自律的な語彙学習を促す 語彙テストのフィードバック

自律的な語彙学習を促す
語彙テストのフィードバック
松下達彦
Victoria University of Wellington 大学院生
[email protected]
2011年度日本語教育学会第3回研究集会
(愛知教育大学) 2011年6月11日
本発表の構成

1.はじめに
3.結果と考察

テストフィードバックの重要性


語彙学習における学習者の
自律の重要性
本発表の目的




2.調査内容




語彙テストの内容・形式
テストの実施
テスト・フィードバックの内容
アンケート調査の内容


理解度・有用度
語彙数と期待の差
役立つ内容

今後どのような語彙学習をしたいか

先行研究との関連
今後の課題、まとめ、その他





今後の課題
テスト・フィードバックの意義
まとめ
語彙テストのフィードバック例、
関連資料
引用文献
1.はじめに
 テストフィードバックの重要性
 語彙学習における学習者の自律の重要性
 本発表の目的
テストのフィードバックの重要性(1)
学習者の自律(青木2010など)
計画実行 評価 改善 のサイクル
(=PDSA/Shewhart cycle: Deming(1993) 等)
 評価改善のステップを作るには
学習者自身が既習能力と目標のギャップを測る
具体的な学習方法やステップを考える

 テストのフィードバックが解釈に役立つはず
テストのフィードバックの重要性(2)
テストの妥当性
テスト研究では
テストが学習者にもたらす影響
(washback)自体を
テストの妥当性に含める考え方が有力
(Messick 1996など)
語彙学習における学習者の自律の重要性
語彙学習は学習者に任されやすい
(Oxford & Crookall, 1990ほか)
1) ニーズが多様
2) 負担が膨大で
教室での教授・学習に時間が割けない
3) 学習者主導の学習に向いている
 系統的,自発的,自立的語彙学習者の優位
(Sanaoui, 1995; Gu & Johnson, 1996;
Kojic-Sabo & Lightbrown, 1999)
語彙テストのフィードバックは重要
本発表の目的
以上を踏まえ,
発表者が研究・教育用に開発した語彙テストの
フィードバック内容が
1.
テスト参加者にどのように受け止められたか
2.
どのように学習者の自律を促すか
について述べる
2.調査内容
 語彙テストの内容・形式
 テストの実施
 テスト・フィードバックの内容
 アンケート調査の内容
調査内容(1) 語彙テストの内容形式
 「日本語を読むための語彙データベース」(VDRJ)
(松下2010)から100語につき1語の割合で
サンプリング
 150問:15000語レベルまで測定,
語彙量を推定
 1000語ごとに語種(和語・漢語・外来語・混種語)
と品詞の割合を統制した層化サンプリング
 四肢選択で,非定義文 (目標語の意味が定まら
ないような文)に埋め込まれた目標語の意味記述
を選ぶもの
 基本義が文字表記を見てわかるかどうかだけを
試すもの,文脈的な意味や統語機能は問わない
(問題サンプル)
*以下の問題は実際の問題とは異なります。
[1000語レベル]
調査内容(2) テストの実施
 語彙テストと合わせて実施
 SPOT (Simple Performance Oriented Test) A
(小林・丹羽・山元 1994など)
 読解テスト
語彙レベルを操作した4文章,24問
 パイロット研究として
2010年5月から10月
 日本,オーストラリア,ニュージーランドの
4大学の日本語プログラムで実施

調査内容(3) テスト・フィードバックの内容
(資料1、資料2)

