1 初期地球の気候変動と生命進化 北海道大学 理学部 地球科学科 4年 渡辺 健介 2 目次 研究目的 太古代の地球環境 古気候について豊富な情報を持つもっとも古い地質体 南アフリカ・バーバートン(32億年前) 温度推定:地球化学的制約・堆積学的制約 当時の地球は温暖 暗い太陽のパラドックス 太陽光度の進化 温室効果ガスとアルベドの寄与 二酸化炭素に加えメタンの温室効果とアルベドが重要 酸素の出現と蓄積 酸素濃度の進化 全球凍結と生命のかかわり 3 地球の歴史 Hessler 2011 4 研究目的 将来的な目標 ハビタブルな惑星環境が形成されるための条件 • 模索中 今回の目的(本発表) Hessler, A. M. (2011) Earth’s Earliest Climate. Nature Education Knowledge 3(5):6 のレビュー • 地層中に残された過去の主な気候変動の理解 • 気候変動と生命の関係の理解 5 気候と生命の最も古い地質が記録されている場所 Hessler 2011 6 太古代の地球環境 南アフリカ・バーバートン 古気候について豊富な情報を持つもっとも古い地質体 気温,大気組成を記録 グリーンストーンテレーン 年代測定(U-Pb法)より32億年前に形成 緑色岩やチャート,砂岩,頁岩などの層構造 あああああああ ああああああ Hessler 2011 7 当時の温度推定 堆積学的制約 液体の水の証拠 • 氷河による堆積物または浸食作用の証拠がな い • 液体の水によって運ばれ た堆積物などの存在 南アフリカ・バーバートンの緑岩体に 残された地表プロセス(右図) (A)浅海堆積物由来の薄い砂岩と頁岩の積層 (B)砂岩中に残されている波紋 (C)浅海堆積物由来の斜層理 (D)河川によって運ばれ丸くなった礫岩 (ボーリングのコア) Hessler 2011 8 当時の温度推定 地球化学的制約 チャート(SiO2) 形成過程 • 海水や熱水からの直接的な堆積 • シリカに富む海洋生物の殻が沈降し堆積 酸素同位体測定 (Kasting et al. 2006 , Jaffres et al. 2007 , Kurauth & Lowe 2003) • 当時のチャートは18Oに強く乏しい • (Clayton et al.1972) • 海洋温度は~70℃である.(現代海洋と始生代海洋の酸素同位体は同じと仮定) シリカの溶脱反応 (Sleep & Hessler 2006) • 70℃以上で溶脱反応が起きるが,その痕跡は見つかっていない • 温度は~70℃であった. リン酸塩の酸素同位体比 (Blake et al.2010) 海洋温度は26~35℃ 始生代と現在の海洋の同位体値は変化していない 9 暗い太陽のパラドックス 1.0 疑問 液体の水が存在し ていたのはなぜか? 25 太陽放射 0.9 0 地表温度 (大気組成とアルベドが 現在と同じ場合) 0.8 温室効果 温室効果 有効温度 -25 温度 (℃) 太陽放射 (現在を1とする) 当時の太陽は現在よりも光度が低い(約70%) (温室効果がない場 合) 0.7 40 -50 0 30 20 10 田近,2011 年代 (億年前) フロンティアセミナー 解消案 以下の寄与を考え る •温室効果ガスの寄与 •アルベドの寄与 10 温室効果ガスの寄与 Kasting 1993 のモデル計算 二酸化炭素(CO2)のみで考えると100~1000PAL必要 • PAL : Present Atmospheric Level (現在の大気の組成を1とする) 地質学的制約 堆積岩中の鉱物の共存関係をもとに二酸化炭素分圧を推定 高いCO2濃度は左側へ反応を進ませる. • • • (FeCO3 : 菱鉄鉱,NaHCO3 : ナーコライト,FeOFe2O3 : 磁鉄鉱) 11 CO2濃度の地質学的制約 菱鉄鉱と磁鉄鉱が共存 10PAL未満の可能性 CO2以外の温暖化の機構が必要 Rosing et al. 2010 12 CO2以外の温室効果ガスの寄与 メタン 二酸化炭素よりも温室効果が高い 貧酸素地球環境下ではCH4の生産が活発 (Kharecha et al. 2005) メタン生成菌の繁栄 メタン酸化菌によるO2やSO4を用いたCH4の除去が不活発 CH4/CO2>0.1の条件下で炭化水素ヘイズの生成 炭化水素ヘイズ (Trainer et al. 2006) • 大気上層で太陽光を吸収する特徴 • 反温室効果 高濃度ではないCO2-CH4の温室効果が存在していた可能性 (Haqq-Misra et al.2008) 13 アルベドの寄与 Rosing et al. 2010 (現在よりも)陸域が小さいため,アルベドが小さかった 35~32億年前の地塊はピルバラとバーバートンにしか存在していない. (現在よりも)雲が透明で,アルベドが小さかった 雲は太陽光を宇宙空間に反射する役割がある • 今日の雲は生物起源の雲凝結核(CCN)に起因(全体の50%) 雲は今日程の反射率は無い • 真核生物の進化以前は役立つ生物起源の硫黄ガスが無い CO2とCH4などの温室効果ガス,そしてアルベドの寄与を 総合的に考える必要がある. 