農業と車両と組込みシステム ~独ホーエンハイム大における事例紹介~ 九州大学大学院システム情報科学研究院情報知能工学部門 九州大学大学院統合新領域学府オートモーティブサイエンス専攻 中西 恒夫 E-mail: [email protected] 講演内容 StuttgartとHohenheim大学について 精密農業 自律走行トラクタ ICT技術者は農業のために何をすべきか 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 2 StuttgartとHohenheim大学について Stuttgart について(1) ドイツ南西部 BadenWürttemberg州の州都 人口約60万人 Münchenと互角の豊かさと 物価と治安の良さ 自動車産業がさかん: ベン ツ,ポルシェ,ボッシュの本社 所在地 でも周辺は農村地帯 ラの音を440Hzと標準化した 街 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 4 Stuttgart について(2) Stuttgart近郊の農業地域(Wolfschlugen) Hohenheim大学について(1) Stuttgart郊外(Stuttgart空港の近く)にある大学。 もともとは農学校。 3学部: 自然科学系,農業系,ビジネス系 九大農学研究院とは部局間交流協定。 レントゲン博士が教員をしていた。(1年でやめた。) 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 7 Hohenheim大学について(2) 農業工学研究所(Institut für Agrartechnik) 農業科学部所属の農業工学に関する研究所。 6つの講座: 農業工学基礎,家畜,装置・計測,プロセス工学 ,熱帯/亜熱帯,再生可能エネルギー 装置・計測講座はDLG(Deutsche LandwirtschaftsGesellschaft)の寄付講座。 装置・計測講座のプロジェクト: 果樹園におけるモニタリングと灌水最適化(3D-Mosaic): ICT-Agriプ ロジェクトの一環。(ICT-Agri: 農業分野におけるICTとロボティクスの 応用に関するEUのプロジェクト) 農業機械の耐久性 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 8 精密農業 農業は環境制御 気象 作物 アクチュエー ション 種まき,灌水,水位 制御,施肥,農薬散 布,除草,間引き, … 土壌 センシング 葉色,茎径,日照量, 気温,湿度,土中湿 度,土中pH,土中 EC,… 意思決定 履歴 カンと経験 記録 機械化,機械支援,省力化の余地大 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 10 農業の情報化 やるべきこと 熟練営農者や文献からの営農知 目指すべき「農業の 識の収集と整理 情報化」 高 営農知識とセンシング/アクチュ 営 エーションとの紐づけ(帰納) 農 意思決定の視点とプロセスの見え 営農知識 情 (=意思決定) る化 = モデリング(演繹) 報 の 抽 象 度 現在実用化されて いる「精密農業」? 2012年5月31日 低 センシング アクチュ エーション 葉色,茎径,日照量, 気温,湿度,土中湿度, 土中pH,土中EC,… 灌水量,施肥量,農薬 散布,除草,間引き, … Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 11 精密農業とは 精密農業(Precision Agriculture): 情報技術を駆使し,空間的に も時間的にも高精度の多種多様なデータを取得,解析し,作物生 産に関わる意思決定や営農活動を行う農業の方法論。(NRC, 1997) ばらつきの把握,対応,緩和が精密農業の基本! 収量のばらつき 土壌のばらつき 病害虫のばらつき 汚染のばらつき 生育や管理のばらつき etc. 空間的ばらつき 時間的ばらつき ばらつきはすなわち最適化の余地 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 12 精密農業を支える技術(1) 目的 技術 センシング ばらつきの把握 意思決定 ばらつきへの対応 データベース,データマイニング,モデ リング,最適化 アクチュエーション ばらつきの緩和 各種センサ技術(土壌,気象,作物), 測位技術,画像,非破壊/非接触のセ ンシング(分光) 可変作業機械(灌水,施肥,除草,防 除,選別),自律航行機械 これらの技術をつなぐソフトウェア技術と通信技術。 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 13 精密農業を支える技術(2) 各種自律航行機械の長所と短所 車両: トラクタ etc. 高い汎用性。 長い連続稼働時間。 飛行体よりペイロードが(圧倒的に)大きい。 飛行体: 飛行機,ヘリコプタ,飛行船 etc. 土を踏み固めない。 地面の状態が悪くても航行可能。 背の高い作物を植えた圃場でも利用可能。 飛行機はヘリコプタよりペイロードが大きい。 ヘリコプタは滑走路不要,ホバリング可能。 cf.) 人工衛星や無線センサネットワークによるセンシング。 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 14 自律走行トラクタ ~ホーエンハイム大学における事例~ 農業用トラクタ 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 16 自律走行トラクタ(1) 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 17 自律走行トラクタ(2) RTK-GPSによる測位。 オドメトリ ヨーレート,ロール,ピッチ角センサ Gセンサ アクチュエータによる制御 操舵 エンジン回転数 速度 PTOの回転 PTOのリフト操作 レーザレンジスキャナによる周辺障害物の監視。 ※ 自律走行トラクタの研究は国内農学分野(農業機械学会等)でも多数。 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 18 自律走行 計画走行: 事前に与えられる指令ファイルに基づく走行。 緯度,経度で指定される点を指定される速度で走行。 緯度,経度で指定される点での指定の作業。 動的対応: 計画走行時の計画外の事象への対応。 経路上の障害物の回避。 圃場の末端でのターンのパターン 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 19 測位技術(1) 何のために測位をするのか? 車両を計画した経路通りに移動させるため。 計画した作業を計画した位置で実施させるため。 農作物のトレーサビリティ管理のため。 農作物個体の識別のため。 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 20 測位技術(2) 測位技術 GPS単独測位 特徴 測位誤差は10m。衛星位置の誤差,故意に載せて いる誤差,電離層や対流層での伝搬遅延,マルチパ ス,受信端末の個体差などが誤差の原因。 DGPS: Differential GPS 測位誤差は数m。正確な位置が既知の地上基準局 が自身をGPS測位し誤差を算出,補正情報を放送。 各受信端末は補正情報を用いて測位結果を修正。 RTK-GPS: Real-Time Kinematic GPS 測位誤差は数cm。衛星から送られてくる電波の位相 差も用いて測位。200万円前後。 準天頂衛星 測位誤差は数cm。日本の真上を飛行する測位用衛 星。24時間測位には最低3機必要だが,現在は1機。 