「まちニハ」実現化に向けた基礎的研究(2492KB - 建設技術研究所

「まちニハ」実現化に向けた基礎的研究
~日本橋浜町・人形町界隈を対象として~
飯田哲徳1・水場牧子2・鵜野勝巳3・是枝伸和4・中村良夫5
1
技術士補(建設部門) 株式会社建設技術研究所 東京本社都市システム部
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1 日本橋浜町Fタワー,E-mail: [email protected])
2
技術士補(建設部門) 株式会社建設技術研究所 東京本社都市システム部
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1 日本橋浜町Fタワー,E-mail:[email protected])
3
技術士(総合技術監理・建設部門) 株式会社建設技術研究所 東京本社都市システム部
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1 日本橋浜町Fタワー,E-mail: [email protected])
4
技術士(総合技術監理・建設部門) 株式会社建設技術研究所 東京本社都市システム部
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1 日本橋浜町Fタワー,E-mail: [email protected])
5(共同研究者) 工学博士 東京工業大学名誉教授
本研究では,「生態・社会複合文化系の再構築に関する研究(平成22~24年実施)」で示された「まち
ニハ」の概念を用いて,浜町緑道とその界隈の空間のあり方を捉えなおし,「まちニハ」実現化に向けた
課題と実現化方策について検討し,密集度の高い都市部における「まちニハ」実現性を検証することを目
的としている.
平成25年は,「まちニハ」の概念・成立条件を整理し,評価軸を明確にした上で,浜町緑道とその界隈
を対象として「まちニハ」の現状評価を行った.また,「まちニハ」の考え方を適用したケーススタディ
の提案を行ない,「まちニハ」の具体化に向けた課題を提示した.
Key words: Machiniwa, field, body, eco-symbolism, field survey, public-private ambiguity
1.研究概要
(2)研究目的・成果
本研究では,浜町緑道とその界隈の空間のあり方を捉
えなおし,「まちニハ」実現化に向けた課題と実現化方
策について検討し,密集度の高い都市部における「まち
ニハ」実現性を検証することを目的とする.
平成 25 年は,「まちニハ」の概念・成立条件を整理
し,評価軸を明確にした上で,浜町緑道とその界隈を対
象として,「まちニハ」の考え方を適用したケーススタ
ディの提案を行い,その評価を試みるとともに,「まち
ニハ」の具体化に向けた課題を提示した.尚,平成 26
年は,実現化方策の検討を行い,「まちニハ」実現に向
けたノウハウ集をとりまとめる予定である.
(1)研究背景
「生態・社会複合文化系の再構築に関する研究」1)で
は,自然と社会が渾然一体となった「生態社会複合文化
系」の再構築を実現するための空間として「まちニハ」
の概念が示されている.中村が,その著書2)において
「現代都市を組み替えながら,蘇らせる知恵が求められ
る.それには,細分化した敷地をそれぞれ勝手にいじく
りまわす乱雑な密集ではなく,もっと公共的に都市が運
営されなければならない.」と記しているように,これ
までのような河川,道路など事業ベースでの検討では,
境界部分は境界条件としてしか捉えられず,事業の枠を
越えた「まちニハ」空間の創出は困難である.
都市の中に「まちニハ」を創出するには,場の表情,
賑わい性,公私の境界のあいまい性(半公半私),居心
地の良い場所からの眺めなどが条件となることが示され
ており,例えば,事業の境界部分を「まちニハ」創出の
可能性のある空間として捉えなおし,その周辺部分も読
み込んだ計画が必要である.河川,道路など事業ベース
で実施していることによる壁(境界)を取り払い,民間
の協力を得ながら,いかに「まちニハ」空間を具体化す
るかが問題となる.
図-1 江戸期の江戸のまちなみの様子
35
(1)生態社会複合文化系の再構築に関する研究
平成 22~24 年に実施された「生態社会複合文化系の
再構築に関する研究」は,「自然(生態系)」と「コミ
ュニティ(社会)」の概念を取り込んだ社会システムの
概念化を試みたものであり,「まちニハ」は,図-4 に
示す関係図の中心に近い位置にあり,生態・社会複合文
化系の再構築をしていくための要であるとされた.
(3)研究フロー
「まちニハ」実現化研究の平成 25 年~26 年の研究フ
ローは,下図に示すとおりである.
