天体放射論II

H25年度基礎天文学観測実習
「電波望遠鏡による分光撮像観測」
参考資料:
電波による観測
2012年7月30日
2012年8月6日改訂
2013年9月27日改訂
河野孝太郎
・天文学教育研究センター
・ビッグバン宇宙国際研究センター
[email protected]
観測を決める/記述する重要な要素
 空間分解能
 集光力
 (電波観測特有の)強度スケール
 Ta*, Tmb, Tr, etc. flux densityの関係は?
 電波望遠鏡(アンテナ)について
 感度をきめるもの
 大気
 観測装置自身からの雑音
 これらをどう除去するか?
空間分解能
 望遠鏡の空間分解能
今回の実習:
D = 45m
λ = 13.6mm
Q: では空間分解能は?
 θ= α(λ/D)
D:望遠鏡の直径(単一鏡の場合)・最大基線長(干渉計の場
合)
α~1の定数だが、通常α≠1.0(約1.2のケースが多い)
 「Aperture illumination」との関係で決まる
 鏡面のどのくらいの割合を実際に使っているか?
 干渉計の場合、本来実現できるはずの空間分解能が、大気
の揺らぎによって実現できていない場合もある。
 これ以外にも重要な要素:画像のサンプリング
 ビームサイズに対してどのくらいの間隔でサンプリングしてい
るか? Nyquistのサンプリング定理
Intensity scale
 単一鏡での観測結果
 「温度」での表現
 Ta* [K] : antenna temperature
 Tmb [K] : main-beam temperature
 Tr* [K] : radiation temperature
 Flux densityでの表現: S [Jy] or [Jy/beam]
 干渉計での観測結果
 Flux densityでの表現: S [Jy] or [Jy/beam]
2
フラックスと輝度温度:

S
Tb 
2kB beam
実用的な式と具体例[保存版]
bmajbmin
beam 
Tb [K] = 15.4 x (波長/[mm])2×(S/[Jy])
4 ln 2
-1
×(立体角/[平方秒])
= 13.6 x (波長/[mm])2×(S/[Jy])
×(bmaj/[秒角])-1×(bmin/[秒角])-1 16” FWHP
 290平方秒
 例1: 波長3mm、bmaj=bmin=4”のビーム(FWHP)で、ある天体(点
源)を観測したらその強度は1Jyであった。その輝度温度は何Kか?
7.7K
 例2: 波長0.87mm、bmaj=bmin=22”のビームで、ある天体(点源)
を観測したら輝度温度は1Kであった。そのflux密度は何
Jy/(22”beam)か? 47 Jy
 例3:波長7mm、bmaj=bmin=0.001”のビームで1Jyの天体(点源)
を観測したら何Kに見えるか? 6.7x108 K (!)
Intensity scale:単一鏡での観測結果
 「温度」での表現
 Ta* [K] : antenna temperature
大気吸収を補正した、天体からの電力を反映した測定
量。(直接の観測量だが、天体の輝度温度ではない)
 Tmb [K] : main-beam temperature
= Ta*/ηmb ←主ビームと同程度のサイズの天体に
対して、天体の輝度温度を表す。
 ηmb: main beam efficiency
 Tr* [K] : radiation temperature
= Ta*/ηfss ← 主ビームより大きく広がった天体に対し
て、天体の輝度温度を表す。
 ηfss: forward spillover & scattering efficiency
得られる観測データの雑音レベル
 基本式(片偏波のみを観測する場合)
dTrms
1 Tsys

2 tinteg  B
Tsys システム雑音温度 [K]
tinteg 積分時間 [sec]
B 観測周波数幅 [Hz]
 例: Tsys=200K、観測周波数幅 1 MHzで10秒間の
積分をかけると、雑音レベルは何Kか?
 Tsysが小さければ小さいほど高い感度の(雑音の低
い)観測ができる。
 Tsysの中身は「大気からの雑音」と「受信装置自身の雑音」。
宇宙電波の検出方法
電波の検出方式
 Direct detection (incoherent detection)
 Radiationをphotonとして捕らえる
 ガンマ線・X線・UV・可視赤外
 Heterodyne detection (coherent detection)
 Radiationをwaveとして捕らえる
 いわゆる電波(波長~数cmあたりまではすべてこれ)
 電波(ミリ波~サブミリ波)
→ direct detection/heterodyne detection両方の
技術がapplicableな波長域
それぞれの得失を生かして、目的に応じ使い分け
Bolometer




