スポットライト 電波環境に関する最近の動向について ほし 総務省 総合通信基盤局 電波部 電波環境課 課長 1.はじめに かつあき 星 克明 2.2 BODY SARの導入 現在、スマートフォンやタブレット端末等、音声通信以外 総務省では、電波環境を適正に維持するために、様々な 取組を行っている。具体的には、生体電磁環境対策の推進、 の用途で利用する無線機器が普及してきている。これらの機 電磁障害対策の推進、基準認証制度の充実などであり、電 器は、人体頭部以外の部位に近づけて使用するものであり、 波利用の促進を下から支えるという点で、重要な政策である 人体への安全性を担保する必要がある。また、これらの機器 と言える。ここでは電波環境に関する最近の動向について紹 は、同一筐体に複数の無線設備を備え、複数の電波を同時 介する。 に発射するものが普及しており、人体への安全性の担保にお いてこれを考慮することが必要である。 このような中、国際電気標準会議(IEC)において被吸収 2.生体電磁環境対策の推進 率(SAR)の測定法が標準化されたことを踏まえ、情報通信 2.1 電波防護に関する規制の現状 審議会に、 「局所吸収指針のあり方」及び「人体の側頭部を 我が国の電波利用は質・量共に飛躍的に発展しており、 除く人体に近接して使用する無線機器等に対する被吸収率 安心して電波を利用できる環境の整備がますます重要となっ の測定方法」について諮問した。同審議会は、前者について ている。 昨年5月に、後者について同年10月に答申した。 総務省では、この答申を受け、 このため、基地局や放送局、携帯電話端末などの無線設 ① 人体に近接して使用する無線設備へのSARの許容値の 備から発射される電波について、安全基準(電波防護指針) 適用 を定め、それに基づき電波法令により安全性を確保してい ② 同一の筐体に複数の無線設備を備えた機器から発射さ る。電波法令に基づく規制は、電波の強さが基準値を超え れる電波の安全性の確保 る場所に一般の人々が容易に出入りできないよう、安全施設 の設置の義務付け及び携帯電話使用時に人体頭部に吸収さ の観点から、総務省令の改正を行い、来年4月に施行するこ れるエネルギー量の許容値の遵守の二つがある(図1参照) 。 ととした。 具体的には、SARの許容値は、同一筐体内で同時に発射 電波利用の安全性の確保 ○ 我が国の電波利用は質・量共に飛躍的に発展。安心して電波を利用できる環境の整備がますます重要。 ○ 基地局や放送局、携帯電話端末などの無線設備から発射される電波について、安全基準(電波防護指針)を定め、 それに 基づき電波法令により安全性を確保。なお、電波防護指針は世界保健機関(WHO)が支持する国際ガイドラインと同等。 電波防護指針(平成2年策定、平成9年「局所吸収指針」追加) 刺激作用、熱作用を及ぼす電波の強さ 1 刺激作用 電波によって体内に生じた誘導電流等より刺激を感じる (100kHz程度以下) 2 熱作用 人体に吸収された電波のエネルギーが熱となり、全身の 又は部分的な体温を上昇させる(100kHz程度以上) 十分な安全率(1/50) 人体に影響を及ぼさない電波の強さの指針→電波防護指針 電波法に基づく規制(平成11年10月、14年6月) 電波の強度に対する安全施設の設置 (基地局、放送局等) 人体頭部に吸収されるエネルギー量の許容値の遵守 (携帯電話端末等) 電波の強さが基準値を超える場所に一般の 人々が容易に出入りできないよう、安全施 設の設置を義務付け(平成11年10月)。 人体頭部で吸収される電力の比吸収率 (SAR)※1の許容値(2W/kg)を強制規格 として規定(平成14年6月)。 【無線設備規則第14条の2】 【電波法施行規則第21条の3】 安全施設 900MHz SARの値 高い 1.5GHz 低い 【頭部横断面のSAR分布】 ※1 :Specific Absorption Rate。生体が電磁界にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量。 図1.電波防護に関する規制の現状 ITUジャーナル Vol. 43 No. 11(2013, 11) 23 スポットライト ① ② 側頭部以外の部位に近づけて使用する無線設備の安全性の担保 同時に電波が発射された場合の安全性の担保 総務省では、この決定を受け制度整備を進め、改正省令 等を9月9日に公布・施行した。 