地球環境の成り立ち

第7回 エコシステムの原理
エコシステムとは
 エコシステムの構造
 エコシステムの機能

主要参考文献:
D.F. オーエン著、市村俊英訳、生態学とはなにか、岩波書店、1977.
瀬戸昌之、生態系、有斐閣ブックス、1995
デニス・メドウズ著,成長の限界 人類の選択,ダイヤモンド社,2005 .
エコシステムの定義と特性

定義
 生物群集を,それが成立している環境の非生物的部分
とその中でのさまざまな要素の相互関係とを含めたも
のを生態系(エコシステム:Ecosystem)という.


Eco=Environment
System=Element + Relationship
 さまざまな要素、要素間、要素と関係間の関係
 ここでは要素=地球表面の各種の自然体。つまり、ある
特定の空間と時間の中で,生命の維持に寄与するもの
のすべで。
エコシステムの特性
 エコシステムは空間的概念である。その境界を定義すること
は難しいが、確かにある。
 自然エコシステムは太陽からの光以外には外部の物質資
源やエネルギー源に依存しない。
 自然エコシステムは水や他の無機化合物,及び生命の維持
に必要な元素を含む物質を循環させる能力がある。
 エコシステムはいくつかのレベルから調べることができる。
つまり、スケールまたは階層性がある。一本の木から地球
全体まで,大きさや複雑さが多様である。
エコシステムの構成
呼吸
放射エネルギー
CO2
CO2
H2O
O2
O2
生産者
落葉
H2O
消費
転移
養分
養分
排泄
非生物的物質
分解
消費者
自然エコシステム
(消費者と分解者をまとめた見方)
熱エネルギー
太陽の光エネルギー
生産層
CO2
O2 有機物
(緑色植物)
(食物連鎖)
(動物)
H2O 無機物
分解層
(微生物)
自然エコシステムは生産層と分解層を持ち、システム内で物質は循環し、エネルギー
は流れる。
農業エコシステム
太陽の光エネルギー
肥
農
熱エネルギー
食
料
薬
糧
栄養塩類
富栄養化
農薬汚染
石
油
農業エコシステムは限られた種からなる生産層と分解層の二層構造をもつ。生
産性の向上をもとめて農薬、肥料と機械力を投入する。その結果、物質は循環
しきれずにシステム内に蓄積したり、システム外に流出する。
都市エコシステム
熱エネルギー
太陽の光エネルギー
CO2, SOx, NOx,
O2, 有機物
食糧
原料
大気汚染
人 工 化 学 物 質
土壌汚染
化石燃料
(石油、石炭、
天然ガス)
水質汚染
生物濃縮
都市エコシステムは生産層が欠き、分解層はコンクリートなどで覆われ、微生物が働
きにくい。物質循環が停滞する。
植物と動物のバイオマス

バイオマス(Biomass)
 生物圏に存在し、生きている生物の量。現存生物量、生物
量などともいう。
 動物・植物・微生物をすべて含めた

全バイオマス

緑色高等植物:


緑色プランクトン:
1兆8000億トン(乾量)
90%。陸地エコシステムの生産者
そのうちの40%は熱帯多雨林が占める。
0.2% 海洋エコシステムの生産者

野生動物:
0.1% ヒトと家畜を除く。(分解者)

ヒト:
1億トン(乾量)

家畜:
4億トン(乾量)
エコシステムにおける緑色植物と野生動物のバイ
オマスの平均値
出典) 瀬戸昌之、生態系、有斐閣ブックス、1995
緑色植物のバイオマスは圧倒的に多いため,そのバイオマスを全地球のバイオマスとすること
もある(特に地上部の動物のバイオマスは誤差範囲内とみる).
草原の野生動物と従属栄養微生物のバイオマス(カナダ
のプレーリー草原の例)
バイオマス(g/m2,乾量)
種類
地上の動物
哺乳類
0.001
鳥類
0.003
無脊髄動物
0.260 小計 0.26
地中の動物
節足動物
0.59
環形動物
0.73
線虫類
3.04
原生動物
0.07 小計 4.4
地中の従属栄養微生物
細菌
糸状菌
46
177 小計 223
バイオマスの生産
(総生産速度・呼吸速度・純生産速度)

総生産速度Pg
 緑色植物がある期間に、光合成により生産した
有機物の総量

呼吸速度R
 総生産速度と同期間中に、緑色植物が呼吸によ
り無機化した有機物量

純生産速度Pn

=総生産速度Pg-呼吸速度R
Pg-R=Pn
エコシステムにおける緑色植物の総生産速度
単位:g・m-2・day-1
汽水域は環境の変化が激しく,物質とエネルギーの交換が活発に行われるため,生
産速度がもっとも高い.人間活動の集中地帯にもなっている.
エコシステムにおける緑色植物と野生動物の純
生産速度
野生生物の純生産速度は、緑色植物のそれの100分
の1のスケールで作図していることに注意。サンゴでは
バイオマスの生産がもっとも活発に行われていること
がわかる.それが豊富な生物を支える源泉となってい
るのだ.
緑色植物の総生産速度と呼吸速度との関係
多くのエコシステ
ムは対角線の中
に分布する。つま
り、PgとRはほぼ等
しく、エコシステム
は動的に均衡を
保つ。このときの
エコシステムの純
生産速度Pnはほ
とんどゼロ。
生物の比成長速度
B
μ μ(m 1 )
Bm

