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2006.3.25
「小学校での英語教育」について
- 山田雄一郎「日本の英語教育」を中心に -
平成18年3月
稲美町教育委員 中西 孝
By T.Nakanishi
2006.3.25
さまざまな疑問
「この程度の英語力があったらいいな」ということと
「日本人全てにこういう英語が必要」とは同じことか
小学校に英語を: ある新聞の調査
86%の国民が支持
ほんとうにそれほど英語は必要か
なぜ日本人は英語ベタか:
圧倒的多数の人にとって、生きた実用英語の必要はない(英語教育の悪さではない)
ほとんどの人に英語は必要なし:だから英語がヘタ
英語ができなければこの先、生きていけないか(人はそう思って学んでいるか):
そういうことはない。語学は必要性と使用機会があれば身につく 普通の者はよほど強い
動機付けと必要性がない限り、まともな外国語能力を身に付けるだけの努力は続かない
世間の風潮や強制によって教材を買ったり、英会話教室に通ってもやがて
「挫折する」可能性が高い:豊かさの証拠、そして「英語が不要」の裏返し
日本は英語が苦手でも発展してきた:
莫大なカネと時間と努力とを要する“英語公用語化”よりも、日本語で成り立つ社会を維
持し、発展させることを考えた方が得策=自ら好んで苦痛を求めることはない
日本は労働力や生産力の全般的レベルが高いからこそ、今日の生活水準を築
きえた。この事実は大部分の職業人がたとえ英語は苦手でも自らの仕事を立
派に果たしえたという証拠である。
By T.Nakanishi
さまざまな疑問
2006.3.25
「英語によるコミュニケーション能力の基礎」は
「簡単な英会話を覚えること」か
文科省の考える英語教育の目的
実践的コミュニケーション能力の基礎を養う
日常の話題に関する通常の会話ができる程度
日本語と英語は
構造的にきわめて異質な言語
文化的な前提がまるで違う
例
基礎の有無は「簡単なやりとり」ができるかどうか
「基礎」は簡単か
この文は文法を理解して
いないと組み立てられない
「日常の会話」とは “ハロー、サンキュー、ユア・ウェルカム”だけではなく
“そういえば、長い間あってないね。近いうちにどこかで昼御飯でもご一緒しましょか”
こういった会話が簡単に身につくということは絶対ありえない
「基礎」は簡単ではない
英語は暗記科目
ではない
子どもは母語の習得に際してただおうむ返しをくりかえしているのではない。
子どもはルールを発見しながら言語を身に付けていっている。
言語学習の基本は「ルール」の発見とその応用 これには膨大な時間と訓練が必要
言語学習は「知識の集積」ではなく、「知識を活かす技能を訓練すること」である。これには時間がかる。→どんな
言語の場合でも週2~3回の授業で話せるようになるということはありえない。学ぶ開始時期を早めてもダメ
例えば子どもが日本語をなんとか操れるようになるまで、どれだけの時間がかかっていることか。推して知るべし
By T.Nakanishi
牲
日本の英語教育
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犠
2006.3.25
文法軽視、会話重視
中学英語の文法事項
現在の英語授業
内容の浅い教科書
進学に名を借りた詰め込み教育
理解後回しの暗記学習
結果ばかり追いかけるテスト対策
効果のはっきりしない歌やゲーム
文 型
単語数
文法事項
1958
1969
‘77
‘89
‘99
33
37
22
21
21
1300
1100
1050
1000
900
20
21
13
11
11
現在の英語教育の最大の特徴:会話教材に頼る
この二十数年で英語力はどんどん低下
文法的理解を疎かにした会話学習は暗記学習の危険と隣り合わせ→便利だから丸暗記
→10年経っても話せるようにはならない
あるべき授業
文法重視、集中授業(例えば週6時間を一年間)
発音の徹底訓練(スポーツ的トレーニング:授業以外に)
英語が話せるようになるには、「どれだけの努力と
時間が必要か」 教師は生徒に正しく伝えるべき
By T.Nakanishi
2006.3.25
最近英語と言うとすぐ会話となる、しかし簡単な会話を
覚えることで「会話」ができる力がつくのか?
