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第7回 「英語の教え方教室」
勉強会
大阪女学院大学・大阪女学院短期大学
教員養成センター
グルー・バンクロフト基金
米国大学視察ツアー報告
大阪府立清水谷高等学校
教諭 冨永 重夫
朝日新聞朝刊
2010年10月10日
期間:2010年11月29日~12月5日
視察先:Harvard University (MA), Williams College (MA),
Amherst College (MA), Smith College (MA),
Yale University (CT), Wesleyan University (CT)
視察内容:アドミッションオフィスのスタッフによる入試・入学・教育
方針についての説明及び質疑応答、キャンパス内ツアー
(学生寮・食堂・図書館等の学校施設の見学)授業参観、
日本人留学生との懇談
Amherst
アドミッション・オフィス前で記念写真
メモリアル・ホール内のサンダース・シアター
サンデル教授の白熱授業が行なわれる
藤平新樹教授 比較政治学の授業
”The Meiji Restoration"
於.Lowell Lecture Hall
Williams
1年生の日本語のクラス
Williams
学生センターの食堂
Williams
学生センター内に貼られたポスター
Williams
学生の個室の中の様子
Williams
サイエンスセンターのパソコンルーム
Amherst 「聖書と文学」の授業
聖書に関連する詩を学生が暗誦し解説する
Smith
工学の授業の紹介
Smith なぜ女性が工学離れをしているか?
⇒そのことに対する大学の取り組み
Smith 留学生との交流
3名は日本のインターナショナル・スクール出身の1年生
黒のセーターの学生は同志社大学院からの留学生
Yale
道路側から見た学生寮
Yale
バイネック稀書図書館の蔵書
Yale バイネック稀書図書館の司書をされている齋藤教授の奥様
Wesleyan
オリン記念図書館の様子
Wesleyan
トレーニング・ジム
Wesleyan 左から
山川さん・1年 ICU⇒グルー奨学生
堤さん・1年 雙葉学園出
武田君・1年 北海道北嶺高⇒フリーマン奨学生
浜辺君・3年 名古屋市立高出
李さん・3年 大阪府立高出⇒フリーマン奨学生
ハーバード大学の授業見学
最新の技術を教室内にまで導入
•重厚な雰囲気のある教室で、前面に広いスペースがあり、それを
コの字型に座席配置
•先生はその広いスペースの奥に立ち最奥の壁のスクリーンに講義
内容を映し出し、一部の学生はパソコンに先生が話す内容をひた
すら入力する
•教室内の無線LANにより、講義内容がパソコンに表示されてい
る
•大学院生による授業がある
ハーバード大学
アドミッションオフィス
アドミッション・ポリシー
•求める入学生のタイプは高校時代までクラスでいい成績をとるだけ
ではなく、他の生徒の理解を手助けして、クラス全体のレベルアッ
プに貢献のできる生徒
•高い学力プラス優れた人間性を備えた学生を求め、その人たちに高
いレベルの教育を施し、大きな社会貢献のできる人物を世に送り出
すという大学としての強い使命観
ハーバード大学の授業料
膨大な額の奨学金
•年間300万円以上で、寮費を含めると500万円程度
•裕福な家庭の子弟しか行けないのでは?
