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国際経済学
(12)国際収支から見た日本
丹野忠晋
跡見学園女子大学マネジメント学部
2013年1月28日
復習1

マクロ経済学は経済全体の動きを分析する

その目的:高い経済成長,低い失業率,低い
インフレ率
国内総生産 GDP
Gross domestic product

2013/1/28
国際経済学12
2
復習2








ある国内での一定期間に市場向けに生産され
たすべての最終的な財とサービスの総額
消費 consumption
C
投資 investment
I
政府購入 government
G
輸出 export
X
輸入 import
M
GDP=C + I + G + X – M
純輸出
X-M
2013/1/28
国際経済学12
3
今日勉強すること

三面等価
生産=支出=所得

民間純貯蓄,政府赤字,財貨・サービスの輸出入
の関係

国際収支の各項目

海外直接投資

海外との取引から見た日本経済
2013/1/28
国際経済学12
4
GDPの三面等価

付加価値アプローチ(生産)
全産業の付加価値

最終財アプローチ(支出)
消費,投資,政府購入,輸出入

所得アプローチ(所得)
労働者,企業家,地主,政府の所得
2013/1/28
国際経済学12
5
三部門から日本経済と外国を考察

3部門:以下の三者の関係を考える
1.
民間部門(消費者と企業)
2.
政府
3.
外国

日本国内の生産であるGDPを考える

それは日本における収入と等しくなる
2013/1/28
国際経済学12
6
収入と支出
真央が今川焼きを作ってイチローに100円で販売
真央の収入100円=イチローの支出100円
人々は収入の全てを支出にまわす訳ではない
三面等価によって次が成り立ちます
収入=支出
3部門で見ると
民間の収入+政府の収入+外国の収入
=民間の支出+政府の支出+ 外国の支出
2010/1/25
2013/1/28
国際経済学12
国際経済学11
7
民間純貯蓄,政府赤字,財貨・サービス
の輸出入
民間の純貯蓄=
民間の収入-民間の支出
政府の純貯蓄=
政府の収入-政府の支出
外国の純貯蓄=
外国の収入-外国の支出
政府の純貯蓄<0ならば政府赤字が発生
収入以上に支出をしている
2010/1/25
2013/1/28
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国際経済学11
8
民間純貯蓄,政府赤字,純輸出
前の式を考慮して「収入=支出」を書き換える
民間の収入ー民間の支出+政府の収入ー政府の
支出+外国の収入ー外国の支出 =0
右辺は各純貯蓄の和になる
民間の純貯蓄+政府の純貯蓄+外国の純貯蓄=0
ある部門がマイナスならば他のどこかはプラス
2010/1/25
2013/1/28
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国際経済学11
9
民間部門の純貯蓄

民間部門の所得は消費に貯蓄を加えたものに等しい

この貯蓄は他の主体への資金提供になる

貯蓄を英語でsavingという.貯蓄をSで略す

民間の所得=C+S

家計と企業の支出は消費と投資からなる

投資を英語でinvestmentという.投資をIで略す

民間の支出=C+I

民間の純貯蓄=民間の所得ー民間の支出
= (C+S)ー(C+I)=S-I
2013/1/28
国際経済学12
10
政府と外国の純貯蓄

民間の純貯蓄は S-I

政府部門の所得は税金(tax)である.Tの記号

政府部門の支出:G

政府の純貯蓄=T-G

外国の収入=輸入=外国への支払い=M

外国の支出=輸出=外国からの支払い=X

外国の純貯蓄=M-X
2013/1/28
国際経済学12
11
すべての純貯蓄はゼロになる
民間の純貯蓄+政府の純貯蓄+外国の純貯蓄=0
各純貯蓄を上の式に代入する
(S-I)+(T-G)+(M-X)=0
実際の値は民間の純貯蓄は正
政府の純貯蓄は負であり赤字
輸出は輸入を上回っているため外国の純貯蓄は負
政府と外国の項を右辺に移項する
2013/1/28
国際経済学12
12
民間純貯蓄,政府赤字,純輸出
S-I=(G-T)+(X-M)

政府の純貯蓄はマイナスは赤字を意味

外国の純貯蓄マイナスは輸出が輸入を超過
民間純貯蓄=政府赤字+正の純輸出

政府と外国の資金不足を日本の企業と消費者
が解消している

書き換えると国内の純貯蓄が純輸出に等しい
S+T-I-G=X-M
2013/1/28
国際経済学12
13
2013/1/28
国際経済学12
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海外投資

民間貯蓄は民間部門,政府赤字,海外部門の投資
に用いられます.
例えば,海外部門の投資はトヨタがアメリカに工場を
建設すること
 海外投資(foreign investment)
 これを If で略します.


