ドイツの医師職業規則 から学ぶもの 東京医科歯科大学 名誉教授 岡嶋道夫 医師の義務・倫理-患者の権利 Ⅰ.医の倫理 生命倫理:科学や医療技術の急速な進歩と関連 多くの医師には直接関係しない 日常の医療倫理:医療に従事するすべての医師 が守らなければならない身近な職業倫理 ドイツなど多くの国では医師職業倫理規則という 形で医師の義務と倫理が明文化されている。 細部は指針などで補われる 医学の進歩と社会の多様化に対応するために 規範化が求められている。ヒポクラテスの誓が 時代の要請に応えて姿を変えたもの。 日本の場合 • 日本医師会は、昭和26年に「医師の倫理綱領」作成、 しかし死文化。 罰則がない。 日本医師会が任意加入団体。 • 日本医師会は、平成12年に「医の倫理綱領」、平成20 年に「医師の職業倫理指針[改訂版]」を作成、新しい 時代における医師の心構えを明快に解説しているが 強制力がない。 • 現在、学会、大学、病院など機関レベルで倫理綱領作 成のブームである。しかし、強制力はほとんどない。 • 強制力のない倫理綱領は、果たして効果があるのか。 Ⅱ.ドイツの医師職業規則 • 医師会が「医師職業規則」を作成 職業義務と日常の医療倫理を医師に理解しや すい表現で明文化 この事実は日本ではほとんど紹介されていない • 医師職業規則は医師の行動の軌範であり、医 の倫理を医師に義務づける規則であって、医師 の憲法と表現されるほど重要 違反すれば罰則適用の対象となる つまり、全ての医師に倫理的医師になることを 義務づけていることになる • 日本では倫理の基準が不明確 その判断基準は医師各自の良心に委ねられ た形である それぞれの医師が倫理綱領を読んで自発的 に倫理的な医師になってくれるのを期待する ことしかできない • 医療倫理は常識で理解できるものが多い それに安心して明文化を怠ると、倫理に関連 した混乱を収拾する術を持たないことになる Ⅲ.ドイツの医師職業規則の例示 「良心的な職務従事」について: § 医師はその職務を良心的に行い、職務に 関連して寄せられる信頼に応えなければなら ない 頻繁に適用される重要な判断基準である 「診療記録の定義」について 1970年版では: § 「診療記録は医師の備忘である。医師は所見 ならびに治療方法について充分な記録を作らなけ ればならない。」 1993年版と1997年版では: § 「医師は、その職業従事において確認したこと 及び行った処置について必要な記録を作成しなけ ればならない。医師の記録は医師のための単なる 備忘録ではなく、規定に従った記録作成によって 患者の利益にも役立つ。」 「開示」の義務化について 1995年に改定された世界医師会のリスボン宣 言に合わせるように、1997年には開示の義 務が次のように加えられた。 § 「医師は、患者の要望があれば、原則とし て当人に関連した診療記録を見せなければ ならない:医師の主観的印象または感知した ことを含む部分は除外される。請求があれば、 患者に費用負担をさせて記録のコピーを渡さ なければならない。」 「説明の義務」について ドイツでは「説明」という一つの言葉の中に説明と同意 を含ませている。職業規則では § 「医師は、診療するには患者の同意を必要とする。 同意には原則として、必要な説明を個人的な会話で先 に行わなければならない。」 という短い規定であるが、ドイツ医師会とドイツ病院協 会が出している説明と同意に関する二つの指針で詳 細に解説されている。 「侵襲に対する説明と同意」だけでなく、「健康状態 に適した生活方法をさせ、治療の結果や副作用につ いて時宜を得た報告をさせる」ことも含まれる。 • 「医師が患者に疾患の種類と重大性を示さな ければ、危険と結びついた検査または治療に ついて患者の同意が得られないときは、医師 は重い疾患の場合であってもそうすることに 尻込みをしてはならない」 • しかし、「医師は疾病の性質について、全部 についての、また思いやりのない説明を義務 づけられているのではなく、人間性を遵守し、 情報を与える場合の患者の身体的及び精神 的状態に配慮しなければならない」
© Copyright 2024 ExpyDoc