人口経済論 第7回 2006年6月5日(月) [email protected] 1 地球環境と食糧需給 ビョルン・ロンボルグ(山形浩生訳)2003『環 境危機をあおってはいけない:地球環境のホ ントの実態』文芸春秋. 2 環境現象(含む人口)を見るときのポイ ント 世の中、よくなっているのか? ものごとは改善しているが、十分ではない ・よくなっているかどうか ・水準が十分かどうか 大事なことはトレンドである 以前よりもよくなっているのかどうかをみる こと 3 環境現象(含む人口)を見るときのポイ ント グローバルトレンドをみる重要性 グローバルな数字は、良い話も悪い話もす べてひっくるめるので、全体的な状況がどうか を判断できるようにしてくれる。 (ただし、地域差に着目しないことを意味するわけではない) 長期トレンドと短期のリバウンド 4 環境現象(含む人口)を見るときのポイ ント 悪いニュースばかり流される ・研究と偏り ・メディアの影響:悪いニュースがニュース 5 「人類を養うための戦いは終わった。1970年代の うちにこの世界は悲劇的な割合で飢餓を体験するこ とになるだろう- 何億もの人々が飢え死にすることに なる」(ポール・エーリック『人口爆弾』1968年) 「開発途上国の国々で起こっている食糧問題は、 人類がこれからの数十年で直面する解決困難な問 題の一つだろう」1965年レスター・ブラウン(ワールド ウォッチ研究所所長) →2人とも間違った。人口は1961年の2倍になった が、先進国発展途上国のどちらでも一人当たりの食 料はもっと増えた。 6 「人類を養うための戦いは終わった。1970年代の うちにこの世界は悲劇的な割合で飢餓を体験するこ とになるだろう- 何億もの人々が飢え死にすることに なる」(ポール・エーリック『人口爆弾』1968年) 「開発途上国の国々で起こっている食糧問題は、 人類がこれからの数十年で直面する解決困難な問 題の一つだろう」1965年レスター・ブラウン(ワールド ウォッチ研究所所長) →2人とも間違った。人口は1961年の2倍になった が、先進国発展途上国のどちらでも一人当たりの食 料はもっと増えた。 7 地球環境と食糧需給 1.古典派経済学の人口・食糧論 (1)マルサス理論の誤謬(ごびゅう)と有効性 (2)人口圧力と農業開発 2.飢餓と飽食の共存 3.緑の革命とその影響 4.食糧輸出国と輸入国の現状 5.食糧需給の展望 8 1.古典派経済学の人口・食糧論 (1)マルサス理論の誤謬(ごびゅう)と有効性 マルサス(Thomas Robert Maltus 1776-1834)の有名な人 口論(初版は1798年)において、次のことを仮定した。 ・食糧は人間の生存に不可欠であり、また、両性間の情欲は これからも変わらない。 ・人口は幾何級数的(1,2,4,8・・・)と増加するのに対し、食料 は算術級数的(1,2,3,4,・・・)にしか増産できない。 ・その結果、人口が食糧を超えて増加しようとする過程で、必 然的に、社会に貧困と悪徳をもたらすとともに、過剰人口が 淘汰され、そうした自然の秩序の本で、人口は抑制される。 9 1.古典派経済学の人口・食糧論 (1)マルサス理論の誤謬(ごびゅう)と有効性 マルサス理論によれば、常に、食料の供給は 潜在的な食糧需要に追いつけず、人間社会 にはいつでも食糧危機もしくは食糧問題が存 在せざるを得ない。そして、結果的には、人口 は算術級数的にしか増加できないこととなる。 しかし、第2次世界大戦後に発生した人口増 加の事実はマルサス理論を否定する。大局 的に見る限り、マルサス理論は間違っている。 10 1.