無線コンピュータ通信のための 新しいプロトコル設計法と変復調のソフト処理について 1997年2月10日 福島工業高等専門学校 電気工学科 中尾 剛 発表の内容 • 研究の目的 • ソフトウェアによる変復調処理 – 帯域通過フィルタの高速アルゴリズムについて – ARモデルを用いたFSK変調波の復調について • ペトリネットを用いた通信プロトコルの設計 • まとめ • 今後の課題 本研究の目的 データ通信における精度、信頼性の向上 • 正確で高速な変復調処理 →ソフトウェアによる変復調処理 • 厳密な通信プロトコルの設計・検証 →ペトリネットを用いた記述、シミュレーション 変復調のソフト処理 • 素子の個体差、経年劣化を考慮しなくてよい • 温度補償などの補償回路が不要 • 数学理論に忠実に処理ができる • 計算量が多くリアルタイム実行は困難 最も計算量の多いフィルタ処理の高速アルゴリズムが必要 帯域通過フィルタ 伝送路ノイズ等が変調波に混入するため、復調の 復調の前に受信波から変調波を取り出す。 f (t ) 受信波 帯域通過フィルタ x (t ) 同調波 理想的なフィルタ 利得 1 ω -ω1 ω1 理想的なフィルタの実現 フィルタ特性を表す関数を逆フーリエ変換しておき 受信波とのコンボリューションを計算する 計算量が多くなり、高速実行が困難 高速アルゴリズム 微分方程式で表されるフィルタで所要のフィルタを近似する 微分方程式 フーリエ変換 これにより f ( x) kx(t ) mx''(t ) F ( x (t )) 1 k m 1 取り出すことができる 2 F ( f (t )) k 付近の周波数成分を m フィルタ特性 F ( x ( t )) F ( f ( t )) 1 1 帯域通過フィルタ計算式 x(n) {2a1x(n 1) n(n 2) b1 f (n 1) f (n 2)} ここで sin a cos a a1 a 2 a a 3 a1 a sin a 1 cos a b1 sin a (1 cos a a 0 b 2 1 m cos a 1 sin( a a k a m a1 a 2 a 3 a1b1 a 2b2 :減衰係数 計算量 積4回 和3回 2 変復調処理のブロック図 Tx Coding Carrier wave generator Mudulation Module Demodulation module Transmission filter Tuning module D/A converter Transmitter Communication path Noise A/D converter Receiver 変調処理 変調の一振幅般式 xm(t ) A{1 hv(t )}cos( 1t ) xm(t ): 変調波、 1: 搬送波の角速度、 v(t ): 変調信号、 h: 変調率、 A: 変調波の振幅 送信信号が2値の場合 A cos( 1t ) [v (t ) 1のと き ] xm(t ) 0 [v(t ) 0のと き ] A cos(1t ) はあら かじ め計算し テーブル化 復調処理 Tuning wave Absolute value of calculation Absolute value of tuning wave LPF wave signal Demodulated フィルタの利得・位相特性 復調波の振幅レベル 同調・復調シミュレーション 従来のフィルタとの比較1 本提案のフィルタと同じ計算量の従来方式のフィルタ(FTフィルタ) ビット誤り率 本提案のフィルタと同じ計算量の従来方式のフィルタ(FTフィルタ) 計算量の比較 本提案のフィルタと同じ誤り率の従来方式のフィルタ(FTフィルタ) 微分方程式近似 FTフィルタ 計算量 積 4回 27回 15% 和 3回 26回 12% 通信速度の比較 微分方程式近似 FTフィルタ 1.06μs 6.5μs サンプリング 周波数 940kHz 150kHz 通信速度 94kbps 15kbps 実行時間 (80486DX2 66MHz の場合) 本提案の帯域通過フィルタの評価 • 同じ計算量で実現できる従来のフィルタに比べ誤り率が 100~1000倍程度改善さる • 同じ誤り率を実現する従来のフィルタに比べ計算量が約 1/7に改善される • 実用に十分な通信速度でのリアルタイム処理が可能で ある 従来のFSK復調方式の問題点 • 複数の搬送波を含む受信波は復調できない 1回に送れる情報量が1ビットと少ない • 誤り率を少なくする、通信速度を上げるには周波数間隔 を広くする必要がある 