評価者の感情が表情認知に 及ぼす影響

直前に受けた
ポジティブ・ネガティブな感情が
表情の印象形成に及ぼす影響
秋田県立大学
学籍番号:B10D036
氏名:東出 麻奈
所属研究グループ:生産管理・人間工学研究グループ
指導教員: 郭偉宏 教授, 杉山博史 助教, 新里隆 助教
目次
1.背景
2.研究目的
3. Semantic
differential法
4.ストレス指標
5.被験者・場の設定
6.動画
7.実験手順
8.結果と考察
・因子負荷量
・因子得点布置図
・行動因子・内面性因子
・因子得点の変化量
・心拍間隔によるストレス指標
・因子得点とストレス指標
9.結論
10.参考文献
1.背景

フォーガスら(Forgas&Bower,1987)は,快‐不快
の感情操作の後,被験者に,人物に関する特性記
述文リストを読ませる実験を行った.
快な気分の時
好意的な解釈
不快な気分の時
非好意的な解釈
2.研究目的
SD法
表情の印象形成の評価
心拍間隔
指標
表情認知による
精神的ストレス
直前のポジティブ・ネガティブな感情
が
表情の印象評価におよぼす影響につ
い

3.Semantic differential法(SD法)
顔画像について
 7段階尺度の印象評定の質問紙
 20項目の印象評定語を使用
7段階評価
印象評定語
幸福な-不幸な
優しい-厳しい
明るい-暗い
清潔な-不純な
いきいきした-生気のない
可愛らしい-憎らしい
元気な-疲れた
気長な-短気な
堂々とした-卑屈な
鋭い-鈍い
陽気な-陰気な
暖かい-冷たい
お喋りな-無口な
純粋な-不純な
積極的な-消極的な
きちんとした-だらしのない
外向的な-内向的な
静かな-うるさい
思いやりのある-わがままな
豊かな-乏しい
パワースペクトル密度(msec²/H
z)
4.ストレス指標
RRIのゆ
パワースペクトル密
らぎ
度
周波数(Hz)


精神ストレスの指標としてRRI(R-R Interval)がある.
RRIのゆらぎをパワースペクトル解析した周波数帯には低周波
成分(LF)と高周波成分(HF)がある.

HF値は副交感神経の活動によるリラックスに関係する.
LF/HF値はストレスを反映する.

CV-RR値はRRIの変動係数であり,安静やリラックスの指標にな

5.事前実験(動画)
動画1
動画2
動画3
動画4
ビックフィッシュ
マンマミーヤ
ザ・ファイター
ボルベール<帰郷>
2003,アメリカ
2003,イギリス,アメリカ
2010,アメリカ
2008,スペイン
ポジティブ動画
ネガティブ動画
50
45
因子2(陽気因子)
動画1
ビックフィッ
シュ
動画3
ザ・ファイター
動画2
マンマミーヤ
40
35
30
動画1
25
動画2
20
動画3
動画1・動画2をポジティブ動画
動画3・動画4をネガティブ動
動画4
動画4
画
として実験を進める. ボルベール
15
10
5
0
0
10
20
30
40
因子1(和やか因子)
50
60
6.被験者・場の設定