μ:比成長速度(Specific growth rate)、つまり、1単位のバイオマスがある短
い時間(dt)に新たに生産したバイオマス。

Bm:環境が収容できる最大のバイオマス。バイオマスで表現した環境容量
(carrying capacity) 。

μm:環境容量が無限大の時に、生物が遺伝的にもつ最大限のμである。種
によってその値が違う。
生物の成長式
ここで、dBはある短い時間(dt)
に新たに増加したバイオマス。
Bは時刻tにおけるバイオマス。
dB
 B
dt
積分
B  B0e
t
ここで、B0は初期のバイオマス。
eは自然対数の底。
環境容量が無限大のときの成長式
dB
 mB
dt
積
分
B  B0e
 mt
バイオマスが2倍になるのに要する時間(倍加時間)をtd
とすると、
td 
0.693
m
例:大腸菌は15分ごとに2分裂する遺伝的
能力を持つから、大腸菌のμmは2.773/時と
なる。B0をたとえば1gとすると、1日後の
大腸菌のバイオマス
B  1( g )  e2.77324  791027 ( g )
地球の全重量=6×1027(g)
環境容量が有限の時の成長式
dB
B
 m (1 )B
dt
Bm
積分
Bm
B
  m t
1  Ce
但し、 C 
Bm m  B0
B0
但し、 C 
Bm  B0
B0
環境容量ありなしの成長比較
新規に造成した環境容量が1万頭の草地に、制限因子が働かな
ければ、1年ごとに頭数が2倍になる動物を5頭導入したとする。
頭数(B)の系時変化は、tの単位を年(year)とすれば、μmは
0.693/year、また、B0=5であるから、すると、
B(個体数)
10000
B
10000 5 0.693t
1
e
5
環境容量なし
環境容量
10,000
環境容量あり
5,000
これはロジスティック曲線(logistic curve)という。
人類の人口増加曲線を持ってきて、右図と比べてください。
0
10
20
t(year)
30
個体数が環境容量に制約されるパターン
環境容量
環境容量
個体数
個体数
理想形
時間
例:制御された土
地の家畜の数
時間
例:劣化した土地
の家畜の数
環境容量
環境容量
個体数
例:春と冬の
鳥の数
時間
個体数
時間
エコシステムにおける食物連鎖
第1次栄養段階
(生産者)
光エネルギー
第2次栄養段階
(1次消費者)
(植食性動物)
第3次栄養段階
(2次消費者)
(肉食性動物)
第4次栄養段階
(3次消費者)
(肉食性動物)
生食連鎖
(光合成植物)
生
産
層
エ
コ
シ
ス
テ
ム
チョウ、ガの幼虫
キ ク イ ム シ
ノ ウ
サ ギ
ネ
ズ
ミ
シジュ
ア カ
モ
フ ク
ム ク
ウカラ
ゲ ラ
ズ
ロ ウ
ド リ
タ
カ
ハヤブサ
ヘ
(デトライタス)
(Detritus)
分
解
層
(従属栄養微生物)
ト ビ ム シ
ミ
ミ
ズ
セ ン チ ュ ウ
シ ロ ア リ
ナ メ ク ジ
クモ
ムカデ
トガリネズミ
モグラ
ビ
カ エ ル
ト カ ゲ
腐食連鎖
温帯森林エコシステムにける食物連鎖の例。食物連鎖を通じて、エコシステムの中で、物質
とエネルギーが流れ、エコシステムが機能する。
栄養段階

ある生物がほかの生物を消費するときに、いつも、エネル
ギーの損失が見られる。





だから、動物よりは植物が多く、草食動物は肉食動物より多いわけ。
数だけでは一般に比較できないため、バイオマスを使うことにする。
食物連鎖はしばしば3つ、時には4つ、5つの連鎖からなって
いる。これ以上のものは少ない。
食物連鎖におけるいろんな段階は栄養段階という。
栄養段階の構成





生産者(植物)
一次消費者(草食動物)
二次消費者(肉食動物)
三次消費者(二次消費者を食べている動物)
高次消費者(その他のふべての捕食者)
栄養モデル
栄養モデルの1例
栄養モデルの別の例
食物連鎖と各栄養段階のバイオマスと生産速度
方形内の数字は、各栄養段階のバイオマス(g/m2、乾量)を、方形の左および右の数字は、
それぞれ、摂食速度および純生産速度を表し、方形の上の数字は呼吸などによる損失速
度を表す。
イギリス海峡の大陸棚の例
生態的ピラミッド
例:浅い池の生態的ピラミッド
サカナ
(三次生産者)
エコシステム内に保
存されるエネルギー
水生甲虫
(二次生産者)
小さな甲虫類
(一次生産者)
植物
(生産者)
損失するエネル
ギー
太陽からのエネルギー
物質がある栄養段階から次の段階に移される
ごとにエネルギーの損失がある。
4つのエコシステムにおける緑色植物と野生動物に関
するバイオマスと純生産速度の生態ピラミッド
8倍
15000倍
2倍
18倍
緑色植物(□)、野生動物( )
それぞれのピラミッドの大きさはそのバイオマスの大きさに対応する。
主要食料生産に要する水量