•奨学金の総額が年間1億5800万ドル(約134億3000万
円)
•必要とする学生に国籍は問わずに支給するという機会均等の方針
ハーバード大学のアドミッション
•合格発表
志願者の自己推薦書および高校の先生の推薦書を3か月の審査後に
•学意思の強い学生を求めている
その後1か月入学するか否かの検討期間を与える…ハーバードに入
•の高い能力が求められている
日本人学生が入学する際には英語力はすでに授業を理解できるだけ
•入学後にESLの授業で英語理解のフォローすることはない
•るのではないか
対談した日本人留学生…帰国子女か長期留学経験者だけが入学でき
•冊の本を読まなくてはならない…4年間続ければ、その成果は甚大
授業のための自主学習に1日5~6時間以上かけ、更に週に6~7
•びたいことを前提に考えなさいとの教授の指導
自分の専攻を決める際に就職を前提に考えるのではなく、自分の学
ウィリアムズカレッジ大学の授業
小規模のリベラルアーツカレッジ
•教授1人当たりの学生数は10人以下で1クラス当たりの平均学
生数も10人強
•中身の濃い授業
•学生の課外でのコンサートや様々な活動にも教授が積極的に参加
している
•相互の絆・理解が強い…授業にもより一層の高い学習効果を上げ
られる要因
•授業はすべて教授による授業
•質の高い内容でかつ少人数授業によって対教授や学生同士で自由
に意見を交換しあえる
•学生の学生生活への満足度が非常に高い
ウィリアムズカレッジ大学の授業
日本人教授の話
•前期と後期の間に約1カ月ウインター・タームという期間
•普段の学期中にできないことを学ぶ機会を与えている
•自動車整備のコースでは約一カ月実際に自動車整備工場に通って、
自動車のメカニズムや修理方法を学ぶ
•数学を用いての折り紙の織り方を新しく考案
•源氏物語を期間中に読破
•病院での実習
•実践的なことや趣味を生かすことなどを目的とした様々なプログ
ラム
ウィリアムズカレッジ大学
•小規模大学であるが故に小回りが利き、フレキシブルな発想と学生
の興味・関心重視というウィリアムズのきめ細やかな教育方針
スミス女子大学の授業
エンジニアリング教育に力
•女子大であるが故の小規模クラスによる実験と講義
•教授と共同の研究・論文作成、また教授の学会への学生の同行とい
ったことによる学生と教授との深いつながり
•環境問題への取り組みも積極的…太陽エネルギーの一般家庭での利
用研究や4年次においては企業との共同研究への取り組みも行って
いる
学生が4年間幅広い学習や研究に集中し専念できるのは共学大学に
はない女子大の利点を最大限生かした意欲的な教育を実践している
学内での積極的な取り組みだけでなく海外研究も積極的に奨励して
いる
海外の大学で学ぶ場合の追加学費が不要なことや学会に行く費用や
研究費用も大学から支払われる…学生は費用のことを心配せずに学
問・研究に集中できる
•
•
•
スミス女子大学
•アメリカ全体では大学生の女子が占める割合は6割でその半数が
大学院に進む
•スミス女子大の卒業生の約75%が5年以内に大学院に進む
•大学卒業後すぐに進む場合と企業や官公庁で実務経験後に進む場
合
•実務経験後に学問習得の必要性を感じて、強い学習意欲を持って
入学することで大学院の活性化の大きな要因になっている
スミス女子大学
地元の中高生対象にファイナンシャル・エデュケイション・プログラム
•investing, business, financeについての授業を行っている
•大学の専門知識を中高生に授け、身近なことに興味を持たせて社会
経済への理解や将来の進路選択に大いに役立っている
•学生が中高生を指導することで学生にとっては日頃の学習成果を実
践する絶好の機会
•中高生にとっても年齢の離れた教授に教わるのではなく学生から教
わることで親近感を持ち、自由に意見を述べたり質問できたりする
•将来の大学入学の際の進路選択や具体的な職業観を持つことに大い
に役立つ
スミス女子大学
経済学部の教育活動
•学生の経済学実践の機会として大学の資金を使って10万ドルを株
式に投資・運用する
•起業のため500~3000ドルを提供し会社を立ち上げ運営する
機会を与えている
•机上の理論中心の学習にとどまらず、学んだことを実際に活用して
創意工夫をしながら、問題解決や実践適応能力を育成できる
•卒業後の進路選択だけでなく実社会での経験の準備期間としての意
義が大いにある
エール大学の授業
いくつかのカレッジかある
•学部での勉学も寮生活も各カレッジ単位で行われ、カレッジ内で
は上級生が新入生の学習面や生活面での支援をする
•学ぶだけでなく上級生や同級生との人間関係を築いていく上で精
神面での成長が期待できる