古典派経済学の人口・食糧論 (1)マルサス理論の誤謬(ごびゅう)と有効性 その最大の理由は、農業における技術進歩 の可能性を見落としたことにある。マルサス 理論では、農業技術を固定化し、収穫逓減の 法則が作用すると仮定した。短期的には正し い。しかし長期的には農業技術の開発努力 がなされる限り、技術進歩による食糧供給力 の逓増的拡大が可能となる。 →緑の革命 11 1.古典派経済学の人口・食糧論 (1)マルサス理論の誤謬(ごびゅう)と有効性 とはいえ、マルサス理論はまったくの誤謬として切り 捨てられるか? →できない 結局のところ、人口増加の水準と農業技術開発能 力の相対的関係が問題。歴史的にはマルサス的状 況は短期的に、絶えず地球上のどこかで発生してい た。→南北問題 12 1.古典派経済学の人口・食糧論 (1)マルサス理論の誤謬(ごびゅう)と有効性 先進諸国では、一般に低い増加率に比べ、 高い経済発展を前提条件とした農業技術開 発努力が行われて、マルサス理論が通用しな かった。 途上諸国では、高い人口増加率に比べ農業 技術開発努力が十分でない場合が多く、マル サス理論が通用する地域がある。 13 1.古典派経済学の人口・食糧論 (2)人口圧力と農業開発 ボズラップは、人類が、耐えざる人口圧力の 下でこそ、農業技術を初期の焼き畑農業から 休耕農業さらには連作制へと進化させ、農業 生産性を高めてきたと主張する。 ただし、過度な人口圧力は、直接に食糧問題 や貧困と結びつき、農業発展にもマイナスに 作用する可能性が強いので、人口圧力は両 刃の刃。 14 1.古典派経済学の人口・食糧論 (2)人口圧力と農業開発 人口が大きいことは、一方で豊かな労働力を 提供するとともに、他方で、大きな国内市場を その国の産業にもたらすので、国力を増大さ せ、規模の経済が働く有利性を持っている。 しかし、経済や社会がいまだ未熟で、そうした 有利性を発揮できる経済運営を欠く場合は、 失業問題や職業問題が深刻化し貧困から抜 け出せない。 15 2.飢餓と飽食の共存 世界の食糧生産は、先進国での農業開発研究の 進展と途上国での「緑の革命」の成果もあって過去 約30年間に著しい増産を達成した。先進諸国にお いては「飽食の時代」が到来。 一方で途上国に飢えにあえいでいる人がいる。 同じ世界、同じ時代に、「飢餓」と「飽食」が共存し ている。これこそ、現在の世界食糧問題の本質のひ とつ。 16 3.緑の革命とその影響 (1)緑の革命:国際技術移転の成功 第2次世界大戦後、途上国の人口爆発によって世 界の食糧需要は著しく増大したが、それによっても たらされたかもしれない世界的な食糧危機の回避に 最大の貢献を果たしたのが「緑の革命」。 1960年代に、アメリカ・日本などによる農業開発国 際協力の一環として、フィリピンに国際稲研究所、メ キシコに国際とうもろこし・小麦改良センターが設立 される。先進国側の研究者が中心となって、それぞ れの現地条件の下で高収量の新品種を開発。 その結果、世界のコメ・小麦・とうもろこし生産は30 年間で倍増した。 17 3.緑の革命とその影響 (2)緑の革命の技術的特性 例:茎が短くて太く葉が二項を受け入れやす いように直立。効率よく大量エネルギーの吸 収をおこなう。 例:多作化が可能となる。 欠点:病害虫に弱い、味が悪い 18 3.緑の革命とその影響 (3)緑の革命の経済・社会的影響 マクロ的貢献 緑の革命の結果、インドやインドネシアなど人口大 国をはじめとして多くの途上国での食糧供給を飛躍 的に拡大させ、各国の食糧自給率を高めた。また世 界の需給バランスの改善に貢献。