一人一人の特性を 生かした支援の工夫

「注意欠陥(如)多動性障がい
(ADHD)」
一人一人の特性を生かした支援の工夫
大分県教育センター 「LD・ADHD等教育研修」
ADHD分科会資料より抜粋
大分県教育センター
特別支援教育部
ADHDの診断がある子ども,未受診だが不注意・多動性・
衝動性の傾向がある子どもの理解
◆自分の行動を評価・改善することが難しい
(不適切であることに気づきにくい)
◆集中力がないのではなく,コントロールする
ことが難しい
(興味のあることには集中できる)
個人差があるので,一人一人の特性を
ふまえた特別な支援が必要です。
具体的な支援のポイント
「木を見て森も見る」
診断名はあくまでも子どもの一部。
学校での様子と家庭での様子が違う場合も多い。
適切な行動をする場,対応が上手な人もいるはず。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」
あれも,これもと欲張らず,ねらいは一つにしぼる。
多少目をつぶって容認する行動があってもよい。
ゆっくりでもよいので,一歩一歩確実な成長を。
具体的な支援のポイント
「人には添うてみよ」
しかるよりもほめる。その場ですぐにほめる。
「何やってるの!」 ではなく, 「どうかしたの?」
「○○先生なら,わかってくれる」 と思われるように。
「量より質」
過剰な課題を与えると,意欲が損なわれがち。
ダラダラ20問よりも,集中して10問。
「これくらいならやれる」 という意欲や,「できた!」 と
いう達成感を味わえるように。
具体的な支援のポイント
管理と自由度のバランスをとる
<場所><時間帯>等の適切な配慮のもとで,
容認することがあってもよい。
ただし,<場所><時間帯>のルールの理解を。
ほめるときは全体の場で。
注意するときは個人的に,短く簡潔に。
自尊感情を育てることが大切。
早期の環境調整は二次障がいを減らす
早いうちに,周囲の大人が子どもの特性を理解し,得意
なところを生かし,苦手なところを補うような対応を行う。
適応的な行動に対しては,大いにほめ,
達成感,自信をもたせる。
この積み重ねは,人に対する肯定的なイメージを抱き,
二次的な情緒,行動的問題を減らすことにつながる。
不適応行動の背景
自己調整能力の未熟さ
認知能力のアンバランスな発達
・視覚認知能力が弱い
・・相手の表情に気づかない。
・自らの感情・衝動・行動を,自分自身で
上手にコントロールできない
・・不本意なことが起こる
・聴覚認知能力が弱い
と暴れる。
・・人の話に注意がはらえない。
教室の飛び出し,離席が多い。
・記憶力が弱い
状況に関係なく物思いにふけ
・・必要な物を忘れる。
る。
◆未学習
◆誤学習
◆適切な行動を知っているが,できない
一斉指導,集団活動,対人関係等において問題が生じる
不適応状態の原因と考えられる6つの柱
(上野 一彦 氏)
◆学力のつまずき ・・ 読む・書く・計算等の学力不足
◆言葉のつまずき ・・ 聞く・話す等の口頭言語能力の
力不足
◆注意のつまずき ・・ 注意が続かない,気が散りやす
い,じっとしていることが苦手
◆運動のつまずき ・・ 運動が苦手,手先が不器用
◆情緒のつまずき ・・ 劣等感,不安感,自信喪失 等
◆社会性のつまずき・・ 集団へついていけない,
友だちが作れない
ADHDとPDD(広汎性発達障がい)
ADHDの状態像 と PDDの状態像
・幼児期:多動,マイペース,やり取り可能
・学童期:表面的に「安定」
・思春期:被害的言動,攻撃性,強迫性
PDDとADHDの併存があり得る
・特に,アスペ(AS)ではADHDの併存が多い
・ADHD特性が目立つ子でも,PDD特性(マイ
ペースさ)に注意
ADHDの子どもは知的障がい児なのか?
 知的障がい児と思われる理由として,①多動性・衝
動性がある,②学校の成績が極端に悪いからと言
われる。
①診断基準では知的障がいのないこととされており,
教師や保護者の注意を理解する能力は十分にあ
る。
②成績が悪いのは,集中力を働かせることが困難な
ためで,内容が理解できなわけではない。また,LD
を合併している可能性も考えられる。
ADHDの子どもに知的遅れが必ずあるというのは間違い!
