気化熱による冷却作用(1)―燃えないハンカチ

燃えないハンカチ: 木綿+含水エタノール
ハンカチが燃えない理由
● 液体は気化して燃える(蒸発燃焼)。
● 気化熱(蒸発熱)で周囲を冷やす。
● 液体の温度は沸点以上にはならない。
熱
燃料
○ 芯燃焼: 気化熱による冷却作用のため、
芯の温度が燃料の沸点以上にはならない。
○ 少量の水:燃え終わりの部分的な温度上昇を防ぐ。
① 液体燃料は下に流れる
② 持ち上がった所には燃焼熱が伝わりやすい
→ 温度上昇
1
指ローソク: 指のペンタンに火を付ける
●指から出る炎でろうそくに点火する
(1) ペンタンの沸点は36℃
(2) ペンタンの温度は36℃より高くならない。
(3)指に付けたペンタンに点火 ⇒ 指は熱くないはず。
指の上部: ペンタンの量が少ない、
熱が伝わりやすい
下部: ペンタンの量が多い、
熱が伝わりにくい
2
油なら何でも燃えるか: 引火点と引火
可燃物
沸点(℃)
引火点(℃) 発火点(℃)
ガソリン
30ー180
約 ー50
600ー750
灯油
180ー250
約 50
600ー750
大豆油
熱分解
280
450
● 点火できるか?
● 芯を入れたらどうか?
● 石油スト-ブに、灯油(無色)でなく
ガソリン(薄い赤色)を入れたらどうなるか?
● 天ぷら油の熱分解 → 気体やコロイドが増える
● 油火災の消火法
(1) 引火点以下に冷却(マヨネーズの投入)
(2) 空気の遮断(窒息消火)
→
点火
3
水の中で燃える火
● Mg + H2O → MgO + H2
強力な還元剤
酸化剤
( MgO + H2O → Mg(OH)2 )
● 燃焼とは
還元剤(燃料)と酸化剤(通常はO2)の急激な反応 (高温→熱と光)
● 燃焼の三要素
①燃えるもの(還元剤)
●消火の四要素
①燃える物を取り除く
③引火点以下に冷却
②空気(酸素)などの酸化剤
③十分な高温
②酸素を遮断するか希釈する(21%→15% )
④活性種の失活
●消火剤としての水
①豊富 ②多量の気化熱 ③気化で体積が1200倍以上⇒
水蒸気が空気を遮断 ④水滴による活性種の捕獲
4
酸化鉄から鉄をつくる
● 鉄の工業的製法: 高温が必要
鉄鉱石(Fe2O3) + C(コークス) → 鉄
●テルミット反応
Fe2O3 + 2 Al(還元剤) → 2 Fe + Al2O3
●アルミニウムは炭素よりも強力な還元剤
→ より容易に反応
5
圧力による発火 :
● 6 P + 5 KClO3
自然発火(1)
圧力
─→ 3 P2O5 + 5 KCl +(heat)
(固体) (固体)
P: 赤リン(固体)
KClO3 : 塩素酸カリウム(固体)
● 熱膨張する空気が閉じ込められると音が出る
● マッチの箱: 赤リンとガラスの粉
マッチの軸: 塩素酸カリウムと燃えやすい物
● 黒色火薬: 硝石(KNO3)+ 硫黄 +木炭
● 化合火薬: 同じ分子内に酸化還元
6
拡散燃焼: 自然な燃焼
物質名
ベンゼン
シクロヘキセン シクロヘキサン アセトン
エタノール
メタノール
分子式
C 6H6
C6H10
C6H12
C 3H6O
C 2H6O
CH4O
C/H
1
3/5
1/2
1/2
1/3
1/4
O/C
0
0
0
1/3
1/2
1
炎
明るい
明るい
明るい
明るい
やや暗い
暗い
煤
特に多い
多い
少ない
ない
ない
ない
●C + O2 ──→ CO2, H + 1/4 O2 ──→ 1/2 H2O
●酸素不足→炭素微粒子→高温→熱発光(連続スペクトル)
●低温: 赤色(長波長) 高温: 青白色(短波長)
●煤(すす): 炭素微粒子の集合体
●分子内の酸素原子: 燃焼に使われる→炭素微粒子の減少
熱発光: 連続スペクトル
http://www.isas.ac.jp/docs/ISASnews/No.251/intro.html
