LORC第4班の取り組みから考える社会変革の可能性

LORC第4班の研究成果
発展途上諸国の地方分権化から
の示唆
斎藤文彦
LORC副センター長
「参加型開発と国際協力システム」研究班長
問題意識

日本の場合の分権化や自治体改革は「誰が」
「何を」目的に実施しようとしているのか。

霞ヶ関の問題意識(の欠如)


行政改革を通じて目指す社会像がない!



2005年11月の行革コンペは「公務員の削減」しか議論
せず
公務員削減の後に何がみえるのか?
「改革」は誰にどのような利益と損失をもたらすの
かの視点の欠如
中央の欠陥改革(公務員の首切り)の地方への拡
大の危惧
2008.01.11 LORCプレシンポ
2
問題意識2

日本や他の先進諸国においてすら実現が困
難な諸課題の実現を求められている途上諸国
が、、


民主化のパラドックス:民主化によって地域はパト
ロンークライアント関係に組み込まれより不安定に
なる。
貧困と時間:明日の安定性より今日の生存を優
先:持続可能性の難しさ。
↓
日本への示唆を与えると期待される
2008.01.11 LORCプレシンポ
3
4班活動の背景と意図:参加



途上諸国においては、今までのトップダウンの経
済成長路線への反省から、人々の参加を重視す
るボトムアップの人間重視の開発へとの大きな転
換が1980年代にみられた。
参加型開発は1種の流行にもなり、弊害・誤用も
見られたが、参加と社会変革の重要性への意識
は定着。
しかし、参加を実現することは容易ではない。まし
てや長期にわたり(持続的に)「参加疲れ」を避け
ることは大きな課題
2008.01.11 LORCプレシンポ
4
4班活動の背景と意図:分権化





1990年代以降の冷戦後の世界的民主化
参加を容易にする行政機構改革。
1980年代以降の「小さな政府」を重視する国際
援助機関の政策変化。
当初は分権化政策は、「当然よいこと」という価
値を内包していたため、無批判に援助機関に
よって実施。
近年にいたり、分権化の再検討・再評価が進み
つつある。
2008.01.11 LORCプレシンポ
5
4班の研究
アジア:インドネシア、インド・ケーララ州、
スリランカ
 アフリカ:ウガンダ、ガーナ、南アフリカ
 比較研究の視点:アクターを重視し、利
害関係者(stakeholders)の関係性の
動的変化を見る。

2008.01.11 LORCプレシンポ
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Decentralization for more local autonomy
Donors
Central
government
Supporting mechanism for local governance
Clear objectives
Documents to articulate
partnerships
Density of networks
for similar collaboration
Financial instruments
Monitoring
Influencing factors
and
nature of the state
accreditation
changing role of the state
of HRM
state-society relations; regime types
extent of authoritarianism
distribution of material/economic benefits
historical experiences of decision making
cultural values related to consultation
local autonomy
Facilitative leadership to attain/secure public realm in localities
from monologue to dialogue
Evolving meaning of "publicness"
communicator/connector
learner with wider perspectives
innovator of new experiments
From single relation to multiple relations
From government to governance
diversified providers of services
various demands by people
Private
Actor Perspective
Local
sector
collaboration and conflicts
governments
among actors
local governments
acting as facilitator
partnerships
Civil (non-profit)
Enabling factors
sector
information dissemination
symmetrical incentives
conflict management
Process
learning process; consultation; deliberation
from social exclusion to inclusion
empowerment of the marginalized (gender, ethnic minorities, the disabled etc.)
Results
improvement of services
pro-poor outcomes
enhancement of political legitimacy
better fit/congruence between public aspirations and delivered services;
responsiveness
regeneration of democratic values
participatory and deliberative democracy
Democracy and Development
sustainable community
Human Resources Management
shift from administrative control to facilitation of mutual learning
changing roles of specialists and citizens
diversifying pool of local human resources
2008.01.11 LORCプレシンポ
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研究ネットワークの拡大

