フォーメーションフライトによる 干渉合成開口レーダー (INSAR)地球観測ミッション 東京大学大学院 中須賀研究室 金色 一賢 桑田 良昭 鵜川 晋一 石川 早苗 本ミッションの目的 合成開口レーダー(SAR)搭載衛星6機を用いて 次の3種のミッションを行う 全世界デジタル高度地図作成、極地方3 次元観測 - 高度577kmでフォーメーションフライトによるINSARを行う 高精度観測・多周波数・超広域観測モードで撮影可能 リアルタイム3次元災害観測 - ひとたび災害が起こると、撮像機会が多い回帰軌道に移行。1日1回 以上の撮像が可能 フォーメーションフライト技術立証 - CDGPS計測、無線LANによるクロスリンク、自律分散制御など 本ミッションの意義 + + + 衛星からの観測による、実用的な大規模高性能 リアルタイム3次元観測への要望は、非常に高い リアルタイム3次元地球観測が求められる分野 デジタル標高図(DEM)の作成 (cf.毛利さんの実験) 地表面の変動観測 (地震・火山活動に伴う地殻変動、都市の地盤 沈下 、地滑り、氷河の移動) 建造物(ダム含む)のひずみ検出 、土地被覆分類、特徴抽出など 今のところ地殻の高度変動等を知るための有効な代替 方法が(衛星に限らず)ない→ミッションへの強い要望 迅速かつ高頻度な災害観測への期待は特に高い INSARとフォーメーションフライトという2つの新技術の 融合により、リアルタイム3次元観測を達成する。 合成開口レーダー(SAR: Synthetic Aperture Radar)とは 広がりを持った電波ビームを、移動しながら面に当て続け 撮像するレーダー (移動距離=光学レンズでいうレンズ径) 観測量 : 地面反射波の 強度分布 特徴 o 全天候性、昼夜不問 o 雲など透過性をもつ o 撮像物質を判別できる x 高さ方向の情報はとれない x データ量が膨大 x 真下や斜面の撮像が苦手 図提供:NASDA SAR画像の紹介 ① 衛星ERSが撮像したSAR 画像 (解像度12.5m) Singapore Science Center提 供 ② 左と同地点を数回に分けて 多様な周波数で撮像し(マルチ スペクタルモード)、色分けしたS AR画像 (解像度:20mに低下) 干渉合成開口レーダー (INSAR:Interferometry SAR)とは 少し離れた場所に置 かれたSAR2機、又 は2回以上の撮像に よるSARデータの位 相差を読むことで、高 度方向の分解能を持 り、3次元観測を行う 新しい技術 干渉に必要な 基線長 INSARの画像の紹介 ① スペースシャト ルエンデバーによ る、キラウェア火山 のSAR画像(NASA 提供) ② 左の画像と対に なるSAR画像を干渉 させ色分けした、INS ARによる3次元等高 線表示 ③ さらに②の白 枠内を、実際の地 形情報を加え演算 処理で補正した、 デジタル3次元高 度地図 従来のINSAR手法の問題点 今までINSARミッションは、SAR衛星1機又は航空機で実験された ■ 航空機搭載INSAR(機体両脇に2機のSARを搭載) • 衛星に比べ観測範囲が狭い → 大規模観測に未対応 • 衛星に比べ空力的外乱や制御量による誤差大きい • 干渉に十分な基線長、アンテナサイズが確保しにくい • 光学レンズと違い、衛星より地面に近くても解像度は向 上しない ■ 衛星1機でのINSAR(日を改めた撮像の重ね合わせ) きわめて偶発的、実験的にしか撮像ができない 災害観測や雨季の熱帯雨林など、変化が激しい場所 つまり撮像要求が高い場所のデータがとれない 1機に2つのSARアンテナの搭載は非常に困難 リアルタイムで衛星INSARを行えるシステムが熱望されてい フォーメーションフライトによる INSAR手法の提案 フォーメーションフライトとは、衛星が編隊飛行 をして協調してミッションを遂行する手法である 