被験者には,10名(男性6名,女性4名,平均
年齢21.7歳,標準偏差±0.4)の健常者を採用し
た.
動画・顔画像は1分ずつ提示した.
モニター(縦30㎝,横37㎝)と被験者の距離
は60㎝と設定した.
心電図は胸部3点誘導で導出した.
7.実験手順
笑顔
微笑
動画
視聴
5条件
(1分)
無表情
悲しみ
顔画像の
視聴
5条件
(1分)
「動画なし」条件を追加
怒り
質問紙に
記入し
印象評価
計25条件
被験者1人につき2試行ずつ
※動画視聴時,顔画像視聴時,記入時ともに心電図を記録する.
結果と考察(因子負荷量)
因子名
変数名
因子№ 1 因子№ 2 因子№ 3 共通性
いきいきした-生気のない
0.79
0.24
0.09
0.75
元気な-疲れた
0.76
0.31
0.20
0.79
お喋りな-無口な
0.78
0.06
-0.04
0.64
積極的な-消極的な
行動に関する
0.85
0.06
0.21
0.76
外向的な-内向的な
因子
0.85
0.01
0.21
0.76
明るい-暗い
0.64
0.41
0.20
0.87
陽気な-陰気な
0.66
0.49
0.23
0.81
堂々とした-卑屈な
0.61
0.38
0.42
0.69
静かな-うるさい
-0.40
0.72
0.24
0.76
内面性に関する 優しい-厳しい
0.33
0.81
0.08
0.83
思いやりのある-わがままな
因子
0.27
0.81
0.33
0.85
可愛らしい-憎らしい
0.29
0.77
0.35
0.82
気長な-短気な
0.15
0.86
0.20
0.81
気品に関する きちんとした-だらしのない
0.19
0.42
0.74
0.76
清潔な-不潔な
因子
0.23
0.59
0.63
0.81
幸福な-不幸な
0.59
0.42
0.22
0.78
暖かい-冷たい
0.58
0.56
0.16
0.83
純粋な-不純な
0.37
0.57
0.45
0.70
豊かな-乏しい
0.57
0.48
0.27
0.67
固有値
11.00
2.77
0.67
寄与率 (%)
0.58
0.15
0.04
累積寄与率(%)
0.58
0.73
0.76
第一因子
行動因子
第二因子
内面性因子
第三因子
気品因子
累積寄与率 76%
結果と考察(因子得点の分布)
微笑
無表情
無表情
笑顔
笑顔
悲しみ
動画による印象の変化よりも 微笑
より顔画像の印象をとらえている
行動・内面性因子に着目
怒り顔画像による印象が強い
怒り
無表情
悲しみ
微笑
笑顔
悲しみ


怒り

表情ごとに群をつくり分布した.
各表情間に有意差がみられた(p
<.01).
直前の感情よりも表情そのものの影響を
強く受け,印象が決定される.
結果と考察(表情ごとの動画の影
響)
ポジティブ表情
笑顔
微笑
ポジティブ動画
ポジティブ動画
ネガティブ動画
ネガティブ動画
動画視聴後の表情の印象について
悲しみ
ネガティブ表情
一致条件
ネガティブ動画
ポジティブ動画ーポジティブ表情
怒り
ネガティブ動画ーネガティブ表情
ポジティブ動画ーネガティブ表情
ネガティブ動画ーポジティブ表情
ネガティブ動画
不一致条件
ポジティブ動画
ポジティブ動画
条件の一致・不一致に着目して考察
結果と考察(因子得点の変化
量)
因子
2
因子
1
「無表情」は
印象のばらつきが大きく
傾向がみられない
因子
3
一致
因子得点
増加
印象が
ポジティブに
推移
不一致
因子得点
減少
印象が
ネガティブに
推移
動画3-悲しみ
動画3-微笑
動画1-怒り
動画4-悲しみ
動画4-微笑
動画1-微笑
動画3-怒り
動画2-悲しみ
動画2-怒り
動画1-悲しみ
動画2-笑顔
動画1-笑顔
動画4-怒り
0.10
動画2-微笑
0.12
HF
値
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
クス,
0.2
0.4
CV-RR
0.08
0.06
0.04
0.02
0.00
で
動画2-微笑
動画1-怒り
0.0
強いストレスを示した.
動画2-笑顔
動画3-怒り
動画3-笑顔
動画3-微笑
「動画3-笑顔」「動画4-笑顔」
動画1-笑顔
動画2-悲しみ
動画4-悲しみ
動画4-怒り
1.6
動画4-笑顔
動画1-悲しみ
動画4-微笑
動画1-微笑
動画2-怒り
動画3-悲しみ
0.14
LF/HF(msec²/msec²)
動画4-悲しみ
動画2-怒り
動画4-怒り
動画2-笑顔
動画1-悲しみ
動画3-笑顔
動画2-微笑
動画4-微笑
動画3-怒り
動画1-笑顔
動画3-悲しみ
動画4-笑顔
動画1-微笑
動画3-微笑
動画1-怒り
動画2-悲しみ
HF(msec²)
5000
4500
4000
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
動画3-笑顔
動画4-笑顔
CV‐RR(%)
結果と考察(心拍間隔によるストレス指
標)
LF/HF
値
CV-RR値では
「動画3-悲しみ」で強いリラッ


