コンクリートの中性化

07.建築材料の耐久性(1)
耐久性の定義

狭義


部材・材料の環境作用による劣化に対する抵抗性
広義


建築物・部材の性能の維持存続性
Durability (ISO 15686-1 : 2000)


Capability of a building or its parts to perform its required function
over a specified period of time under the influence of the agents
anticipated in service
Durability is not an inherent property of a material or component,
although the term is sometimes erroneously used as such
荷重・作用の種類(ISO 15686-1)

機械的作用


電磁気的作用


温度変化
化学的作用


放射線、電気、磁気
熱的作用


重力、拘束力・変形、熱力学エネルギー、振動
水、酸化剤、還元剤、酸、アルカリ、塩
生物的作用

菌類、動物
07-1.コンクリートの耐久性

化学的劣化
侵食性流体とセメント硬化体の間の陽イオン交換反応
 軟水によるセメント硬化体の加水分解・溶出
→空隙率と浸透性の増加

→アルカリ性の低下
→質量損失
→劣化現象の促進
→強度と剛性の低下
膨張性生成物の形成(硫酸塩による膨張、アルカリ骨材
反応、鉄筋の腐食)
→内部応力の増加

→強度と剛性の低下
→ひび割れ、スポーリング、ポップアウト
→変形
07-1.コンクリートの耐久性

物理的劣化

表面摩耗




すり減り
侵食
キャビテーション
ひび割れ

体積変化
 温湿度の変化による体積変化
 空隙中の塩類の結晶圧

荷重
 過載荷と衝撃
 繰返し載荷

極端な温度下の曝露
 凍結融解
 火災
劣化作用と維持管理限界状態

中性化


塩害


アルカリ骨材反応が生じる
化学的侵食


コンクリート表面にひび割れ・スケーリングが発生する
アルカリ骨材反応


鉄筋の位置におけるコンクリート中の塩化物イオン量が、0.3(0.6, 1.2)kgに
到達する(鉄筋の腐食開始)
凍結融解


コンクリートの中性化深さが、鉄筋位置にまで到達する(鉄筋の腐食開始)
コンクリートが侵食される
乾湿繰返し・温冷繰返し

ひび割れが発生する
劣化作用と終局限界状態

中性化・塩害



凍結融解・



(耐漏水性上)
(対人・対物安全性上、修復性上)
コンクリート表面にひび割れ発生
(耐漏水性上)
化学的侵食


コンクリート表面にひび割れ発生
かぶりコンクリートの剥落(鉄筋露出)
アルカリ骨材反応


鉄筋の腐食によるかぶりコンクリートのひび割れ発生
(対人・対物安全性上、耐漏水性上、修復性上)
腐食による鉄筋の断面欠損が数10%に到達
(構造安全性上)
かぶりコンクリートの欠落(鉄筋露出)
(対人・対物安全性上、修復性上)
乾湿繰返し・温冷繰返し

コンクリート表面のひび割れ発生
(耐漏水性上)
中性化による劣化(1)
中性化による劣化(2)
中性化(炭酸化)反応

Ca(OH)2の中性化反応
Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O
アルカリ性の消失(pH=8.5~10)

C3S2H3の炭酸化反応
C3S2H3+3CO2→3CaCO3+2SiO2+3H2O
セメント硬化体の分解
中性化速度に対する影響要因

外的要因(環境条件)



大気中の炭酸ガス濃度
温度・湿度
内的要因(コンクリートの性能・品質)




セメント・骨材・混和材料の種類
コンクリートの圧縮強度・水セメント比
部位・施工程度
仕上材の種類
炭酸ガス濃度
屋外
 屋内
 河川中
 下水中
 促進中性化試験

0.03%
0.1%程度
0.001~0.003%
0.3%
5%
外的要因(環境条件)の影響

温度
高温→CO2の拡散速度増加→中性化速度増大

湿度



相対湿度50~70%で中性化速度最大
相対湿度100%で中性化速度ゼロ
屋内と屋外


屋内は屋外の1.7倍程度
雨掛かり部分、北面(高湿)は小さい
セメント種類の影響

中性化速度(同一W/C、同一養生条件)
早強(0.6~0.8)<普通(1.0)<低熱
高炉セメントA種 (1.3) <B種 (1.4) <C種 (1.8)
フライアッシュセメントB種(1.8~1.9)

水和反応の遅いセメント→十分な養生
骨材種類の影響

中性化速度(同一W/C、同一養生条件)
川砂・川砂利コンクリート(1.0)
<川砂・軽量粗骨材コンクリート
<軽量細骨材・粗骨材コンクリート(1.1~1.5)
骨材の透気性の違い
混和材料種類の影響