•20%のクラスが1クラスにつき100人以上だがそれ以外のクラス
は20人以下
•教員と学生の比率も6対1
•大規模大学でありながら、うまくバランスを取って少人数教育を
実施している
•イングランドの伝統的で荘厳な大学の雰囲気があり、ハーバード
大学と共に歴史の重みが強く感じられる
ウエスリアン大学の授業
建物が近代的、広大で緑豊かなキャンパス
少人数のリベラルアーツの大学
•学生同士や教授とのつながりが強く、日本人留学生にとって大きな
問題となる授業での英語の理解のためのサポート体制がしっかりし
ている
授業後に不明な点についてネイティブの学生に尋ねたりや教授の空
いている時間に比較的自由に質問できる
上級生から英語理解のためにライティング、グラマー、ロジック等
において指導してもらえる
独自の英語理解のサポート体制のおかげで海外生活や留学経験がな
い高校生でも高校在学中にTOEFLや実践的な英語の学習をしっかり
しておけば入学することも可能
入学後もこのサポート体制によって英語の理解力・運用能力を高め
ていくことができる
対面した5人の留学生中2名は名古屋と大阪の公立高校出身の学生
•
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ウエスリアン大学の特徴
•一軒家からなる寮で、一軒ごとに学生が学びたいテーマ(外国や音
楽などについて)が決められていて、そのことに共通の関心を持っ
た学生が集まる
•授業・自主学習以外の私生活の場にも興味深いことを学ぶ機会を与
えている
•体育館・アイスアリーナ・屋内プール・屋内トラック・アスレチッ
クジム等のスポーツ施設も完備されている
•大学内で授業・自主学習以外の時間も充実した時を過ごすことがで
き心身ともに健全な成長を望むことができる
•大学施設を近隣の生徒のために開放する地域に対して開かれた大学
まとめとして
入試制度
出願時に志望する学部・学科を決定する必要はなく、入学後2年間は様々な文系・理系
両面にわたるリベラルアーツの科目を学んだ後に3年次より専攻科目中心に学ぶ。その際
には2つの専攻を取って2つの学位を習得するダブル・メジャーの制度もある。
出願時の提出書類:本人筆記の志望理由書、高校の担任、スクールカウンセラー、学校長による推
薦書(それぞれ1500字程度で、推薦書の内容はかなり重視される。それによって志願
者の高校までの課外活動歴・地域社会への貢献度・大学での学習意欲・集団生活での適応
性を検討・審査し、各々の大学が求めている人物かどうかを判断する。また、少人数クラ
ス中心の授業のため、発言力や積極性に富んだ学生を強く求めている)。Harvardは成績優
秀であるだけでなく、クラスで理解度の低い生徒の手助けをし、クラス全体のレベルアッ
プに貢献してきたリーダーシップを備えた学生を採用する方針がある。これらの大学は卒
業後に社会のリーダーになるべき人物の育成を目的としている。
また合否判定はアドミッションセンターの専任スタッフが行い、教授は関与しない。学科
試験は課さない。ただしGMAT, SAT等の試験による成績の基準点あり。入学許可に関して
は留学生枠がない、つまり米国民も留学生も同じ基準で選考され、さらには家庭の経済状
況の良し悪しは選考基準には含まれない。
留学生にはTOEFLの基準点あり、IBTで100以上、CBTで250以上を求めている大学が多
い。(大学の授業を理解できる英語運用能力が求められている、ESLの授業によるフォロー
をする大学としない大学がある)。アドミッションオフィスのスタッフが留学生に入学前
に求めることは日頃から読書量を多くすることと英字新聞を読むことである。
奨学金
米国での奨学金は日本とは大きく異なり、支給が原則となってい
る。授業料が300~340万円程度で、寮費が100万円前後
(共に年間)。家庭の経済状況によって支給額は異なるが、5割か
ら7割程度の学生が様々な形で資金援助を受けている。支給額の判
断基準は成績優秀者であるかどうか、米国民かどうかということで
はなく、家庭の経済状況を基にしている。貧困国からの入学生には
アメリカまでの航空運賃まで支払われる。
奨学金の財源は卒業生を中心とする個人や地元企業を中心とする法
人からの寄付、およびファンドマネイジメントによる利益である。
ちなみにHarvard(学生数6,655)、Amherst(学生数1,744)の基
本財産は26億ドルおよび14億ドルといった膨大なものである。
クラス構成
学生対教授の比率:6対1~9対1
20人以下のクラスの割合:67%~80%、50人以上のク
ラスの割合:3%~8%となっていて、高校より密度の高い少
人数教育がおこなわれている。
講義以外の授業についてはHarvardやYaleの総合大学では大
