幼児理解と 保育カンファレンス 1 保育カンファレンスとは 保育カンファレンスとは,臨床医学や 臨床相談のカンファレンスの考え方・ 手法を保育に導入したもの。 教育学者Eisnerの示唆を受けて,わが 国ではまず教育実践に導入され,さら に保育界に応用された。 2 保育カンファレンスとは 保育研究 1995 研修・勉強会 解決策や正解を求め たり,同じ保育観や子ども観を共有 することを目的とする傾向。また, 「教える-学ぶ」という上下関係が 話し合いの基盤となる傾向。 3 保育カンファレンスとは 保育研究 1995 保育カンファレンス 参加者がお互い の特性を生かし,自分なりの見方・考 え方を対等な立場で出し合い,出た意 見をそれぞれが自分の実践に照らし合 わせて考えていく過程。正答や意見の 一致を求めたりするものではなく,対 等な話し合いの過程の中で,自分の考 え方や見方を再構築することを目的。 4 保育カンファレンス 有効に機能するための3要因 「発言の対等性」 「話の具体性」 「実践との循環性」 5 保育カンファレンス 話の具体性:「記録」 ビデオ記録 撮影者のメタ観察 第三者記録 専門的な立場から,専門分野の視 点から切り取られた記録であり, 保育者の課題意識に沿わない 当事者の記録 行動から読み取った解釈や,保 育における価値観が記録に反映 6 保育カンファレンス カンファレンスが有効に機能するため の3要因については、数多く検討されて いる。 具体的場面におけるカンファレン スの進め方(具体的方策)に関し ての示唆が少ない 7 保育カンファレンスの進め方 社会的問題解決モデル(問題解決療法) を利用したカンファレンス(下田, 1998) 教師が指導上の問題点を自ら振り返る(メタ認知) → 「問題としていたことに対する認識(捉え方)」の変化 → 問題解決へのヒント → 実践的力量が高まり、子どもの内面理解が深まる 教師が自らの指導上の問題をメタ認知し、 問題の新しい気づきを形成していくことを目 的として、「問題解決療法」をカンファレンス のなかに導入 8 社会的問題解決モデルのプロセス ①問題提起 ②問題の明確化 ③代替可能な解決策の算出 ④意志決定 ⑤解決策の実施と検証 9 社会的問題解決モデル 5つのプロセス ①問題提起 問題への感受性を高め,自分だけの思 い込みから注意をそらす ②問題の明確化 混沌とした実生活の問題を事実に即し てその本質を明らかにする 10 社会的問題解決モデル 5つのプロセス ③代替可能な解決策の算出 解決策の選択肢を多く導き出し,その 中から解決策を選択する(3原則) Ⅰ 「量の原則」 生み出される解決策の選択肢が多いほど最良の方策が みつかる Ⅱ 「判断延期の原則」 出てきたアイディアを1つずつ評価せず,最後の意思決 定のときに一括して行う Ⅲ 「多様性の原則」 出されたアイディアが多様なほど最良の方策がみつかる 11 社会的問題解決モデル 5つのプロセス ④意志決定 出された選択肢を評価し,最良の選択 肢を選ぶ ⑤解決策の実施と検証 選択された解決策が実生活の問題場面 において有効であったかどうかを検証 する 12 カンファレンスにおける 社会的問題解決モデルの応用 ①「問題提起」 日常の保育で気になること,気になる子ど もの全体像をあらかじめ書いてもらい,そ の結果を保育者にフィードバック。 「気になる子どもの行動」を具体的に書い てもらい,グループで発表。 話し合いを抽象的なものにしないため,自己の問題を深く見 つめられるようにするために,子どもの様子を事例として具体 的に記述 事実と解釈(わかっている事とわからない事)を区別し, 事実を記述する 13 カンファレンスにおける 社会的問題解決モデルの応用 ②「問題の明確化」 現時点での事実を整理し,問題はどこ から出てくるのか「原因追求」を行う とともに,本当の問題は何か再確認す る。 ③「解決策の算出」 問題に対してどう対処したらよいかい くつかの可能な方法を話し合う。 14 カンファレンスにおける 社会的問題解決モデルの応用 ④「本質追求」 「問題提起」から「解決策の算出」ま でを振り返り,「自分にとって問題 だったのは何か,自分はこれからどう するか」について書き,グループ(全 体)で発表。メンバーからコメントを もらい,それを受けての感想を書く。 15 カンファレンスにおける 社会的問題解決モデルの応用 話し合いの約束 「量の原則」「判断延期の原則」「多様性の原則」 ①思いついたことを躊躇なく話す ②できるだけ多くの意見を言う ③相手の意見を否定しない ④話し合いで出された内容は,メンバー 全員が見える形にまとめて書き出す 16 カンファレンスの実際 Ⅰ 参加者 6人×5グループ 時 期 2004年 8月12・13・14日 8月12日「問題提起」 「気になる子どもの行動」※ 13日「問題の明確化」 「解決策の算出」 14日「本質追求」(全体発表) 17 カンファレンスの実際Ⅰ-事例1- ①問題提起 気になる子どもの行動(全体像) 2年保育5歳男児 友だちとかかわろうとするがうまくかかわれない。 