目的と手段の混同
言語能力のモデル(水に浮かんだ氷塊)
表層部
1000語でできる会話
基底能力
深層部
話したり書いたりする能力を伸ばそうと思えば、
その能力を底で支えているはずの、もっと大き
な能力にも目をやらなければならない
英語力を身に付けるためには、その土台で
ある基底能力を育てなければならない
4000語~5000語の語彙力
われわれは言語を習得しながら、
同時に自分の周りの世界を捉えているのである。
国語、国語、国語、そして算数
基底能力を育てるには読み書き能力と思考力
子どもの言語発達にとって間接経験の持つ意味は大きい。直接経験を我々の日常生活そのものと考えれば
間接経験は非日常の世界。子どもは学校教育を通じて自然に間接経験へと誘導される。その間接経験を
もたらす手段は視覚的、聴覚的、思索的などに分けられ、言語はいずれにも関わる。その場合抽象度の高い
書き言葉は、話し言葉とは別の大切な役割を果たしている。そして論理的な思考力を育てる意味で数学的
思考も重要。また直接的に語彙力を高める方法は読書だが、間接経験を豊かにする手段としてもベスト。
書き言葉を通しての知識の吸収は認知的な言語習得そのもので、言語能力の発達に欠かせない。
子どもの頃に書き言葉に慣れ親しんでいるかどうかは、その人のその後の言語能力の発達を大きく左右する
外国語(英語)学習も全く同じ、が、ややもすると会話中心の間に合わせ学習が流行するが
上記の理由でそれはダメ
By T.Nakanishi
2006.3.25
導入するには
英語活動でなく
小学校導入を図るのは英語「教育」か?
YES
現在の中学英語を一旦解体
スタート時点から中3までの段階的な一貫教育を考えることが必要
最終目標をもった段階的指導計画を立てる
そして
「平易な会話」が
できるような力を
つけるためにも
「教育」だから、ちゃんとした「英語教師」が必要
語学学習の根本原則「毎日1時間」は必須
その他「文法重視」、「発音の徹底訓練」も
但し、既存のどんな時間も
削減しない
By T.Nakanishi
<英語を学べば馬鹿になる>
さまざまな意見
2006.3.25
「英語さえできれば、きっと国際的に活躍できるだろう」は幻想。知識や技能を欠いている場合は、
たとえ何語ができようとも、どうしようもないのである。(薬師院仁志)
<なぜ国語を学ぶのか>
世界にいろいろな言語や文化があることを知らせるとか、異文化を通して自国の文化を見直すという観点に
立って全員にというなら、英語だけというのはおかしな話だね。別の言語も文化も学ばなきゃ。(村上慎一)
<日本人はなぜ英語ができないか>
特別でもない人が母語以外の言語を日常的に使えるということは、多くの場合その人が経済的、政治的、民族
的などの理由で、弱者の立場にあることを意味します。別にうれしく、楽しく、いくつもの言語を使っているわけ
ではないのです。外国語はむしろ嫌なもの、警戒すべきもの、排斥すべきものなのです。(鈴木孝夫)
<国家の品格>
公立小学校で英語など教え始めたら、日本から国際人がいなくなります。英語というのは話すための手段にす
ぎません。国際的に通用する人間になるには、まずは国語を徹底的に固めなければダメです。表現する手段
よりも表現する内容を整える方がずっと重要なのです。英語はたどたどしくてもよい。内容がすべてなのです。
そしてそれにはきちんと国語を勉強すること、とりわけ本を読むことが不可欠なのです。(藤原正彦)
<日本語力と英語力>
・安直な実用性を志向する文法軽視、実用会話重視の英語教育よりも、当面は実用的でないにしても、個々人
が必要に応じて学習を積み上げるための基礎力を与える教育の方が長い目で見た場合、よっぽど国益に適って
いる。逆に言えば、学校教育にできるのはせいぜいそこまでのことで高度な英語力などを求めるのは見当違い。
・小学校では、母語である日本語をしっかり教えるべきです。英語必修となればどこにしわ寄せがくるか。その科
目の学力低下も気になる。「英会話ごっこ」をやるくらいならもっとしっかり日本語をやるべきです。(斎藤兆史)
・自分にとって英語の必要性はどのくらいか、認識することも大事です。私はエンゲル係数の概念を応用して「エ
イゴ係数」というものを考えてみました。自分の全生活における英語の必要度を係数にして表す。私は5%以下。
2%とか0.1%の人が必死に英語をやってますね。話す内容がなければ何もならないのに。(齋藤孝)
By T.Nakanishi
2006.3.25
参照・参考図書
「日本の英語教育」
「英語教育はなぜ間違うか」
「小学校での英語教育は必要ない!」
「英語を学べば馬鹿になる」
山田雄一郎
著
岩波新書
山田雄一郎
著
ちくま新書
大津由紀雄 篇著
慶応義塾大学出版会
薬師院仁志
著
光文社新書
「なぜ国語を学ぶのか」
村上 慎一
著
岩波ジュニア新書
「日本人はなぜ英語ができないか」
鈴木 孝夫
著
岩波新書
「国家の品格」
藤原 正彦
著
新潮新書
「日本語力と英語力」
齋藤 孝 + 斎藤 兆史 著
中公新書ラクレ
「英語を子どもに教えるな」
市川
力
著
中公新書ラクレ
「子どもはことばをからだで覚える」
正高 信男
著
中央公論新社
「小学校英語学習指導指針」
伊藤 嘉一
著
文春新書
「あえて英語公用語論」
船橋 洋一
著
文春新書
By T.Nakanishi
2006.3.25
「小学校での英語教育」について
- 山田雄一郎「日本の英語教育」を中心に -
おわり
By T.Nakanishi