入射したphoton(radiation)を、熱として検出。
熱として検出→超広帯域(波長依存性小)。Δf/f~0.3以上
0.3K(ものによっては0.1K)まで冷却する必要がある
振動などの雑音に弱い。量産たいへん。
TES(超伝導遷移端)ボロメーター
Bolometer: 入力した電磁波/photonを「温度上昇」として検出(incoherent detection)
Absorber(吸収体): radiation、(particle) を吸収
Thermometer(温度計): 吸収された熱による温度上昇を測定
Thermal link(熱リンク): 熱を適度に逃がす熱抵抗(熱伝導大->検出困難、小->遅い)
TES bolometer: 温度計に Transition Edge Sensor(TES) を用いたbolometer
超伝導⇔常伝導の境界(端)で、温度に対して抵抗が急激に変化することを利用→高感度
ボロメーターの原理
「スパイダーウェブ」構造
TES
Thermal
link
SiNのウエハー
上に、 Auの
吸収体の「網」
+TiのTES
ミリ波サブミリ波帯の検出器
「超伝導遷移端センサー」 TES
吸収体として
超伝導体
を利用
「超伝導」から「常伝導」への遷移端
吸収体の抵抗(Ω)
天体から
の放射
わずかな
温度変化でも
大きな抵抗の
変化になる!
放射が入る
 温度が微増
吸収体の温度(ケルビン)
超伝導と天文学、特にミリ波サブミリ波の関係は深い!
ミリ波サブミリ波のセンサーは手作り
ブリング 直径=360μm
吸収体
1275μm
観測周波数
350GHz
(0.87mm)
金のメッシュライン
幅~2μm
厚み~10nm
超伝導遷移端
センサー
270画素
カリフォルニア大学バークレー校との協力
超伝導センサー
 SIS素子(超伝導体と絶縁体のサンドイッチ構
造)を用いた低雑音電波検出器
酸化アルミニウム(Al2O3: 絶縁体)
酸化アルミニウム
(AlOx:トンネルバリア)
ニオブ
(Nb:超伝導体の電極材料)
酸化ニオブ(Nb2O5 : 絶縁体)
基板
酸化シリコン(SiO2: 絶縁体)
ミリ波サブミリ波観測装置の開発
原案・作図:遠藤光
 10mスケールの構造物から、ナノメートル(数原子
層分)の構造まで!
クリーンルームでデバイスを作る
天文学者(の卵)
Heterodyne receivers
(frequency conversion)
 ミリ波、特に200 GHzから300 GHzを超えるような波長が短いところでは、まだ性
能のよい増幅器がなく、パラボラで集めた電波をそのままでは増幅することができ
ない。そこで、まず周波数をより低いところに落とす(周波数変換)。
 周波数変換を行うには、I/V特性が非線形性を示す素子を用いる。
i  a0  a1V  a2V 2  a3V 3    
 このような素子に、次のような2つの信号を加える:
E1 sin(1t   ), E2 sin(2t )
このとき、電流出力のV2の項をみると、
E12
E22
1  cos(21t ) 1  cos(22t   )
2
2
 E1 E2 cos1  2  t     cos1  2  t   
このほか、様々な高調波成分が出るが、これらの中で、Filterによって必要な周波数成
分を取り出すことができれば、低い周波数への変換(down converter)もしくは高いほう
への変換(up converter)ができたことになる。ここで、2つの信号の位相差φが、周波数
変換後も保存されている点に注目。
ヘテロダイン検出器による観測の特徴
 高分散分光が得意(⇔可視・赤外・Xなど)
 低い周波数へ変換してから分光することにより高い速度分解
能が容易に得られる
 波長1.3mm(f=230GHz)で速度分解能0.1km/sを得る
→Δf=0.1MHzで0.13km/s分解能:f/Δf~2,300,000が
必要!
しかし周波数変換をしてから分光すれば小さいRで充分
 干渉計観測が可能→長い波長でも高分解能観測
VLBIでは1milliarcsecを切る世界
 デメリット
 装置としては複雑。Focal plane arrayはまだ数10素子レベ
ル ⇔ 数100 – 数10,000画素@直接検出器アレイ
 量子雑音限界  直接検出器よりは不利(特に高い周波数)
Quantum limit of Coherent detection system
ΔE・Δt > h/4π(Heisenberg uncertainty principle)
 ΔE = hνΔn ←エネルギーの不確定性をphotonの個数の不確定性に
書きかえ
 2πνΔt = Δφ ←時間の不確定性を位相の不確定性に書き換え
→ Δφ・Δn > 1/2 ←位相とphoton数に関する不確定性原理