インド K. N. Harilal (Centre for Development Studies)

インドネシア Deddy Tikson (Hasanuddin University)

スリランカ W. D. Lakshman (University of Colombo)
Asoka Gunawardena (Finance Commission)

ウガンダ Frederick Golooba-Mutebi (Makerere
University)

ガーナ Joseph Ayee (University of Ghana)

南アフリカ Brij Maharaj (University of KwaZulu-Natal)
P. S. Reddy (University of KwaZulu-Natal)
2008.01.11 LORCプレシンポ
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Foundations for Local Governance:
Decentralization in Comparative
Perspective(Springer 2007/8)
2008.01.11 LORCプレシンポ
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成功例と失敗例から考える
インド・ケーララ州

1993年の憲法改正以前に市民リーダーに
よる社会運動が起こる。1つの運動が次の
運動へと展開。


背景には、高い教育水準などの社会的背景あり
行政もこのような社会運動のリーダー達の
協力を求める

パートナーシップの成立
2008.01.11 LORCプレシンポ
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ウガンダ

86年の現政権成立時に、国家機構が崩壊



local councilの仕組みが定着。人々は村レベルの
councilの役割を評価。
しかし、国全体の大きな政治状況の変化により、地
方はその社会改革の可能性がしぼみつつある??



制度的真空状況において新しい地方自治制度がしかれる
政権の長期独裁化
国際的評価の低下による支援凍結や延期
分権化は社会のためではなく政権の道具に。
2008.01.11 LORCプレシンポ
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インドネシア
インド・ケーララ州
スリランカ
ウガンダ
半権威主義国家
南アフリカ
ガーナ
国家
ポスト開発独裁
共産党州政府の遺産 福祉国家を色濃く残
す小島国
市民社会
制約を受けている
自立的で、一部は大 一部で活発である
国家による制約が弱 国家による制約が弱 一部は自律で活発で
変良く組織されネット が、全体には未成熟 くなり、以前より活動 くなり、以前より活動 あるが、新家産主義
ワークになっている
的
的
による制約。
市場
外国資本による投資 経済的には停滞。外 経済的には停滞。外
の影響が大きいが、 資はほとんど進出し 資はほとんど進出し
一部民族資本が育ち ていない。
ていない。
つつある
構造調整の優等生。
経済的には回復しつ
つあるが、グローバル
経済の中では脆弱
ポストアパルトヘイト 民主的開発国家を志
国家
向するが、基本的に
新家産国家
アフリカの巨大経済。 構造調整のかつての
しかし国内的には人 優等生。経済的には
種間格差が大きく、不 回復しつつあるが、グ
安を抱える。黒人企 ローバル経済の中で
業家の育成が急務。 は脆弱
分権化のルール 1999年の22号法と25 1993年の憲法改正に 1987年の第13次憲法 1995年憲法に明記さ 1996年憲法に明記さ 1992年の憲法に明記
号法により急いで制 より本格的に開始。ま 改正ならびに、同年 れ、法制度も明確。ア
定されたため、まだ未 だルールは一部曖
のP rovincialC ouncil フリカの中でも制度は
確定。
昧。
法により、制度を設 最も明確な1つ。
定。しかし中央との2
重構造。
れているが、背景の され、また1993年の
理念が変化(再配分 地方自治法が制度を
から経済成長重視
規定。しかし方向性が
へ)することで運営に 定まらない。
は影響を与えている。
分権化の目的
国家統一のため。政 独立の思想の一環と タミル人とシンハラ人 開発を促進し、そのこ 人々の参加と民主化
治目的>開発目的。 しての地方自治が憲 の民族紛争から脱却 とで新政権の政治基 よりは、政府セクター
法制定当初から存
し、国家統一のため。 盤を確保。政治と開 の縮小。政治的民主
在。国家主導の経済 政治目的>開発目 発目的が整合的。
化目的と開発目的の
運営から市場経済に 的。
比重が前者からより
基づく政策運営への
後者へ移行。
転換にともない復
活?
国家の変容
行政的管理が依然正 植民地国家を引き継 かなりの成果があっ
当化されている。
いだ行政管理重視の た小規模な福祉国家
姿勢が、共産党政権 から脱却し新たな方
のイデオロギーで多 式を模索中。長年の
少変質?
民族対立が解決でき
ない「崩壊途上国
家」?。
小さな政府による開
発の促進。しかし分権
化の動機が外部から
来ており、目的意識
が根付いていない。
国家は依然として機 警察国家としての性 外国援助の影響がつ
能が弱く、ファシリ
格がまだ残っており、 よく、国家は依然とし
テーターにはなりきれ ファシリテーターには て機能が弱く、ファシ
ていない。
なりきれていない。 リテーターにはなりき
れていない。
パートナーシップ 国家がパートナーの 州政府と市民社会・ 国家がパートナーの 4つの萌芽的形態が 地域により出現しつ
あり方を制限し、パー N G O との連携が見ら あり方を制限し、パー 見られる
トナーシップは限定的 れる。一部は効果的。トナーシップは限定的
つある
一部で興味深い事例
がみられるが、全体
には限定的
自治
分野により中央政府 市民社会・N G O への 中央政府からの支配 財政的・資源的制約 財政的・資源的制約 財政的・資源的制約
によって制限される。 制限はすくない
が強く、名目のみにと 多し。
多し。
多し。
どまる。
協働による相乗
効果
未定
2008.01.11
LORCプレシンポ
未定
一部効果が現れつつ
広がりつつある
ある
一部効果が現れつつ 限られた範囲でのみ
ある
効果がみられつつあ
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Foundations for Local Governance:
Decentralization in Comparative
Perspective(Springer 2007/8)の結論

