米国の牛に多く 感染する「ヨーネ病」 情報提供者:神田 晃 (元 昭和大学医学部公衆衛生学) s KANDA, Akira, Ph D, Ph D ●米国の牛の50頭に1頭はヨーネ病に感染していると いう(BSE [狂牛病] は100万頭に1頭の割合). ●ヨーネ病(Johne‘s disease)は,ヨーネ菌の感染 による慢性肉芽腫性腸炎である.分娩数週間後の 発症が多く,慢性的な下痢、泌乳量低下を呈し, 発症後,数ヶ月~1年以内に死亡する.日本では, 家畜伝染病予防法における法定伝染病である. ●5年に一度,全頭検査され,感染牛は処分され, その食肉や乳は一切市場には出ない ⋆名前の由来は,発見者でドイツ人の細菌学者・獣医の Heinrich A. Johne). KANDA, Akira, Ph D, Ph D ●ヨーネ病が,人の健康を害するという報告が 相次いでいる.2008年9月時点では,その科学的 証明はまだだが,炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory Bowel Disease)との関連が懸念される. ●ヨーネ菌は熱に強く,特に米国では,牛乳は高温 短時間殺菌(日本では低温長時間殺菌)で市場に 出るので,ヨーネ菌感染の可能性が高いとされる. ●米国では,牛の成長を早めるためにホルモン剤を 使うことがある.それが20ヶ月齢未満の精肉出荷を 可能にしている.EU(欧州連合),日本は ホルモン剤の使用を禁止している. ●しかし,貿易自由化の流れで,米国が,ホルモン剤 使用牛の日本への輸入を強く訴えると考えられる. KANDA, Akira, Ph D, Ph D ヨーネ病(Johne‘s disease- paratuberculosis) の病理学的, 公衆衛生学的特長 対象家畜は,牛,水牛,鹿,羊,山羊である. 1.原 因 ヨーネ病の原因菌は,ヨ-ネ菌(Mycobacterium avium subsp. Paratuberculosis)と呼ばれ, マイコバクテリウム属菌で抗酸染色によって赤色に 染まり,結核菌によく似た形態をしている. 大きさは1~2×0.5μmの桿菌で,芽胞,鞭毛,莢膜 を欠く.ヨ-ネ菌は,結核菌用の培地に発育出来ず, マイコバクチンと呼ばれる特別な成分を必要とし, 寒天培地上のコロニー形成には2ヵ月以上を要する KANDA, Akira, Ph D, Ph D 遅発育菌である。 2.疫 学 日本でも近年,ヨーネ病の摘発頭数が増加傾向に ある.感染経路は経口感染が主であり,感染母牛から 子牛への感染が伝播経路として重要である.同居牛 への水平感染や母牛が重度のヨーネ病に罹患している 場合は,胎児への胎盤感染も生じる. 3. 臨床症状 ヨ-ネ病は牛,羊,山羊などの反芻動物に,慢性の 頑固な間欠性の下痢,乳量の低下などを引き起こす. 妊娠や分娩などのストレスが発病の誘因とされている. 4.病理学的変化 肉眼病変として,腸管粘膜のワラジ状の肥厚, 腸間膜リンパ節の腫大が見られる.組織学的には, 腸間粘膜や腸間膜リンパ節のマクロファージ内に 集塊状のヨーネ菌を認める類上皮細胞肉芽腫病巣や, KANDA, Akira, Ph D, Ph D 多核巨細胞も見られる. 5.病原学的検査 直接鏡検:糞便の直接塗抹標本を抗酸菌染色し, 集塊状の抗酸菌を検出する. 分離培養:糞便あるいは剖検時の腸管(回盲 移行部等),腸間膜リンパ節等をマイコバクチン 添加ハロルド培地で培養する.灰白色から象牙色の コロニー形成までに2~5ヵ月を要する. PCR法:糞便中等に存在するヨーネ菌に特異的な DNAを検出する.迅速診断法として有用である. 6.免疫学的検査 血清学的検査として,ELISA法,補体結合反応が 応用される.感染牛の細胞性免疫を指標とする検査 として,ツベルクリン検査と同様な遅延型過敏反応を 検出するヨーニン皮内反応が行われる.また,新たな ヨーネ病の診断法として,インターフェロンγ検査も 試みられる.尚,国内の検査に使用される補体結合用 抗原,及び皮内反応用抗原は動物衛生研究所で製造 KANDA, Akira, Ph D, Ph D している. 7.予防・治療 現在,実用的なワクチンは無く,化学療法も困難 である.ヨーネ病の防疫対策には,患畜及び保菌牛 の摘発・殺処分及び汚染物の徹底した消毒が有効 である. 8.発生情報 ヨーネ病・病発生情報(2004年以前と2008年) http://www.niah.affrc.go.jp/disease/fact/ fact-old-data/12-old-data.htm ヨーネ病にかかった牛の腸管粘膜(通常の 腸の粘膜はとても薄いが,病変が広がって とても厚くなっている) 独立行政法人 農業・食品産業技術総合 研究機構 動物衛生研究所のHPより KANDA, Akira, Ph D, Ph D 9.参考情報 ●リアルタイムPCRによるヨーネ病遺伝子診断法: 平成18年度動物衛生研究成果情報 http://www.niah.affrc.go.jp/publication/ seikajoho2/2006/niah06005.html ●牛のヨーネ病の関連情報 http://www.niah.affrc.go.jp/disease/ paratuberculosis/index.html ●最近の家畜衛生をめぐる情勢について: 農林水産省・消費・安全局・動物衛生課 (2008年1月) http://www.maff.go.jp/syohi_anzen/katiku.pdf KANDA, Akira, Ph D, Ph D 参考資料 ●週間文春.2008年9月18日号. ●動物衛生研究所・動物疾病対策センター・疫学 情報室,文責:ヨーネ病研究チーム,森康行, 企画・制作(独)農業・食品産業技術総合研究 機構 動物衛生研究所. KANDA, Akira, Ph D, Ph D
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