ここで、理想的な観測システムがあると仮定。
 受信したphotonをG倍に増幅する(n1個のphotonが、n2=G・n1個に
なって出力)
 雑音は一切付加しない。
 位相はφ1からφ2に変化する(あるオフセットを許す)。
→ Δn1 = Δn2/G から、Δφ1・Δn1 > 1/2G (ただしG>1)
この矛盾を回避するには、(G-1)hνなる雑音が付加されるとすればよい。
入力側に換算すると(1-1/G)hν → hν(G→∞)
このような考察から、位相情報を保持したCoherent detectionの場合、
Tmin = hν/k より雑音を小さくすることはできない
100GHzで5.5K; 可視の波長までいくと~10^4Kに。
Receiver/detectorの性能を表す指標
 雑音温度 Noise temperature
 雑音指数 Noise Figure
 雑音等価電力 Noise Equivalent Power
signal
noise
Device内部で発生・付加されるnoise
「雑音」
 device内部で発生する雑音
 Thermal noise, Johnson noise
電流が流れていなくとも抵抗体中に発生する雑音
 Shot noise
電流が流れている時に、電子(またはキャリア)の流れの不均
一性で発生する雑音
 Flicker noise, 1/f noise
半導体や抵抗体に直流電流が流れるとき現れる、周波数に逆
比例するようなプロファイルを持つ雑音成分
 外来雑音
 大気からのbackground
 望遠鏡やミラーなどからのbackground
 携帯電話/違法無線など人工雑音
 etc.
Nyquist 定理 (thermal noise)
 温度Tにある抵抗体R
 これに電流計をつけて
電流値を調べてみると?
温度Tの抵抗体R
 流れる電流は0の筈 <I >=0 しかし <I^2 >≠0
→ thermal noise(熱雑音), Johnson noiseなどと呼ぶ。
 温度Tの平衡状態にある抵抗体Rが、単位周波数あたりに発生する熱雑
音電力は、hν<< kTの古典論的極限で
Pν = kT
(Nyquist定理)
 H. Nyquist, Phys. Rev., 32, 110-113 (1928)
 hν~kT or hν>kTになるような領域(サブミリ波のような高周波)では、
Plank関数に戻って雑音電力を評価する必要がある。
 微小な雑音を議論するときには、さらに0点振動のエネルギー hν/2kも加
えなければならない。
thermal noise (Johnson noise)
 電気的には中性、しかし電子の熱運動により不規則に
変動する電流が生じる。
 広い周波数帯域にわたりほぼ一定のエネルギー密度
がある(white noise)。
Nyquist 定理
温度Tの抵抗体R
 2つの抵抗体R(温度T)を長さl、impedance R
(=無反射)の無損失なtransmission lineでつなぐ
 熱平衡状態では、2つの抵抗体の間で雑音電力
が全ての周波数帯域幅にわたり等しい。
 ここで抵抗体を外す→導線上で、雑音電力の
長さ l
周波数に応じた定常波(固有振動)が立つ:
インピーダンスRの導線
nc
n 
2l
(cは伝播速度, n = 1,2,3,…..)
温度Tの抵抗体R
 よって、振動数νとν+dνの間に含まれる
固有振動モードの数は2l/c・dνとなる
 古典論的極限では、Boltzmann則により、運動の
1自由度あたりの運動エネルギー(の平均値)は1/2 kTに等しい。
 正弦振動では、<kinetic E> = <potential E> より、固有振動1あたり
の全エネルギーはkTである →振動数νとν+dνの間に含まれるエネル
ギーは 2l/c・kT・dνに等しい
 電磁波が導線を横切る時間Δt = l/c の間に、このエネルギーが抵抗体か
ら導線へ伝えられるので、導線が抵抗体から受け取る単位周波数あたりの
電力は P = ½・1/Δt・2l/c・kT = KT
Shot noise, Schottky noise
 デバイス内を流れる電子(またはキャリア)の個
数のゆらぎにともなう雑音
 この雑音も周波数特性としてはかなり高周波ま
でのびている
 ショット雑音電流の2乗平均値 <i s^2>∝I(電
流の平均値)
Noise temperature (雑音温度)という概念
 デバイス:入力信号に対してある働きをもつ素子
 増幅、混合、方向性結合、分波、etc.
 いろいろな「働き」とは別に、必ずもってしまう「機能」
=減衰
 減衰(吸収)がある → そこで付加される熱雑音がある
 付加される熱雑音を、入力換算で表したのが「雑音温度」
利得G
入力Tin
利得G
出力Tout
入力Tin
出力Tout
付加雑音
入力等価付加雑音Tnoise