本研究の対象
【平成 25 年】
1. 既往研究の整理
2.「まちニワ」提案に向けた基礎調査
3.「まちニワ」のフィールドサーベイ
・文献資料(古地図、古写真等)の収集
・対象地周辺のフィールドサーベイ
・対象地の歴史的変遷の整理
・「まちニハ」の現状評価(カルテ)
・上位、関連計画の整理
・「まちニハ」MAPの作成
4. 浜町川緑道におけるデザインスタディ
ミニ発表会の開催
5. 「まちニワ」実現化の課題抽出
6. 平成 25 年報告書作成
8. 「まちニワ」実現化方策の検討
地域連携
7. 「まちニワ」実現化の方向性検討
(小学校等)
【平成 26 年】
ミニ発表会の開催
9. 「まちニワ」実現化に向けたとりまとめ
10. 論文発表
図-4 生態・社会複合文化系の概念図
11. 平成 26 年報告書作成
図-2 研究フロー(平成 25 年~26 年)
(2)「まちニハ」概念の整理
「まちニハ」は,「まち」と「ニハ」の合わせた造語
であり,「いえニワ(庭)」と対比して使うために,
「ニハ」と記述している.中村が「屋敷うちに閉じ込め
られ,私物化された,自然と人の親しい縁を,ふたたび
塀の外へ解き放って,都市のなかにしつらえれば,至る
ところにまちニハのある山水都市が立ち現れるだろ
う.」3)と記しているように,現代の「ニワ(庭)」は,
一般的に家の敷地内に閉鎖的に設えられている場合が多
い.一方で,『字通』4)によると,「場」の古訓に「ニ
ハ」があり,第一義に「神を祭るところ,祭壇のあると
ころ」とあり,続けて,「とりいれば,はたけ」とある
ように,「ニハ」は,元来,祭事空間や作業場など公共
的性格を持った空間であったことが伺える.
(4)本研究の対象エリア
本研究は,密集度が高い都市部を対象としており,3
章以降は,「まちニハ」のケーススタディとして,人形
町駅,浜町駅,水天宮前駅周辺に広がる界隈性を考慮し
て,下図に示すエリア(人形町 1~2 丁目,浜町 1~3 丁
目,蠣殻町 1~2 丁目,久松町,富沢町,堀留町 1~2 丁
目の地区程度)を対象エリアとして設定した.(※ 次
年度以降の当社の地域貢献活動への寄与を意識したもの
としている.)
自然
社会
公
私
私
私
まちニワ
図-3 本研究の対象エリア
公
私
2.既往研究の整理(「まちニハ」概念の整理)
図-5 「まちニハ」の表出する場のイメージ
36
c)居心地のよい縁からの眺め
内と外の境界部分に居心地のよい場所(例:庇,縁台,
テラス,四阿)が確保され,眺望(視点場と視対象の関
係)が確保されていることである.
「山水の気配」が感じられるものや「賑わい」が感じ
られるものが視対象になるため,視対象となり得る他の
条件が成立していることが必要になる.
物理的な指標:視点場の有無,視対象の有無
心理的な指標:快適性,心地よさ
(3)「まちニハ」の成立条件
「まちニハ」が空間に成立する条件と,それぞれの条
件が意図するところを以下に示す.これらの成立条件を
取り込む程度を向上させることにより,「まちニハ」度
の高い空間になると考えることができる.
· 山水の気配
· 半閉鎖自由空間
· 居心地の良い縁からの眺め(身体感覚と軒先景)
· モノの形というより,場の表情
· 人の気配,賑わい(社交性)
· 回遊による読み取り
· 公私のあいまい性
· 持続的な維持の仕組み
a)山水の気配
「山気水脈」というように山の気配を感じ,水の流れ
を感じられる空間であることである.
都市の中に取り込まれた自然は,程度の違いはあるが,
自然を象徴化したものである.都市内の緑と水辺を見る
と下図のような関係を見ることができる.