14 酸素の出現と蓄積 27億年前の堆積物– 西オーストラリア・ピルバラ 頁岩中の鉱物が“弱く”酸化 酸素発生型光合成生物の進化 (Anbar et al. 2007) 酸素濃度の進化 24億年前~22.5億年前の大酸化イベント 地質学的証拠 24億5千万年前以降の破屑性ウラン鉱床は知られていない ウラン:富酸素条件下で水溶性,貧酸素条件下で不溶性 地球化学的証拠 硫黄の質量非依存同位体分別(MIF-S)の異常 MIF-Sの異常を持つ硫黄が保存される制約 • オゾン層による赤外線遮断が起きていない • 光化学反応の生成物であるS6が大気中で酸化されてSO2に戻らない 0≦O2≦0.001[PAL]では,MIF-Sの異常が起きる 15 大酸化イベント 地球化学的証拠 硫黄の質量非依存同位体分別(MIF-S)の異常 Δ33S (‰) 4 Stage I StageII Stage III 3 2 1 0 -1 -2 40 30 20 10 年代 (億年前) 0 Farquhar et al., 2000, 2003 [Kump (2008) Nature] 16 全球凍結と生命のかかわり ヒューロニアン氷河期(25~23億年前) (Marmo & Ojakangas 1984, Evans et al. 1997) はじめて全球凍結を経験 古地磁気学による“古緯度”の推定 • 赤道付近にも氷河堆積物が存在 • 全球規模の氷期であった可能性 トリガー 酸素の出現 温室効果ガス(特にメタン)の減少 • メタンの酸化 (Kopp et al. 2005 ) 古緯度 11°± 5° 氷河堆積物の分布 田近,2011 フロンティアセミナー 17 全球凍結と生命のかかわり 原生代後期の氷河作用 (7億年前~6.5億年前) 全球凍結の証拠 全球的に氷河堆積物が残っている トリガー ロディニア大陸(10~7億年前に出現)の 分裂によるCO2の固定,O2濃度上昇 全球凍結の融解 火山ガス(CO2)の供給による温室効果 株式会社スタジオエル/スタジオアール http://www.snowballearth.org Kasting, 1993 18 全球凍結と生命のかかわり 原生代後期の氷河作用 (a) 田近,2011 フロンティアセミナー 全球凍結中 (b)全球融解直後 栄養塩の蓄積(~数千万年間) 全球凍結の融解後 大気や深海の 酸素濃度の最終上昇 CO2 PO4 生命進化 高濃度酸素によるコラーゲンの産出 多細胞生物の出現 カンブリア爆発の発生 [Kump (2008) Nature] 温暖化と栄養塩の供給増加 PO4 CO O22 CO2 富栄養化 爆発的な光合成活動 PO4 19 まとめ 太古代の地球環境 古気候について豊富な情報を持つもっとも古い地質体 南アフリカ・バーバートン(32億年前) 温度推定:地球化学的制約・堆積学的制約 当時の地球は温暖 暗い太陽のパラドックス 太陽光度の進化 温室効果ガスとアルベドの寄与 二酸化炭素に加えメタンの温室効果とアルベドが重要 酸素の出現と蓄積 酸素濃度の進化 全球凍結と生命のかかわり 20 参考文献 • Anbar, A. D. et al. A whiff of oxygen before the Great Oxidation Event? Science 317, 1903–1906 (2007). • Blake, R. E., Chang, S. J. & Lepland, A. Phosphate oxygen isotope evidence for a temperate and biologically active Archean ocean. Nature 464, 1029–1033 (2010). • Clayton, R. N., O’Neil, J. R. & Mayeda, T. K. Oxygen isotope exchange between quartz and water. Journal of Geophysical Research 77, 3057–3067 (1972). • Gough, D. O. Solar interior structure and luminosity variations. Solar Physics 74, 21–34 (1981). • Evans, D. A., Beukes, N. J. & Kirschvink, J. L. Low-latitude