天体放射論II

H26年度基礎天文学観測実習
「電波望遠鏡による分光撮像観測」
実習事前打合せ資料
河野孝太郎、田村陽一、
泉拓磨(D1)、谷口暁星(M2)、山口裕貴(M1)
天文学教育研究センター
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改訂履歴:
平成24年7月30日
平成24年8月6日
平成25年9月24日
平成26年5月8日
実習参加者と担当教員・チューター




142001
142002
142005
142007
石田剛(いしだ つよし)
一木真(いちき まこと)
大橋宗史(おおはし ひろふみ)
須藤貴弘(すどう たかひろ)
 担当教員:河野孝太郎、田村陽一(5/31は野
辺山出張中)
 チューター:泉拓磨(博士1年;5/31のみ)、
谷口暁星(修士2年@5/31は野辺山出張中)、
山口裕貴(修士1年)
本日のスケジュール
2014/5/31(土) 14:30~17:30?
 実習参加者顔合わせ
 事前講義
 実習の狙い
 電波望遠鏡とは
 電波望遠鏡を使った観測に登場する概念・用語など
 実習準備
 観測天体の選定・観測計画の検討
 必要なソフトウエア等の確認・準備
 質疑等
「電波望遠鏡による分光撮像観測」
実習の狙い
 電波望遠鏡とは?
 電波望遠鏡を使った観測の特徴は?
 電波望遠鏡を使った観測では、どのような「物
理量」を測定・取得しているのだろうか?
 得られた測定量から、どのように天体の画像が
得られるのだろうか?
 天体の画像から、どのような天文学的・物理学
的・化学的情報を得ることができるだろうか?
 得られる情報の精度・誤差は、実際の観測とは
どのように関係しているのだろうか?
実習の意義
 装置を「ブラックボックス」として使う人
 出てきた結果に何か問題があったとき、それがど
の程度「あぶない」のか正確に判断できない。
 よく理解した上で使う人
 装置性能ギリギリに挑む観測(初期宇宙の銀河
からの極めて微弱な信号を捕らえたい、ブラック
ホール近傍の極めて小さい空間構造を議論した
い、原始惑星系形成領域からの小さくて微弱な信
号を探したい、などなど)
 装置の原理を理解することで、徹底的に性能を
引き出すことができる。出てきた結果の、どこまで
を信頼し、どこからを疑うべきか?が、確信をもっ
て判断できる。
課題研究(4年生)修士論文博士論文 。。。
実習のもう一つの狙い:
「観測的手法に基づく研究」の流れに触れる。
 研究=今までにない(人類の歴史の中で、まだ誰も知らない)新
たな科学的知見を獲得すること。
スタート
課題の探索・設定
まだ答えが知られていな
い、重要で面白そうな研
究課題を探す。論文を読
み、研究会等で情報を仕
入れ、大いに議論する。
観測計画立案・提案
研究方法の検討
その課題を解くために
必要な手法・方法を検
討する。文献やアーカ
イブとも「相談」しつつ、
よく考える。
(もし新たなデータの取得が本
質的だと判明したら)必要な望
遠鏡での観測計画を立案、
「proposal」を作成・提出。「レ
フェリー」にちゃんと理解してもらえ
ますように。。
論文受理!出版!
観測実施
論文の編集者およびレフェリーとの
やり取り(戦い)を経て、受理!おめ
でとう!自分の苦労した研究成果が、
論文として世に出る喜びと重みを噛
み締めつつ、次の謎に挑戦!
(望遠鏡によるが)実際に
観測所に赴き、観測を実
行する。天気に恵まれます
論文執筆・投稿
議論がまとまり、新しい科学的知見が
得られたと判断されれば、論文を執筆。
共著者間で合意が得られたらいざ投
稿!共著者間で揉めませんように。。変なレ
フェリーに当たりませんように。。
議論・論文準備
得られた物理量等を元に、
課題に取り組む。共同研
究者と議論。学会等での
プレゼンも必要に応じ行う。
ここらへんは、議論をしつつ・
論文を書きつつ、データ解析を
見直すなど、行きつ戻りつする
ことも少なくない。
ように。。装置が不具合起こし
ませんように。。
データ解析
(1)生データから、正しく較正
された画像やスペクトルを得
る。(2)そこから物理量等を
導出する。ソフトに変なバグが埋
もれていませんように。。
今回の実習では:
