温泉と皮膚

温泉と皮膚
鳴海クリニック 院長
鳴 海 淳 郎
は じ め に
・大正15年1月1日、この別府市に生まれたわたしは、今年で
丁度80歳を迎えました。また、皮膚科医になって既に50年が過ぎ、
郷里・別府に帰って開業38年になリます。
・久しぶりに別府に帰り、徳川中期以降湧き出ている温泉に入る
ようになり、たまたま冬という季節も手伝って、肌が荒れてきたこと
が非常に気になリました。
・わたしの家は1803年以来、代々菓子屋安兵衛を名乗る回船
問屋をしていましたが、明治維新以後は菓子安という温泉宿をし
ていました。
・その先代が、 皮膚科医になったわたしに「温泉と皮膚」という
テーマを授けて呉れたものと思えてなりません。
「温泉と皮膚」に関する開業後の実績
・1969年1月: 別府に帰省して診療開始
・1972年: 第1回入浴調査
・1976年: 第2回入浴調査
・1990年: 第3回入浴調査
・2001年1月: 「JN全身シャンプー」をつくる
・2001年7月: 小著「温泉と皮膚」発行
温泉の効用
1) 温熱作用と機械作用
2) 化学作用
3) 自然環境の作用
4) とくに皮膚に対する作用
5) 全身作用
1)温熱作用と機械作用
・温度の刺激によってまず呼吸数や脈拍数が
増加し、新陳代謝が促進される。
とくに42℃以上の高温浴の場合:
入浴直後血圧は30から50上昇する。
体温に近いぬるい温度の場合:
気分を鎮めたり痛みを和らげたりする。
・また、温泉入浴によって体は水圧を受けたり、
浮力をうけたりするので、色々なリハビリに活用
される。
2)化学作用
・ 温泉には色々な化学成分が含まれている
ので、その刺激で皮膚は充血し、血行がよ
くなり、体が温まる。
・ また、温泉を飲むことによって、薬と同じよ
うに、例えば、食塩泉や硫酸塩泉を冷たく
して飲むと、下剤として作用するし、鉄を含
む温泉は貧血に有効。
3)自然環境の作用
温泉の効き目は、以上のほかに、温泉地の気候
の影響、日常生活でのストレスからの開放、温泉
地という心理的作用などから生れます。
つまり、「温泉に行くと気分が落ち着き、体がすっ
きりする」という、温泉を含めた自然環境などの総
合作用をさし、日常生活で乱れた自律神経系、内
分泌系、免疫系などを本来の生体リズムに整える
作用と推定されます。
4)とくに皮膚に対する作用
・酸化炭素、温泉らしい特有の匂いのする硫化水素などのガス、
ヨード、鉄、銅などのイオンは皮膚を通して体内に吸収される。
・一般に、入浴時の皮膚では、角層が水分を吸って皮膚がふや
けてくるが、この状態では、温泉成分が容易に角層中に浸透し
やすくなる。
・硫黄泉は昔から皮膚病に効くとされており、慢性湿疹、乾癬の
治療に利用されてきたが、これは温泉に含まれている硫黄に皮
膚の角質を軟化する作用があるので、角質の増殖する慢性の皮
膚病に良いわけである。
・ また、収斂作用のある明ばん泉(アルミ二ウム硫酸塩
泉)
・ 一種の清浄効果がある重曹泉(ナトリウム炭酸水素
塩泉)など
それぞれ独特の作用を有している。
しかし、このような皮膚に対する温泉の作用をあまり
に過大評価すると、 現代医学の進歩に照らして、期
待はずれになることがあるので、注意する必要がある。
次に述べる皮膚と全身・環境との関係も考えて、皮膚
を取り巻く大きな観点から作用を考える必要がある。
5)皮膚と全身
・皮膚に受け止められた温泉の快感や刺激、作用はその
まま精神、心の動きに影響を及ぼす。
・同時に、免疫系を活性化させ、自律神経やホルモン系の
バランスにも影響を及ぼす。
↓
生態の機能を変調 → 病的機能の正常化
生態防衛機能の強化
このような機能の変調に必要な期間は一般に3~4週間
入浴について
過去3回にわたり当クリニックの患者さんを
中心に行なった入浴調査の結果を次に報
告する。
※ ナイロンタオル使用状況
ナイロンタオルを使用している人
1000人中246人
その中の26人(10,6%)に色素沈着(+)
※ 「みずむし」の発生状況
1000人中185人が「みずむし」に罹患
趾間をよく洗う人の方が「みずむし」の
発生率が低いことがわかった。
入浴のアドバイス
スキンケアの第一歩は皮膚を清潔にすること、
即ち入浴に始まる
・ 入浴は出来れば毎日1回、少なくとも2日に1回は必要
・入浴して皮膚を清潔にすることが大切
・入浴の温度・・・大体40~43℃位が適当
熱い風呂 ・・・ 刺激作用
ぬるい風呂 ・・・ 鎮静作用
皮膚病にはぬるま湯が適しているが、個人個人で異なり
気持ちよく入浴できれば、それが一番いい
一般に入浴を禁ずる場合
・熱のある場合
・急性の炎症性疾患(中耳炎などの感染症を含む)
・重い心臓病や高血圧症のある場合
・飲酒直後の入浴は避ける(事故が起こりやすい)
・その他くわしいことは医師の指示によること
「湯あたり」について
温泉の入り過ぎ、飲み過ぎの場合にみられ、
個人差があるが、入浴3~7日目に起こること
が多い.