Radiative transferからの理解
 Opacity
τ の媒質を通るradiationがどう観測されるか
τ
Iout=Ibg× e-τ
+ Bν(Tamb) (1 - e-τ)
背景放射 Ibg
温度 Tamb (LTE)
-τ = η
e
 伝送効率 η のデバイスを通る信号がどうなるか
利得G
入力Tin
出力Tout
温度 Tamb
入力等価付加雑音T’noise
Tout = Tin × η
+ Tamb (1-η) という現実を
Tout = (Tin + Tnoise) × η
であるとみなす(入力等価換算)
⇒ Tnoise = Tamb ((1/η) – 1)
伝送効率η と 雑音温度Tn
 入力換算した雑音温度
→ Tn = Tamb (1-η)/η
例:
 常温(290K)で雑音温度が50 Kのデバイスがある。この伝送
効率は? → η=Tamb/(Tn+Tamb)から0.85
 これを冷凍機により70Kまで冷やしたとき、雑音温度はどこまで
低減できるか? → 70 K * (1-η)/η = 12 K
i.e., 冷却することにより、デバイスからの熱雑音を低減できる。
※ 減衰量(伝送効率)が冷却しても変化しないと仮定して。
 常温で雑音温度が3000Kもあった。このときの伝送効率は?
→ 0.088(通ってくる信号は入力信号の10%以下!)
多段受信機(cascade)
 微弱な天体信号を受信するためには、100 dB以上という信号の
増幅が必要。
Q1:口径 D = 10 m、開口能率ηa = 0.6、受信帯域幅 B = 200
MHzで flux density S = 1 Jy (= 10-26 [W/Hz/m2])の点源を
観測したとき、受信される電力は何Wか?
ヒント: W = ½ Aeff・S・B
= ½ ηa・π(D/2)2・S・B = ? [W]
Q3:これはアンテナ温度 Ta に換算して何Kだろうか?
ヒント: ナイキストの雑音定理 W = k・B・Ta
Q2:これをμWオーダーの信号強度まで増幅するために必要な増幅
度を求めよ。
 このような増幅は、一つのデバイスでは不可能。20~30dB程度
の増幅度を持つampを、何段にも組み合わせて必要な強度まで
持っていく。
Cascade接続したときの雑音温度
G1
G2
G3
Tin
Tn1
Tn2
Tn3
 Tinがデバイス1(利得G1, 入力等価雑音温度 Tn1)に入る
→ G1(Tin+Tn1)
 これがデバイス2(利得G2, 雑音温度Tn2)に入ると出力は
G2(G1(Tin+Tn1) + Tn2) = G2・G1 (Tin + Tn1 + Tn2/G1)
→ 一般に、cascade接続したときの、全体としての雑音温度は
Tn = Tn1 + Tn2(1/ G1) + Tn3 (1/ G1 ・ G2) + Tn4 (1/ G1 ・
G2 ・G3) + ・・・
Cascade接続したときの雑音温度
 Tn = Tn1 + Tn2(1/G1) + Tn3 (1/G1・G2) + Tn4 (1/G1・
G2・G3) + ・・・
→ amplifierの多段接続の場合、全体としての雑音温度は、ほとんど初
段(Tn1)に用いるデバイスの雑音温度で決まる。
ex. NRO 220 GHz radiometer for adoptive phase correction
初段 = harmonic mixer, NF = 7.5 dB (Tn = (10^(NF/10)-1)
* Tamb ~ 1340 K), CL = 9.2 dB ← conversion loss; gain
の逆数
2段 = low noise amp (LNA), NF = 0.5 dB (Tn = 35 K), G =
30 dB
3段 = amp, NF = 2.0 dB (Tn = 170 K), G = 30 dB
→ 全体の雑音温度は、Tn = 1340 + 35*10^(CL/10) +
170*(CL/10* 1/10^3)
雑音温度の測定
 2つの温度標準(吸収体=黒体)を用いて測定(hot
cold法)
 通常、実験室では、室温(290K程度)とLN2(78K程
度)を用いることが多い。
 Tn = (Thot – Tcold ・ Y)/Y-1
システム雑音温度
 望遠鏡を天体に向けているときのtotal power
W = kBG (Tn + Ta)・ e-τ
Tnはどのくらいになるか?
 受信機が付加する雑音
 Heterodyneシステムの場合、hν/kという量子限界あり。
 通常、数倍~10倍×量子限界程度。
 受信機など観測装置が付加する雑音以外にも雑音要因あり→大
気!(特にミリ波・サブミリ波で)
 大気による減衰+付加される雑音を含めた、「観測システム全体と