学院生や上級生が行っていて、少人数教育のための効率的な
授業運営が行われている。一方、少人数教育のリベラルアー
ツ系の大学では授業はすべて教授による。
カリキュラム特徴1
教養課程での選択科目数は週に4科目程度で、1科目につき
講義・ディスカッション・グループワーク・プレゼンテーショ
ンのためのそれぞれの時間が設けられている。一つの科目につ
き毎週5・6冊程度の本を読んだりライティングの課題をこな
してから、授業に臨むことが求められているために1日の自主
学習の時間は6~8時間必要で、時には徹夜での学習もせざる
をえないとのことである。
単位取得に向けてアドバイザー制度が確立していて、教員や
大学院生との密接な連絡により学生のおかれている状況を的確
に把握され、必要に応じた適切なアドバイスを受けることがで
きる。
カリキュラム特徴2
夏休み中の学生の研究活動の資金援助としてはHarvardの考古学専攻の日本人留
学生は2か月間ペルーでの発掘調査に参加するための費用として大学から約
6,000$支給されたり、Williamsでは日本での日本語研究のため、旅費や滞在費が
支給される。
またWilliamsでは秋学期と春学期の合間になる1月をwinter termとして、学生の興
味・関心や実践的なことに基づいたカリキュラムを備え、その中には自動車整
備・源氏物語の読破・数学応用による折り紙研究・病院実習などの講座がある。
Amherstでは近隣のリベラルアーツ系の大学間でコンソーシアムを結成し多彩な
カリキュラムを用意している。またSmith女子大(アメリカの名門女子大のグルー
プと言われる“7 sisters”のうちの一女子大学)とも提携し、男子学生も受講できる。
Williamsでは教授の授業内容や学生への応対の仕方に対しての学生の評価が重視
され、毎年の評価で教授に改善点ありと大学が判断し、5年間経っても改善されな
い場合は解雇される。また、高い評価を受ける教授は表彰され、学外にも紹介さ
れて大きな名誉となる。
ニューイングランド地域の6大学を視察して
強く感じたこと
•どの大学も授業および学習の場であるだけでなく、創造性・協調
性・リーダーシップ等を学生が身につけるため大学側が様々なプログ
ラムや支援体制を用意している
•学生はこの素晴らく恵まれた教育環境のもとで自己の才能を伸ばし、
興味・関心の範囲を広げ、また問題解決能力を養成していくことがで
きる
•日本からの留学の輪をもっと広めていくためには上記のように、英
語理解および奨学金の支援体制が確立した大学に、強いリーダーシッ
プと多様なことに興味・関心を抱き、英語の高い運用能力を高校時代
に身につけた上にアメリカでの学習に意欲的な高校生を育成する制度
作りが今後は不可欠
•日本の大学はもっと学生にとって魅力ある教育内容を備えて少人数
教育による質の高い教育をすること
•学生に否が応でも勉強しなければならないという状況を作り、高度な
知識や・判断力・問題解決能力を身につけて卒業させることを目標とす
べき
•一部の大学だけがレベルアップしても日本の大学全体の底上げにはな
らないので、文部科学省の先導による大学への改善指導がぜひとも必要
•大学が企業側にとって魅力ある学生を十分に輩出できていないことも
日本の学生の就職難の一因になっているのではないであろうか
•日本の独創的で確固たる国際的立場を築くためにはまずは日本の大学
が優れた教育実践能力を身につけて、世界に通用する人材育成ができる
ようにならなければならない
•米国の大学が求めるのはリーダーシップおよび発言力があって積極性
に富む生徒の入学で、日本の高校生には、日頃の学習においては豊富な
読書量と英字新聞を読むことも求められる
日本の大学教育の改善点
日本の大学は学力偏重の現行の入試制度を改めて、生徒の学習意欲・資
質・積極性・協調性等を考慮に入れたアメリカの大学型の選考をすべき
である。そうなれば高校生活でも受験勉強一辺倒ということにならず、
積極的、活発に広範囲な活動ができるはずである。
学部の決定もアメリカと同様、2年間の大学生活を経た後に決定する
ようにすべきである。そうすれば高校において早い時期に生徒の意思が
確定しないまま、文系か理系の選択を強要する必要もなくなる。また、
大学出願の際にも学部・学科の決定に生徒は悩む必要もなくなる。
日本では学生は学業以外に娯楽やアルバイトに耽る余裕があるが、そ
ういったことができない位に課題を与え、学習を強いることも必要では
ないだろうか。また社会に出て即戦力となる人材を作るため、人間教育
も行う必要がある。企業は外国人学生の採用に積極的になりつつあるた
めに彼らに負けない人材育成を真剣に考えるべきである。