より
光の波長が連続的に異なる
8
予混燃焼: 人類が創造した燃焼
● 拡散燃焼の速さを制限するもの
(1) 可燃性気体の供給速度(蒸発速度)
(2) 空気の拡散による酸素分子の供給速度
● この制限因子を予めクリアしておく → 燃焼が速い
● 液体燃料を蒸発させて空気と混ぜておく(予混) →
酸素不足にならない → 完全燃焼(効率が高い)
● 炎の色: 薄青色
(CH,C2 の化学発光 → 帯スペクトル)
● 可燃性気体の濃度が高過ぎても低過ぎても着火しない。
(可燃範囲の濃度のときだけ、着火する)
→
● ガソリンでも加熱したアルコールでも、
密閉空間内では燃えない
9
予混炎の発光スペクトルの例
可視領域
瀬尾、赤松、芝原、香月, 日本燃焼学会誌、48巻、144号、206-213 (2006)
燃焼の活性種の化学発光による帯スペクトル(可視光線の波長は 380~750 nm)
10
可燃(爆発)範囲: 燃焼が起こる濃度
試薬
可燃範囲
(体積%)
可燃下
限温度
(℃)
可燃上
限温度
(℃)
爆発予測
-------
5℃ 室温 50℃
予測結果
ヘキサン
1.1-7.5
-28
-4
×
×
×
ベンゼン
1.2-7.8
-17
15
○
×
×
ヘプタン
1.1-6.7
-5
27
○
×
×
冷やすと爆発
オクタン
1.0-6.5
15
50
×
○
×
温めると
燃えない
トルエン
1.2-7.1
5
38
?
○
×
温めると
燃えない
メタノール
6.0-36
7
41
×
○
×
温めると
燃えない
エタノール
3.3-19
-2
41
○
○
×
温めると
燃えない
冷やすと爆発
11
原子発光(炎色反応): 金属原子による炎の着色
●
●
●
●
拡散燃焼の赤橙色の炎: 炭素微粒子の熱発光
予混燃焼の炎の薄い青色: CH, C2 の化学発光
メタノールに金属塩を溶かして点火する → 原子発光
価電子が熱で空の軌道に移る → 電子が、元の
より安定な軌道に戻るときに、光を出す → 線スペクトル
高温では電子移動 Na+Cl- → Na・ + Cl・ も起こる
12
原子発光: 線スペクトル
www.purebits.com/ appnote8.html より
13
触媒燃焼: 燃える砂糖と燃えない砂糖
●角砂糖 (ショ糖)に炎を当てる。
●角砂糖植物の灰をこすりつけて、炎を当てる。
●炭酸水素ナトリウムをこすりつけて炎を当てる。
(2 NaHCO3 ───→ Na2CO3 + CO2)
●炭酸カリウムの水溶液で紙に字を書き乾燥させたものに点火する。
● K,Naの炭酸塩や炭酸水素塩は、燃焼を助ける触媒作用をもつ。
●アルカリ(alkali) ←の植物の灰(kali、アラビア語)
●触媒燃焼: 触媒に助けられた燃焼
○ 黒砂糖は燃えるか
○埋れ火はなぜ消えないか
○練炭や線香の灰はなぜ多いのか
○ミカンの果汁があぶり出しに使えるのはなぜか。
14
砂糖の自然発火
濃硫酸(1滴)
●ショ糖(スクロース)+ KClO3
還元剤
→
発火
酸化剤
KClO3 + H2SO4 → HClO3 (液体)
●炎の色:
(1) なぜ赤橙色でなく白色か
(2) なぜ紫色がかっているのか
15
グリセリンと過マンガン酸カリウムによ
る自然発火
● 還元剤 + 強力な酸化剤 →自然発火
● グリセリン + KMnO4
(還元剤) (酸化剤)→(大気中のO2)
● 自然発火: 予想外の場所と時間で
起こりうる → 火災や爆発などの原因
16
プロパンガスはなぜ爆発しやすいか
家庭用ガスの組成
●部屋の下部:上部よりも通気
性が悪く点火源(冷蔵庫)も多
い
●火災(燃焼): 低酸素濃度の
空気を吸う → 脳への酸素供
給停止 →ATPの生成不可
→ 意識喪失
●床近くの空気(O2が多い)を
吸いながら逃げる
ビル火災で44名死亡(2001年、新宿)