しての雑音温度」を、システム雑音温度 Tsys と呼ぶ。
 W = kBG (Tsys + Ta)・ e-τ
 受信機の雑音温度 Tn を、しばしば受信機雑音温度 TRXと呼ぶ。
 RX: receiverの略語
 TX: transmitterの略語
システム雑音温度の測定
 システム雑音温度(大気込みの受信機雑音温度)の測定
 大気圏外に出て2温度のblack bodyを見せることができ
れば通常の(実験室における)雑音温度測定と同様に測
定できる(が、不可能)。
→ある仮定(absorberと大気の物理的温度が等しい)の
もとで測定。
 Taも大気の外で測定した場合のアンテナ温度(e-τの効果
を考慮して)。→「大気外」で定義した値であることを強調
するために、 Ta* と表示することも多い。
R-Sky法によるシステム雑音温度 Tsysの測定
 空(skyと呼ぶ:ただし天体がない方向)と、常温(room
temperature)の電波吸収体(Rと呼ぶ)を見たときの電波
望遠鏡の出力を測定する。
 測定1:Skyのときの出力は:
Wsky = kGB (TRX + Tatm (1– e-τ)) = kGB Tsys e-τ
 測定2:常温のLoad(電波吸収体)をみたときの出力は:
Wroom = kGB (TRX + Troom)
→ Wroom–WSky = kGBTroom e-τ(ただし Tatm = Troomを仮
定)従って、Tsys/Troom = Wsky/(Wroom-Wsky)
→ Tsys = Troom/(Y-1), Y = Wroom/Wsky
 Y factor; よくlogで表す。その場合の単位は [dB] デシベル
dB(デシベル)表現
 比を表す単位。特に電波では電力比を表す際に
用いる。
X [dB] = 10 log10 (P1/P2)
 0 dB → 1倍
 3 dB → 1.995倍(約2倍)
 10 dB → 10倍、20 dB→100倍、30 dB→1000
倍、。。。。
 -3 dB → 1/1.995倍(約0.5倍)
 -10 dB → 0.1倍、-20 dB→0.01倍、-30d
B→0.001倍、。。。。
 P2 = 1 mWとして、電力の絶対値の表現に使うケー
スもある。その場合の単位は [dBm]を使う。
 問: 5等級差は何dBか?
アンテナ温度
 望遠鏡を天体に向けているときのtotal power
W = kBG (Tsys + Ta)・e-τ
 Ta: 天体電波によるアンテナ温度(天体からの到来電波
の電力をNyquist定理から温度換算して表示している)
 Tsys, Taはそれぞれどのくらいのオーダーになるか?
 今日の課題参照
 Tsysはcm波帯では受信機雑音温度Tnと等しい(数K~
数10K)←大気の透過率~1
 ミリ波波では数10K~数100K、サブミリ波では1000K
を超えることもある←大気の透過率が<1、また、
Heterodyne受信機の量子限界も大きくなる
→ 一般に Ta<<Tsys
 Tsysのわずかな変動でもTaが覆い隠されてしまう。
天体からの信号だけを取り出す
 Determination of Ta* based on the ChopperWheel method
電波望遠鏡につなげられた「電力計」の出力
W = kBG ( Trx
+ Tatm(1-exp(-tau))
+ e-τ・Ta*)
Trx: receiver noise temperature
Tatm: physical temperature of atmosphere
Ta*: antenna temperature (added power) due
to observing astronomical source
Beam switching + Chopper wheel法
 天体を向いている状態(on-source)と天体からビームを外
した状態(off-source)を高速に切り替える。
 かつ、常温(room temperature)の電波吸収体(通称
「R」)を挿入できるようにする。
 測定1:on-sourceのときの、電波望遠鏡の出力は:
Won = kGB (Ta*・e-τ + TRX + Tatm (1– e-τ))
 測定2:off-sourceのときの出力は:
Woff = kGB (TRX + Tatm (1– e-τ))
 測定3:常温のLoad(電波吸収体)をみたときの出力は:
Wroom = kGB (TRX + Troom)
天体信号のアンテナ温度(大気吸収補正済み)
→ Ta* = {(Won–Woff)/(Wroom–Woff)}×Troom が得られる。
まとめ
 電波の観測技術(単一鏡)
 検出方法
 コヒーレント vs インコヒーレント
 「雑音」
 ナイキスト定理
 雑音温度/雑音等価電力という概念