ADHDの子どもはLDを合併することが多い?
 ADHDの子どもは,LD(学習障がい)を合併すること
がある。(スライド12参照)
① 「不得意教科を強制しない」~LDによって学習ができない場
合は無理に勉強させてはならない
② 「得意教科をのばす」~すべての教科を平均的にできるよう
にするのではなく,得意なものをもっと伸ばしていく指導が望
ましい。
③ 「絶対評価をする」~不得意教科を平均点に近づけようとし
てはならない。少しでもできたら,その伸びを褒めるようにす
る。
LDの場合は,「できないことは忘れて,
好きなことをやろうね,得意なことを伸ばそうね!」
症状の軽度・重度よりむしろ,本人の
「生きにくさ」に気づいてあげることが大切!
 子どもの「生きにくさ」がわかりにくい場合もある。
① 「多動性・衝動性型の子ども」~突然奇声を発したり危険な
行動を取ったりするため,周囲に「重度」だと思われがちであ
る。しかし,周りが理解すれば,本人は生きにくさを感じずに
生活をすることができる。
② 「不注意型の子ども」~ぼんやりしていて集中できないため,
授業についていけない。症状が重い場合もあるが,周囲にあ
まり気づかれないことも多い。困っていないかどうかに気を
つける必要がある。
家庭,保育園,幼稚園,学校・・・
それぞれの場所でどう対処したらいいの?
家
保育園
・幼稚園
庭
できないことを叱るより,「できること
をほめる」しつけを心がける。気が
散らないよう,家の中はできるだけ
整頓し,生活環境を整える。
学
連絡帳などで密に連絡を取り合
い,教師との理解を深める,落ち着
きがないことを伝え合い,事故に遭
わないように注意する。
校
教室の席の位置を工夫するなど,
集中しやすい環境を作る。教師に
近い席に着かせ,集中力が持続す
るように配慮する。
二次障がいの理解
発達障がいへの対応が遅れ,抑うつ症状
やいじめ,不登校などの被害が生じること
を二次障がいという。
二次障がいの背景には,失敗を続けてき
た自己を責める感情がある。
背景を知るときに,診断名が生かされる。
診断名はそのためになされるといってもよい。
ADHDのストレスから行為障がいへ
特に多動性・衝動性が強い人は,自分を受け
止めてくれる人に出会えないでいると人生に
対する悲しみや絶望感を増幅させ,非行に
走ってしまうことがある。
生きづらさの反動とも言える。
誰かを頼れば,あるいは誰かが支えてあげ
れば,防げる可能性もある。
DBDマーチ
四六時中非行をしているわけではない。非行は
彼らの一面であり,部屋を掃除したり,友だち思い
の行動をしたりとよい面もある。
自分の中には可能性があると言うことに目を向
けさせ,それを発揮する機会を得るようにすること
が非行から抜け出るための一歩である。
 DBDはDisruptive Behavior Disorder(破壊的行動障がい)の略で
ADHDや反抗挑戦性障がい,行為障がいの総称。
 DBDマーチは,それらの障がいを行進(マーチ)するように移行して,
やがて反社会性パーソナリティ障がいに至る経緯のこと。
反抗挑戦性障がい(ODD)
怒りっぽくて,態度や発言が反
抗的であるが,人を傷つけようと
はしない状態。一般的に3歳~8
歳までに発症。思春期以降に発
症は見られない。
●口論,かんしゃく,大人の要求
を無視,わざと他人をイライラ
させるなど
●神経過敏,怒りやすい,イライ
ラしやすい,執念深いなど
行為障がい(CD)
成長とともに反抗挑戦性障がいのある子ど
ものがエスカレートし,人や物に対して破壊
的な行動を取ること。
●万引,人や動物に対する過度の攻撃性
や暴力などの非行を繰り返す
●規則違反をして言い逃れをして,認めな
い
社会的規範を持たず,人や物に対して破壊
的な行動をとる。
•万引や恐喝,放火などの非行を繰り返す
•規則違反をして,その後言い逃れをする
必ずしもこの順番に移行するわけではなく,移行するのはごく一部
反社会性パーソナリティ障がい
18歳以上で,他者の権利や感
情を無神経に軽視する人格障
がい。
●社会的規範に適合せず,法に
抵触する行為を繰り返す
●人をだますことを繰り返す
●衝動性,または将来の計画を
立てられない
●社会通念上の反社会的な行
為に対する認識がない
授業における配慮事項
「わかる授業」が基本!