図-7 居心地のよい縁からの眺めの例
人間(象徴的)←
→自然(原生的)
緑:盆栽・鉢植え‐庭‐公園・緑地‐里山‐奥山
水: 遣り水 ‐ 水路 ‐ 中小河川 ‐ 大河川
(事例:京都市高瀬川)
d)モノの形というより,場の表情
一つ一つの造形(デザイン)が洗練されていることは
重要ではなく,むしろ個々の造形が統合されてできる空
間の雰囲気とも言えるものが備わっていることが必要で
ある.そこには,「二十四節気,七十二候」というよう
に日本人特有の季節感や一日の時間変化,天候の変化に
対する繊細な感覚が生きていると考える.
オギュスタン・ベルク5)は,日本人の敏感な感受性に
ついて,たとえば「雨」は単なる降水という現象ではな
く,ある雨は,ある特定の季節にしか降らないし,特定
の時間にしか降らないと言い,小雨,大雨,氷雨,地雨,
俄雨,時雨,五月雨,豪雨,白雨,梅雨などがあること
を挙げ,「特定の,他のものでは置き換えられない雰囲
気をかもし出す喚起作用」があることを指摘している.
物理的な指標: 季節感,時間を演出するものの有無
心理的な指標:季節感,時間の感受
e)人の気配,賑わい(社交性)
社交性とは,「個人が集まって社会をつくろうとする
人間の特性」6)とされており,人の気配,賑わいが感じ
られる空間であることであり,日常的に人が居れる場所
としての空間であることである.例えば,縁台や四阿,
カフェテラスなどの装置を設えたり,社寺の祭礼や地域
のお祭りや音楽イベントなど非日常的な空間の演出など
によりもたらされる.
物理的な指標: 利用者数,イベント等の有無
心理的な指標: 人の気配,賑わいの感受
物理的な指標:緑量,緑被率,緑の所有者(公・民)
心理的な指標:自然の感受
図-6 絵図に見る「まちニハ」空間
(橋上,橋詰,店端など至るところに自然を取り入れ,人
の居られる空間が生まれている様子が描かれている.)
b)半閉鎖自由空間
自由でありながら,空間として適度な囲われ感が感じ
られることである.実際には利用の制約を受けていたと
しても,行動をアフォードされることにより,制約を受
けていると感じない空間であることである.
また,一般に開かれた場所であり,誰もが自由に使え
る空間であることの意も含まれる.
物理的な指標:人が移動できる物理的空間スケール
心理的な指標:囲われ感(囲繞感)
37
表-1 「まちニハ」の創出手法の例
f)公私のあいまい性
「公」領域で「私」的な利用がされていること,ある
まちニワの成立条件
条件を満たす手法
具体的内容
・ 居心地の良い縁からの眺め ・ 居場所をつくる
・ 縁側
いは,「私」領域で「公」的な利用がされていることに
・ 芝生、ベンチ
・ 建物の縁を開放する
・ 軒下開放、雁木
より,公私の領域と利用があいまいになることである.
・ カフェ(公への眺め)
・ 眺めを提供する
・ 眺めの良い場所を選ぶ(選地)
また,利用の仕方や境界部分の設えにより,見えとして
・ 眺めの保全
・ 眺めを意識付け
「公」と「私」の境界があいまいであることも含まれる. ・ 半閉鎖自由空間
・ 仕切る(囲われ感をつくる) ・ 壁面、ガラス窓
・ ふすま、障子
物理的な指標: 視覚的な境界の有無
・ ついたて、暖簾
・ 結界
・ 庭石
心理的な指標: 境界の感受
・ 植栽、生垣
・門
・ 山水の気配
生態象徴 Eco-symbolism
・ 程よいスケールをつくる
・ 対人距離(程良く離れる)
・ 水の流れを取り込む
・ 遣り水
・ 湧水
・ 河川・・
・ 緑を取り込む
・ 縮景(盆栽、植木鉢、築山、流れ・・)
・ 借景
・ 見越しの松
・ 表出する自然を保全する
・ 地形を保全する
・ 崖線の緑
・ 尾根道、谷道
・ 自然発生的な道
・ 賑わい(社交性)があること
・ 自然を崇拝する
・ 塞の神(稲荷、地蔵、道祖神、庚申塚)
・ 賑わう場をつくる
・ 盛り場
・ 祭り、イベント
・ 神事
・ 場所の表情があること
・ 季節、時間
・ 桜、紅葉、雪
・ 早朝(朝焼け)、夕暮れ時(夕焼け)
・ 天候