受信機雑音温度
システム雑音温度
アンテナ雑音温度
チョッパー・ホイール法
放射の輸送と励起
熱力学平衡 Thermodynamic equilibrium
 radiation が、その周囲の媒質(放射が通過していく物質)
と、完全に熱平衡状態にある場合:Thermodynamic
equilibrium あるいは熱力学平衡と呼ぶ。
 この時、brightness distributionはPlank関数で表され
る。(i.e., 出てくる放射は黒体放射)
2h 3
B T   2
c
1
 h 
exp
 1
 kT 
 このとき、輻射強度は、平衡状態にある周囲の温度のみで
決まる(黒体放射)。
局所熱力学平衡(LTE)
 このような完全な平衡状態(Iν=Bν(T)という状態;放射と、放
射が通過する媒質とが、熱力学的に平衡状態にあると考え
ればよい。dI/dℓ=0)は、現実には、かなり限定された状況
でしか観察されない。
 しかし、局所的にTEであるとみなせるとき、local
thermodynamic equilibrium (LTE; 局所熱力学平衡)
にあるという。この状態では、放射と吸収はKirchhoff則:
εν/κν=Bν(T)で関係付けられている。すなわち、
 LTEとは:
「Iν≠Bν(T)であるが、Kirchhoff則が成り立っている状態」と
定義される。
 放射が、「熱力学平衡とみなせる媒質」を通過する状況を考えれば
よい。dI/dℓ≠0。
放射の”強さ”を表す基本量
 強度 intensity (specific intensity) または 輝度
brightness
 ある方向の単位立体角内から、単位時間あたりに単位面
積へ入射する、単位周波数幅あたりの電磁波のエネル
ギー。単位 [W m-2 Hz-1 sr-1]
 フラックス密度 flux density
 単位時間あたりに単位面積を通って入射する、単位周波
数幅あたりの電磁波のエネルギー。
 単位 [W m-2 Hz-1] or [Jy] = 10-26 W m-2 Hz-1
 パワーフラックス密度 [W m-2]
 光度 luminosity [W]
復習その0;輻射輸送 radiative transfer
 輻射 I   が、ある微小長さ d なる体積要素
を通過して I   d  になるとする。
I (0)
d
微小要素
  0
  0
  0
星間媒質   0
0
 0