必要基線長500mはフォーメーションフライトに非常に 適した間隔である(構造物で軌道上500mは困難) いつでも撮りたいときに常時撮像可能 アンビギュイティ(あいまいさ)激減→従来の欠点解消 ■ フォーメーションフライトによって、単独のSARにもメリットが! • 多点からの同時観測 → アジマス分解能向上、データ処理改善 • 空間配置性 → 真下や斜面の撮像の不利が消える • 広範囲を同時に観測することもできる •各衛星の周波数を変える→マルチスペクトル観測を一度に行える フォーメーションフライトならではの その他の多彩な特徴 最低1機でも生き残ればミッション続行できる冗長系 軌道移行して、フォーメーションを解体し地球全域に広 がるグローバルコンステレーションとすることで、SAR撮 像機会を大幅に増加することができる システムに柔軟性がある(衛星数漸増、故障衛星の交換等) 観測方法に 選択の幅 や可能性を もたせるこ とができた ミッションからの要求(1) 軌道選定 SARが大電力消費、GPSを利用、地球観測、ノイズ軽減 → 太陽同期、円軌道、低軌道が前提 全地球規模での低レート繰り返し観測 (ノミナルモード) → 準回帰軌道が有利 一旦災害が起こると、その上空を頻繁に通過する (緊急モード) → 回帰軌道が有利 ⇒ フェーズ合わせ軌道を経由して軌道移行を行う。 移行に必要な⊿Vが最も少ない軌道の組み合わせを選定 モード M N T(min) h(km) i (deg) 広域観測 30 15 96.21 577.2 97.7 災害観測 1 15 96 566.9 97.66 (補足)災害観測軌道への移行 災害が起こったとき、そこを撮像可能な回帰軌道に素早く移 行することが可能であることを示した。 ■ 要求条件 • 災害発生から1日以内に目標点上空を通過 • できるだけ燃料消費を少なくする ■ 軌道移行の方法 フォーメーションフライト → Hohman移行+フェーズ合わせ軌道 → 災害観測軌道(回帰軌道) →Hohman移行 →元に戻る ■ 軌道選択のパラメータ • 災害を軌道上昇時に見るか、下降時に見るか • 首振り角の変化(20°~40°,-20°~-40°) • フェーズ合わせ軌道滞在時間(長いほど燃料消費減) ■ 結論 •移行のタイミングが最悪でも、35~40°ずらせば災害観測できる •1日以内でフェーズを合わせる場合、1往復で消費燃料27kg ミッションからの要求(2) フォーメーションの維持 通常フォーメーションフライトには莫大な燃料が必要となる。 そこで燃料をなるべく消費しないために、レコード盤軌道の 利用を考える。 中心軌道(白色)からある規則で少しずれた軌道上の衛星 は中心点周りを一定角速度で回転する(レコード盤軌道) • 本ミッションは、こ の軌道にいながら可 能のため、燃料をほ とんど消費することな く円形フォーメーショ ンを形成できる レコード盤軌道上の衛星群の動きを地上(上)、 レコード盤面に垂直方向(下)から見た図 (補足)フォーメーションフライト 誘導方法、隊形維持方法 ロケット打ち出し時や軌道変更直後に、レコード盤軌道に誘導す る方法、円隊形を保持する方法を考察し、シミュレートした。 ■ CW誘導則 (レコード盤軌道に誘導) 2‐impulseで予め決められた時間後(ここでは1500秒後) に各衛星の目標位置に移行する。 ■ 自律分散的制御則 (円隊形保持用) 自分から一番近い両側2衛星の動きに追従した誘導目標 を設定し、等間隔を保たせる。 →衝突回避、フォールトトレランス、漸増システムに対応 フォーメーション形成シミュレーション ミッションからの要求(3) コスト、機数 ■ コスト削減を目指した打ち上げ手法 H2Aロケット使用 → 高度577kmより可載重量5.3t 最初は1度に全機打ち上げ 必要に応じて衛星を徐々に増やすことが可能 ■ 機数への要求 • クロストラック方向に常に基線長(数百m)を保つ必要性 → 最低4機以上必要 • n機では分解能、精度、分散時の撮像レートは最大n倍向上 • 重量と一度にフェアリングに収まる大きさの制限 → トレードオフの結果、6機に決定 ミッション要求項目(4) 打ち出し機構 ■ 打ち出し機構設計例 (強度計算から重量380kg) 打ち出し直後に衛星6機が干渉しない(60°おき) H2Aフェアリングいっぱいに配置 ミッションからの要求(5) 衛星形状への要求 SARとフォーメーションフライトを同時に達成するための 衛星形状は、自由度が非常に少ない ■ 打ち出し機構,折りたたみ方法の制限 左の全てを満たす衛星 衛星収納時の最大寸法決定 形状は下の2通りのみ。 (1.7m×1.6m×1.2m) 重心中央の右側を選択。 SARアンテナ収納に最低3面使用 (首振り時慣性モーメント 太陽電池パドル収納に最低1面使用 の変化が0.3%→姿勢制 ■ 姿勢軌道制御要求から 1Nスラスタ全方位、噴流が当たらない 御のデメリットは微小) 重心をなるべく衛星中央にする ■ SARミッションから アンテナ面積をなるべく大きく(S/N比) 首振りが出来、パドルが太陽方向を向く ■ 軌道移行から 軌道移行用スラスタに1面使用 →SARアンテナの寸法が 7.2m×1.5mに決定 衛星展開、首振りの方法 ミッションからの要求(6) SARサイジング、通信方法 ■ SARサイジング 軌道要素、アンテナ寸法決定 → 3band、20~最大40° の首振り時にINSARが行え るためのパラメータ設定 平均消費電力 2520W データレート 106Mbps(Xband20°) ~1195Mbps(Lband30°) 空間分解能 2.7~3.8m 1回の撮像のデータ量は 1枚あたり最大10Gbit 程度 ■ 通信方法(例) Up-Linkには1機に対しSband(オムニアンテナ)で行う Down-Link方法の一例 ①6機(最大60Gbit) のデータを 無線LANで1機に集める ②臼田局にX-band で降ろす 共にリンク式は成立 災害時など、1機のみダウンリン ク、最も近い地上局利用など 代替方法が考えられる。 データ加工は地上で行う ミッションからの要求(7) 特別な搭載機器 ■ フォーメーションフライト用 相対位置精度<10cm : CDGPS(2cm)、慣性センサ、スラスタで達成 全機同時クロスリンク : 無線LANの宇宙転用(最大2kmで12Mbps) 隊形保持 : 1N ヒドラジンスラスタ × 8 (直方体の各頂点に配置。PWM制御。ホイールのアンロードにも利用) ■ SAR用 姿勢決定精度 : 星、太陽、地球センサ利用で5 arcsec達成。 ジャイロは安定度0.36 deg/hのものを用いる。 SARデータレコーダ : 250Gbyte(民生品ベース) = 画像約100枚分 SAR処理計算機 : 100MIPS程度(宇宙用で存在) ■ 大きな軌道移行 スラスタ 50Nヒドラジンスラスタ×4基 衛星システムブロック図 設計結果の概要 熱、強度計算も行い、ドライ重量が 約500kgとなる設計が完了している。 1機搭載可能燃料が約300kg(→災害観 測ミッション平均10回可能) 衛星の総重量が800kg→ペイロード総重 量5.2t(H2Aで1回の打ち上げが可能) 高度地図作成ミッションの寿命 5年程度 総コスト450億円、開発期間4年が目標 ミッションイメージ画像 まとめ 全世界的規模の高精度デジタル高度マッ プの生成と、リアルタイムな災害観測とい う2つのミッションを、複数衛星の協調によ り達成できることを示した。 技術面、コスト面でのフィージビリティも確 認した。 日本主導で、世界へ貢献できるプロ ジェクトとして強く提案したい。
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