平成21年6月12日 弁護士 折田 啓 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 1,はじめに 2,相続の態様 3,限定承認すべき事案 4,熟慮期間について 5,みなし単純承認 6,限定承認の手順 7,まとめ Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 離れて暮らす親族の死亡の場合,そのまま 相続し,借金まで引き継いでしまうことがある。 個人主義の浸透,離婚の増加により,親の経 済状況を知らない子による相続,音信不通の 親子間の相続の可能性が高まる。 長期の不況下において,普通の生活にみえ た人でも,死亡後に,借金まみれの生活が明 らかになる場合がある。 上記のような場合,限定承認を検討すべき。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 単純承認 相続放棄 限定承認 の3種類 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 単純承認は,遺産と相続債務の両方を,文 字通り,単純に相続すること。 相続放棄は,遺産と相続債務の両方を,相 続しないこと。 但し,同順位の相続人が全て相続放棄した 場合は,次順位の相続人が相続をすることに なる。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 限定承認とは, 遺産>相続債務の場合は, 遺産ー相続債務で残った財産を相続 遺産<相続債務の場合は, 遺産ー相続債務で残った債務の免除を受ける という制度。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 1,相続債務の存在が疑われるが,その 額がどの程度か分からない事案 2,遺産よりも相続債務の方が多いことは 明らかだが,相続放棄をすることにより 次順位の相続人に迷惑をかけるという 事態を避けたい事案 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 限定承認又は相続放棄をするためには, 家庭裁判所に申立てをする必要がある。 その期間は,「自己のために相続の開 始があったことを知った時から三箇月以 内」(民法915条1項) この期間が熟慮期間。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 被相続人の死亡を知った時ではない。 相続人が相続財産の全部または一部 の存在を認識した時または通常これを 認識しうべき時(最判昭59.4.27)。 上記の判断は一義的に明確ではなく, 解釈による幅が大きい。莫大な借金を 知ったら,とにかく,次頁の熟慮期間の 伸長(民法915条1項但書)をすべき。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 熟慮期間は,家裁への申立てによって伸長 することが可能(民法915条1項但書)。 通常は3か月ごとの伸長だが,事情を説明す れば,6か月の伸長が認められることもある (大阪家裁での経験)。 莫大な相続債務を発見したら,とにかく熟慮 期間の伸長の申立て。その後,単純承認す るか,相続放棄するか,限定承認するか, ゆっくり考えれば良い。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 注意しなければならないのは,みなし単 純承認(民法921条)にならないように すること。 みなし単純承認となってしまうと,もはや 相続放棄も限定承認もできない。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 1,相続財産の全部または一部の処分 2,熟慮期間の経過 3,相続財産の全部または一部の隠匿, 私的費消,悪意による相続財産目録へ の不記載 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. とにかく,相続の態様を決めるまで, 遺産には決して手を付けない。 なお,被相続人の死亡を知らずに遺 産を処分してしまった場合は,みな し単純承認とはならない(最判昭42. 4.27)。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. (1)家裁への限定承認申述申立 (2)財産分離 (3)相続債権者への催告及び公告 (4)相続債権の認否 (5)遺産の換価 (6)先買権制度 (7)弁済 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 申立書に添付するのは, 相続関係図 相続財産目録 相続債権目録 その他,戸籍,除籍,住民票など 熟慮期間内に行われるべきなのは「申述申 立」であって,家裁による「受理」ではない(心 配な場合は家裁に電話確認)。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 限定承認によって,遺産は,相続債務が遺産 を下回ることが明らかになり,相続債務の弁 済が完了するまで,相続債務の弁済原資に しかならない。よって,財産の混入が起こらな いように,相続人の財産から分離する必要が ある。 実際には,限定承認用の口座を作って,そこ へ遺産を換価した現金を入金して行く。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 限定承認の受理後5日以内に,相続債権者 及び受遺者に対して,下記事項を催告(民法 927条3項) ①限定承認をしたこと ②2か月以内に債権届出をすべきこと ③期間内の届出のない場合には弁済から 除斥されること 同様に,限定承認の受理後5日以内に,上記 事項を,官報に公告(民法927条3項) Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 催告及び公告の文案は,家裁からの申 述受理の通知の際に,教えてくれる。 相続財産管理人の選任のある場合(相 続人が数人ある場合)には,催告及び 公告をすべき期間は限定承認の受理後 10日以内(民法936条3項)。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 認否表を作って,届出額と認否額を一 覧表にする。 相続債権者ら宛てに,認否額を記載し て,異議通知書を発送する。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 預貯金:解約する。 保険解約返戻金:解約する。 株式:証券会社に換価してもらう。 これら金融資産については,換価方 法に特に問題なし。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 動産・不動産: 原則は競売(民法932条本文) しかし,通常,競売では高く売れない。 また,相続人が買い受けたい遺産もある。 そこで,2つの例外 ①債権者らの意向を聴取して任意売却 ②相続人の先買権 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 任意売却の手順 (1)相続債権者らに任意売却の可否についての意向 聴取票を送り,その意向を書面で聴取。 (2)買受人を募る(入札等)。 (3)買受人が決まったら,当該金額で売却しても良い か,相続債権者らに意向聴取票を送り,その意向を 書面で聴取。 (4)相続債権者らの同意が得られたら,買受人に売 却。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 相続人は鑑定人の評価に従い当該 鑑定価額を支払って,遺産を優先的 に買うことができる(先買権。民法9 32条但書)。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. (1)家裁に鑑定人選任の申立て(家審9条1項甲27号) (2)家裁から相続債権者らに参加権(民法933条)の連絡。 (3)家裁において鑑定人選任。なお,鑑定費用が相続債務 か鑑定人選任申立人が負担するかは争いがある。 (4)鑑定人の鑑定調査。相続債権者らは鑑定人に意見を提 出することができる。 (5)鑑定人による鑑定価額。 (6)相続人は,鑑定価額を見て,購入可能であれば,鑑定 価額を相続財産管理人に支払って不動産を取得できる。 (7)購入不可能と思えば,鑑定価額を支払わないことも可 能。その場合は,その他の換価方法(競売又は任意売却) がとられる。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 相続債権が確定し,遺産が全て換価されたら,弁済を 行う。 原則は,按分弁済(民法929条本文)。 但し,優先権(先取特権,質権,抵当権,留置権,そ の他の担保権)を害しないように注意が必要。 具体的には,担保権者による,①担保物件の価額の 限度による弁済を受けるか,または②担保権の実行 による満足のいずれかの選択が行われる。 相続債権者に対する弁済が終了した後に,受遺者の 弁済を行う(民法931条)。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved. 相続に迷ったときは,とにかく熟慮期間の伸長。 莫大な借金を発見したときも,とにかく熟慮期間の 伸長。 いくら考えても結論の出ないときは,限定承認をす るのが無難。 相続債務を固有の財産から弁済することはできな いが,特定の遺産が欲しいときには,先買権が行使 できる。限定承認における特別な制度。 ひとりで悩まずに,まずは専門家に相談を。 Copyright © 2009 Akira Orita All rights reserved.
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