焼死者は頭を窓向き ⇒
焼死前の意識喪失
(脳は数十kg/日のATPを使う。しかし、脳
のATPは約1g。6-8秒ごとの再生にO2が
必要。)
(体積%、西部ガス)
メ 空 エ プ ブ
タ 気 タ ロ タ
ン
ン パ ン
ン
分子量
16
6
都市
ガス
89
9
(29)
)
30
44
58
5
3
3
プロパ
パン
ガス
軽い ← (空気)
い
ペ
ン
タ
ン
72
80 20
0 0
→ 重い
17
超微粒子状鉄の自然発火
熱分解
●シュウ酸鉄 → 超微粒子状の鉄
Fe + O2 → Fe2O3 (酸化熱→熱発光)
(微粉鉄)
(酸化鉄)
O2
●内部の原子: 結合能力が全て
満たされている
●表面の原子:外側方向にも結合を作れるが結合していない
⇒他の分子を捕まえやすい(吸着しやすい)
⇒電子移動 ⇒ 化学反応(酸化、燃焼)
●鉄の酸化の応用例: 使い捨てカイロ、脱酸素剤
⇒菓子類などの長期保存
18
粉塵爆発の可能性の実証
● 粉塵爆発の例: 炭塵爆発(炭鉱)
● 小麦粉爆発: 米国中西部の製粉工
場で、小麦粉が、塔中を落下する時の火
花放電によって爆発
● 閉じられた空間内での燃焼 → 強
い力が発生 → 爆発やエンジンのシリ
ンダーの中での燃焼など
● 韓国の釜山の射撃場で8人死亡(09/11/14)
19
リズム反応(振動反応): 生物リズム現象のモデル
● リズム反応:一定の周期で繰返される
反応
● 生物界のリズム現象:
内臓等の周期的伸縮運動など多数
●生物の体内で周期的な化学反応が起
こっているため?
●仮想的モデル:
①草が生える(エネルギー供給)
エネルギー供給: マロン酸の臭素
酸による酸化
マンガンイオンの触媒作用:
②白兎増 → ③赤狐(捕食者)増 →
④兎(被捕食者)減 → ⑤狐減 → ②
Mn2+
(無色、白兎)
の繰り返し
揃って変化(平衡ではない) →
電位差の周期的変動 20
Mn3+
(赤色、赤狐)
触媒と活性化エネルギー
ここで、基質-触媒複合
体ができている
http://www2.yamamura.ac.jp/chemistry/ を参照。
21
触媒の作用機構を見る
酒石酸 + 過酸化水素(H2O2) → CO2 + ・・・・
●触媒基質複合体を作って活性化エネルギーを下げる
触媒 + 基質 ⇔ 触媒基質複合体→生成物 +触媒
Co2+
酒石酸
(ピンク色)
酒石酸ーCo2+ CO2など
(暗緑色)
Co2+
(ピンク色)
触媒がない場合
触媒がある場合
22
誘導期のある反応
●誘導期とは: 活性種生成に時間がかかる
(反応が遅いのではない)
●活性種の例: 触媒・基質複合体
(酵素・基質複合体)
※基質: 反応を受けるもの
●例え: 潜伏期のある病気
●潜伏期に発症の原因物質が作られる →
● 感染から発症までに時間がある
23
問: ドライヤーで浮かせたカップメンの容器は、ドライヤーを動
かすと、その方向に移動する。なぜか。
カップメンの容器
周囲からの
圧力が等し
いので安定
カップメンの
容器が浮く
のは流れる
空気の抵抗
による
24
ベルヌーイ定理が働く例
飛行機の翼
霧吹き
変化球
http://www.sonet.ne.jp/kagaku/naze/
hon/cat_d_1_32.html
より
http://www8.ocn.ne.jp/~kenbec/btop-004c.htmより
25
問: コップの近くでゴム風船を膨らませると、
コップは風船にくっつく。なぜか。
圧力高
膨らませた風船
膨らませ
る前
コップ
縁でゴム膜
は滑るか?
コップがない
時の形
圧力中
(大気圧)
膨らませる前
の形(左図)
圧力低
実際の形はどう
なっているのか?
ヒント: 風船を膨らませることによるコップ内部の圧力の変化を考える
演示実験(1)
1.
2.
3.
4.
5.
6.