一緒に遊びたい気持ちは持っているが,遊びを理 解しないで加わったり,自分勝手に動き,嫌がら れている。 家庭の都合で欠席することが多いために,経験不 足のまま活動に参加するようになってしまい,個 人的な指導が必要になってくる。 できないことがあると助けを求めてくる。 保育者から注意されたことをどこまで理解してい るのかわからない時がある。 18 ① 問題提起 (具体例)おにごっこをしているグループ中 に一人ヒーローになりきって入り,追いか けあっている幼児の後を少し送れて追いか ける。そうしているうちに年長児Y男の背 中を強く押して泣かせてしまう。 保育者 「どうして押したの」 R 「まちがえた」 保育者 「一緒に遊んでいて,間違って押してしまったの」 R 「うん」 (保育者とRのやり取りを聞いていた)男児たちS・D S 「R君は(ぼくらの遊びに)まざってなかったよ」 D 「まぜってって言われなかったよ」 保育者 「S君たちは,R君に“まぜて”って言われていないって言ってる よ」 R (沈黙・しばらく時間がたってから)「入れて」 19 ① 問題提起 (具体例・ 4歳児Ⅲ期) 戦いごっこをしているつもりで,近く にいたOちゃん(戦いごっこをしてい るつもりはなく他児と遊んでいる)の 足をキックしてしまう。 保育者 「Oちゃん痛かったみたいだよ。悪 いと思うなら誤ろうね」 R 「謝ってね」とOに向かって言う 20 ①「問題提起」 保育者の願い 『友だちの輪に入って深 くかかわって欲しい。一人でもいいから 仲のよい友だちをみつけて欲しい』 そのためには,どのような援助をすれば よいのか ②「問題の明確化」 21 ②問題の明確化 事実の整理 きっかけ 近所のA男が年中組に 入園。頼られる 教師の認め 「年長さんなったん だもんね~」 実態 家庭環境 ・父 母,兄 , 姉,本児,妹 ,弟7人家族 ・身の回りのことを自分 でしようとしない 5歳 ・名札つけができるように なる ・おちついて座っていな い。挨拶のとき動かない で立っていられない ・少し落ち着きが出て,挨 拶のとき立っていられるよ うになる 4歳 ・家事の都合 やぜんそくの ため欠席が多 い ・友だちの名前がわから ない。「あの人」「この 人」指差し ・友だちのまねをして追 いかける ・名前が言える子と言えな い子がいる ・友だちのいる場(積み 木/コンビネーション) で遊ぶが「まぜて」と言 わない 22 ②問題の明確化 原因の追求 子どもの実態について なぜ仲のよい友だちを作ってほしいのか できるようになったこと,本児のよい姿を認めて 他児に伝えることが先なのではないか 友だちを作ることよりも,遊びを深めていくこと が現在のR児にとってはよいのではないか 他児からの声かけが少ないのではないか 保育者とR児は本当にコミュニケーションをとれ ているのか ⇒ 一緒に遊んでいるか R児本人は今の状況に困っているのか R児を遊んでいる中に入れるのではなく,R児のし ている遊びに周りの幼児が入ってくれるようにす るがよいのではないか 23 ②問題の明確化 原因の追求 家庭環境について 手がかけられていないのでは? 経験が少なくなっているのでは? 遊びこめていないのでは? 親は気にしていないのでは? 24 ②問題の明確化 本当の問題の発見 R児自身は現状に困っていない,友だち を求める段階ではないのかもしれない。 年長だからというのではなく,個人に あった課題として,友だちとの広がり よりも,本児自身の遊びにじっくり取 り組めることが,今この幼児には大切 なのかもしれない。 ③解決策の算出 25 ③解決策の算出 R 児 と 保 育 者 の 関 係 作 り 保 R 児 理 解 で き る 認 め ら れ る 保 他 児 環 境 作 り R の よ さ に 気 づ く 他 児 R 児 R 児 に 目 が 向 け ら れ る 友積 だ極 ち的 にに 目な がる 向 く 26 ④本質追求 「行動指針」 「本児との信頼関係作りと,本児 の興味がどこにあるのか探り,理 解に努めていきたい 」 27 教師の自己成長とカンファレンス -まとめ- 保育者が自分のことでこだわりを持っている とき,子どもの姿が見えなくなってしまう傾向 がある 「~ねばならない」という既存の知識にこだ わってしまい,いきいきとした保育を拒んで いる場合がある 人間関係が保育に大きな影響を与えている 保育者のゆとりが保育に影響している 28 教師の自己成長とカンファレンス -まとめ- 問題点・課題 カンファレンスの参加者、グループの構成 員に関する問題 カンファレンスの進め方に関する具体的 方策:進行係の役割 時間的制約 29 教師の自己成長とカンファレンス カンファレンスを終えての感想 どの先生も同じ悩みを持っていることを感じた 全員で相談できる仲間が大切だと感じた 共通の想いや考えを共有できて勇気づけられた 自分のなかで考えていたことがすっきりし,解決 への糸口(方向性)が見えてきたような気がする 自分や自分の保育を見つめなおすよいきっかけ であった 30 カンファレンスの実際 附属幼稚園での取り組み 10/25 5歳児研究保育 サッカー 男児が中心となってゲームをしていたが、習っ ている子とそうでない子の差が顕著である。 