BL-10 軟 X 線 XAFS ビームライン BL 責任者: 太田 俊明 ohta (at) fc.ritsumei.ac.jp BL 担当者: 中西 康次 k-naka-a (at) st.ritsumei.ac.jp ◆概要 X 線吸収微細構造 (XAFS : X-ray absorption fine structure) 測定は物質の X 線吸収強度(吸光度)の波 長依存性を測定することで、吸収原子の配位数や価数などの化学結合状態、吸収原子周りとその近傍原 子の距離の分布など、物質の局所構造に関する情報を得ることができる測定手法である。 立命館大学 SR センター BL-10 では 1000~4000 eV 程度の軟 X 線が利用可能で、K 吸収端では Na、 Mg、Al、Si、P、S、Cl、Ar、K、(Ca)、L 吸収端では Zn~Sb の測定が可能である。 X 線吸収スペクトルの吸収端から約数十 eV 程度に現れる X 線吸収端構造 (XANES : X-ray absorption near-edge structure) は、X 線の吸収による内殻から非占有準位への電子遷移によって形成され、そのスペ クトル形状には吸収原子の配位数や価数などの化学結合状態の情報が非常に敏感に反映される。また、 X 線吸収スペクトルの吸収端から 1000 eV 程度の現れる広域 X 線吸収微細構造 (EXAFS : Extended X-ray absorption fine structure) は、吸収原子から放出された光電子が周りの原子によって散乱され、放出 電子波と散乱電子波との干渉によって終状態の遷移確率が変調されてスペクトルに波状の構造が現れた ものである。この波状の構造を数学的に解析することで吸収原子から周りの原子までの 3 次元的な距離分 布の情報を得ることができる。 ◆ビームラインの構成 ○フロントエンド 可視・真空紫外光カット用水冷式 Be フィルタ ○集光鏡 Ni (1000Å)/Si トロイダルミラー(水冷) ○分光器 ゴロブチェンコ型 2 結晶分光器 Beryl(10-10)、Quartz(10-10)、KTP(011) InSb(111)、Ge(111)、Si(111)、Si(220) ○Io モニタ ○高真空測定室/大気圧測定室 ◆主な光学系のレイアウト ※AP : Atmospheric Pressure, HV : High Vacuum ◆ビームラインの仕様 構成 エネルギー範囲 ビームサイズ フラックス 測定室 測定モード 測定試料形態 その他 フロントエンド、集光ミラー、2 結晶分光器、Io モニタ、測定室 約 1000 ~ 4000 eV 程度 高真空測定室:約 5 mm × 2 mm / 大気圧測定室:約 8 mm × 2.5 mm 108-1010 photons/sec 程度 高真空測定室:10 分程度の排気で測定可。試料 20 個程度取り付け可。 大気圧測定室:15 分程度で He 置換可。試料 5 個程度取り付け可。 全電子収量(サンプルカレント)、蛍光 X 線収量(シリコンドリフト検出器、MCP) 固体(ウエハー、粉末など)、溶液、ゲルなど 高真空測定室:全電子収量&蛍光収量の 2 モード同時測定が可能。 トランスファーベッセル(BL-2 と共通)の利用可能。 ◆試料上のフラックス IRD 社製フォトダイオ ード AXUVSP2 を使用 ◆大気圧測定室 軟 X 線領域の XAFS 測定は軟 X 線の透過率の低さから真空中で行われることが多い。しかし、溶液をはじ め、真空中で状態が変化してしまうような試料は測定が困難である。そのため、BL-10 ではコンパクトで操作が 容易な大気圧条件下 XAFS 測定が可能なシステムを開発した。既存の高真空測定室下流に極薄 Be 窓を用い て真空と大気を隔て、大気圧測定室の大気を He で置換することで、強度のロスをできる限り抑え、軟 X 線領域 でありながら、真空引きすることなく測定が可能となった。 次頁図に評価測定として行った MgCl2 と MgCl2・6H2O の高真空中、および、He 雰囲気の大気圧中で測定し た Mg K-XANES スペクトルを示す。塩化マグネシウムは非常に潮解性が高い物質であることが知られている が、MgCl2・6H2O は真空排気すると簡単に結晶水が抜けて MgCl2 へと変化する。そのため、高真空中で測定し たスペクトルは MgCl2 のスペクトルと一致する。このような試料を測定する場合、通常の真空の測定室では困 難である。一方、大気圧測定室では結晶水が抜けることなく、そのままの状態で測定が可能であり、MgCl2 ・ 6H2O のスペクトルが得られていることが分かる。 BL-10 の大気圧測定室. MgCl2 と MgCl2・6H2O の Mg K-XANES スペ クトル。PFY の自己吸収の補正はしていない ため、スペクトルは鈍っている。 ◆トランスファーベッセル BL-10 では嫌気性試料用にコンパクトなトランスファーベッセルが準備されており、グローブボックス中で試 料を Ar ガスごと封止することで、グローブボックスから BL-10 まで大気非暴露で試料を輸送可能である。8 個 の試料ホルダーが収納可能で、さらにホルダー上下に試料を取り付けられれば 16 個の試料を同封することが できる。このシステムは BL-2 と共通であるため、一度の試料準備で BL-10 と BL-2 の両方で測定することも可 能である。トランスファーベッセルは必要に応じて貸し出し可能である。 高真空測定室と試料導入室. BL-10 の試料ホルダー. トランスファーベッセルと試料ラック. トランスファーベッセル用試料ホルダー. ◆測定例 Al K-XANES スペクトル Si K-XANES スペクトル Cl K-XANES スペクトル ◆近年の成果 [Paper] [1] Norikazu Nishiyama, Masahiro Yamaguchi, Toru Katayama, Yuichiro Hirota, Manabu Miyamoto, Yasuyuki Egashira, Korekazu Ueyama, Koji Nakanishi, Toshiaki Ohta, Atsushi Mizusawa,Tsuneyuki Satoh : “Hydrogen-permeable membranes composed of zeolite nano-blocks” J. Membr. Sci., 306 (2007) pp. 349-354. [2] Takashi Yamamoto, Shigehisa Mori, Toru Kawaguchi, Tsunehiro Tanaka, Koji Nakanishi, Toshiaki Ohta, and Jun Kawai : ”Evidence