 先行研究を参照しつつ、観測計画を立案(今日の作業)し、観
測によりデータを取得し、物理量を導出、それに基づき、議論を
組み立てるところを目標とする。
 23GHz帯にあるアンモニア分子からのスペクトル線観測
 天の川銀河内に分布する、暗黒星雲や大質量星形成領域。
 比較的密度の高い星間分子ガスの分布、および、物理量(ガスの柱密
度、輝線の光学的厚み、ガスの運動温度、速度分散、等)を導出。
 115GHz帯にある一酸化炭素分子からのスペクトル線観測
 スターバースト銀河M82の中心付近(巨大な大質量星形成領域)。
 星間分子ガスの分布、および、物理量(分子ガスの柱密度および質量)
、および大局的運動の様子から、ある半径内の総質量(力学質量)や分
子ガス質量比などを導出。
 23GHz帯での大気透過度の測定
 電波望遠鏡システムの理解を深めるばかりでなく、電波望遠鏡で取得し
ている観測量=「アンテナ温度」の理解を深めることにもつながる。
観測候補天体の位置 @2014/6/6, NRO
DR21
観測は地方恒星時(LST)で
割り当てられています。注意!
NGC
7538
Rosette分子雲
M82
L183/
L134N
Orion-KL/BN
および
Orion-North
6/7の早朝〜お昼過ぎ
6/6の夕方〜夜
0
観測所提供の LST時計でチェック
http://www.nro.nao.ac.jp/~nro45mrt/html/misc/lstclock.html
観測所からの割当
実習スケジュール:1日目【6/6(金)】
 集合: 2014/6/6(金) 15時41分@JR小海線野
辺山駅着
 昼食は途中のお弁当等で適宜済ませて下さい。
 河野、田村が車で野辺山駅まで迎えに行きます。
 16:00 国立天文台野辺山の事務室で受付。
 支払い手続き(領収書を忘れずに! 実習後、本郷に
戻ったら、事務室に提出して下さい。旅費の支給手続き
に必要です。)
 鍵の受け取り、部屋に荷物を置く、等。
 16:30 本館から45m観測棟へ移動、実習開始。
実習スケジュール:1日目【6/6(金)】続き
 17:00 – 18:00 観測準備、pointing観測
 18:00 – 22:00 L134N or M82(1回目)
 観測が順調に進む段階になったら、翌朝に観測予定の人
は、適宜本館へ戻り、食堂で夕食、就寝。
2日目【6/7(土)】 早朝〜お昼過ぎまで観測
 05:00 – 09:00 DR21 or NGC7538(1回目)
※朝食は適宜自分の観測以外の時間に食べておく。
 09:00 – 11:00 Orion-KL/BN(1回目) or
 11:00 – 15:00 Orion-North(1回目) Rosette
 自分の観測時間でない人で、交替で外へ昼食に行く。
 (or 適宜お弁当を買ってきて観測所で食べる。)
2日目【6/7(土)】午後〜晩:データ解析
 15:00 – 18:00 データの取れ具合を確認。解
析を進めるとともに、追加観測が必要かどうかを
判断。
 M82の観測は、他の3天体(23GHz帯)と比較して、
はるかに高い周波数(115GHz帯)のため、天候に大
きく左右される。
 18:00 – 20:00 頃皆で夕食(外に出る)
 夕食後、自由時間(解析等で質問等あれば随時)
 翌朝、再び午前5時集合なので、早めに寝てください。
実習スケジュール:3日目【6/8(日)】
 追加データ取得が必要な場合(現地で要・調整)
 5:00 – 9:00 DR21 or NGC7538 ?
 9:00 – 15:00? Ori-KL/BN or North or Rosette ?
 16:00までに荷物をまとめ、部屋を空けた状態にしておく。
 追加データは不要な場合
 5:00 – 8:00 大気透過度測定実習。
 (終了後、45m電波望遠鏡見学)
 データ解析続き・データ整理・プレゼン準備等
 16:30 本館ロビー集合、野辺山駅へ移動・解散
 鍵の返却を忘れずに!
 16:59 JR小海線 小淵沢行き  17:30 小淵沢着 
17:41 スーパーあずさ28号 新宿行き(19:36着)
実習で使う「道具」
 obs および zobs