人体に吸収されるエネルギー量の許容値を規定 ① 屋外PLCは、提案を踏まえ、 側頭部以外の部位に近づけて使用する無線設備の安全性の担保 無線設備から発射される電波の人体におけるSAR(同一筐体内で同時に発射される電波があ るときは、当該電波を含めたSARとする。)を2W/kg(四肢は4W/kg)以下としなければならな い旨規定する。 BODY SAR規制対象無線設備 ○ 携帯電話 ○ 衛星携帯電話 ○ 広帯域移動無線アクセスシステム (BWA) 単独使用時には、許容値を超えるおそれはないと考え られるが、BODY SAR規制対象無線設備と同一の 筐体に収めることが想定される無線設備 ○ 2.4GHz帯小電力データ通信システム ○ 5GHz帯小電力データ通信システム ○ PHS/デジタルコードレス電話 ① ガレージやマンションの集合玄関のほか、商業施設や公 共施設等の防犯設備としての防犯カメラ/インターホン の利用 ② 電気自動車(EV)用充電/蓄電制御に利用 を想定して制度化した。屋外PLCの許容値は、実験及びシ ミュレーション結果から、屋内PLCの許容値より、10dB低 図2.BODY SARの導入(規制の概要) い値とした(図3参照) 。 される電波があるときは、その電波を含めたものとし、 2W/kg(四肢は4W/kg)以下としなければならない旨を規 3.2 ワイヤレス電力伝送システムの導入 定する。対象機器は、携帯電話、衛星携帯電話及び広帯域 「電波有効利用の促進に関する検討会」報告書(平成24 無線アクセスシステム(BWA)とする。また、単独使用時 年12月25日)では、ワイヤレス電力伝送システム(WPT) にはSARの許容値を超えるおそれはないと考えられるが、 の円滑な導入に向け、官民連携の下、平成27年度の実用化 SAR対象規制無線機器と同一の筐体に収めることが想定さ を目指すこと、及び他の無線機器との共用及び安全性を確 れる無線機器として、2.4GHz帯小電力データ通信システム、 保した上で、簡易な手続を導入することが提言された。 5GHz帯小電力データ通信システム及びPHS/デジタルコード 一方、民間団体であるブロードバンドワイヤレスフォーラ ム(BWF)等でWPTに関する検討が開始されているほか、 レス電話を規制対象とする(図2参照) 。 なお、これらの規制は、米国では施行済み、EUでは、来 国際無線障害特別委員会(CISPR)のSC-B(電力設備及 びISM等)においても、検討項目として取り上げられ、総務 年2月施行となっている。 省でも関連した研究開発を行っている。 このため、情報通信審議会情報通信技術分科会において、 3.電磁障害対策の推進 「WPTから放射される漏えい電波の許容値及び測定法等の技 3.1 電力線搬送通信の屋外利用 術的条件」について検討を開始した。平成26年7月を目途に 電力線搬送通信(PLC)については、平成18年に広帯域 一部答申をいただくことを予定している。実用化が急がれて PLC設備を屋内利用に限定して制度化した。平成24年12月 いる電気自動車の非接触充電及び50W超の近接型家電への 末で149件が型式指定され、現在100万台程度普及している。 給電から検討に着手することとしている(図4参照) 。 その後、 「規制・制度改革にかかる対処方針について」 (平 国際標準化動向としては、CISPRで漏えい電波の許容値、 成22年6月の閣議決定)において、屋外PLCの規制緩和が決 国際電気通信連合(ITU)で使用する周波数、國際電気標 定された。 準会議(IEC)でシステム標準及び測定法について検討が進 1 利用範囲の拡大 電力 メータ 分電盤 防犯カメラ 燃料電池 蓄電池 宅内機器 宅内機器 AC電力線 EV充電スタンド 直流 パワコン 2 屋外利用が可能な広帯域PLC設備の規定 の整備 屋内PLC設備の許容値と比べて、 10dB下げた許容値とする。 3 外付けのPLC装置における通信線等への伝 導妨害波の電流許容値を規定 通信線 図3.屋外PLCに係る制度(省令)改正の概要 24 ITUジャーナル Vol. 43 No. 11(2013, 11) 電力線 1.背 景 ○「電波有効利用の促進に関する検討会」報告書(平成24年12月25日) では、新たな電波利用としてワイヤレス電力伝送の 実用化の加速が提言された。 ・ ワイヤレス電力伝送システムの円滑な導入に向け、官民連携の下、平成27年の実用化を目指す。 ・ 他の無線機器との共用及び安全性を確保した上で、簡易な手続を導入する(個別許可⇒型式確認等)。 ○また、BWF(ブロードバンドワイヤレスフォーラム)等でワイヤレス電力伝送システムに関する検討が開始されている他、国 際無線障害特別委員会(CISPR)のSC-B(電力設備及びISM等)においても検討項目として取り上げられ、総務省でも関連 した研究開発等を実施。 (参考) 「日本経済再生に向けた緊急経済対策」 (平成25年1月11日閣議決定) では、 「Ⅱ. 1( .2)研究開発、 イノベーション推進」において、 「イノベーション創出 による需要喚起と成長への投資促進を図るため、 (中略)先端的な情報通信技術の確立など、研究開発プロジェクト等を推進する」旨が記載 (参考)平成22∼25年度技術試験事務「近距離無線伝送システムの高度利用に向けた周波数共用技術の調査検討」 平成24年度研究開発「ワイヤレス電力伝送システム等における漏えい電波の影響評価技術に関する研究開発」 2.検討内容 ○ 他の無線機器との共用及び電波防護指針(平成2年6月25日)への適合性等について検証した上で、 ワイヤレス電力伝送 システムから放射される漏えい電波の許容値や測定法等の技術的条件を検討。 ○ 検討対象は、実用化が急がれている電気自動車の非接触充電及び50W超の近接型家電への給電から着手する予定。 3.スケジュール ○ 平成25年5月17日 情報通信審議会情報通信技術分科会で検討開始の報告 ○平成25年6月 電波利用環境委員会(主査:多氣首都大学東京大学院教授)の下にワイヤレス電力伝送作業班を設 置し、同作業班において検討開始 ○平成26年7月目途 ワイヤレス電力伝送システムから放射される漏えい電波の許容値及び測定法等の技術的条件につい て一部答申 図4. 「ワイヤレス電力伝送システムの技術的条件」の検討開始 技術基準適合自己確認制度の対象設備として、新たに「携帯電話端末、PHS端末等と同一 の筐体に収められている無線LAN(小電力データ通信システム)」を追加 これまで 第2世代携帯電話 ・携帯電話の無線 設備のみ 現 在 メーカ 無線LANが 内蔵された 携帯電話の 普及 登録証明機関 スマートフォンなど メーカ 携帯電話端末、PHS端末等と同一 の筐体に収められている無線LAN を、新たに自己確認の対象として追加 ・携帯電話の無線設備 ・無線LANの無線設備 携帯電話端末は、自己確認の対象設備であ るが、無線LANが対象でないことから、携帯 電話全体として自己確認できない 携帯電話端末は、技術基準 適合自己確認の対象設備で あることから、メーカは自 己確認を行い、市場へ出荷 改正後 メーカは、登録証明機関で工事設計認証を 取得し、市場へ出荷 メーカは、携帯電話全体として自己確 認が可能 登録証明機関で工事設計認証を受け るために要する時間及び費用の削減 が可能となり、製品の迅速な市場投入 が可能 平成25年5月17日:関係省令の改正案を電波監理審議会へ諮問 平成25年6月:関係省令の公布・施行 図5.技術基準適合自己確認制度の対象設備の拡大 められているほか、任意団体であるワイヤレス・パワー・コ れていることが一般化している。このため、技術基準適合自 ンソーシアム(WPC) 、米国家電協会(CEA)及び米国自 己確認制度の対象として、携帯電話端末、PHS端末等と同 動車技術会(SAE)においても検討が進められている。 一の筐体に収められている無線LANを対象に追加することと した(図5参照) 。 4.基準認証制度の充実 4.1 技術基準適合自己確認制度の対象設備の拡大 5.最後に 携帯電話やPHS端末については、技術基準に適合してい 電波環境に関する最近の動向についてその一端を紹介し ることを製造メーカ等が自ら確認し、市場に出荷できる制度 てきたが、これ以外にも様々な政策を展開している。今後と (技術基準適合自己確認制度)が整備されている。 近年、携帯電話端末は、スマートフォンの普及により、同 も電波環境の適正な維持に一層努めてまいりたい。 (2013年7月26日 第21回政策研究会より) 一筐体に無線LAN(小電力データ通信システム)が収めら ITUジャーナル Vol. 43 No. 11(2013, 11) 25
© Copyright 2025 ExpyDoc