・ 雨(時雨、にわか雨、梅雨、霧雨・・)
・ 雲(すじ雲、うろこ雲、ひつじ雲、雨雲、入道雲・・)
・ 風(そよ風、北風、春一番、木枯らし、からっ風・・)
・ 季節感を演出する
・ 歳時記(季節のイベント)
・ 風鈴
・ 俳句、和歌など
図-8 公私のあいまい性を演出している例(中央区人形町)
・ 回遊による読み取りで理解の ・ ネットワークする
深まる場所であること
・ まちの奥行きをつくる
(境界部分の遮蔽(植木鉢,行燈),壁面の奥行き感
・ 意味づけをする
・ 公私のあいまい性
(のれん,木窓)が効果的)
・ 名付け
・ 境界をぼかす
・ 植栽でぼかす(かくす)
・ 境界をデザインする
・ 表面(舗装)の素材を統一する
・ 境界をはみ出す
・ 盆栽、植木鉢
・ 見越しの松
・ 私を公に開く
・ オープンカフェ
・ オープンガーデン
・ 軒下開放
・ 通りニワ
3.「まちニハ」提案に向けた基礎調査
「まちニハ」提案を実施するための基礎調査として,
文献資料(古地図,絵図,古写真等)の収集,対象地の歴
史的変遷の整理,上位,関連計画の整理を行なった.
(1)文献資料の収集
文献資料として,古地図,古写真等を収集した.収集
文献の一覧は,表-2 に示すとおりである.
清洲橋通り
浜町川緑道
人形町通り
f)回遊によるよみとり
公共的・大規模な「まちニハ」から私的・小規模な
「まちニハ」まで様々な属性(型,公私,スケール)の
「まちニハ」が存在することにより,まちに奥行き感が
生まれ,ネットワーク化されることにより,まちの回遊
性は向上すると考えられる.
たとえば,研究対象エリアは,大通りに挟まれたグリ
ッド状の街区で奥行きに乏しい街並みと評価されがちで
あるが,街区の内側には小さな路地や商店,社寺が残っ
ており,「まちニハ」として息づいている.
物理的な指標: ネットワーク性
心理的な指標: ―
表-2 収集文献資料一覧
NO
資料名
分類 NO
1 江戸東京市街地図集成1657-1895(明治9)
2
江戸東京市街地図集成Ⅱ1887-1959
(昭和31年~34年)
地図
3 江戸明治重ね地図
新大橋通り
図-9 研究対象エリアにおける「奥行き感」のイメージ
資料名
分類
16 水のまちの記憶~中央区の堀割をたどる~
17 中央区の橋・橋詰広場
書籍
18 中央区の昔を語る
4 20世紀の東京 日本橋区之部(明治38年刊)
19 中央区沿革図(日本橋編)
5 記念まちの俤(昭和2年刊)
20 中央区基本計画2008
6 大東京冩眞案内(昭和8年刊)
21 中央区基本計画2013
7 大東京觀光アルバム(昭和12年刊)
22 中央区住宅マスタープラン
8 中央区 町会・自治会ネット
23 中央区商店街振興プラン
9 中央区三十年史(昭和55年史)
24 中央区水辺利用の活性化に関する方策
計画
写真
(2)「まちニハ」の創出手法
「まちニハ」の成立条件について,具体化を図るため,
それらを満たすための想定される手法を表-1 に示す.
10 中央区史(昭和33年刊)
25 中央区総合交通計画
11 東京市内商店街ニ関スル調査
26 中央区耐震改修促進計画
12 日本橋区史参考画帖(大正5年刊)
27 中央区緑の基本計画
13 日本地理大系3(昭和5年刊)
14
日本地理風俗大系 大東京 豆南諸島 委任統治南洋(昭和14年刊)
15 日本之名勝(明治33年刊)
38
28 東京都市計画区域マスタープラン
29 神田祭巡行路
パンフ
レット

(2)歴史的変遷の整理
a)浜町・人形町界隈
図-10 より江戸期と現代の街路形状を比較すると,町
人地では,江戸時代のグリッドパターンの地割が現代に
も活かされていることがわかる.一方,江戸時代にT字
路やL字路で構成される武家地は,明治時代には,町人
地のグリッドの軸が延伸した街区形状となっている.さ
らに,図-11 に示すように震災復興事業で大きく区画整
理(道路新設,道路幅員の拡幅など)がなされ,現在の
都市の骨組みが出来上がった.昭和 16 年(戦災前)か
らの大きな区画の変更はない.