45m電波望遠鏡の観測指示書作成ソフト。X端末から野辺山の計算機に入っ
て作業を行う。 「指示書作成ツール”obs”と”zobs”の使い方」を参照。
 NEWSTAR



45m電波望遠鏡のスペクトル線データの解析ソフト。
LINUXまたはMac-OSではjava版 NEWSTARが動く。
http://www.nro.nao.ac.jp/~jnewstar/html/
 KARMA または ds9

解析済みの画像の表示。FITS viewer。他の波長の画像との比較をする際に
使用。


http://www.atnf.csiro.au/computing/software/karma/
http://hea-www.harvard.edu/RD/ds9/site/Download.html
 gnuplot

得られたデータの表示(2次元マップ作成など)、大気透過率の測定データの解
析(最小二乗fitやデータの表示など)。
 PowerPointまたはkeynote

まとめのプレゼンテーションで使用
 データアーカイブ等 NASA-SkyView, Spitzer Heritage Archive等
http://www.nro.nao.ac.jp/~nro45mrt/html/obs/weather/weath_log.html
持ち物など
 初夏とはいえ、野辺山では、
5/30日の気温の推移
朝晩、気温が10度前後まで
下がります。羽織るもの等を持参。
 国立天文台野辺山の共同利用宿舎に泊まります。
 タオル、バスタオル、シャンプーは備え付けアリ。
 洗濯機・乾燥機(洗剤もアリ)が利用できます。
 可能な限り各自ノートパソコン、記憶媒体(USBメモリ等
;データを持ち帰るため)
 筆記用具、ノート
 初日の受付で受け取った宿泊費の領収書(等?) は、事
務室(小野塚さん)に忘れずに提出してください。
観測に使用するアカウント =
メモ:パスワードは
i1042kk (全員共通)