AE剤・AE減水剤・高性能AE減水剤
→空気量増加→中性化速度増大
→セメント分散→水量減少→中性化速度減少

混和材(粉体)の影響
ポゾラン反応→Ca(OH)2の消費、組織の緻密化



高炉スラグ微粉末
フライアッシュ
シリカフューム
粉末度に依存
中性化速度増大
中性加速度減少
圧縮強度・水セメント比の影響

圧縮強度( ∝細孔空隙量→CO2の拡散)
圧縮強度増加→中性化速度減少
耐久設計基準強度(JASS5)
18N/mm2:一般(耐用年数30年)
24N/mm2 :標準(耐用年数65年)
30N/mm2 :長期(耐用年数100年)
・水セメント比
水セメント比減少→中性化速度減少
水セメント比40%で中性化速度ゼロ
圧縮強度と中性化速度の関係
部位・施工の影響

部位(柱・壁)
高所ほど中性化速度大(同一打込み)

締固め
十分な締固め→密実→中性化速度減少

ひび割れ
ひび割れに沿って中性化の進行

打継ぎ面
打継ぎ部下側で中性化速度著しく増大
仕上げ材種類の影響

中性化速度(仕上げ無し1.0)







プラスター
モルタル下地プラスター
モルタル
モルタル下地塗装
タイル
石張り
仕上げ材の劣化も要考慮
0.8
0.4~0.6
0.3~0.6
0.2~0.4
0.1~0.4
0.1~0.2
中性化の予測(√t則)

基本式
C=A√t
C:中性化深さ、A:中性化速度係数

岸谷式
t=0.3(1.15+3x)C2/R2(x-0.25)2 (x≧0.6)
t=7.2C2/R2(4.6x-1.76)2
(x≦0.6)
x:水セメント比
R:中性化比率(セメント、骨材、化学混和剤に関するパラメータ)
中性化の予測(拡散方程式)

CO2の拡散
∂C/∂t = D∂2C/∂x2

CO2の拡散+中性化反応
∂C/∂t = D∂2C/∂x2 - kCCa

CO2の拡散+中性化反応+炭酸化反応
∂C/∂t = D∂2C/∂x2 - R1CCa - R2CCCSH
中性化に伴うコンクリートの変質
水分が逸散した細孔空隙にCO2侵入
 CO2が細孔溶液に溶解(CO32-, HCO3-)
 Ca(OH)2と炭酸イオン、重炭酸イオンが中性化反
応し、 CaCO3を生成
 CSHゲルと炭酸イオン、重炭酸イオンが炭酸化反
応し、CaCO3を生成
 中性化・炭酸化により、pH低下、細孔構造変化

中性化による建築物の性能低下
コンクリートの品質
水セメント比
混和材置換率
中性化
かぶり厚さ
施工不良
塩化物イオンの濃縮
鉄筋腐食
ひび割れ
構造性能の低下
日常安全性の低下
美観の低下
鉄筋のかぶり厚さのばらつき
中性化領域と鉄筋腐食
中性化の進行
中性化深さ
かぶり厚さ
腐食開始
打放し
塗装仕上
仕上厚さ
塗直し
タイル仕上げ
時間
モルタル仕上げ
中性化による鉄筋腐食の進行
塩害による劣化(1)
塩害による劣化(2)
塩害(1)

塩化物イオンのコンクリート表面への付着




立地環境
 海岸形状
 海岸からの距離
 風速・風向
 建築部位
コンクリート表面の塩分濃度
仕上げ材
塩化物イオンの拡散・移流・固定化

コンクリートの特性(空隙構造、固定化能力)
 ∂C/∂t = D∂2C/∂x2
D:拡散係数
塩害(2)

空隙量




固定化能力




水セメント比、強度
混和材の種類(フライアッシュ、高炉スラグ微粉末)と量(置換率)
セメントの反応率(養生方法、養生温度、養生期間)
セメントの種類と量
セメントの反応率(養生方法、養生温度、養生期間)
混和材の種類(フライアッシュ、高炉スラグ微粉末)と量(置換率)
仕上げ材の種類と耐久性
塩害(3)

塩化物イオンの拡散係数


ポルトランドセメントの場合
logD = {4.5*(W/C)2+0.14 *(W/C)-8.47}+log(3.15*107)
高炉セメントの場合
logD = {19.5*(W/C)2-13.8 *(W/C)-5.74}+log(3.15*107)
塩害(4)
塩化物イオン濃度
表面濃度
60年
50
40
30
発錆限界濃度
20
10
仕上げ厚さ
かぶり厚さ
コンクリート表面からの
距離
鉄筋の腐食

鉄筋の腐食
鉄筋の腐食

鉄筋の腐食



アノード反応:Fe→2e-+Fe2+
カソード反応:O2+2H2O+4e-→4OH錆:FeO(H2O)x


溶液中に塩化物イオンがない場合


不動体被膜はpH11.5以上で安定
溶液中に塩化物イオンがある場合


体積膨張(2~6倍):酸化状態に依存
Cl-/OH-モル比>0.6
:pH>11.5でも不動体被膜が破壊
コンクリートの電気抵抗≧50~70kΩcm

腐食速度は非常に遅い
鉄筋の腐食と構造物の耐荷性

鉄筋の腐食
→鉄筋断面積減少→部材耐力の減少
→鉄筋断面積減少・ひび割れ発生・かぶりコンクリート剥落→
変形・破壊の局所化→部材耐力の減少→変形量の増大
→軸方向ひび割れの発生→付着強度の低下
→変形・破壊の局所化→曲げ耐力の低下
→付着破壊モード→靱性の低下
鉄筋の腐食と降伏点の低下Ⅰ
鉄筋の腐食と降伏点の低下Ⅱ
鉄筋の腐食とヤング係数の低下
鉄筋の腐食と付着強度の低下Ⅰ
鉄筋の腐食と付着強度の低下Ⅲ
鉄筋の腐食と梁の曲げ耐力
鉄筋の腐食と柱のせん断耐力
凍結融解による劣化(1)
凍結融解による劣化(2)
凍結融解(1)