授業中に「離席する」「私語をす
る」「集中できない」などは,子ど
もの障がいによる影響だけなの
でしょうか?
障がいによる影響は
確かにあります。
しかし・・・,
授業を見直すことで改善される場合も少なくあり
ません。基本は子どもを変えようとするのではなく,
周りの大人(教師)が変わることが大切です。
まずは,「わかる授業」を心がけましょう。
学級全員がわかる授業を
間違えやできないことに気づかせるだけではいけない
正しいこと,できるための
方法を具体的に教えていく
《苦手なことに対する意欲を高
めるために》
・できていることを認める
・得意な面をうまく利用する
《個別に支援を行うために》
・支援を可能にするために学習
環境が重要
特別な支援を必要とする子ども
も含め,学級の子どもたちみんな
が「わかる,できる授業」にして
いくこと
特別な支援を必要とする子ども
へのわかりやすい支援は,学級の
みんなにもわかりやすい支援!
ユニバーサルな視点からの支援
 対象の子どもにのみに焦点化した個別の支援に偏らない
← 授業づくりや学級経営
 クラス全体を配慮したユニバーサルな視点からの支援の在
り方を忘れない
 担任を支える校内支援体制の支援
 地域の諸機関との連携の支援
授業以外での支援
 授業での支援と考え方の基本は同じです
 発達障がいの生徒が抱えている困難な状態を把握し,
理解し,適切な支援をする
やるべきことを具体的
周囲の生徒が見本
見通しがもてるように
「協力して」は難しい
居場所づくり
周りの対応
できていることを認め「セルフエスティー
ム」(自尊心)を高める対応に努めましょう。
長所と短所を伝え,長所を生かして生活で
きるように支援していきましょう。
連携が必要
当事者や家族は努力している。一方で関
係者(学校等)もよく頑張っている。
当事者と専門家の連携を深めること。専門
家以外のより多くの関係者の協力を得るこ
とが必要です。
当事者や家族が誰かを頼ればいいのだが,
本人や家族である当事者と学校,医療機関
などの関係者との間には意識の差がある。
赦し(ゆるし)合う関係づくりを
 「許す」という字には許容するという意味合いがあ
る。一方,「赦す」という字には間違いを赦して,
とがめないという意味がある。この「とがめない」
という気持ちを持つことが大切。
赦し合う
支え合う
最も重要で
最も難しいこと
認め合う
つながり合う
生活の質の改善を
生活の質を充実させ
るためには,他分野の
人たちの協力も必要。
<社会的な4つの支援>
情緒的な支援:対話や共感,配慮など
道具的な支援:仕事の手伝い,環境の提
供など
情報的な支援:特性に対処するための情
報提供
評価的な支援:よい面への正当な評価
薬物療法
 薬を併用することで特性をやわらげる効果があります。
 ただし,専門の医療機関で診療を受け,適切に使用する
必要があります。
メチルフェニデート
(商品名:リタリン)
中枢神経刺激薬。神経系,
特にドーパミンの働きに作
用し,衝動性,不注意の特
性をやわらげる効果がある。
服用の調整をしやすい薬。
メチルフェニデート徐放剤
(商品名:コンサータ)
リタリンと同じ作用を持つ
中枢神経系刺激薬。薬の構
造が違うため,リタリンよりも
効き目がゆっくり現れる(徐
放)。
一部の人の乱用が問題とな
り,使用できなくなった。
18才未満に使用が制限され,大人に
は処方されない。これまでリタリンを
使っていた大人が,薬のない生活に
なっている。
行動療法「トークンエコノミー」
賞賛や罰を与えることで行動を変えていく
のが「行動療法」です。つまり,やってはい
けない行動が現れたときには,本人にとっ
て嫌な条件を与え,反対に望ましい行動が
現れたときには,好ましい条件を与えるこ
とで行動を変えていく方法です。
具体的にADHDでは「トークンエコノミー」
という行動療法などが行われます。
トークンエコノミー
前もってよい行動とやっては行けない行動を指示。それぞれに点数を決めておく
課題を提出できた
課題を完成できた
離席しなかった
私語をしなかった
授業の準備ができた
日程どおりに
課題を始めた
 忘れ物をしなかった






望ましい行動には,
・ 点数を増やす
・ 賞賛を与える
+80点  離席した
ー50点
私語をした
-50点
+80点
+20点  教師の指示を
聞かなかった
-20点
+20点
+5点  始業時に授業準備が
できなかった
-20点
+5点  課題を提出
しなかった
-50点
+5点
やってはいけない行動には,
・ 点数を減らす
・ 「罰」を与える
こんなときどうする?