(問:完全熱平衡なら?)
I ()

 B T 

LTEなら
dI
  I  
d
  I  B T 
 0 光学的厚みを導入 d   d


dI
0 d  I  B T 

問:この解は?I    I  0   I 0  e
 0 

  0 
 '




B
T

'

e
d '
 
0
復習その1:体積放射率と吸収係数
 微小体積要素の中での放射の「湧き出し」と「減衰」を記
述する
ε [W m-3 Hz-1 sr-1]
absorption coefficient κ [1/m]
 volume emissivity

 これらは、マクロな(巨視的な)物理量。
 放射や吸収を実際に?担っているのは、ミクロな(微視
的な)原子・分子の性質。
 すなわち、Einstein’s A係数 and/or B係数、および、各エネ
ルギー準位にある粒子の数(数密度)。
h
 
   nu Aul
4
h
 
  n Bu  nu Bu 
4
gu 
c2
 h  

  n Au 1  exp  
2
8
g 
 kT  
復習その2:吸収係数と光学的厚み
 マクロな物理量⇔実際の観測量
 吸収係数は、実際には視線方向の積分量とし
て観測にかかる。
z
     dz
0
 
z
c 2  
0
8 2
 
z
c 2  
0
8 2
gu
nl Aul
gl
 nu gl
1 
 nl gu

 dz

gu
nl Aul
gl

 h  
1  exp   kT   dz



復習その3:源泉関数と励起温度(Tex)
 源泉関数(source function)
=体積放射率と吸収係数の比
1
1
nu gu
 h  
 2h  gu nl 
 h 
2h 

exp
 
 2 
 1  2 exp 
 
  1 ← n
gl

c  gl nu 
c 
 kT 
l
 kTex  
3
3
 ある物質(体積要素)が、どのくらい放射を吸収した
り放射したりするか、を示す重要な物理量。
 上の準位にある粒子数と下の準位にある粒子数(
およびそれらの準位の統計的重み)で決まる。
  準位間の粒子数はボルツマン分布で(実際にボ
ツルマン分布になっているかどうかはともかく、無理
矢理)記述できる。「励起温度」
放射輸送方程式の解とその意味
 ある空間を占める星間雲の放射を考える。
 そこでの源泉関数と励起温度が場所によらず一定
とみなせるとき、放射輸送方程式の空間方向の積
分がただちに解けて以下のような式に。
I (observed)  I (background)  exp      1  exp   
背景から来た放射が
星間雲内で減衰を受ける
 星間雲がLTEとみなせるならΣν=Bν(T)
重要
星間雲内で付加
される放射
放射強度の温度(輝度温度)表現
 Rayleigh-Jeans近似が有効な波長・温度領
域では、放射強度を温度して表現することも多
問:具体的に近似が
い。
使える波長・温度は?
 熱的な放射を考察する際に特に有効。
-1
2hn 3 é æ hn ö ù
2kn 2
In = 2 êexp çç
÷÷ -1ú = 2 TB
c êë è kTB ø úû
c
hν/kT <<1なら
h
 h 
exp 
 1
kT
 kT 
 Iνのかわりに、次式のような関係でTbを使う。
c2
同じ輝度温度でも、周波数が
TB =
I
2 n
異なると、放射強度としては
2kn
2
ν の依存で異なることに注意。
RJ近似の有効範囲
h/k = 4.79927×10-11 [K/Hz]
Line
λ