ポジティブ・ネガティブが
表情または動画と
一致する場合,リラックス
リラックス・ストレスの関
しやすく,不一致の場合に
係に
ストレスがかかりやすい.
特定の偏りはみられなかっ
リラックス
一致条件
た.
不一致条件
ストレス
結果と考察(因子得点とストレス指
標)
正の変化量が大きい3条件
因子1
因子2
因子3
動画3-微笑
動画4-怒り 動画1-悲しみ
動画4-微笑
動画1-微笑
動画2-微笑
動画2-怒り
動画2-微笑 動画4-悲しみ
因子1
HF
リラックス
ストレス
因子3
HF
リラックス
ストレス

LF/HF
33%
33%
0%
33%
LF/HF
33%
33%
33%
33%
負の変化量が大きい3条件
因子1
因子2
因子3
動画3-微笑
動画3-笑顔
動画3-微笑
動画3-笑顔
動画4-笑顔
動画4-微笑
動画4-微笑
動画2-怒り
動画2-怒り
因子2
HF
CV-RR
33% リラックス
33% ストレス
CV-RR
0%
0%
LF/HF
33%
0%
CV-RR
0%
0%
0%
67%
因子得点の変化量とリラックスやストレスの強
さに関係はない.
結論




表情の印象形成は直前に受けた感情により変化す
る.
変化する評価の方向性は直前に受ける感情と表情の
一致や不一致により異なる.
一致する場合はボジティブ,不一致ではネガティブ
に偏りやすい.
直前に受ける感情と表情との関係性は評価者の精神
状態にも影響する可能性が高い.
参考文献





[1] forgas,J.P. &Bower,G.H. Mood effects on person-perception judgments .
Journal of Personality and Social Psychology,53,53-60,1987
[2] 行場次郎,知性と感性の心理,福村出版,2000
[3] 箱田裕司,認知心理学,有斐閣,2010
[4] 林博史,心拍変動の臨床応用,医学書院,1999
[5] P.エクマン,W.V.フリーセン,工藤力(訳偏),表情分析入門,
1987
ご清聴ありがとうございました
ご清聴ありがとうございま
した
今後の課題

ポジティブネガティブよりも詳細な表情
についての検討
ストレスの定義






本研究のストレスの定義は,交感神経の緊張の程度
,バランスである.
交感神経が緊張状態にあれば「ストレス状態」
副交感神経が緊張状態にあれば「リラックス状態」
交感神経と副交感神経のバランスによって,心拍
変動へのHF・LF変動波の大きさが変わる.
この性質を利用してストレス指標とする.
HF・LF値はその周波数のパワースペクトルの
合計量を指す.
増加
興奮ストレス
安静
交感神経
副交感神経
減少
算出
反映
心拍数
LH/HF値
RRI
HF値
CV-RR


心拍は等間隔ではなく,安静状態では特にばらつき
がある.
このばらつきの標準偏差を平均値で割った変動係数
がCV-RRである.
心拍変動の採用




測定が比較的容易
被験者による意識統制が困難である
自律神経の中枢である視下下部(ししょうか
ぶ)は情動表出の中心的部位である
1分間で測定できる指標である
胸部3点誘導

3点誘導とは、基本的に四肢誘導法で、通常、
左の腰に付けている電極がプラス側となり、
右肩の電極がマイナス側となっている方法.
ー

+

測定用の電極の他に必ずアー
ス電極を装着する.
アース(接地) の目的は、交流雑
音(ハム)の混入を防ぐことと、
電気ショックを未然に防ぐことで
ある.
心拍間隔によるストレス指標
リラックス
ストレス
HF
LF/HF
CV‐RR
HF
動画4-悲しみ 動画1-笑顔 動画3-悲しみ 動画2-悲しみ
動画2-怒り 動画2-悲しみ 動画3-微笑 動画1-怒り
動画4-怒り 動画4-悲しみ 動画1-怒り 動画3-微笑
動画2-笑顔 動画4-怒り 動画4-悲しみ 動画1-微笑
動画1-悲しみ 動画4-笑顔 動画4-微笑 動画4-笑顔
HF
一致(不一致)
傾向を示した条
件数
5条件中の割合
(%)
リラックス
LF/HF CV‐RR
HF
LF/HF
動画1-怒り
動画2-微笑
動画3-微笑
動画3-笑顔
動画3-怒り
CV‐RR
動画4-笑顔
動画3-笑顔
動画2-微笑
動画4-怒り
動画1-笑顔
ストレス
LF/HF CV‐RR
3
3
2
4
3
2
60%
60%
40%
80%
60%
40%
行動因子・気品因子
内面性・気品因子