ドル
 車種間で目に見えない箇所の部品を最大限に共通化し,多様性
を顧客の目に映る多様性のみに、すなわちボディー形状・内装・
装備品の多様性に還元した
 成功の条件:消費主導・調整型成長分配様式の存在
5-4 スローン・モデル(1)
 コーポレート・ガバナンス:事業部制
 CG妥協(労使間妥協)
 UAW(全米自動車労組)の承認:1937年2月
 賃金交渉の開始(複数年交渉)
1950年代以降:賃金上昇率=物価上昇率+α
α=購買力の計画的上昇分(例:α=3%)
 社会保障に関する企業の支援(医療保険,年金)
 シニョリティー制度(先任権制度)
 レイ・オフと再雇用のルール化,および格付け
 その他(苦情処理制度,等)
 CMにおいて成立した妥協は他企業に波及
 マーケティング
 フランチャイズ制(専売制)
 割賦販売と下取りの導入⇒販売促進
5-4 スローン・モデル(2)
 製品戦略:マルチブランド・フルライン政策
 生産組織
 製造部門の系列化(部品の内製)と下請けの利用(部品の外製)
 設備,工作機械,道具は頻繁なモデルチェンジに対応できるように準専
用機化
 組立ラインを幾つかのセグメントに分割し,セグメント間にストックを置
いた
 需要変動に対応するために工場,販売店に部品や製品の在庫を認め
る
 繁忙な工場から稼働率の低い工場への製造製品の移転
 ライン労働者は頻繁なモデルチェンジに対応できるように多能工である
必要がある
 スローン・モデルは1950~60年代には「ワン・ベスト・ウエイ」と見なさ
れ,世界中で模倣される
 ルノー,フィアット,フォード,プジョー,日産,クライスラー
 VW(1970年代以降の成功例)