伝送帯域が広がる ARモデル近似による復調 • 複数の搬送波を含む変調波の復調が可能 – 1回に送ることのできる情報量が多くなる – 誤り訂正のための符号を同時に送ることが可能 • 周波数間隔を広くとる必要がない – 狭い伝送帯域での通信が可能である 正弦波のARモデル近似 : サン プリ ン グ 周波数 S ( k ) sin( fk ) C( k ) cos( fk ) : 初期位相 f : 相対角速度 s sin( f), c cos( f) と し て加法定理よ り S (n) S (n n) cS (n 1) s2 ci 2 S ( k i ) i 2 | c| 1よ り 、 iが大き く なる と ci 0 S (n) a1S (n 1) a 2 S (n 2) ap(n p) (n) p aiS (n i ) (n) i 1 ( (n) : 白色雑音) 受信波のARモデル近似 (n, ) 伝送路上のノ イ ズ 確率見本過程 y(n, ) S (n) (n, ) 正弦波のARモデル近似した式に代入 y( k , ) ( k , ) ai ( y( k i ), ) ( k i , ) ( k ) i 1 この式を整理して、Z変換の複素変数zを用いて表す ( I aiz ) y( k , ) ( I aiz i ) ( k , ) ( k ) i i 1 i 1 ( k , ) と する 伝送路を通して受信された信号のARモデル近似 y(n, ) ( aiz i ) y(n, ) (n, ) i 1 最小2乗法による係数推定 評価関数 N p n p i 1 J(a1, a 2,, ap; N ; ) {y(n, ) ( ai zi ) y(n, )}2 評価関数を次のベクトルと行列を定義して表す y ( p 1, y ( p 2 , y y( N , ) a1 a 2 a ap ( p 1, ) ( p 2 , ) h ( N , ) y ( p, ) y ( p 1, y ( N 1, ) y ( p 1, ) y ( p, ) y ( N 2, ) y (1, ) y ( 2 , ) y ( p, J(a1, a2,ap; N ; ) ( y a) T ( y a) J(a1, a2,ap; N ; ) を最小にする 係数を a a1, a 2,, apと する と a (T) 1 T y FSK変調波の復調 y (1, ),, y ( N , ) 推定 a1( N , ),, ap( N , ) FSK変調波 p S (n, ) ai ( N , )S (n i , ) v(n, ) i 1 FSK変調波のスペクトル密度関数 v p SP({ai ( N , )i 1 )( f ) p 2 1 ak ( N , )e jfk 2 k 1 FSK変調波の復調 受信波を 0 と 判定 SP({ai ( N , )ip1 )( f 0) SP({ai ( N , )ip1 )( f 1) 受信波を 1と 判定 SP({ai ( N , )ip1 )( f 0) SP({ai ( N , )ip1 )( f 1) ビット誤り率 復調時に生じるビット誤り率 P(SP({ai ( N , )}ip1 )( f 0) SP({ai ( N , )}ip1 )( f 1)| f f 0} P(SP({ai ( N , )}ip1 )( f 0) SP({ai ( N , )}ip1 )( f 1)| f f 1} コンピュータシミュレーションによる誤り率の検証条件 • • • • • • • サンプリング周波数:12600Hz 搬送波周波数0 f0 : 2100Hz 搬送波周波数1 f1 :1300Hz ARモデル次数 :4,6,8次 時系列データ数 :20個 ノイズ :白色ガウス雑音 評価法 :Eb/Noに対する誤り率 シミュレーション結果 ARモデルを用いたFSK復調方式の評価 • ノイズの多い状態では次数6の場合が最もよい • ノイズが少ない状態では次数4の場合が最もよい • 全体的に次数4の場合が従来の方式に比べてもよい結 果が得られる 通信プロトコルをペトリネットで記述する場合の問題点 • 記述能力が低く複雑な論理を記述するとネットが大きくな る • 実際に外部とのデータの入出力を行うことができない • 複数のシステムが非同期で動作するシステムの記述が できない • ノイズによるパケット損失の発生など確率的に発生する ものの記述ができない • 記述したネットをプログラム言語にコンバートできない ペトリネットの拡張 • トークンを単純なものから、パケットの内容を記述できる ようにした • トラジションの発火論理を単純なANDのみでなく、複雑な 論理式で記述できるようにした • 外部のデータをトークンへ、トークンの内容を外部のデー タとして入出力できるようにした • 全体を論理モジュール、入出力モジュール、シミュレー ションモジュールに分けたモジュール構成にした 入出力トラジションとモジュール構成 Petri Net Logic Module Simulation I/F Input Transition Actual system Output Transition Hardware Device Simulation Module Input Output Module Hardware device Input-Output Trasition Module Composition ペトリネットデザインツール F1-System F2-Net data F3-Activate F4-Gen code F1-Setup F2-Reset F3-Clear breakpoints F4-Return ADD ENTRY DEL ENTRY START START TEXT END DEL END MOVE Module name : Efficiency :100 Petri net design screen GO Module name : Efficiency :100 Simulation screen ツールを用いたシミュレーション • それぞれのシステムを表すペトリネットごとにトラジションの評価頻度 をかえることにより、複数の非同期システムのシミュレーションができ る • パケットの流れを視覚的に見ることができる • ノイズを確率的に発生させることにより、パケットを損失させることが できる • トラジション評価が一巡するとカウントアップするマークを用意するこ とで、遅延時間など性能評価を行える • 設計したペトリネットからC言語ソースが自動生成できる 伝送路でのパケット損失 From transmitter Normal transistion Noise transision Selective transision To receiver 設計例 Terminal office Terminal office • • • • Main office Terminal office Terminal office Terminal office 1つの基地局に複数の端末局が存在する 基地局は端末局が持っているデータを定期的に収集する 通常は基地局が無線通信を統括する 非常時は端末局が基地局に通信を要求する 基地局のペトリネット Main office computer Tx Rx Hardware device 端末局のペトリネット Hardware device Rx External device Tx 無線区間のペトリネット Main office Petri net Terminal office Petri net Terminal office Petri net Terminal office Petri net ペトリネットと用いたプロトコル設計の評価 • 設計がパソコン画面を使いCADのように行える • データの流れを視覚的に見ることができる • 3つのモジュール構成にすることにより、シミュレーションから実際の システムへの移行が容易にできる • ノイズを確率的に発生させ、パケットを損失した場合のプロトコルの 検証ができる • ペトリネットのステップ数を数えることにより、通信遅延時間などのプ ロトコル性能解析が容易に行える • 設計したペトリネットをC言語ソースにすることができる まとめ 信頼性の高いデータ通信を行うための手法として • 変復調処理のソフトウェア化 • ペトリネットを用いた通信プロトコルの設計・検証 を提案し、その有効性を示した 今後の課題 • Q値が高く位相ずれの少ない帯域通過フィルタを近似できる微分方 程式について検討を行う • 1つのCPUで複数の帯域通過フィルタ処理を行いマルチチャンネル 化を行う • ARモデル係数推定に適した時系列データ数、次数の検討 • 多値FSK方式の復調法の検討 • リアルタイムにARモデルの係数推定を行う手法の検討 • ペトリネットを用いて設計したプロトコルを実際の通信システムに組 み込み正当性を明らかにする • 本提案の手法を組み合わせて、信頼性の高い通信システムの設計・ 制作を行う
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