[Hz]
h / k
[K]
Hα
0.656 μm
[CI]3P2-3P1
371 μm
CO(1-0)
2.6 mm
HI
21 cm
4.57×1014
8.09×1011
1.15×1011
1.42×109
2.2×104
問. 空欄を埋めよ。
サブミリ波~さらに短波長側では RJ近似ではなく
Plank関数に戻って計算すべき。
6.8×10-2
再結合線について
再結合線とその波長
1
nn
但し
1 1 
 RM  Z   2 2 
 n n 
2
eff
Zeff: 有効核電荷
n: 主量子数(遷移前)
n’: 主量子数(遷移後)
m

RM  R 1   m: electron mass, M: ionic mass
 M
2 2 me4
7
R 

1.097373

10
ch3
[1/m]:Rydberg constant
あるいは
e2
2(4 0 )a0
この2つは
 Ry ~ 13.60570
Ry
 R という関係。
hc
[eV]:Rydberg unit
電波領域で観測される再結合線とは
 主量子数nが大きく(電子の励起状態が高く)かつ、n’~n の
とき、λn’nは赤外~電波域に入る。
 HII regionでは、一部の電子は紫外域で放射を出してただ
ちに基底状態まで落ちるが、一部の電子は、たくさんのエネ
ルギー準位を、カスケード式に落ちながら、より長波長側(=
赤外~電波)で再結合線を出す。
 H原子の場合、n~100で電波領域にくる(cR~3.288×1015 Hz
になることを確かめよ)。
 n’=n+⊿n、かつn, n’ ≫1とすると、
1
nn
 2RM Z
2
eff
n
n3
←
2
 1 
d  2    3 dx
x
x 
再結合線の命名則
 ⊿n=1の場合がα、⊿n=2, 3, …. の場合をそれぞ
れβ、γ、…と呼ぶ。
 命名則:原子記号、イオン化の階数、主量子数(n’)、
遷移(⊿n)の順で情報を並べる
 例:ヘリウムイオンの、n=111→109の再結合線は、
HeII109β
問:これらは?
112
111
110β
110
HeII 109β
109
再結合線が観測されるためには
 電波再結合線が観測される物理状態とは?
 再結合線を放射するためには、「リュードベリ状態」
にある原子が多数存在している必要がある。これは、
地上の実験室ではありえない状態。
 リュードベリ原子:基底状態の電子配置から、一つ
の電子が、主量子数nの(極めて)大きい軌道に移っ
た状態の原子を、「高励起原子」あるいはリュードベ
リ状態にある原子(リュードベリ原子)と呼ぶ。物理
的になかなか興味深い状態。
リュードベリ原子の性質(1)
「原子の大きさ」~励起電子の、核子からの平均距離
∝ n2;基底状態の半径(Bohr radius)は
4 0
11
a0 
 5.291772 10 [m]
2
mee
2
 n番目の軌道半径は
h2
an  2 2 n 2
Z me
 もちろん、厳密には方位量子数lによっても半径は変
わってくるが、n=10でr/a0 ~ 102, n=100で
r/a0 ~ 104 程度。
→ 猛烈に「膨れ上がった」原子になっている。
リュードベリ原子の性質(2)
 小さい電離エネルギー
 何せ電子が明後日を飛んでいるので、非常に簡単に電
離してしまう。
 水素原子の式で電離エネルギーを概算すると、
 n=10の状態は0.136 eV
 n=100では、1.36 ミリeV
 室温における熱エネルギー ~kT ~30ミリeV程度
→ 実験室内にn~100のリュードベリ原子を生成し
ても、室内の熱で一瞬にして電離。
 実験室実験は極めて困難。
リュードベリ原子 その安住の地とは
GBT望遠鏡
1度
4分角
 地上にはない。
 天空にあった。
 HII領域(電離領域)
 電離源となる大質量星がある領
域。多量のガスとダストでしばしば可
視光では暗いことも。
 星形成を研究するよいツール
JHK3色カラー合成
例:W3(大質量星形成領域)