民間部門の資金余剰は,政府赤字の穴埋めか国内
外の投資に用いられる.
S=I+(G-T)+ If
2013/1/28
国際経済学12
15
海外投資

S=I+(G-T)+ If をS-I=(G-T)+(X-M)に代入
If =X-M

つまり海外投資は財貨・サービスの輸出入の黒字
に等しい

財を輸出していることは外国へ資金を貸し出して
いるあるいは投資をしていること

海外の債券を買う.海外の企業を買収する
2013/1/28
国際経済学12
16
トヨタの自動車の輸出
財の流れと資金の流れ
日本
アメリカ
トヨタの銀行口座
トヨタ
輸出
輸入
プリウス
Car
トムクルーズ
日本の対外資産の増加
2013/1/28
購入代金
の振り込
み
アメリカの対外負債の増加
国際経済学12
17
貿易黒字と対外資産

トヨタはプリウスからの収入をそのままアメリカ
に預金とする

輸出した金額だけアメリカでの資産が増える

これを日本の資本流出と言います

アメリカから見ると対外負債が増えたこと

日本の預金の増額はアメリカ国内の投資に使
用される
2013/1/28
国際経済学12
18
財の流れと資産の流れ

純輸出(=輸出-輸入)は対外資産の増加を意味
します

日本の資本流出,アメリカの資本流入
輸出が輸入を上回る=海外投資増加
2013/1/28
国際経済学12
19
アメリカの貿易赤字

アメリカの貿易赤字は日本人よりもアメリカ人の
方が物を一杯買っていること

経済全体で国内生産よりも他国の物をより多く
買うと貿易赤字になる

資金面からアメリカに外国人の預金が増加

預金は他に貸し出しに回る

これを資本の流入と言う

反対に輸出している日本からは資本の流出
2013/1/28
国際経済学12
20
国全体の経済活動、国際収支表

一国の経済活動を集計して得られる変数間の関
係を見る

財貨・サービスの輸出入の黒字は民間貯蓄や政
府赤字と関連があることが分かった

国際収支表でもっと詳しく日本経済の構造を見る
2013/1/28
国際経済学12
21
国際収支表

大まかに3つの収支を考える事が可能

経常収支=財やサービスの輸出入

資本収支=資本・資金の借り貸し

外貨準備増減=中央銀行の資産の増減

誤差脱漏=帳尻合わせ
2013/1/28
国際経済学12
22
国際収支状況 2011年
10億円
10,000
9,628.9
5,997.5
5,000
-1,836.6
0
経常収支
資本収支
外貨準備増減
誤差脱漏
-5,000
-10,000
-13,789.7
-15,000
2013/1/28
国際経済学12
23
国際収支表/2
日本の国際収支
10億円
20,000
15,000
10,000
5,000
0
-5,000
-10,000
-15,000
1998
1999
2000
2001
2002
-20,000
経常収支
2013/1/28
資本収支
外貨準備増減
国際経済学12
誤差脱漏
24
経常収支

経常収支にはモノ,運送サービス,旅行,利子受
け取り,政府援助等が取り扱われる

モノやサービスを輸出すればプラス

外国で観光旅行をしてお金を使えばマイナス

外国に援助をするとマイナス

こうしたすべての取引を足し合わせてプラスにな
れば黒字

反対にマイナスになれば赤字といいます.
2013/1/28
国際経済学12
25
資本収支

資本収支には日本企業による直接投資(株式取得,
資金貸借)などの企業間取引

債券取引,およびそれらに含まれない資産の取引
が扱われます.

真央ちゃんがアメリカのマクドナルドの証券を1億円
購入したら,マイナス1億円が計上される.
2013/1/28
国際経済学12
26
資本収支/2

これは日本人の対外資産の増加を意味

マイナスと記帳されるのは奇異に見える

しかし,国際的に決まっているルールなので仕方あ
りません.

反対に日本人が手持ちの証券を売却するとプラス

それは対外資産の減少を意味します.
2013/1/28
国際経済学12
27
資本収支/3

今度はアメリカ人のトム・クルーズが日本のソニー
の株を買ったとします

これは日本の対外債務の増加を意味します

このときプラスの金額が計上されます

反対にアメリカ人が手持ちの証券を売却すると
マイナス

それは対外債務の減少を意味します
2013/1/28
国際経済学12
28
収支の符号
プラス
マイナス
財サービスの輸出 財サービスの輸入
2013/1/28
金融資産の減少
金融資産の増加
金融負債の増加
金融負債の減少
国際経済学12
29
外貨準備増減と誤差脱漏