劣化形態




ひび割れ
スポーリング
スケーリング
劣化メカニズム
毛細管空隙中の水の凍結→体積の増加(9%)
→空隙の膨張or過剰水の押出し→水圧の発生→ひび割れ
 水圧の大きさを左右する因子




漏出境界(気泡・エントレインドエア)までの距離(気泡間隔)
硬化体の浸透性(組織の空隙構造:空隙の大きさ、数、連続性)
氷の形成速度(冷却速度)
凍結融解(2)

コンクリート中の水分




凍結融解回数・凍結温度


建築物の部位(水がかり)
養生条件
仕上げ材
立地条件(日最低・最高温度)
疲労破壊

コンクリートの特性(気泡分布、強度、骨材)
凍結融解(3)

気泡分布

空気量・気泡間隔係数




骨材の凍結融解抵抗性
融氷剤



化学混和剤量(AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤)
骨材


気泡間隔
:0.1~0.2mm
気泡の大きさ :0.05~1mm
プラス効果
:氷形成温度の低下
マイナス効果 :塩の吸湿による飽水度の増加
:空隙中の過冷却水の凍結による破壊
:塩の濃度勾配→凍結時間差→応力差
:過飽和溶液中での結晶の成長
仕上げ材の種類と耐久性
凍結融解(4)
相対動弾
性係数
空気量6%
90%
空気量3%
要求耐用年数
立地環境
建築部位
ASTM相当
サイクル数
サイクル
アルカリ骨材反応による劣化(1)
アルカリ骨材反応による劣化(2)
アルカリ骨材反応による劣化(3)
アルカリ骨材反応(1)

骨材中の反応性シリカ分とアルカリとの反応による
アルカリシリカゲルの生成

コンクリート中の反応性シリカ量

骨材の種類
 石英安山岩、凝灰岩、シリカ質頁岩、シリカ質石灰岩、石英岩

コンクリート中のアルカリ濃度

セメント・化学混和剤のアルカリ成分
 アルカリ金属イオン(Na+、K+)
 水酸化物イオン(OH-)


混和材の種類と量
アルカリシリカゲルの吸水膨張

水分の存在


立地環境
建築部位
硫酸による劣化
化学的侵食(1)

十分に水和したセメント硬化体


比較的難溶性のカルシウム水和物(CSH、CH)
↓↑平衡状態
高pHの細孔溶液



高濃度のNa+、K+、OHpH=12.5~13.5
酸性・中性環境(pH<12.5)では化学的に非平衡状態



アルカリ性の低下→水和生成物の不安定化
pH≧6
:化学的侵食の速度は遅い
pH<6
:軟水・汚水中の遊離CO2
:地下水・海水中のSO42-、Cl:工業用水中のH+
化学的侵食(2)

酸によるコンクリート表面の侵食

コンクリートの特性

水酸化カルシウム量(セメントの種類、混和材の種類と量)
 Ca(OH)2+H2CO3→CaCO3[不溶性]+2H2O
 CaCO3+CO2+H2O←→Ca(HCO3)2[水溶性]
 地下水・海水のpH≧8
:遊離CO2濃度は無視可能
 pH≦7
:遊離CO2は有害な濃度


空隙量(水セメント比、セメントの水和率)
仕上げ

コンクリートでは対処できない場合の表面保護
化学的侵食(3)

硫酸塩によるコンクリートの侵食

モノサルフェート (C3A・CaSO4 ・18H2O)のエトリンガイト
(C3A・3CaSO4・32H2O)への変化
C3A・CaSO4・18H2O+2Ca(OH)2+2SO4+12H2O→C3A・3CaSO4・32H2O
C3A・Ca(OH)2・18H2O+2Ca(OH)2+3SO4+11H2O
→C3A・3CaSO4・32H2O

水酸化カルシウム、CSHゲルの石膏への変化

Na2SO4+Ca(OH)2+2H2O→CaSO4・2H2O+2NaOH
 高アルカリ性の保持:CSHゲルの安定化

MgSO4+Ca(OH)2+2H2O→CaSO4・2H2O+Mg(OH)2Mg(OH)2
3MgSO4+3CaO・2SiO2・3H2O+8H2O
→3(CaSO4・2H2O)+3Mg(OH)2+2SiO2・H2O
 Mg(OH)2:不溶性、低アルカリ性→CSHゲルの不安定化

コンクリートのポーラス化、脆弱化