日本語版、英語版,中国語版
理解されやすい1~3言語のバージョンを送付
 推定語彙数、
レベル・語種ごとの得点率
 語彙テストの結果から推定される
SPOTや読解の推定得点範囲
 学習すべき語彙レベルの判定方法
 語彙表サイトへのアクセス方法
 語の学習に有利な方法や不利な方法
 Web上の語彙や漢字の学習サイトの案内
 習熟度別の学習法
など
テスト結果(サンプル)
資料1 (1) テスト結果の表の見方 予稿集P.51
資料1 (2) 日本語テストの結果の解釈 予稿集P.51
資料2 (1) 語彙学習・漢字学習のコツ、一般的な注意点
予稿集P.52
資料2 (1) 語彙学習・漢字学習のコツ、一般的な注意点
予稿集P.52
資料1、資料2に関する参考、紹介
 内容全般につき、Paul
Nation 氏のコメントあり
資料2
 Laufer, Meara & Nation (2005),
 Beglar & Hunt (2005)
 お礼:
 フラッシュカードのサイトは中田達也氏に
 漢字学習サイトは濱川祐紀代氏に
紹介していただき、自分で試用して選定
調査内容(4)
アンケート調査の内容
 テストのフィードバックに関するアンケート
リンクをEメールで送付
 送付数は231,有効回答数は32(回答率13.9%)
 回答者の母語:英語18人,中国語12人,その他2人
 回答者の推定語彙量は
初級(0-3000語),中級(3001-6000語),
上級(6001語以上)が約3分の1ずつ(表1)
 web上で実施
表1 回答者の推定語彙量
推定語彙量(語数)
0-3000
3100-6000
6100-9000
9100-12000
12100-15000+
人数
9
10
6
3
4
%
28.1
31.3
18.8
9.4
12.5
3.結果と考察
 理解度・有用度
 語彙数と期待の差
 役立つ内容
 今後どのような語彙学習をしたいか
 先行研究との関連
結果と考察(1) 理解度、有用度
表2 「日本語を読むための語彙テスト」のフィードバックの理解度,有用度
番号
質問
否定
平均 標準 的回
(6点 偏差 答の
法)* *
数
(N=32)
Q1
テスト結果の表の内容はわかる。
4.94 0.79
1
Q3
語のレベル別(例:1K-15K)のテスト結果の表は役に立つ。
4.75 0.83
3
Q4
漢語、外来語、和語に分けた結果の表は役に立つ。
4.56 1.09
4
Q5
「日本語テストの結果の解釈」(「テスト結果について_J」のファイ
ルの2ページ目)の内容はわかる。
5.16 0.57
0
Q8
「テスト結果」「学習のコツ、注意」を見て、これからどんな語をど
のように学習するかについて、具体的なアイデアを得た。
2
4.74 0.72
* 得点は「とてもそう思う」,「そう思う」,「少しそう思う」,「少しそう思わない」,「そう思わない」,「まっ
たくそう思わない」を6点から1点の6点法で評価した結果である。
結果と考察(2) 理解度、有用度
 テスト結果の表は概ねわかりやすい
 フィードバックは
今後の学習方法を具体的に考える上で役立つ
(表2)
結果と考察(3)
語彙数の期待との差
 56%-推定語彙数を期待より多いと回答(表3)
表3 Q2 あなたの語彙量は、予想と比べて
回答
とても多い
多い
だいたい同じ
少し少ない
とても少ない
回答数
2
16
9
4
1
%
6.3
50.0
28.1
12.5
3.1
結果と考察(4) 役立つ内容
表4 Q6-1 「語彙学習・漢字学習のコツ、一般的な注意点」
(「語彙学習のコツ、注意_J」のファイルの1ページ目)の中で
役に立つと思う内容はどれですか。(三つまで)
回答
回答数 %
どんな語を学習するか
19
59.4
語の学習量
12
37.5
理解語彙と使用語彙
20
62.5
「語の形・意味の学習」のウェブサイトの紹介
14
43.8
「語の形・意味の学習」のほかの項目
13
40.6
「漢字の形・意味の学習」のウェブサイトの紹介
10
31.3
「漢字の形・意味の学習」のほかの項目
11
34.4
結果と考察(5) 役立つ内容
 具体的に有用とされた内容は多岐に渡るが、
理解語彙と使用語彙の違い(62.5%)
 学習目標語の選び方(59.4%)

