病原菌と人間の 相互作用に基づく 毒性の進化シミュレーション 森 りさ 有田隆也* 名古屋大学情報文化学部 *名古屋大学大学院人間情報学研究科 はじめに ダーウィン医学 進化的観点から医学的な問題を研究する ダーウィン医学による病気(弱点)の5分類 (1)防御 (2)闘争 (3)新しい環境 (4)相殺取引 (5)制約 本研究では,(2)のカテゴリーに入る 「人間と病原菌の毒性の進化関係」に注目する 毒性の進化に関する概念 伝統的見解 常に毒性は低くなるように進化している 進化はゆっくり行われる ダーウィン医学 毒性の進化に関して考慮すべき3条件 1.宿主間での選択 2.宿主内での選択 3.弱毒性の限界 現在の環境に最も適した状態になるように 毒性は常に変動し続けている. 3条件を組み込んだモデルを構築し,ダーウィン 医学の妥当性を検証する. 病原菌の毒性進化モデル 複数のエージェント(人間)とそれらの接触により 伝播していく病原菌が存在し,共進化していく. エージェントの属性 行動タイプ 4タイプ (社交性 %,持続性 ターン数) 37×35のグリッド = (25,5) (25,15) (75,5) (75,15) 毒性 0 (ピンク) :健康 1~133 (ピンク以外) :感染 交流中 モデルの設計 行動アルゴリズム 生命エネルギーの更新 交流中か判断 NO NO 8方向に1動く YES 交流条件 隣接セルにエージェントがいる場合 交流する確率は (自分の社交性)×(相手の社交 性) 相手と交流するか判断 交流相手に感染か判断 交流をやめるか判断 子供を生む 寿命か判断 感染条件 ① 毒性× 感染期間 > 900 ② 1/10の確率 ③ 自分の毒性 > 相手の毒性 感染の際,1/5の確率で毒性の 強さが±1の突然変異を起こす. モデルの設計 毒性の進化に関する3条件 宿主間の選択 エネルギーの更新式: (現在の生命エネルギー)-(1/10×毒性 + 1) 死の条件: 生命エネルギー < 0 宿主内の選択 感染条件③ :自分の毒性 > 相手の毒性 弱毒性の限界 感染条件① :(毒性×感染期間) > 900 シミュレーション結果 行動タイプ1種 突然変異なし 行動タイプ (社交性 %,持続性 ターン数) (50,10) のみ, 突然変異なし 毒性は一旦下がっ た後,時には弱毒性 に向かいながらも全 体としては強くなる. 毒性と人口の推移 シミュレーション結果 行動タイプ 4種 突然変異あり 行動タイプ(社交性 %,持続性 ターン数) 4種類,1/1000で突然変異 行動タイプ別の人口推移 毒性と人口の推移 子供を生みやすい (75,15)タイプが大多数を占める. 毒性は短期間で非常に強くなる. 考察 選択圧の方向 毒性の平均の推移 : 弱くなる 宿主間の選択 毒性が強くなるプロセス 人口の飽和状態 感染が容易 強くなる 宿主内の選択 毒性がより強くなる 行動進化がもたらす影響 多産型への進化 毒性進化のプロセスを早める 死に対抗するためのエージェントの行動進化は,結果と して短期間のうちにより毒性が強くなると言う矛盾をもた らした. おわりに 人間行動と病原菌の相互作用が,毒性の進化 速度や進化方向,行動進化に影響を与えること が示された.これらはダーウィン医学を支持する ものである. 今後の展開 1エージェント内での複数の病原菌の寄生 4種以上のエージェントによる進化 薬物の影響 考察 選択圧の方向 毒性の平均の推移 : 弱くなる 宿主間の選択 強くなる 宿主内の選択 行動進化がもたらす影響 多産型が増加 人口の飽和状態 感染が容易 毒性がより強くなる 死に対抗するためのエージェントの行動進化は,結 果として短期間のうちにより毒性が強くなると言う矛 盾をもたらした.
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