昭和 26 年(1951)5 月に現在の日本橋久松町付近の
小川橋より北西側部分の埋立完了.
昭和 49 年 5 月に残りの南東側部分が埋立完了し,宅
地・公園・道路になった.
浜町川の橋は,緑道を横断する道路となっている.
図-10 浜町・人形町界隈の歴史的変遷‐江戸・昭和重ね図7)
①現清洲橋通り新設
②菖蒲橋・浜洲橋新架
③浜町川の各橋改架
④久松橋廃橋
⑤浜町公園の拡張
図-12 江戸時代から現代に至る浜町川周辺の変遷9)10)11)
c)浜町川沿いの生活景
埋立以前の浜町川沿いの生活の様子について,「浜
町緑道は,昔,掘割になっていて浜町川と呼ばれてい
ました.川の左右には釣り船屋さんや網屋さんが有っ
て,天気の良い日には川べりに沿ってスノコに貼られ
た板海苔が干され,近くを通るとほのかに潮の香がし
ました.」12)という記述があるように,浜町川は箱崎
川,隅田川をつたって,海・川(自然)をまちに引き
込んだ生活の舞台であったことが伺える.
※ 道路の斜線部分:区画整理前
塗りつぶし部分:区画整理後
図-11 帝都復興事業区画整理対象図(1930 年)8)
b)浜町川
浜町川は,現在の日本橋小伝馬町 19 番付近で龍閑川
から南東に流れ,箱崎川にそそぐ川であった.浜町緑
道に至るまでの変遷は,以下に示すとおり.
 元和年間(1615~23)に箱崎川から東日本橋三丁目
辺りまで開削.
 元禄 4 年(1691)に拡幅・延長され,龍閑川と合流.
 明治 16 年(1883)に神田川まで延長され合流.(延
長は約 1003 間(1,825m),幅員平均約 8 間(15m))
 明治 40 年(1907)には,箱崎川河口から川口橋・蛎
図-13 埋立以前の浜町川沿いの様子13)
浜橋・久松橋・小川橋・高砂橋・栄橋・千鳥橋・汐
(中央に見える橋は,甘酒横丁の通りに架かる蛎浜橋)
見橋・緑橋・鞍掛橋・竹森橋が架かる.
39
4.「まちニハ」のフィールドサーベイ
b)「まちニハ」の型
上記のフィールドサーベイに加えて,研究会メンバー
による独自調査を実施し,研究対象エリアの「まちニ
ハ」らしい空間を抽出し,写真記録した.その結果を整
理すると,以下に示す 7 つの「まちニハ」の型に分類す
ることができた.
(1)フィールドサーベイの概要
基礎調査を踏まえ,対象地における「まちニハ」のフ
ィールドサーベイを行った.概要を以下に示す.
表-3 フィールドサーベイ概要
日時
7月10日
7月19日
10月30日
概要
【参加】研究メンバー
【目的】・基礎調査により明らかになった橋
跡,吉原跡,裏河岸跡,緑道の確認
【参加】研究メンバー,学識者
【目的】・基礎調査により明らかになった橋
跡,吉原跡,裏河岸跡,緑道の確認
・対象地内の「まちニハ」の型,分
の確認
【参加】研究メンバー
【目的】・対象地内の「まちニハ」の型,分布
の確認
表-5 「まちニハ」の型
NO
マップ
での表示
型
写真
公園型
1
緑
公園内に形成されているもの
境内型
2
赤
神社周辺の空間に形成されているもの
公開空地型
3
再開発により創出された空間に形成されているもの
オレンジ
緑道型
4
黄緑
緑道内に形成されているもの
街路型
(2)フィールドサーベイの結果
フィールドサーベイの結果は以下に示すとおりである.
a)土地の履歴の確認
フィールドサーベイでは,基礎調査により明らかにな
った橋跡,旧吉原跡,河岸跡等があった場所について,
現状の確認を行った.