glaciations in the Paleoproterozoic era. Nature 386, 262–266 (1997). • Farquhar, J., Bao, H. & Thiemans, M. Atmospheric influences of Earth’s earliest sulfur cycle. Science 289, 756–758 (2000). • Haqq-Misra, J. D. et al. Revised, hazy methane greenhouse for the Archean Earth. Astrobiology 8, 1127–1137 (2008). • Jaffres, J. B. D., Shields, G. A. & Wallmann, K. The oxygen isotope evolution of sea water; A critical review of a long standing controversy and an improved geological water cycle model for the past 3.4 billion years. Earth-Science Reviews 83, 83–122 (2007). • Kasting, J. F. Earth’s early atmosphere. Science 259, 920–926 (1993). 21 参考文献 • Kasting, J. F. et al. Paleoclimates, ocean depth, and the oxygen isotopic composition of seawater. Earth and Planetary Science Letters 252, 82–93 (2006). • Kharecha, P., Kasting, J. & Seifert, J. A. A coupled atmosphere-ecosystem model of the early Archean Earth. Geobiology 3, 53–76 (2005). • Knauth L. Paul and Donald R. Lowe. High Archean climate temperature inferred from oxygen isotope geochemistry cherts in the 3.5 Ga Swaziland Supergroup, South Africa; Geological Society of America Bulletin 2003;115, no. 5;566-580 • Kump Lee R., The rise of atmospheric oxygen; Nature 451, 277-278 (17 January 2008) | doi:10.1038/nature06587; Published online 16 January 2008 • Marmo, J. S. & Ojakangas, R. W. Lower Proterozoic glaciogenic deposits, eastern Finland. Geological Society of America Bulletin 98, 1055–1062 (1984). • Pavlov, A. A. & Kasting, J. F. Mass-independent fractionation of sulfur isotopes in Archean sediments: Strong evidence for an anoxic Archean atmosphere. Astrobiology 2, 27–41 (2002). • Rosing, M. T. et al. No climate paradox under the faint Sun. Nature 464, 744–747 (2010). • Sleep, N. H. & Hessler, A. M. Weathering of quartz as an Archean climatic indicator. Earth and Planetary Science Letters 241, 594–602 (2006). 22 参考文献 • Hessler, A. M. (2011) Earth’s Earliest Climate. Nature Education Knowledge 3(5):6 • 田近 惑星科学フロンティアセミナー 2011
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