TPPと自由貿易 自由貿易(Free Trade) 関税など国家の介入、干渉を排して 生産者や商人が自由に行う貿易 鹿児島大学名誉教授岡本嘉六 保護貿易(Trade Protection) ⇔ 中央政府が特定の産業を国内で育成す 米国の南北戦争( 1861~1865年) る目的を持って主体的に関税を設け、国 内産業を外国産業との競争から保護 北部では、欧州製の工業製品よ りも競争力を優位に保つために保 護貿易を求め、流動的労働力を必 要としていた。 1860年11月の大統領選挙で奴 隷制の拡大に反対していた共和党 のリンカーンが当選した。奴隷制存 続を主張する南部11州がアメリカ連 合国を結成し、合衆国にとどまった 北部23州との間で戦争となった。 南部では、黒人奴隷労働に よる綿花栽培が盛んで、ヨー ロッパへの輸出を増やす自由 貿易を主張していた。 自由貿易での競争は他国との競争に見えるが、実際に起きるのは 貿易に関わる優位性を維持するための国内産業間の競争である。 大恐慌(The Great Depression)、世界恐慌(world economic crisis) 1929年10月24日 「暗黒の木曜日(Black Thursday) 」 第一次世界大戦後、1920年代の米国の「永遠の繁栄」 大戦での輸出によって発展した重工業、帰還兵による消費の拡張、 自動車工業の躍進、ヨーロッパの疲弊に伴う対外競争力の相対的上 昇、同地域への輸出の増加。 1920年代中頃から農業不況: 農業の機械化による過剰生産、欧 州復興に伴う輸出減、異常気象。 10月29日には12%下落し、 投機熱: 好景気によってだぶつ いた資金、社会主義化によるソ連の 世界市場からの離脱、鉄道や石炭 産業部門の不振。 ダウ平均株価は5年間で5倍に高騰。 1929年9月3日には最高価格を記録 したが、その後1ヶ月間で17%下落。 10月24日には1289万株以上が売り に出され、市場は閉鎖された。 その日だけで連邦年間予 算の10倍が消し飛んだ。 ブロック経済(Bloc Economy) 世界の金の半分以上が米国に集まっていた中でのウォール街の 暴落は、金本位制を取っていた各国の金流出につながり、世界的金 融危機が発生した。各国の銀行の破綻から、金本位制を破棄し、利 害を共有する友好国を「ブロック」として、貿易障壁を張り巡らした。 スターリングブロック(イギリス・ポンド圏) フランブロック(フランス・フラン圏) ドルブロック(アメリカ・ドル圏) 円ブロック(日本・円圏) ブロック化で列強間が経済的な分断を進め、自ブロックの防衛と 他ブロックへの進出へと傾斜し、第二次世界大戦を導いた。 「ブレトン・ウッズ協定」 第二次世界大戦末期の1944年7月、米国ニューハンプシャー州ブレ トン・ウッズで開かれた連合国通貨金融会議。 第三次世界 ● 国際通貨基金(IMF)の設立(1947年) 大戦を引起さ ● 国際復興開発銀行(IBRD)の設立(1945年) ないための国 ● 関税および貿易に関する一般協定(GATT) 際的枠組み 関税および貿易に関する一般協定 (GATT: General Agreement on Tariffs and Trade, 1948) 貿易障壁の軽減と無差別原則といった考え方に立脚し、自由貿易 を推進する。 ① 最恵国待遇原則: 一国に対して関税を引き下げた場合、全て の国に対しても関税を引き下げなければならない。 ② 内国民待遇原則: 輸入品に対して国内製品よりも不利な国 内税や国内法令を課すような差別を禁止。 ③ 数量制限の一般的廃止の原則: 関税その他の課徴金以外の いかなる禁止または制限を新設し、維持してはならない。 ④ 合法的な国内産業保護手段としての関税に係る原則: 通商規 制の手段として関税のみを容認した上で、「相互的かつ互恵的 な」多角的交渉によって関税引下げを図る。 基本原則に対する例外 衛生植物検疫措置の適用に関する措置(SPS:Sanitary and Phytosanitary Measures)の適用に関する協定 恣意的もしくは不当な差別の手段や国際貿易に対する偽装し た制限とならないようにし、貿易に対する悪影響を最小にする。 B国 A国 危 害 衛生水準が同等の国 因 子 同士では問題は生じ に ないが、衛生水準が つ い 異なると・・・・ て の 国 の 衛 生 基 準 C国 非関税障壁 (WTO訴訟) E国 D国 国 際 基 準 食品:Codex委員会 家畜・畜産物:OIE 自由貿易の枠組み(WTO)と衛生基準の関係概念図 衛生および食物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定) 貿易の技術的障壁に関する協定(TBT協定) 農業分野の自由化交渉 1986~94年 ウルグアイ・ラウンド 農業は、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景 観の形成、文化の伝承等、食料その他の農産物の供給の機能以外 の多面的機能を果たしており、経済的側面だけで判断できないため、 各国の農業保護政策の折合を付けるのは困難を伴った。 農産物貿易の原則自由化に合意したウルグアイ・ラウンドは、貿易 ルールの強化、紛争解決手続の整備など、これまでのラウンドの中で は画期的なものとなり、それまでの「協定」から世界貿易機関(WTO) の設立へと進展した。 日本の実行関税率表(2013年4月版) 402円/kg WTO体制が整った段階で、貿易 牛肉 38.5% 米 豚肉 4.3% 小麦 65円/kg 摩擦を戦争につなげないという自由 乳 25% 砂糖 41.5円/kg 貿易の原則は基本的に達成された。 