表-4 土地の履歴の確認状況
場所
蛎浜橋跡
小川橋跡
旧吉原跡
小川橋よ
り上流
水色
一般の街路空間に形成されているもの
路地型
6
青
狭小道路と建築の間に形成されているもの
店先型
7
ピンク
店舗と街路の間の空間に形成されているもの
c)「まちニハ」のスケールと公共性
「まちニハ」のスケールと公共性の観点で,「まちニ
ハ」型は下図のように整理できる.
· 面的まちニハ:公園型,公開空地型
· 線的まちニハ:街路型,緑道型,路地型
· 点的まちニハ:神社境内型,軒先型,店先型
街路型
大
緑道型
スケール
裏河岸
竃河岸
現況
浜町緑道と甘酒横丁の交差点に位置する.微地形の
起伏から,橋の名残が感じられる.
現在の久松町交差点に位置する.明治19年に浜町河岸
で殉職した小川警部補の碑が残る.
江戸時代初期に吉原ができた場所で,明暦大火後に
浅草周辺に移設され,旧吉原と言われた.現在も産
土神である末広神社が近くに残る.
町人地と武家地を分かつ水路であった.現在,水路
は埋め立てられ,水跡両側にあった道路空間にも建
物が立ち並ぶ.
江戸期には西緑河岸,東緑河岸であり,明治期以降
には,水路沿いに建物表記あり.現在,下流側の浜
町緑道に対して,幅員の小さい道路が残るのみ.
5
小
公開空地型
店先型 路地型
私
公園型
神社境内型
公共性
公
図-15 「まちニハ」のスケールと公共性
d)「まちニハ」の性質
その他,確認できた「まちニハ」の性質を示す.
· 「まちニハ」の中にさらに小さな「まちニハ」がある
というように,「まちニハ」は入れ子状である.
· 社寺の敷石や塀に真・行・草という形式が見られる14)
ように,「まちニハ」にも格が存在する.例えば,緑
には生態象徴性-生物多様性があり,水には遣水(親
水緑道・公園)-小水路-中小河川-大河川,道には
露地-路地-緑道-街区道路-幹線道路がある.
· まちなかに点在する様々な型の「まちニハ」は,ネッ
トワークすることにより,まちに奥行きが生まれる.
図-14 浜町緑道周辺の整理図
40
5.「まちニハ」のスタディ
b)「まちニハ」カルテの作成
a)項で整理した基本条件と成立条件を元に,浜町・人
形町界隈の「まちニハ」を評価するため,図-16 に示す
「まちニハ」カルテ(案)を作成した.
(1)浜町・人形町界隈の「まちニハ」の現状評価
a)「まちニハ」評価の指標整理
「まちニハ」空間を評価するために,下表に示すとお
り,スケール,所有形態,緑や水の所有,利用や維持管
理の主体を「まちニハ」の物理的な基本要件を示す指標
として整理し,3 章で整理した「まちニハ」の成立条件
を「まちニハ」の質を評価する指標とした.
表-3 「まちニハ」の評価指標
まちニハ基本条件
まちニハ成立条件
物理的な空間評価として
共通に整理できる事項
評価者の記述のみでしか
表現できない事項
条件
スケール
内容
小
⇔ 大
所有
公・私
緑
公の緑の割合
私の緑の割合
水
公の水の割合
私の水の割合
利用の主体
維持管理の主体
条件
1.居心地のよい縁からの眺め
視点場、私対象の関係の成立
2.半閉鎖自由空間
視点場の充実(身体性)
3.山水の気配
緑の量、質
地域住民
オフィスワーカー
来訪者
4.場の表情
地域住民
ビル管理者
公共
5.賑わい、社交性
季節性、歴史性
6.回遊による読み取り
c)「まちニハ」マップの作成
浜町・人形町界隈「まちニハ」マップを作成した.
図-16 「まちニハ」カルテ(案)
図-17 作成した「まちニハ」マップ
41
(2)「まちニハ」スタディの成果
「まちニハ」マップの作成により,「まちニハ」型ご
との分布特性を明らかにした.その成果を表-6 に示す.
大スケールの「まちニハ」は,隅田川沿いや再開発さ
れた区画に多く分布し,一方,スケールが小さく「ま
ち」の奥とも言える場所にある「まちニハ」は,浜町緑
道を隔て,両側に広く分布している.浜町緑道は,浜
町・人形町界隈において,浜町南北方向のネットワーク
の一つとして,重要な役割を担っていると考えられる.