習っていない子はゲームのルールがわからず、 途中で興味を失う場面や、いざこざが起こる場 面も見られた。 ボールを蹴っている時間よりも、ボールをとり に行く時間の方が多い。 後半は女児3名も遊んでいたが、蹴って遊ぶも のでゲームではない。 31 事後検討 ① 問題提起 まずは蹴って遊ぶことを楽しもうというとこ ろから導入した。だからゴールは出していな かった。しかし、やりたい子たちがゲームを 始めた。ゴールの線は子どもたちが決めた。 ゲームになると難しいようで、ただ蹴るだけ で楽しい子はわからなくなり抜けてしまって いる。 ボール蹴りを楽しみたい子ども ゲームはしたいがルールを熟知していない子ども ルールを熟知しておりゲームを楽しみたい子ども サッカーを今後どのように扱っていくか 32 附属幼稚園での取り組み ②問題の明確化 5歳児にとってサッカーとは何か 子どもは、サッカーがしたいのか、それとも サッカーをして遊びたいのか 同じ「サッカー」でも、幼稚園と小学校では取 り扱う内容や価値が異なるのではないか 幼小という流れを考えたとき、幼稚園では サッカーをどのように扱うべきなのか サッカーを媒介として何が育ってほしいのか 33 ②問題の明確化 ルールについて ルールを確認して、全ての子どもが理解で きるようにした方がよいのではないか お集まりで確認する方法もある 保育者が遊びに混ざり、遊びながら知らせ ていくのはどうか 34 ②問題の明確化 スペース・ゴールについて 広さは適当なのか? 中央の部分は空いているので年長が使ってよ いのでは。年中・年少は、そこをよけて歩くこと を学ぶのも大切ではないか 線よりもゴールがあった方が目標となり、力の 加減がわかるのではないか 人数によってスペースを自分たちで調整できる ように、ゴールは設置しないで、三角コーンを用 いた方がよいのでは 年中・少のことを考えて広さは半分 だが、子どもたちから意見は出ていない 35 ③解決策の算出 子どもからはまだゴールやスペースにつ いて要求がないので、しばらく子どもの様 子を観察して、今後の方針を立てる。 方針が決定したら、年少・年中の担当保 育者にも知らせる。 36 保育カンファレンスのすすめ 保育研究 1995 多様な視点に気づきあうこと 問題に気づくこと 揺らぐこと 「ひらく」ということ 37 保育カンファレンスのすすめ ① 多様な視点に気づきあうこと 特定の子どもの話題,特定のかかわ り方といったテーマについて,それぞ れの思いを話し合い,議論を重ねてい く中で,多様な視点に気づきあう。そ のためには,それぞれの個性や考え方 を認め合う人間関係がベースにあるこ とが重要となる。 38 保育カンファレンスのすすめ ② 問題に気づくこと モヤモヤした状態にあってどうにかしたい と思っていること,自分なりの問題意識を語 り,そこからそれを問題として問い直し,も う一度向かい合ってみる。 保育の問題を自ら振り返るとき,「問題と していることの認識(捉え方)の変化」があ り、何らかの問題解決のヒントをつかんでい く。 39 保育カンファレンスのすすめ ③ 揺らぐこと ひとつの場面や行為を何度も見たり考えたり することによって,妥当な解釈や子ども理解 と思われるものが出てくるが,これは,1つの 解釈や推論でしかありえないことを認識する。 多様な視点・子ども観に触れることによって, 自分の見方とは違った目で自分の保育,子ど もの姿を見直す。つまり,多様な視点にふれ, 自分の視点に揺らぐことに意味がある。 40 保育カンファレンスのすすめ ④ 「ひらく」ということ 遊びは成長に役立つが,子どもは成長する ために遊ぶわけではない。それと同様に,カ ンファレンスは保育者の成長に役立たないと はいえないが,保育者として成長することが 目的でカンファレンスを行うのではない。 自分の問題を自由に語れる拠点として「カ ンファレンス」に参加することによって,保 育者個々や園がひらかれ,自分たちの捉えて いる方向とは違った子どもの様相が見えてく る可能性がある。 41
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