供給増大により穀 類価格が低下し、途上国の低労賃が維持され国際 競争力を強めて工業化に貢献し、また、貧困層の食 糧アクセスを容易にして社会的緊張緩和にも役立っ た。 19 3.緑の革命とその影響 (3)緑の革命の経済・社会的影響 農村経済社会への影響 ネガティブな側面:従来から農村にあった共 存的社会慣行が破壊され、零細農家が資金 欠如と技術的無知から肥料・改良種子を入手 できず、また、水利条件が悪い地域は緑の革 命の恩恵に浴せず、農民間・地域間所得格 差が増大した。 20 3.緑の革命とその影響 (3)緑の革命の経済・社会的影響 農村経済社会への影響 ポジティブな側面:農作物の集約化や多期作 化によって土地なし労働者や劣悪地域からの 出稼ぎ者に追加的就業機会を与えた。また、 農村賃金の均等化にも作用したので、むしろ、 労働分配所得を高めて経済的不平等を縮小 させた。コメの実質価格の低下が貧困層の低 所得問題を緩和した。 21 3.緑の革命とその影響 (4)緑の革命の今後の展望 2つの修正 肥料農薬多投からの転換 穀類集中からの転換 22 4.食糧輸出国と輸入国の現状 世界各国は、食糧需給バランスの不一致を 食糧の輸出入で調整している。食料のうち最 も重要な農作物は穀物である。 世界諸地域の穀物純貿易量(輸出と輸入の 差)によって区分したものが表4-1 23 24 5.食糧需給の展望 (1)食糧需給の変動要因と将来予測 需給:経済発展水準、経済成長率、為替・外貨事 情、国内食品流通機構、貿易自由化政策のいかん を含む食糧政策など。 需要:人口増加率と年齢構成の変化、所得水準と その増加率、嗜好変化、都市化、女性の社会進出、 食品加工産業・外食産業の発展など。 供給:耕地面積の変化、生産調整面積、土壌流出、 土地の砂漠化、砂漠の緑化、個別作物の作付面積 構成の変化、農業技術革新、土地生産性の変化、 地球温暖化、気象変化など。 25 5.食糧需給の展望 (2)食糧需給の地域別展望 食料輸入低所得途上国:アフリカ諸国中心 経済発展がいまだ軌道に乗らずに低所得水 準にあり、しかも人口増加に食糧増産が追い つかず、今後も需給のアンバランスが拡大し 食糧不足が続くか(?)。 援助食糧に頼らねば餓死者を出すほどに食 糧不足が構造化している国は、安定した食糧 基盤なしに経済発展はありえず、早急にその 改善が必要。 26 5.食糧需給の展望 (2)食糧需給の地域別展望 食料輸入先進国:日本が典型 穀物と畜産物とをあわせた食料輸入は将来 も増大する可能性が高い。 国内農業保護をWTO体制下で以下に行うか が重要な課題。 27 5.食糧需給の展望 (2)食糧需給の地域別展望 食料輸出先進国:アメリカ、カナダ、オースト ラリアなど これらの国の食糧供給力は、WTO体制の下 では輸出補助が低く抑えられることにより縮 小される可能性がある。しかし、需給穀物バ ランスが崩れて濃く最古価格の上昇が生じた ら、輸出余力が増大する。 28 5.食糧需給の展望 (2)食糧需給の地域別展望 食料輸出途上国:タイ、アルゼンチンなど これらの国の食糧供給力は、WTO体制の下 では今後高まり、さらに国際協力などでの技 術導入・技術革新が進めば、農産物及び加 工食品の輸出拡大も可能である。 29 5.食糧需給の展望 (3)世界全体としての食糧需給 食糧危機が発生するかどうかは、食料輸入 低所得途上国で適切な食糧増産が実現でき るかどうかにかかっている。 このグループへの国際的な食糧の直接援 助は、必要最小限の短期に限るべきである。 さもないと援助した食糧が自助努力の阻害要 因となる。 30
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