などが比較的多かった(表4)
「言われればなるほどと思うが,
言われるまで意識していなかった」 という内容が
「役立つ」と評価されたのではないか
結果と考察(6)
今後どのような語彙学習をしたいか
 語彙リストをチェックリストとして活用したい
 語と語を関連づけて覚えたい
 学習語彙数の数値目標を設定したい
 自分の必要な領域にまず集中したい
など多様な回答
 日本語の語彙やその学習に関するメタ知識
新しい学習方法に気づくきっかけ
結果と考察(7) 先行研究との関連
 意識的語彙学習の重要性
(Cohen, 1990; Hulstijn, 2001; Gairns & Redman, 1986 など)
 系統的語彙学習者
 自立的スタイルを持つ
 教室で学んだ語彙を長く保持できる
(Sanaoui, 1995)
 優れた語彙学習者のもつ傾向
(Gu, 2003)
 自分の選んだ語彙に,選択的に力を注ぐ
 系統的語彙学習方法の知識は有効
 学ぶべき語彙の指針を与えることは有効
今後の課題、まとめ、その他
 今後の課題
 テスト・フィードバックの意義
 まとめ
 語彙テストのフィードバック例、関連資料
 引用文献
今後の課題
 結果に偏りがありそう
 回答したのはやる気のある学生か
 「誰が」「何を」「どのように」学習するか
の組み合わせの追求
 長期的にどのような効果があるのか
 それをどう検証できるか
 「量が多すぎる、一つ一つのアドバイスを短く」
という意見あり
さらに見やすくわかりやすく
テスト・フィードバックの意義
 学習・教育(テストの目的):フィードバックを
受験者自身が解釈すること自体が目的になる
評価 ⇒ 改善 – 学習者の自律
 研究倫理:教育と研究の乖離を避ける
 研究の実利:研究用テスト実施の場を開拓する
点でも有利
まとめ
 テストのフィードバックは重要、特に語彙テスト
 テスト結果(レベル別、語種別得点率など)は
わかりやすく、役立つ
 推定語彙数は半数以上が「期待より多い」
 本研究のフィードバックは役立つ
 理解語彙と使用語彙の違い(62.5%)
 学習目標語の選び方(59.4%) など
「言われればなるほどと思うが,言われるまで意識
していなかった」ことが「役立つ」ことなのでは?
 日本語の語彙やその学習に関するメタ知識
新しい学習方法に気づくきっかけ では?
語彙テストのフィードバック例、関連資料
ダウンロードURL:
www.wa.commufa.jp/~tatsum/
(「松下」 「言語」 「ラボ」 で検索
すれば、上のほうに出てきます)
引用文献(1)
 Beglar,
D., & Hunt, A. (2005). Six principles for
teaching foreign language vocabulary: A commentary
on Laufer, Meara and Nation’s 「Ten Best Ideas」. The
Language Teacher, 29(7), 7-10.
 Cohen, A. D. (1990). Language Learning: Insights for
Learners, Teachers, and Researchers. New York, NY:
Newbury House Publishers.
 Deming, W. E. (1993). The New Economics for
Industry, Government, Education. Cambridge, MA:
Massachusetts Institute of Technology, Center for
Advanced Educational Services.
引用文献(2)
 Gairns,
R. & Redman, S. (1986). Working with Words.
Cambridge: Cambridge University Press.
 Hulstijn, J. H. (2001). Intentional and incidental
second-language vocabulary learning: a reappraisal of
elaboration, rehearsal and automaticity. P. Robinson
(Ed.), Cognition and Second Language Instruction.
Cambridge: Cambridge University Press.
 Gu, Y., & Johnson, R. K. (1996). Vocabulary learning
strategies and language learning outcomes. Language
Learning, 46(4), 643-679.
引用文献(3)
 Kojic-Sabo,
Izabella, & Lightbrown, Patsy M. (1999). St
udent’s Approaches to Vocabulary Learning and Their
Relationship to Success. The Modern Language Journa
l, 83(2), 176-192.
 Laufer, B., Meara, P., & Nation, P. (2005). Ten best idea
s for teaching vocabulary. The Language Teacher, 29
(7), 3-6.
 Messick, S. (1996). Validity and washback in language
testing. Language Testing, 13(3), 241 -256.
 Sanaoui, R. (1995). Adult learners’ approaches to lear
ning vocabulary in second languages. Modern Langua
ge Journal, 79(1), 15-28.
引用文献(4)
 青木直子(2010).
日本語・日本語教育を研究する 第
38回, 学習者オートノミー、自己主導型学習、日本
語ポートフォリオ、アドバイジン グ、セルフ・アクセス.
日本語教育通信. 国際交流基金. http://www.jpf.go.
jp/j/japanese/survey/tsushin/reserch/index.html (2
010年10月27日ダウンロード)
 小林典子, 丹羽順子, & 山元啓史. (1994). 日本語能
力簡易試験としての「聞きテスト」. 筑波大学留学生
センター日本語教育論集, 9, 149-158.
 松下達彦. (2011). 日本語を読むための語彙データ
ベース(総合版) Ver. 1.01 (=日本語を読むためのTM
語彙リスト Ver. 4.0)
http://www.geocities.jp/tatsum2003/