2009年度前期 火曜2限 企業と経営

キャリアで語る経営組織
第6章
部内をまとめる
ー集団のダイナミズムー
テキスト145~175ページ
プロローグ
新しい企画を考えたり,大きなプロジェクト
を行ったりするとなると,単に部下にそれぞれ
仕事を割り振るだけというわけにはいかない。
会議を何度も行い,メンバーの意見を聞き,議
論をくり返し,メンバー全員の知恵を結集しな
ければならない。しかし現実には,会議をして
も会議は踊るばかりで,なかなか有効なアイデ
アは出ず,時間ばかりが浪費される。…いった
いどうやったらメンバーの知恵を出し合い,よ
りよい結論に導くような意思決定ができるのだ
ろうか。
意思決定はどのように行われるのか
今度の休みにどこへ出かけるのか?
今日のランチに何を食べるのか?
どうしたらもっとも後悔が少ないのだろうか
意思決定の完全合理モデル(最適化原理)
• 意思決定の問題を認識する
• 意思決定の判断基準を特定する
• その判断基準を比較する
• 選択肢を列挙する
• それぞれの案を判断基準に照らして評点する
• 最適な選択肢を決める→意思決定を行う
図6-1 完全合理モデルによる
意思決定プロセス (テキスト148ページ)
① 意思決定の問題の認識
② 意思決定の判断基準の特定
③ 判断基準の比較
④ 選択肢のリスト・アップ
⑤ 判断基準によるランクづけ
(出所) Robbins[2005].
⑥ 最適な選択肢の選択
疑問6-1
(テキスト150ページ)
完璧な意思決定は本当にできるのか?
完全合理モデルによる意志決定は本当にできるのか
完全合理モデルの前提条件
① 問題がはっきりしていること
② 選択肢がすべて分かっていること
③ 選好がはっきりしていること
例)味と価格ではどちらが大事か
④ その選好が一定であること
例)デザインや味の善し悪しなどは一定ではない
⑤ 時間や費用の制約がないこと
⑥ 利益の最大化を目指していること
疑問6-2(テキスト152ページ)
実際のビジネスの場面では,
意思決定はどのようになされるのだろうか?
実際の場面での意志決定はどのようなものか
限定された合理性モデル(満足化原理)
満足する(希求水準に達する)まで探索を続ける
探索のプロセスで,希求水準や期待の報酬値の見直しが起こる
図6-2 限定された合理性
モデル (テキスト155ページ)
(出所) March and Simon[1958]をもと
に筆者作成。
集団の意思決定と個人の意思決定
みんなで議論することの良さ(3人いれば文殊の知恵)
• より多くの情報や知識が集まる
• より広い視野からの解決策が集まる
• 決定された解決策が受け入れられやすい
• 意思決定そのものが職場の融和・交流を促す
みんなで議論することの欠点
• 時間がかかる
• 妥協の産物になる→平凡な解決策になる
• 極端な価値観に偏る
• 責任が不明確になる
疑問6-3
(テキスト160ページ)
集団の意思決定は個人の意思決定と同じように
行うことができるのか
こんな経験はないですか
みんなで何かを決めるとき,だらだらと意見を交わした後
「そろそろ何か決めないと」と誰かが言い
「じゃあ,今出ているところでは,これが良さそうだ」と誰
かが言い
「いいんじゃない」
「結構議論もしたし,十分でしょ」と周りも言い
「じゃあこれにしよう」と決まる。
結局,最後の方で議論が出た意見にまとまり,最初は別
の意見もあったけど改めて考慮されずに決まってしまう。
集団の意思決定は個人の意思決定と同じか
意思決定のゴミ箱モデル
意思決定の要素
① 意思決定の問題:今度の飲み会どこへ行くか
② 解決策:居酒屋「たこ八」
③ (意思決定の)参加者:飲み会の参加者のうち4人
④ 選択の機会:当日の朝
4つの要素がゴミ箱に入
るゴミのようにどんどんと
投げ込まれる
意思決定のゴミ箱モデル
• ゴミ箱モデルにおける出来事の流れ
– ①問題:現在の活動やパフォーマンスへの不満
• なんかいつも同じ店に行くよね
– ②潜在的な解決策:誰かが採用を提案するアイデア
• 今度あの店に行かない?