「外出先で騒ぎ出す」
衝動的な対応には冷静に対応すること
 よい対応
 しばらくたってから言い聞
かせる
 静かなトーンで話しかける
 場所を移動して気分を変え
る
 子どもの悪い行動だけをい
さめる。人格までは責めて
はいけない。
 悪い対応
 人格を否定するような暴言
で叱る
 衝動的に子どもをとがめる
 力ずくで従わせようとする
 大声を出す
こんなときどうする?
持ち物や宿題など「忘れ物」が多い
保護者・教師・友人の協力で忘れ物を減らす努力を
人間本来の行動特性として・・・・
★「ほめられたこと」はいつまでも覚えている
★「叱れたこと」はすぐに忘れようとする
忘れ物をしても
叱らない!
忘れ物をしな
かったとき
ほめる!
こんなときどうする?
極端な「勉強嫌い」をフォローするには
「勉強嫌い」をなくす環境を作る
知的能力が劣っているせいではありません。集中力が続かないなどの場合が
多いのです。実力が出し切れていないだけだと考えられます。
① できないところを叱らずに,できたとこ
ろをほめる
② ポイントを絞って,単元を細かく分けて
教える
③ 学習時間を長くとる
こんなときどうする?
「近所の人」や「親戚」にどう説明する?
偏見を持たれないようにうまく説明する
ADHDはいわば生まれ持った性格的個性。
その衝動的な行動に,周囲の人からは「親のしつけが悪い」と非難
されることも
「しつけのせいではない」
と説明してもよい
よい説明の仕方
•自分の行動にブレーキをかけるのが下手である
•子どもの3~5%に見られ,決して珍しくない
•周囲の人たちの協力と理解で症状は改善される
自己弁護にならな
いような情報を伝
え,理解を得る
•
•
•
悪い説明の仕方
原因は脳の機能障がい
本人に悪気はない
親のしつけが原因ではない
「責任逃れ」と捉
えられてしまう可
能性がある
こんなときどうする?
「クラスの保護者」にどう説明すれば理解してもらえる?
「責任逃れ」ととられることのないADHD説明方法
障がいについて詳しく説明するよりも「子ど
も特有の性質が,極端に表れてしまう」とい
うように説明する。また,ADHDのことを知っ
ている人に対しては,「子どもの3~5%に
見られ,決して珍しい障がいではない」「周
囲が適切に対処していれば日常生活に問題は
ない」ことも付け加える。
ADHDの子どもが
「学級崩壊」を引き起こすわけではない
「学級崩壊」は周囲の子どもにも原因がある
ADHDを取り巻く周囲の子どもたちの行動パターンが時代とともに変化して
きている。「学級崩壊」をADHDの子どもに責任を押しつけるのは見当違
い。
昔(1980年代以前)
「その行動はおかしいよ」
「先生に言いつけよう」
「あんなことしちゃいけな
いな」
個性を尊重する
昔(1990年代以降)
「騒いでておもしろそう」
「好き勝手に行動してい
いんだ」
「先生の言うこと聞かなく
ていいんだ」
我慢しなくていい
引用・参考文献
 「通常学級の特別支援~今日からできる40の提案」 佐藤慎
二 日本文化科学社特別支援教育研究 (日本文化科学社)
( 2008 No.611 No.617)
 LD(学習障害)のすべてがわかる本 上野一彦 監修
講
談社
 学習障害(LD)及びその周辺の子どもたち
-特性に対する対応を考える- 同成社
 中学・高校におけるLD・ADHD・高機能自閉症等の指導
自立をめざす生徒の学習・メンタル・進路指導
東洋館出
版社
 特別支援コーディネーター研修 講義資料より
国立特別支援教育総合研究所 渥美義賢
 大人のAD/HD 田中康雄 監修
講談社
 ササッとわかる最新「ADHD」対処法 榊原洋一
講談社