センサフュージョン 測位デバイスによる測位情報に車両のオドメトリ(車 輪の走行距離)等の情報を組み合わせて測位精度 を向上する。 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 21 測位技術(3) GPSの測位誤差例: 南北3.7m,東西1.5m(測定条件: 2012年7 月8日午前9時~10時,福岡市西区,天候:晴,車載用GPS使用, 捕捉衛星数3個) 40cm程度 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 22 測位技術(4) 位置情報の劣化: 大陸の移動により過去に計測した位置情報が 劣化する。下図は九州の1年間の地殻変動(国土地理院)。 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 23 自律走行トラクタの使い方 各種インプリメントを装着して農作業 耕起 代掻き(米作) 播種 施肥 灌水 除草 防除 収穫 各種センサを搭載して圃場/作物情報のモニタリング マップ作成: 土壌マップなど 場所ごとのデータ収集 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 24 載せモノの例(1) 除草用インプリメント: 鍬の水平位置を制御し,作物の列の間の 雑草を作物を傷つけることなく除去。 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 25 載せモノの例(2) 各種センサやカメラ Agritechnica 2011 (Hannover, 2011年11月) 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 26 自律走行トラクタのソフトウェア(1) デンマーク工科大学(DTU)で開発されたロボット用ミドルウェ ア「MobotWare」を使用。 NASREMアーキテクチャを採用: NASA/NBS Standard Reference Model for Telerobot Control System 物体の運動制御を行うアプリケーション向き センシング→デシジョンメーキング→アクチュエーションの水平構造 データの抽象度による垂直構造(レイヤ構造) グローバルメモリ使用 Linux + RTAI (Real Time Application Interface) デバイスドライバはプラグイン形式。 プロセス不在,コーディング中心の開発。(∵トライ&エラー,擦り合 わせ開発) 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 27 自律走行トラクタのソフトウェア(2) ロボット制御ミドルウェアの現状認識 ロボットはソフトウェアインテンシブシステム ロボット用ミドルウェアは今後重要(すでにいくつもある。ROS, OpenRTM-aist) ロボット制御ミドルウェアの課題 ロボット制御ソフトウェア開発へのソフトウェア工学の導入。 Try & Error,リアルタイム処理,擦り合わせ開発を効率的に行 う開発プロセス。 わかりやすさ,よいインターフェース モデルベース開発,派生開発,SPL(モデルの成長,プラントモ デルの記述)… 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 28 農業用車両の今後 一般自動車と同じ歴史(多機能化&ソフトウェア化)を歩む? 安全性,信頼性の向上 ISOBUSによる装置接続の標準化 ECU数の増加 インプリメントのインテリジェンス化 ユーザインターフェース 無人化は自動車より早い? 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 29 欧州における農業用ロボット教育(1) フィールドロボットイベント(Herning, Denmark; June 2011) 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 30 欧州における農業用ロボット教育(2) ホーエンハイム大学での農業用ロボット開発実習の様子 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 31 組込み技術者は農業のために何ができるか? (まとめにかえて) 農工連携(1) 今さらながらの「農工連携」 今「農工連携」を言ってるのはたぶん工学系の人だけです。 もともと農学系の人の何割かは昔から工学をやっていました。( すぐ思いつくようなことはおおよそやり尽くされています!) 単に今まで農工間の人や情報の往来が乏しかった?(欧州の 場合,多くの工学出身者が農業に関わっていました。) 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 33 農工連携(2) 組込み技術者としては農業や農家を知ることがおそらく最重要。 技術は何を使っても構わない。(農業現場の問題が解決される なら何をやったって構わない。) 使えそうな技術はすでにある? 農業ICTの難しさ 農業現場への投入 規模や収入の小さい農家は買えない。(日本は特にこれが問題!) 農家が仕事のやり方を変えるのを嫌う。 ICTへの慣れ。 農業そのものの多様性: 経営規模,土地,作物,文化の違い 生き物相手,お天気相手 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 34 参考文献 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. Universität Hohenheim, http://www.hohenheim.de/ National Research Council (NRC), Precision Agriculture in the 21st Century, National Academy Press, 1998. 澁澤 栄(編著), 精密農業, 朝倉書店, 2006. 近藤 直, 門田 充司, 野口 伸(編著), 農業ロボット (I)/(II), コロナ社, 2006. 国土地理院, 「最新の地殻変動情報」, http://mekira.gsi.go.jp/project/f3/ja/index.html S. Blackmore, H. W. Griepentrog, H. Nielsen, M. Nørremark, and J. RestingJeppesen, “Development of a Deterministic Autonomous Tractor,” Proc. 2004 CIGR Int. Conf., 2004. A. B. Beck, N. A. Andersen, J. C. Andersen, and O. Ravn, “MobotWare: A PlugIn Based Framework for Mobile Robots,” Proc. 7th IFAC Symp. on Intelligent Autonomous Vehicles, Vol.7, Part 1, 2010. J. S. Albus, H. G. McCain, and R. Lumia, “NASA/NBS Standard Reference Model for Telerobot Control System Architecture (NASREM),” NIST Technical Note, No.1235, 1989. 2012年5月31日 Created by Tsuneo Nakanishi, 2012 35
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