of a Strained Pore Wall Structure in Mesoporous Silica FSM-16 Studied by X-ray Absorption Spectroscopy” J. Phys. Chem. C 112 (2008) pp. 328-331. [3] K Nakanishi, T Ohta : “Verification of the FEFF simulations to K-edge XANES spectra of the third row elements” J. Phys. Condens. Matter 21 (2009) pp. 104214-104219. [4] Takashi Doi, Kazuyuki Kitamura, Koji Nakanishi, Kazuyuki Kahima, Takayuki Kamimura, Hideaki, Miyuki, Toshiaki Ohta and Masato Yamashita : “Characterization of Rust Layers Formed on Al-Bearing Steels Exposed to Coastal Environments” J. Japan Inst. Metals 74 (2010) pp. 10-18. [5] Hirotaka Okamoto, Yoko Kumai, Yusuke Sugiyama, Takuya Mitsuoka, Koji Nakanishi, Toshiaki Ohta, Hiroshi Nozaki, Satoshi Yamaguchi, Soichi Shirai and Hideyuki Nakano : “Silicon Nanosheets and Their Self-Assembled Regular Stacking Structure” J. Am. Chem. Soc. 132 (2010) pp. 2710-2718 [6] Yusuke Sugiyama, Hirotaka Okamoto, Takuya Mitsuoka, Takeshi Morikawa, Koji Nakanishi, Toshiaki Ohta and Hideyuki Nakano : “Synthesis and Optical Properties of Monolayer Organosilicon Nanosheets”, J. Am. Chem. Soc. 132 (2010), pp. 5946-5947. [7] Koji Nakanishi, Shinya Yagi, Toshiaki Ohta : “XAFS Measurements under Atmospheric Pressure in the Soft X-ray Region” AIP Conf. Proc. 1234 (2010) pp. 931-934. [8] S. Ogawa, H. Niwa, T. Nomoto and S. Yagi : “Fabrication and Characterization of Magnesium Nanoparticle by Gas Evaporation Method” e-J. Surf. Sci. Nanotech. 8 (2010) pp. 246-249. [9] Kazu Okumura, Takuya Tomiyama, Shizuyo Okuda, Hiroyuki Yoshida, Miki Niwa : “Origin of the excellent catalytic activity of loaded on ultra-stable Y zeolites in Suzuki–Miyaura reactions” J. Catalysis 273 (2010) pp. 156-166. [10] Hiroshi Senoh, Tomonari Takeuchi, Hiroyuki Kageyama, Hikari Sakaebe, Masaru Yao, Koji Nakanishi, Toshiaki Ohta, Tetsuo Sakai, Kazuaki Yasuda : “Electrochemical characteristics of aluminum sulfide for use in lithium secondary batteries” J. Power Sources 195 (2010) 8327–8330 [11] Tomonari Takeuchi, Hiroyuki Kageyama, Koji Nakanishi, Mitsuharu Tabuchi, Hikari Sakaebe, Toshiaki Ohta, Hiroshi Senoh, Tetsuo Sakai, and Kuniaki Tatsumi : ”All-solid-state lithium secondary battery with Li2S-C composite positive electrode prepared by spark-plasma-sintering process” J. Electrochem. Soc.157 (2010) pp. A1196-A1201. [12] Satoshi Ogawa, Hironori Niwa, Koji Nakanishi, Toshiaki Ohta, Shinya Yagi : “NEXAFS Analysis of Mg Nanoparticles Oxidized in Atmosphere” IEEJ Trans. EIS 130 (2010) pp. 1746-1750. [13] Koji Nakanishi, Shinya Yagi, Toshiaki Ohta : “Development of a XAFS Measurement System in the Soft X-ray Region for Various Sample Conditions” IEEJ Trans. EIS 130 (2010) pp. 1762-1767. [Prize] [1] 名古屋大学大学院工学研究科 (八木研究室) の修士 2 回生 小川智史君 が第 13 回 XAFS 討論会にて BL-10 を利用した成果を発表し、学生奨励賞 を受賞されました。 小川智史 1、中西康次 2、丹羽悠登 1、村上峻介 1、太田俊明 2、八木伸也 1 1 名古屋大学工学研究科、2 立命館大学 SR センター 「Mg K 吸収端 NEXAFS を用いた Mg ナノ粒子の大気酸化過程分析」
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