外貨準備増減は中央銀行の資産の増減を示します

誤差脱漏とは収支表間の整合性を保つためののりし
ろと考えて無視してください

日本の経常収支はいつも黒字でしたが,最近は月次
で赤字になることもあります

資本収支はいつも赤字でしたが,2011年は黒字にな
っています

2011年の外貨準備増減は大きなマイナスです
2013/1/28
国際経済学12
30
外貨準備増減と誤差脱漏
2013/1/28
プラス
マイナス
経常収支
黒字
赤字
資本収支
流入超
流出超
外貨準備
減少
増加
国際経済学12
31
国際収支表の恒等式
経常収支+資本収支+外貨準備増減+
誤差脱漏=0
 この関係式は大変重要です!
 トヨタが自動車を輸出→経常黒字↑
 この関係式から同時に
 資本収支↓
or 外貨準備増減↓
 日本人か日本政府の資産が増える
2013/1/28
国際経済学12
32
国際収支表の恒等式
 誤差脱漏は余りなので0とする
経常収支+資本収支+外貨準備増減=0
経常収支=-資本収支-外貨準備増減
経常収支=資本流出超+外貨準備増加
 経常収支黒字が日本人の対外資産の増
加と政府の外貨準備の増加の合計
2013/1/28
国際経済学12
33
経常収支
貿易収支
 サービス収支
 所得収支
 経常移転収支

2013/1/28
2011年(10億円)
貿易収支
サービス収支
所得収支
経常移転収支
合計
国際経済学12
-1,608.9
-1.640.7
14,029.6
-1,151.1
9,628.9
34
貿易収支

もっとも分かり易い

目に見えるモノの経常収支の収支

2006年ではすべての四半期で黒字

次のサービス収支と合わせて貿易・サービス収支
と呼ばれることもある
2013/1/28
国際経済学12
35
サービス収支

目に見えないサービスの取引の収支を表す

すべての四半期で赤字

輸入が輸出を上回っている

しかし,その額は大したことはない

輸送,旅行,通信や特許使用料などのその他
サービス

旅行はいつもマイナス

特許使用料はプラス
2013/1/28
国際経済学12
36
所得収支

海外との雇用者所得や投資収益の収支

経常収支の中で一番黒字額が大きい

黒字額の中で配当と債券利子の受取額がもっと
も大きく寄与している

対外金融資産・負債について実現したキャピタル
・ゲインは所得収支ではなく資本収支に計上

また評価増減は計上しない
2013/1/28
国際経済学12
37
経常移転収支

無償の援助や国際機関への分担金などの資産の
一方的な支払い

マイナスであり海外に援助をしている

国際収支表に複式簿記形式で記録するための項目

10億円を援助する;資本収支の10億円のプラスと
経常移転収支の10億円のマイナス

純輸出(財貨・サービスの輸出入)と経常収支の違い
は,前者は所得収支と経常移転収支を含んでいな
いこと
2013/1/28
国際経済学12
38
日本の貿易額
国際経済学12
20
02
20
01
20
00
19
99
19
98
19
95
19
90
10億円
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
2013/1/28
輸 出
輸 入
日本の輸出入
39
名目国内総生産GDPに対する比率
輸出比率
16%
14%
12%
10%
8%
6%
4%
2%
0%
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
輸入比率
2013/1/28
国際経済学12
40
各国の貿易依存度
輸出
輸入
各国の貿易依存度
%
70
60
50
40
30
20
10
0
日本
2013/1/28
アメリカ
韓国
国際経済学12
イギリス
オランダ
41
日本の輸出内訳2001年
23.7%
44.4%
2.1%
2.5%
精密機械
自動車部品
鉄鋼
有機化合物
船舶類
3.4%
3.8%
その他
5.4%
2013/1/28
機械類
自動車
14.7%
国際経済学12
42
日本の輸入内訳2001年
機械類
24.8
石油
衣類
40.1
液化ガス
魚介類
精密機械
13.3
肉類
有機化合物
2.1
2013/1/28
2.4
5.5
3
5
3.8
国際経済学12
その他
43
輸出先の比率2001年
4.4
2.3
1.1
アジア
17.4
北アメリカ
43.1
ヨーロッパ
中南アメリカ
オセアニア
アフリカ
31.7
2013/1/28
国際経済学12
44
輸入先の比率2001年
2.8
4.9
1.3
アジア
北アメリカ
15.5
ヨーロッパ
中南アメリカ
オセアニア
20.3
55.2
2013/1/28
国際経済学12
アフリカ
45
資本収支
直接投資収支
 証券投資収支
 その他投資
 その他投資収支