– ③参加者
– ④選択の機会:意思決定を行う機会
• ゴミ箱モデルがもたらす結果
– 問題が存在しないのに解決策が提示される
– 選択が行われても問題は解決しない
– いくつかの問題は解決されるがいくつかは残ったまま
疑問6-4
(テキスト163ページ)
なぜ集団は時にひどい意思決定をしてしまうのか?
集団の意思決定の失敗① グループシンク
• グループシンクとは何か
– 船頭多くして船山に登る
– ときに優秀な人の集団がとんでもないばかげた意思決定をしてしまう
ことがある。
– 集団がグループシンクという症状に陥っている
• グループシンクの兆候
– 集団のメンバーが自分たちの予測や考えに反対する意見を最もらし
い理屈で説き伏せようとする
– 多数派が望む結論に向かうように,反対派あるいは懐疑派の人々に
圧力をかける
– 全員一致に見せかけるために反対はあるいは懐疑派の人々は異議
や疑いを発せず,自分の懸念を小さく見積る
– メンバーの沈黙が全員一致であると考える
グループシンクの症状
①問題評価の不完全さ
②情報収集の不十分さ
③情報処理過程における偏向
④考案される選択肢の少なさ
⑤選択肢の評価の不十分さ
⑥好ましい選択肢に対するリスクの検討不足
⑦最初に否定された選択肢の再評価がなされない
誤った意思決定
どのようなグループがグループシンクになりやすいか
• 集団の凝集性が高い集団
– 集団凝集性:集団のまとまりの良さ,仲の良さ
• リーダーの価値観に偏りのある集団
• 外部からの孤立
– 機密事項を扱う集団
– 外的情報や客観性がない
• 時間的プレッシャー
– 時間によるうわべだけのコンセンサス
• 秩序だった意思決定の手続きの規範のなさ
– 勢いで決まりやすい
集団の意思決定の失敗② グループ・シフト
集団の規範は,その集団の過程の中で創り上げられ
た支配的な意思決定規範を反映する
グループの意見は極端な意見になりやすい
リスキー・シフト
集団では責任が拡散される
気心が通じ合うにつれ大胆で向こう見ずになる
集団圧力
Aschのサクラの実験
Aschの実験
サクラ(わざと間違える)
回答順
真の被験者
実験結果
真の被験者50人のうち74%の人たちが少なくとも一回
は,ほかの7人に同調して間違った答えを言ってし
まった(12回中11回間違えた人が1人)
少し条件を変えて,一人でも被験者に同調するサクラ
を入れておくと,集団圧の誤答率が激減
疑問6-5
(テキスト172ページ)
どのようにして集団の意思決定のよさを
引き出せるだろうか?
グループの罠から逃れるためには ①
– 会社レベル
– 同じ意思決定課題を行う相互に関連のない集団を複数つ
くる
– 価値観に偏りのないリーダーの任命・トレーニング
– リーダーレベル
–
–
–
–
批判的な評価を行う人に意見を求める
批判的な評価がなされるように議論をリードする
外部の専門家に議論に参加してもらう
自分の意見が支配的にならないように注意する
グループの罠から逃れるためには ②
– メンバーレベル
– 集団の目的を意識する
– 他者の意見に偏見を持たずに評価する
– プロセスレベル
– 議論するための複数の集団内集団をつくる
– 他組織が同じ状況でどのような意思決定をしているか学
– 途中で捨てられた解決策を再度考える時間を設ける
次回の問い
なぜ同じ目的をもった組織内で
もめ事は起こるのだろうか?