濃縮乳 35% りんご 20% 残りはGATT第4項の努力・・・ バター 35% トマト 5% 旧農業基本法(1961年) ➔ 食料・農業・農村基本法(1999年) 国際化の著しい進展等により大きな変化を遂げる中で、我が国食料・ 農業・農村をめぐる状況は大きく変化し、国民が不安を覚える事態が 生じている。自給率の低下、高齢化、農地面積の減少、活力の低下。 自由貿易協定(FTA: Free Trade Agreement) GATT第4項の「相互的かつ互恵的な」多角的交渉によって関税 引下げを図る規定に基づいて、日本も2001年1月に開始されたシン ガポールとのEPA(経済連携協定)交渉の開始により、日本の FTAの歴史が幕を開けた。 経済連携協定(EPA) EPAを柱に、ヒト、モノ、カネの移 動の自由化、円滑化を図り、幅広 い経済関係の強化を図る協定 2ヶ国以上の国や地域の間で、物 品の関税やサービス・貿易の障 壁等を削減・撤廃する協定 投資規制緩和、人的交流拡大、各分野の協 力、知的財産制度、競争政策の調和 自由貿易協定(FTA) 物品の関税を削減・撤廃、サービス・ 貿易の障壁等を削減・撤廃 経済成長著しいアジア大洋州地域では、2010年1月にASEAN+3 のFTA(ASEAN と日本、中国、韓国)、さらにオーストラリア、ニュー ジーランド、インドを含むFTAが協議され、FTAの本格活用時代を迎 えている。日本企業にとっては、日本が結んでいるEPAのみならず、 こうした第3国間のFTAを進出先のASEANにおいて利用するといっ た観点から、FTAの利用価値が高まっている。 ジェトロ:FTAの潮流と日本 日本とASEAN諸国のEPA: 日アセアンEPA(AJCEP) 対シンガポール EPA 02/11/30発効、AJCEP 08/12/1発効) 対マレーシア EPA 06/7/13発効、AJCEP 09/2/1発効 対タイ EPA 07/11/1発効、AJCEP 09/6/1発効 対インドネシア EPA 8/7/1発効、AJCEP 未発効 対ブルネイ EPA 08/7/31発効、AJCEP 09/1/1発効 対ASEANCEP 08/12/1発効、 対フィリピン EPA 08/12/11発効、AJCEP 10/7/1発効 対ベトナム EPA 09/10/1発効、AJCEP 08/12/1発効 対ラオス AJCEP 08/12/1発効 2011年12月現在 対カンボジア AJCEP 09/12/1発効 ジェトロビジネス情報サービス課 対ミャンマー AJCEP 08/12/1発効 日本は、TPP以前から経 ーーーーーーーーーーーーーーーー 済連携協定(EPA)を積 対インド EPA 11/8/1発効 極的に推進してきた。関税 対メキシコ EPA 05/4/1発効 だけでなく、 TPPよりも包括 対チリ EPA 07/9/3発効 的な経済協力を インドとの二国間EPA メキシコ・チリとの二国間EPA 進めてきた。 2011年12月現在 2011年2月現在 シンガポール <2002年1月署名、2002年11月発効> ➀ 物品貿易では、日本側は輸入額の95%を無税化。シンガポール側は全品目を 無税化(ビール等の酒類4品目の関税撤廃)。サービスではシンガポール側はGATS 約束を上回る自由化。基準認証では電気通信機器や電気製品を対象に相互承認。 日本側は石油・石油化学製品と一部農林水産品の関税を即時または段階的撤廃。 シンガポール側はフル・バンク免許枠の追加譲与、ホールセール・バンクの免許数 量制限撤廃などを約束。そのほか、原産地規則では閾値60%の付加価値基準を 40%に引き下げ。 ➂ 日本初のFTAとして、またASEANとのFTAのモデルケースとして意義大。 タイ <2007年4月署名、2007年11月発効> ➀ 物品貿易では、日本側は輸入額の92%を無税化。マンゴーなど一部熱帯果実 やエビ・エビ調製品の輸入関税を即時撤廃。タイ側は輸入額の97%を無税化。鉄鋼 は10年以内に関税撤廃。自動車では3,000cc以上の乗用車は4年以内に80%→60%。 3,000cc以下は6年目に再協議。自動車部品は5年後に関税撤廃。サービスでは卸 売・小売、保守・修理、ロジスティクス、広告、ホテル、レストラン、海運、カーゴハンド リングの分野が外資比率含め改善。人の移動では日本側はタイ料理人、指導員、ス パ、介護福祉を受け入れ。タイ側は在留許可要件の緩和、手続きの簡素化。投資に つき、タイ側は、殆どの製造業において、日本の投資家に対し、現状の投資政策より 制限的変更する意図を有さないことを約束。 ② 自動車部品(対象100品目:自動車組み立てに用いる目的で輸入される、または 組み立てに用いられる部品製造のために輸入されるもの)は、2012年4月と14年4月 に関税撤廃が予定されている。 東アジア地域包括的経済連携(RCEP) RCEP(アールセップ)は、日中韓印豪NZ の6カ国がASEANと持つ5つのFTAを束ね る広域的な包括的経済連携構想であり、 2011年11月にASEANが提唱した。16カ国 による議論を経て、2012年11月のASEAN 関連首脳会合において正式に交渉が立上 経済産業省 げられた。 RCEPが実現すれば、人口約34億人(世 界の約半分)、GDP約20兆ドル(世界全体 の約3割)、貿易総額10兆ドル(世界全体の 約3割)を占める広域経済圏が出現する。 各国の事情を無視し て関税撤廃を迫る米国 のアジア進出を後押し するよりも、日中韓の 連携を強化し、東アジ アの安定化を目指す道 が賢明である。
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