分権化とは中央ー地方関係の再定義であり、
国家・政府・行政の「社会変革」における役割
の見直しである。



「小さい政府」ほど良いという意味ではない。
分権化政策は基本的には政治的課題であり、
他国の成功を簡単に移植・輸入できない。
分権化の動機はどこから来るのか?

援助機関側(外部者)主導の「改革」は成功しない。
どの程度内発的に意識されるか。
2008.01.11 LORCプレシンポ
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地域変革の総合的調整の必要性

今までの改革や支援の傾向は以下の3つが
ばらばら





政府・行政機構には分権化を
マーケットには民営化や市場開放を
市民には草の根レベルのエンパワーメントを
この3つを調整・統合する役割が地域に求め
られている。
分権化それ自体が最終目的ではない。それ
は広い意味での持続的社会の構築にある。
2008.01.11 LORCプレシンポ
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地域公共人材:Leadership と
followership

リーダーシップ



個性:人物・カリスマ性
役割の分配:どんな役割をどこの機関が担うのか
Followership

市民や人々の側がどのようにして主体の1つになり、
一定の役割を担えるのか。
 途上国の文脈ではまず情報の開示と提供が不可欠
2008.01.11 LORCプレシンポ
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‘institutionalized social energy’

Social energy ->idea -> coalition ->
leader -> institutionalization ->
feedback



Bebbington and McCourt 2007
変革をもたらすには1つの推進体では弱い。
変革を担うパートナーシップは個々のパート
ナーの強化(empowerment)が必要不可
欠。

ゼロサム状況からの脱却の難しさ。
2008.01.11 LORCプレシンポ
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途上諸国と先進諸国:西欧と日本
Policy transfer
 Institutional learning
 Informal networks and coalition of
bureaucrats

2008.01.11 LORCプレシンポ
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結論の意味するところ
地域変革のビジョンを作る
 ビジョンが利害関係者に共有される仕組
みを作る
 変革への動機付けを持ち続ける
 変革の担い手が「既得権益」を抱え込ま
ない

2008.01.11 LORCプレシンポ
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