2011年
(10億円)
投
資
収
支
直接投資
-9,301.2
証券投資
12,904.8
金融派生商品
その他投資
その他資本収支
1,346.8
1,035.4
117
5,997.5
2013/1/28
国際経済学12
46
直接投資

自国の企業が海外の企業や子会社の経営を行う
ための投資

投資先の企業の普通株または議決権の10%以上
を所有する

対外投資
• 日本企業が海外に拠点を置く,企業買収

対内投資
• 海外企業が日本に拠点を置く,企業買収
2013/1/28
国際経済学12
47
直接投資の例

マクドナルドが日本に進出する

トヨタが北米に工場を建設
• 日本企業の海外進出による「空洞化」の懸念

ルノーが日産を買収,ゴーン社長の活躍により
日産の復活

リップルウッド・ホールディングスが経営破綻し
た日本長期信用銀行を買収,新生銀行へ

スティール・パートナーズ v. ブルドックソース
2013/1/28
国際経済学12
48
直接投資の効果

雇用創出効果
• 海外の工場で現地人を雇用,国内は空洞化懸念

技術移転
• 外資企業での就労により技術を学ぶ

優れた経営手法の導入
• ゴーン社長,企業再生ビジネス

輸入から国内製造
2013/1/28
国際経済学12
49
日本の直接投資

対外直接投資
• 2006年 50,171 (100万ドル)
• 世界第9位
• 1位はアメリカの248,854 (100万ドル)

対内直接投資
• 2006年 ▲6,784 (100万ドル)
• 不況の時期に外国資本が投資した事業の価値が上昇
し、それらが大量に売却されたことによって流出額は
流入額を上回
2013/1/28
国際経済学12
50
外国企業の売却,ボーダフォン,GM

ボーダフォンは保有していた携帯電話事業をソ
フトバンクに1 兆9000 億円で売却

ゼネラルモータース(GM)はスズキとの資本関係
を縮小し同社株を2300 億円で売却
• 日本経済新聞(2007 年2 月2 日)
2013/1/28
国際経済学12
51
直接投資(単位10億ドル)
500.0
450.0
400.0
350.0
300.0
250.0
200.0
150.0
100.0
50.0
0.0
-50.0
2013/1/28
対外投資
対内投資
248.6
79.5
115.1
42.1
79.5
66.6
81.1
CAN
FRA
139.6
42.1
42.1
16.6
50.2
-6.5
GER
ITA
JPN
国際経済学12
GBR
183.6
USA
52
直接投資GDP比率(単位%)
10.0
9.0
8.0
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
対外投資GDP比率
対内投資GDP比率
3.4
5.2
2.7
5.3
1.5
FRA
5.2
2.3
3.6
CAN
2013/1/28
3.4
GER
0.9
1.2
ITA
JPN
国際経済学12
1.9
1.4
GBR
USA
53
直接投資残高(単位10億ドル)
5000.0
4500.0
4000.0
3500.0
3000.0
2500.0
2000.0
1500.0
1000.0
500.0
0.0
2013/1/28
対外投資残高
対内投資残高
2453.9
1228.3
882.3
801.4
394.7
350.0
627.9
660.4
293.5
224.1
386.6
100.9
831.4
CAN
FRA
GER
ITA
JPN
GBR
1874.3
国際経済学12
USA
54
一人あたり実質GDPの順位の低下の原因

2つの生産調整の遅れ
• 生産性の高い企業が市場に参入,低い企業が退出
• 生産性の高い企業が生産を拡大,低い企業が生産
を縮小

生産性の高い企業は海外に進出した(対外直
接投資)

海外投資分は国内総生産には勘定されない
2013/1/28
国際経済学12
55
一人あたり実質GDPの順位の低下の原因2

自動車産業は海外生産分が日本からの対外輸
出分を上回るまでに成長

国内の空洞化

米国は対外直接投資は日本より大きい

しかし,生じた空洞化を対内直接投資を呼び込
むことで補う

外資系企業が同じように雇用を創出したり設備
投資を行うことで埋めあわせをした
2013/1/28
国際経済学12
56
一人あたり実質GDPの順位の低下の原因3

海外に進出するような企業は生産性が高い

海外企業を受け入れることは企業が持つ技術
知識,優れた経営能力経営資源が持ち込まれ
る

国内の優秀な企業が海外に進出する

海外の優秀な企業を積極的に受け入れてこな
かった日本は新陳代謝機能が低下
2013/1/28
国際経済学12
57
おわりに

国際収支の赤字や黒字はマクロ的要因で決定

経常収支黒字の裏には海外投資が存在

国の豊かさは海外投資のとも関連している

海外から魅力ある投資先にすることが重要
2013/1/28
国際経済学12
58