エネルギーバランスモデル(EBM)

惑星宇宙グループ
山田 圭祐
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系外惑星研究の大目標
 地球外生命の発見.
 生命の誕生には海洋の存在が必要と考えられる.
 第二の地球の発見.
 安定して液体の水が存在できる環境が必要(全球平
均表面温度の季節変化の振幅が 0℃ - 100℃ 以内).
 系外地球型惑星の表層環境を知る.
 大気や海洋の存在を検出.
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系外地球型惑星の観測の進展
 現在は, 恒星のゆれやトランジットを観測する事
で軌道, 質量, 密度が得られ始めている.
 しかし大気や海洋の存在は検出できていない.
 今後は, 惑星の光(惑星放射)を直接観測すること
が可能となると期待されている.
→ 表層環境(大気や海洋の存在)について
情報が得られる可能性がある.
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目的
 系外地球型惑星の惑星放射の季節変化を
理論的に再現したい.
 様々な表層環境に対する惑星放射の季節変化
の特性を知る必要がある.
 今回は, 惑星放射の季節変化を再現できる
と期待されるモデルの概要と定式化を
Gaidos and Williams, 2004 を参考にして理解
する.
4
南北1次元
エネルギーバランスモデル
 恒星放射を与えると惑星の表面温度と惑星放
射が求まるモデル.
 ただし, 自転軸に対して軸対称と仮定.
 大気の運動による南北方向の熱輸送を仮定.
 エネルギーの収支のみ考える.
 運動については解かない.
→ 自転軸傾斜と離心率が恒星放射に及ぼす効果
を考慮でき, 惑星放射の季節変化を予測できる.
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自転軸
惑星放射
による冷却
T(θ_2)
T(θ_1)
大気と海洋
による熱輸送
恒星放射
による加熱
赤道
θ : 緯度
T : 表面温度
南北 1 次元エネルギー
バランスモデルの模式図
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南北1次元
エネルギーバランスモデル
日射による加熱
惑星表面での吸収
T : 表面温度
t : 時間
θ : 緯度
S : 恒星放射フラックス
大気と海洋の熱輸送による
加熱
惑星放射による冷却
A : 惑星アルベド(反射率)
I : 惑星放射フラックス
C : 単位面積あたりの熱容量
D : 南北方向の熱輸送効率
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恒星放射フラックス(S)
 大気上端に入射する単位面積, 単位時間あたりの
放射エネルギーの日平均.
 日平均 → 自転軸に対して軸対称と仮定.
軌道の形
q_0 : 太陽定数
e : 離心率
f : 真近点離角
昼の長さ, 日の高さ
※赤道傾斜の効果も
H : 昼の長さ(時角)
θ : 緯度
δ : 赤緯
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赤道傾斜 23.4°
太陽定数
離心率が大きいと恒星放射の
季節変化量が大きくなる.
e=0.0
90
緯
度
0
0
-90
1
90
緯
度
e=0.2
12
-90
1
90
0
-90
e=0.1
90
e=0.3
12
0
1
時間 (month)
12
-90
1
時間 (month)
12
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惑星アルベド(A)
 地表や大気による恒星放射の反射率.
 大気が厚く, 雲が多いほどアルベドは大きい.
 しばしば観測による地球の全球の時間平均値が採用される.
 大気組成が現在の地球と違う場合, ほとんどのモデルでは大気
分子によるレイリー散乱のみが考慮されている.
地球の大気組成では H2O と CO2 の影響がほとんど.
恒星放射の入射
反射
宇宙空間
大気上端
惑星大気
透過
金星 : 0.78
地球 : 0.30
火星 : 0.16
全球の時間平均
のアルベドの値
(小倉 義光, 1999)
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惑星放射フラックス(I)
 大気上端から宇宙空間に放出される単位面積,
単位時間あたりの放射エネルギー.
 大気中に
と
が存在すると仮定.


の効果は温度とともに増す.
の効果は分圧とともに増す.
 地球の全球平均気温(288K)付近
での 1 次近似.
: 60%
: 30%
その他 : 10%
現在の地球大気に
おける温室効果への
寄与の割合
の濃度が異なると値が変わる.
その値は放射対流平衡モデルを解いて決める.
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大気があると温室効果により惑星放射が弱くなる.
惑
星
放
射
フ
ラ
ッ
ク
ス
黒体放射
と
(330 ppm)の
大気がある場合
表面温度
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単位面積あたりの熱容量(C)
 惑星表面における熱を蓄える能力の指標.
 地表
 大気
 海洋
κ_z
ρ_s
c_ps
ω
: 地表の熱伝導率
: 地表の密度
: 地表の定圧比熱
: 自転角速度
c_pa : 大気の定圧比熱
: 地表面上での重力加速度
g
p_s : 地表面上での大気圧
ρ_w : 水の密度
c_pw : 水の定圧比熱
Δl_m : 表層混合層の厚さ
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地球の地表面気圧(1000hPa)では海洋の熱容量が大きい.
海洋 (表層混合層の厚さを50 m)
熱
容
量
(
大気 (地球の大気組成の場合)
)
地表 (玄武岩, 地球の自転角速度)
大気圧
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南北方向の熱輸送効率(D)
 大気の運動により熱が南北方向に輸送されると仮定.
 定式化は困難なため,現在の地球の気温分布を再現
する値を採用.
 緯度方向の温度勾配を再現する値
→ D=0.58
(Williams ans Kasting, 1997 で採用)
 全球平均温度を再現する値
→ D=0.38
(Gaidos and Williams, 2004 で採用)
 海が無い場合は大気の傾圧不安定による熱輸送を
仮定.
: 無次元パラメータ
β
D_0 : 熱輸送係数
p_s : 地表面上での大気圧
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まとめ
 今回のまとめ
 惑星放射の季節変化を再現可能なモデルの定式化につい
て学んだ.
 恒星放射 (S)
 惑星放射 (I)
 アルベド (A)
 熱容量 (C)
 熱輸送効率 (D)
→
→
→
→
→
赤道傾斜や離心率を考慮.
H2O と CO2 の大気を仮定.
H2O と CO2 の大気を仮定.
現在の地球と表層の組成が同じと仮定.
現在の地球の気温分布を再現する値.
 今後の目標
 まず, このモデルを使って惑星放射の季節変化を計算する
(Gaidos and Williams, 2004 の再現).
 さらに, 恒星放射以外のパラメータが緯度により変化する
場合の惑星放射も計算する.
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参考文献
 Gaidos, E., Williams, D.M., 2004: Seasonality on terrestrial
extrasolar planets. New Astronomy 10, 67--77.
 Williams, D.M., Kasting, J.F., 1997: Habitable Planets with
High Obliquities. ICARUS 129, 263–266.
 小倉 義光, 1999: 一般気象学[第2版]. 東京大学出版会,
308頁.
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観測される惑星放射の季節変化
(黒体惑星の場合)
遠
遠
近
離心率増加
(
惑
星
放
射
の
強
さ
明
る
さ
近
)
一年
 観測点から近い位置だと暗い (夜の部分が主).
 観測点から遠い位置だと明るい (昼の部分が主).
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付録
θ : 緯度
δ : 赤緯
Z : 天頂角
h : 時角
天球における
角度の関係
※球の中心が惑星の位置
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惑星放射フラックス(I)
は大気中の
の分圧,
は基準面である 300 ppm の濃度の
の分圧
(今回は p の値は300ppmのときの分圧)
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熱容量(C)
22
熱輸送効率(D)
海洋が無い場合
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