全身症状
疲労感、食欲不振、下痢、睡眠障害、微熱、
頭痛、動悸
局所症状 ・・・ 関節炎の増悪・ 「湯かぶれ」
温泉療養のコツ
※ 温泉療養のための必要期間:
およそ3~4週間が適当
少なくとも2週間以上が望ましい
※ 温泉療養中の注意:
1週間前後で「湯あたり」が現れることがあるので、
この場合、入浴回数を減らすか、または中止し、
「湯あたり」の症状の回復を待って、更に入浴を続ける
※ 強い酸性泉や硫黄泉での注意:
入浴後、皮膚に「湯かぶれ」を起こしやすいので、皮膚
の敏感な人は注意すること
入浴と洗剤
石けんで洗った場合の皮膚の変化
石けんや洗剤で皮膚を洗うと、皮膚表面
の皮脂膜は取り去られるが、次図のように
一時間後には半分回復し、2時間で大体
元に戻る。
しかし、たえず炊事やその他の水仕事で
洗剤を繰り返し使っていると、皮脂膜が回
復するひまがないので、皮膚が荒れてくる。
洗剤の変遷
この30年位の間、入浴回数の増加とともに、 石け
ん類やシャンプーの使用頻度が極めて多くなっている
ことが指摘されている。
石けんと皮膚刺激:
石けんのpHがアルカリ性のため、皮膚に対して悪
影響を及ぼす懸念があるが、一般に、健常者の場合
はpH調整能力があるため問題はない。
低刺激石けんと界面活性剤の登場
石油を原料にして始まった合成界面活性剤を主成
分とする洗剤は、最近では「純植物性」をうたい文句
にした製品に替わり、その需要が増えている。
しかしながら、合成界面活性剤は分子構造が複雑
で結合が切れにくいため、分解せずに皮表に長く滞
留して皮脂膜を壊したり、公害を残すことが欠点とさ
れており、皮膚にも環境にもやさしい洗剤の出現が
望まれていた。
温泉で普通の石けんを使用した場合の
変化
・温泉で普通の石けんを使用すると、皮膚が荒れて痒く
なることがあるが、硬度の強い温泉に入ると、これは一
層強くなる。
・硬水で石けんを使うと、カルシウム、マグネシウム、
鉄、アルミニウムなどの塩類が石けんの脂肪酸基と
結合して、水に溶けない金属石けん(俗に「浮かす」と
いう)をつくり、これが脂の取り除かれた皮膚を刺激す
る。
従来の中性洗剤の欠点
界面活性剤は皮膚表面の「あか」や「よごれ」を落
とすことにすぐれた洗浄力を発揮するが、アニオン
界面活性剤だけを配合した従来のシャンプーには、
洗浄力が強いために、「あか」や「よごれ」と ともに
角層中の脂肪分(細胞間質)まで洗い落としてしま
う欠点があった。
温泉に最適の
理想的なシャンプーをつくる
そこで、一つのアニオン界面活性剤だけで
なく、他のアニオン界面活性剤と両性界面活
性剤がバランスよく配合すると、すぐれた洗
浄力を発揮するだけでなく、前述のような欠
点がなくなり、次にまとめたように、これまで
に見られない、非常に理想的なシャンプーを
つくことることができた。
ジェイ・エヌ 全身シャンプーの特徴
温泉での使用に最適で、アトピーの人も安心して使える、
これまでにない理想的な全身シャンプーです。
1.『あか』や『よごれ』は取りますが、皮膚の脂を取りすぎる
ことなく、しっとりと皮膚を保護します。
2.温泉で普通の石鹸を使うと、硬水の成分と反応して皮膚
を荒らすので皮膚病を治り難くしますが、このシャンプーで
はそのようなことは起こりません。
3.普通の中性洗剤と違って、泡が分解しやすいために公害
を残さず、環境にやさしいシャンプーです。
温泉は別府を育む-温もりの中へ別府
湯けむりは別府温泉のシンボルです。湯けむり
が立ち上がる光景は温泉地ならではの情緒にあふ
れています。
恵まれた海・山の自然の景観に加えて、別府市
内約50平方kmにわたり、3000に近い泉源より1
日に約13万klもの温泉が昼夜の別なくこんこんと
湧き出し、これが周囲の環境と相俟って湯けむりと
しての風情を添えています。
別府がいかに発展しようとも、このかけがえのな
い「湯けむり」や「温もり」を失ってはなりません。
おわりに
・現代医学の進歩に照らして、温泉の効用を見直
すことが大切と思われます。
・あまり温泉の効用を過信してはいけません。
昔のように温泉に入れば皮膚病が簡単に治るとか
泥湯に入れば皮膚がすぐにきれいになるとか
・温泉を如何にうまく利用するか、温泉入浴を如何に
効果的にするか、考えることが大切です。
・別府のめぐまれた温泉環境を最大限に利用して、
別府の更なる発展を望む必要があります。
別府に生まれ 別府に生きる
将来の別府を夢見て 別府を世界の別府に
“良い観光地とは、自然の美と、人工の美と、
人情の美の三つが一つに融けこんだところである。”
~岩切章太郎の心に響く言葉~
別府は美しい海あり、山あり、それに加えて日本一
の温泉あり ・・・別府市における偉大なる3大資産
この天与の資産を守り、今後の発展に生かすことが、
別府市民の使命であることを忘れてはならない。
わたしの信奉するロータリー哲学
ロータリーで言う奉仕とは
“Thoughtfulness of and helpfulness to others ”
「他人のことを思い、他人のために尽くすこと」・・・思いやりの心
思いやりの心を人間のみならず、まわりの環境にも
“He Profits Most Who Serves Best”
「最もよく奉仕する者、最も多く報いられる」
わたしの好きな言葉
Nothing but the best ・・・ これ以上良いものはない
これ以上良いものはつくれない
これ以上良いサービスはできない
To dream a new dream ・・・ 新しい夢をみようよ
夢を見ようよ あしたの夢を(荒金大淋)