緑道内のせせらぎは稼働停止中
桜の季節の様子
(夜は,花見が開催される)
表-6 「まちニハ」の分布の特徴
まちニハの型
01:公園型
まちニハ
02:境内型
まちニハ
03:公開空地
型まちニハ
04:緑道型
まちニハ
05:街路型
まちニハ
06:路地型
まちニハ
07:店先型
まちニハ
分布の特徴
数は多くないが,スケールが大きいものが多
く,対象地の周縁に分布している.
スケールは小さく,対象範囲全体にまんべん
なく多数分布している.
スケールは大小様々であり,分布には規則性
がみられない.
主に,浜町緑道と浜町公園前の緑道を指す.
浜町緑道が対象地を分断するかたちとなって
いる.
主に,甘酒横丁と新大橋通りを指す.対象地
を分断し,浜町緑道と交差する.
スケールは小さく,浜町緑道と人形町通りに
挟まれた地域に集中して分布している.
スケールは小さく,人形町通り,甘酒横丁沿
いに集中している.
緑道脇の駐停車の様子
甘酒横丁と緑道の交差部
(緑道の動線は分断される)
図-18 浜町緑道の現状
(2)「まちニハ」の提案・実現化の課題整理
「まちニハ」の創出に向けて,人の居れる場づくり
(歩行者優先の道づくり,みんなに優しい公園づく
り)が必要である.
ここでは,前節の課題に対応して,浜町緑道のポテ
ンシャルを活かして,図-19 に示すとおり,「まちニ
ハ」空間を創出する提案を行った.また,実現化に向
けた視点を図-20 に整理した.
6.「まちニハ」実現化の課題整理
浜町公園との連携
(1)浜町緑道の現状と課題
浜町・人形町界隈において,「まちニハ」のネットワ
ークにおいて重要になる浜町緑道を対象に,「まちニ
ハ」創出における現状と課題を整理した.結果を,表-7
に示す.
歩道に面した緑地の連続性
甘酒横丁+浜町緑道
交差点スペースを
生かす
コミュニティ道路化
(車のスピード制限)
歩道部と緑道の一体化
一体化
表-7 「まちニハ」の成立条件から見た浜町緑道の現状と課題
歩行者優先
成立条件
課題
モノの形というより,
場の表情
○ 浜町川の名残(線形,道路構造,橋梁位置(現在は道路)
はあるが,明示的ではない.
○ 様々な植栽による季節感の演出(キンモクセイ等)
人の気配,賑わい
(社交性)
× 保育所の散歩コースであり,親子連れの散歩や休憩,
朝や昼の食事などにも利用されるが,利用される時間は
限定的で,平時は,周辺に比べて人通りが少なく,賑わ
いは感じられない.
(特に,夜間は暗がりが多く,人の気配は少ない.)
○ 桜まつりの時期には,夜間に花見客で賑わいを見せる.
山水の気配
○ 地域の中でも樹種,緑量は豊富
× 緑化の質は低い.往時の水の気配は感じられない
半閉鎖自由空間
○ 中高木や四阿が,半閉鎖的な空間を創出
× 横断防止柵で横断方向の移動に制約。
(主要道からのアクセスに限定)
居心地の良い縁
からの眺め
(身体感覚と軒先景)
○ 緑道の中にベンチや四阿があり,居れる空間はある.
× 眺める対象としての山水,人の気配の質が不足.
回遊による読み取り
○ 地下鉄3路線3駅を利用可能でグリッド状の街区パターン
であるため,個々の目的地へ様々なアクセスルートがあ
る。(回遊しやすい)
× 緑道でアクセスが制限され,地域の回遊性が低減する.
公私のあいまい性
○ 枝張りのある高木が空間をつなぐ役割を担っている.
× 公-私の領域,公-公の領域が明確に仕切られている.
(領域のあいまいな場所が存在しない.)
ぬけ道をつくる
図-19 「まちニハ」創出方法の一提案
運営・維持管理の仕組み
公(道路)-私(民地)の境界
公(道路)-公(緑道)の境界
利用形態の再配分
水の引き込み
図-20 「まちニハ」実現化の視点
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とするとともに,実現化に向けて一般化した方策を検討
し,「まちニハ」実現化のノウハウ集としてとりまとめ
ていく必要がある.