この授業での演示実験には燃焼に関するものが多い。①燃焼の定義を述べ、
②演示実験に燃焼実験が選ばれた理由を3つ推定せよ。
① 芯が木綿のアルコールランプでは、可燃性である芯が燃えない。なぜか。「
引火点」と「液体の沸点」という用語も取り入れて説明せよ。
①ろうそくの芯は、ろうの近くでは燃えない。なぜ可燃性の芯が燃えないのか。
「気化熱(蒸発熱)」、「引火点」、「沸点」という用語も取り入れて説明せよ。②ま
た、ろうが燃えるにつれ芯も短くなる。なぜ炎の中の芯の長さは変わらないのか
(なぜ芯も少しづつは燃えるのか)。
①マッチの火で、ヘキサン(ガソリンと同等)には点火できるが皿や鍋に入れた
灯油や食用油に火をつけることはできない。なぜか。②しかし、木綿や紙で作っ
た芯では灯油や食用油にも点火できる。なぜか。
天ぷらを作っているときに、油に引火したらどのように対処したらよいか。原理
の異なる対処法を2つあげ、その原理について解説せよ。
石油ストーブに灯油の変わりにガソリンを入れて火を着けたらどうなるか。根拠
もつけて説明せよ。
演示実験(2)
7.
8.
9.
10.
11.
12.
13.
① 消火の四要素と燃焼の三要素とを書き、② 火事の消火には水が用いられる
理由を5つ述べよ。
精製ショ糖である白砂糖には自燃性がないが、未精製ショ糖である黒砂糖には
自燃性がある。なぜか。
炭火は灰に埋もれ、きわめて空気の流通の悪い状態でも消えない。また、線香が
燃えると多量の灰が残る。これらの現象に共通して関与する物質名をあげ、その
作用について説明せよ。
皿に入れたエタノールは穏やかに燃えるが、アルミ缶に少量入れ蓋をして振った
ものに点火すると急速に燃える。同じエタノールなのに、後のケースの方が前の
ケースよりも燃焼速度が速い理由を2つあげよ。
① ろうそくの炎が橙赤色に明るく輝く理由と、② メタノールの燃焼炎が暗くて見
えにくい理由と、③メタノールに食塩を加えたものの炎が黄色である理由を述べ
よ。
① ガスコンロの炎は、空気口(空気取り入れ口)を閉じた状態では、ろうそくの炎
ように橙黄色である。なぜ橙黄色の光が出るのか。② 空気口を開けて空気をガ
スに混ぜると、炎の色は薄い青色になる。なぜ橙黄色が消えたのか。③ この青
色はどのような種類の発光に由来するのか。
予混燃焼の燃焼速度が拡散燃焼の燃焼速度よりも速い理由を2つあげよ。
演示実験(3)
14.
15.
16.
17.
18.
19.
20.
○ 予混燃焼の燃焼速度が拡散燃焼の燃焼速度よりも速い理由を2つあげよ。
○ ① ガソリンスタンドの地下にあるガソリン(性質はヘキサンに近い)の貯蔵槽(密閉
状態にある)に火のついたマッチを投入しても、火は消えると推定される。なぜか。「飽
和蒸気の割合」、「可燃範囲(爆発範囲)」という用語を用いて説明せよ。② 一方、ガソ
リンの代わりにメタノールやエタノールを入れたタンクでは、マッチを投げ込むと、爆発
が起こると推定される。なぜか
○ 都市ガス(ガス管で送られてくるガス)とプロパンガス(圧力容器中のガス)とではガ
ス漏れ検知器の設置場所が異なる。なぜか。①2つのガスの組成と② その構成ガスの
性質に基づいて説明せよ。
○ 室内で火災にあったときには、焼死する前に、呼吸を止めていられる時間よりも短時
間で意識を失う可能性がある。① 脳が働くには、なぜ酸素が必要なのか。② 室内火災
の際、室内の空気を吸うと、息を止めるよりも短時間で意識を失う可能性があるのはな
ぜか。(一酸化炭素中毒は、急性中毒ではない。)
○ ① 空気より重い飛行機が空中に浮く理由と② 右回転(時計回り)の変化球が、右方
向へ曲がる理由を、図を書いて説明せよ。
○ 霧吹きを使うとなぜ霧を発生させられるのか。その仕組みについて述べよ。
○ ゴム風船をコップの近くで膨らませると、コップはゴム風船にくっつく。なぜコップは風
船にくっつくのか。