石田剛: プロジェクト名 = proj1
一木真: プロジェクト名 = proj2
大橋宗史: プロジェクト名 = proj3
須藤貴弘: プロジェクト名 = proj4
担当教員・チューター用割当
 田村陽一 proj5
 山口裕貴 proj6
 谷口暁星 proj7
 泉拓磨/河野孝太郎 proj8
_____________
___
具体的な観測天体候補
 L134N (= L183)
 M82(スターバースト銀河)
0)輝線@115GHz帯天候次第
 DR21/W75S
 NGC 7538
(おすすめ)
 Orion-North
 Orion-KL/BN (おすすめ)
 Rosette分子雲
(チャレンジャー向き?)
6/6の夕方
※CO(1-
いずれか1つ
6/7の朝
いずれか1つ(or 2つも可能?)
6/7の午前中〜お昼過ぎ
この中から2つ(or 一つ以上?)
Lynds 134N (= Lynds 183)
 暗黒星雲(可視光や近赤外線ですら、「影」に見える領域=濃密な星間物質が
集まった分子雲コア)。特に低温で、star-less分子雲コア=これから星形成
が始まろうとしている現場の研究対象として有名かつ重要な領域。
 距離が110±10pc程度と非常に近い(Orionより近い) 1”が110AUに対
応し、star-less coreの内部構造を詳しく調べる上での非常によい対象。
http://aramis.obspm.fr/~pagani/Coreshine.php
Pagani et al. 2003,
A&A, 406, L59
爆発的星形成銀河M82
 多量の大質量星の生成  爆発的星
形成のメカニズムや、強い放射場に曝
露された星間物質の研究が極めて盛
んに行われている。
 2つの銀河と相互作用中。
X-ray
(Chandra衛星)
高温のプラズマ
5 arcmin
銀河の距離・位置等
図(右上・右下):野辺山45m電波望遠鏡
によるCO(1-0)輝線観測(Salak, D. et al.
2013, PASJ, 65, 66)
http://chandra.harvard.edu/photo/2000/0094/
DR21/W75S
 はくちょう座方向にあり、分子雲やダスト
が多く存在する。 距離 1.7kpcにあり、
視線速度は-3km/s。
 この領域の中心には、「超コンパクトHII
領域」である DR 21があり、 さらにその
北にはDR21より若く比較的活発な星形
成領域 DR21(OH) がある。
 埋もれた赤外線源  まだ光りだしてい
ない若い星が多数存在。
図:Spitzer衛星による
中間赤外線(3~8μm帯)
3色合成画像+SCUBA
カメラによる850μm
画像(等高線)
Kumar et al. 2007, MNRAS, 374, 54
図:KOSMA3mサブミリ波望遠鏡でのCO(3-2)輝線画像。
Jakob et al. 2007, A&A, 461, 999
NGC
7538
Herschel衛星による
遠赤外線(70~250μm
帯)3色合成画像
ダスト
温度[K]
Fallscheer
et al. 2013,
ApJ, 773, 102
 重い星の集団である「カシオペア座OB2 アソシエーション」に付随するHII領域
。 銀河系中心と反対の方向、2.8kpcの距離にあり、銀河系の渦状腕「ペルセ
ウス腕」に位置する(視線速度は約 - 53 km/s)。
 巨大な分子雲(質量が20万倍の太陽質量もある)が存在し、 HII領域
NGC7538に隣接して現在でも活発に大質量星(O型、B型星)が生まれている
。
赤緯
Orion分子雲
 距離が400pcと近いた
め、大質量星がその周
囲の星間物質に与える
影響(温度変化等)を
詳しく調べることができ
る。
 過去の観測から、以下
の2領域はアンモニア
分子が豊富:
 Orion-KL/BN
 Orion-North
Shimajiri et al. 2011,
PASJ, 63, 105
赤経
図:Orion-KL領域を含む、OrionA分子雲を、色々な波長でみた画像。(a) AzTEC/ASTE
による1.1mm連続波。(b) 115GHz帯にあるCO分子の輝線のピーク輝度温度分布。(c)
近赤外線(1~2μ帯)での3色合成画像。(d) 中間赤外線(8μm)での画像。
Orion分子雲でのアンモニアに関する
先行研究
Bonn 100m電波望遠鏡による
アンモニア輝線観測
“Orion-North”
OrionKL/BN
region
Cesaroni & Wilson 1994,
A&A, 281, 209
※この先行研究をもとに
観測点を決める際には、
分点に注意!
(”NED”に変換ツールあり)
“OrionSouth”
Rosette分子雲
 いっかくじゅう座方向にあり、ばら星雲の名前で知られる明るい星形成
領域に付随している。距離は約1.6kpcで、約2.5度×2.5度に及ぶ広
がり(60pc×60pc)を持つ分子雲である(分子ガス質量は~105太陽
質量と見積もられている)。
 中心にOB星団NGC2244が存在し、この星団を中心にシェル状に分子
ガスが分布している。圧縮された分子雲の中には赤外線源が存在し、
連鎖的な星形成が進行していると考えられている。
図:JCMT15mサブミリ波望遠鏡
により観測された、CO(3-2)
輝線の大規模画像。
※アンモニア輝線の観測は
出版されたものは存在しない。
CO輝線の最も強い領域を狙う?
Dent et al. 2009,
MNRAS, 395, 1805