(3)「まちニハ」実現化に向けた課題整理
「まちニハ」空間創出の実現化に向けた課題として,
以下のものが挙げられる.
表-8 「まちニハ」実現化の手法(課題)
視点
公‐公の境界
の改善
公‐私の境界
の改善
利用形態の再
配分
水の引き込み
運営・維持管
理の仕組みづ
くり
手法(課題)
· 浜町緑道の交差点部の連続性確保
· 緑道に交差する動線の確保
謝辞:本研究は,中村良夫先生(東京工業大学名誉教
授)との定期的な研究会の場で議論を継続することによ
り,「まちニハ」概念の深化を重ねることができた.
ここに,共同研究者としてご指導いただいた中村良夫先
生に心からお礼申し上げる.
· 民地の歩道に面した緑地の連続性確保
· 民地前面の公共的利用(人が溜まれる
設え,見られる設えづくり)
· 車道,歩道,緑道の再配分
(車道幅員の減少)
· コミュニティ道路化
· 浜町川を偲ぶせせらぎの創出
· 水源確保
· 地域住民(自治会等)が管理する仕組
み(ex. まちかど花壇など)
· 地元企業の参画できる仕組み
参考文献
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
7.今後のすすめ方
8)
今年度は,「まちニハ」の概念を整理した上で,浜
町・人形町界隈の「まちニハ」の状況を整理してきた.
これらの成果は,この界隈を活動圏とする筆者らが,大
人の視点で抽出してきたものである.一方で,この界隈
を生活圏とする居住者や生業を営む商業者,小学校・中
学校に通う子どもたちが,どのような場所でコミュニテ
ィを形成しているかを把握し,「まちニハ」の成立する
場を検証するために,多様な視点で評価していく必要が
あると考える.
また,まちニハ空間創出の提案をより具体性あるもの
9)
10)
11)
12)
13)
14)
岡村幸二ら:生態・社会複合文化系の再構築に関する研
究,国土文化研究所基礎研究,2012
中村良夫:都市をつくる風景‐「場所」と「身体」をつ
なぐもの,藤原書店,2010
2)と同じ
白川静:字通,平凡社,1996
オギュスタン・ベルク,『風土の日本』,ちくま学芸文
庫,1992
デジタル大辞泉
DVD-ROM版 江戸明治東京重ね地図‐江戸東京検索データ・
ブック【増補改訂版】,2004
中央区教育委員会:中央区沿革図集: 日本橋篇,東京都
中央区京橋図書館, 1995
7)と同じ
地図資料編纂会編:5千分の1 江戸-東京市街地図集成 第
1期,柏書房,1988
地図資料編纂会編:5千分の1 江戸-東京市街地図集成 第
2期,柏書房,1990
中央区町会・自治会ネットHP,
http://genki365.net/gnkc08/pub/sheet.php?id=280
9)と同じ
山田圭二郎:間と景観,技報堂出版,2008
A FUNDAMENTAL STUDY ON THE METHOD OF CREATING “MACHI-NIWA”
- FOCUSED ON NIHONBASHI-HAMACHO AND NINGYOCHO Yoshinori Iida1), Mizuba Makiko2), Katsumi Uno3),
Nobukazu Koreeda4), Yoshio Nakamura5)
In reference to the concept “Machi-niwa”, which was proposed in previous study “A study on Socio-Ecological
Cultural Complex in urban Milieu (2010~12)”, the objectives of this study are following three topics: 1. To recapture
the state of being of the space in and around “Hamacho-gawa pedestrian path”. 2. To discuss the propositions and
methodologies aimed at realization of thus concept. 3. To look into the feasibility of “Machi-niwa” in denselypopulated urban areas.
In the year of 2013, we began with clarifying of the concept, conditions and evaluation axis. On that basis,
evaluation of the current condition of “Hamacho-gawa pedestrian path” and its neighborhood was conducted.
Moreover, we provided the case study which applied thus concept “Machi-niwa”, and the issues for crystallization of
it.
Key words: Machiniwa, field, body, eco-symbolism, field survey, public-private ambiguity
43