内陸地震の発生過程の解明 飯尾 能久

内陸地震の発生過程の解明
飯尾 能久
自然災害学 J.JSNDS 28-4 284-298(2010)
紹介者 吉岡和樹
はじめに
プレート境界地震(プレート境界で発生す
る地震)の発生過程がプレートテクトニク
スの枠組みにより基本的には説明されて
いるのに対し、内陸地震(プレート内部で
発生する浅い地震)の発生過程は、まだ十
分には解明されておらず、発生予測を行
う上で大きな障害となっている。
今までの内陸地震の発生過程
のメカニズム
海洋プレートが陸側のプレートを引きずり込
むことにより、陸側のプレートのひずみが増
加し、内陸地震が発生する。
プレート境界の大地震を超える内陸地
震が起こるはずがない!
地震は、一般的に断層に加わる力が断層の強度
を「超えた」ときに発生する。したがって,地
震の発生を予測するためには、断層に加わって
いる力がその強度に対して、どれくらいのレベ
ルまで達しているかを知ることが重要である。
問題
内陸地震の発生課程における断層に加
わる力がなぜどのように増加するかと
いうことが分かっていないこと。
兵庫県南部地震の発生後,基盤的調査観測と呼
ばれる,全国を対象とした高感度・広帯域・強震
観測網およびGPS観測網などの定常的な観測網
の整備と主要活断層調査が開始されるとともに、
地震予知研究等による観測研究が精力的に行われ
たことにより,地震に関する知見は飛躍的に増大
した。
内陸地震に関しても,断層近傍の不均質
構造やひずみ集中帯の解明など多くの成
果が上げられ、それらに基づいて,内陸
地震の発生過程に関する新しい仮説が提
案された!
新しい仮説と下部地殻
新たな仮説とは、従来無視されることが
多かった断層直下の下部地殻の役割を重
視するものである。
本論文で、下部地殻とは、地殻のほぼ下
半分に相当する、地震の発生しない領域
のことを指すものとする。
上の図は有馬-高槻構造線に直交する断面に
投影した,微小地震の震源分布を示したもの
です。
下部地殻の強度
流動則や1980年台頃までに精力的に行わ
れた変形実験結果により、下部地殻の強度は
地殻および最上部マントルの中で最も小さい
とされた。
内陸地震を考える際、下部地殻は無視
できると多くの人は考えた。
修正された強度プロファイル
近年、岩石実験の進展、および実際に
起こっている変形から地殻や最上部マ
ントルの変形特性(レオロジーと呼ば
れることがある)が直接推定されたこ
とで下部地殻の強度が最も弱いのでは
ないことがわかってきた。
理由①
岩石実験により、下部地殻の全体的な強度
を推定する際に乾燥した鉱物や岩石を用い
て推定された値を使用するべきとなった。
最近の実験結果では、下部地殻を構成して
いると考えられる鉱物は、上部マントルを
構成するかんらん石と同程度かそれ以上の
値とされている。
理由②
下部地殻の粘性を直接推定することができ
るようになったこと。
上部マントルよ
りも下部地殻の
粘性が大きいこ
とがわかる。
結果と考察
下部地殻の強度はかなり大きい!
内陸地震の発生における下部地殻
の役割を考慮する必要がある!
下部地殻の不均質構造
内陸地震の発生における下部地殻の役割を
考慮するときに、第一に思い浮かぶのは、
断層の直下では下部地殻が局所的に「やわ
らかい」のではないかということだ。
下部地殻内に局所的に「やわらかい」とこ
ろがあると、その領域に変形が集中するた
め、その直上の断層に応力集中が起こると
考えられる。
 断層の直下の「やわらかい」ものを示
唆する結果は、地球物理的な観測でも
系統的に得られている。
 下部地殻内の局所的に「やわらかい」
ところの直上の断層に実際に応力集中
が起こっていることを示唆するデータ
も得られている。
内陸地震の発生過程の定量的なモデル
ここまで述べたように、今、内陸における
断層直下の下部地殻の不均質構造に関する
知見が集まりつつある。
それら不均質構造の変形により、断層に応
力集中が発生するという定性的なモデルを、
内陸地震の発生過程を記述する定量的な物
理モデルへupgradeすることが、内陸地震の
発生予測にとって極めて重要である。
おわりに
兵庫県南部地震の後の進展により、有力な
作業仮説が提案され、内陸地震を予測する
ことに道が開かれたが、この説はまだ定説
というほど認知されていない。
不均質構造および断層の応力や強度の解明
に基づき定量的なモデルを構築し、そのモ
デルに基づくシミュレーション結果を、実
際のデータと比較して、モデルを修正・高
度化して行くことが今後の課題である。