低Na血症

低Na血症
50歳 男性 意識障害(GCS:10点)、
痙攣にて救急搬送。
来院時痙攣はとまっているが傾眠。
血液検査にてNa115meq/l, Cl 80meq/l
さて次はどうする?
当然どうにかして病歴をきかねばならない。
しかし付き添いはなく、本人からは病歴聴取不可。
とりあえずは検査をすすめる。
• 検査結果が返ってきた。
• Na115meq/l K3.4meq/l Cl80meq/l
• BUN 6mg/dl, Cr0.5mg/dl
これで充分?
せめてこれぐらいは知りたい。
BS 110mg/dl,血清浸透圧236mOsm/kg Hb12.0g/dl
Pseudo-hypanatremiaは鑑別要であるが
BS100上昇毎でNa1.6mEq/l程度、
高Tg血症では2000mg/dl 以上
高蛋白ではTP>18g/dlが必要。
また痙攣などの症状は呈さない。
尿検査では、蛋白陰性、潜血++、糖陰性、沈さ RBC 0-5/HPF、
浸透圧74mOsm/kg
ここでもう一度身体所見をとりなおしてみる
• ECF Volumeの増加・・ 心不全症状、
心臓ギャロップ、
浮腫の存在
• ECF Volume 低下・・ 皮膚turgor低下、
血圧低下、
起立性低血圧
• ECF Volume正常・・上記いずれでもなければ
正常とする。
volume depletionの有無
Sensitivity
Skin,Eyes,and Mucous
Membranes
・Dry axilla
・Dry mucous membranes
Of mouth and nose
・Sunken eyes
Neurologic findings
・Confusion
Postural tachycardia
(>30/min)
(acute blood loss>600ml)
Specificity
50
82
85
62
58
82
57
73
98
99
Positive Negative
L/R
L/R
2.8
0.3
0.3
• 結果として身体所見ではあまり情報は得られ
ず、おそらく極端な脱水はないだろう。
と考えた。
• 低ナトリウム血症で痙攣したのでとりあえず、
生食を100ml/hで投与の指示をだしてみた。
• ここで家人が来院、統合失調症で
R病院通院中、水中毒で何度も入院歴ありと
判明した。
• ふりかえってみると、統合失調症の患者で水
中毒の既往が数度あり、家族によると顔は普
段よりむくんでいるようだ、とのこと。
• 本人も“お茶を6Lぐらいのんだ“とのこと
• 病歴、検査とも水中毒で合致する。
治療としてはナトリウムの補充は不要。
浸透圧低下によりADH分泌は低下
集合間での水再吸収はおこなわれず、
通常1-2日で回復する。
短期間(48時間内)できたした低ナトリウム血症では、
結果的に急速補正となってもCPMはきたさないとされる。
各負荷に対する腎臓での反応
• GFR正常ならば
100ml/min(140L/day)
– (最大)1時間で1.2L の自由水の排泄が可能
osmorecepterを介したAVP抑制により
(8時間で10L近く飲まなければ水中毒にならない!)
– NaCl
500meq-1000meqまで
–K
200meqまで
– H+
200meqまで
低Na血症の定義
Na135mEq/ℓ以下の濃度
Naは血清浸透圧の約半分であり、
細胞外液量の指標となる(例外あり)
症状:頭痛、吐き気、嘔吐、けいれん、意識障害、昏睡
低Na血症のアプローチ
①血清浸透圧をチェック
②尿浸透圧をチェック
③細胞外液量の評価
④尿中Na濃度
⑤ABGにてPHをチェック
低Na血症のアプローチのポイント
①血清浸透圧のチェック
真の低Na血症と偽性低Na血症の鑑別をする。
血清浸透圧=血清Na×2+glucose/18+BUN/2.8
普通は、低Na血症の場合は、
血清浸透圧も低下する。
低Na血症のアプローチのポイント
①血清浸透圧のチェック
真の低Na血症と偽性低Na血症の鑑別をする。
偽性低Naとは・・・・?
以下の病態で生じることがある。
高脂血症
高蛋白血症(多発性骨髄腫等)
⇒1ℓの血清中、free waterは930ml、protein/lipidは70mlを通常占めている。
Naは143mEq(154mEq/ℓ×0.93)。しかし、高脂血症でlipidが増え(乳び)
free waterが減少すると、例えば720mlならNa110mEq(154mEq/ℓ×0.72)
となり見かけの血清Na濃度が減少する。
高血糖
⇒glu<400mg/dl glu62mg/dlごとにNa1mEq/ℓ低下
glu>400mg/dl glu42mg/dlごとにNa1mEq/ℓ低下
マンニトール、γグロブリン製剤投与
低Na血症のアプローチのポイント
②尿浸透圧のチェック
真の低Na血症=血清浸透圧低下の患者で、
尿排泄(水分)が正常or異常か、を判定する。
尿浸透圧<100mOsm/kgの場合
Ⅰ何らかの原因でADH分泌が抑えられている病態を考える。
primary polydipsia、Beer potomania、Malnutrition
Ⅱ Reset osmostat(本態性低Na血症)
125~130mEq/ℓ程度のNa濃度で無症状。
低Naの進行はない状態。妊婦、低栄養、衰弱者に見られる
尿浸透圧>100mOsm/kgの場合
次のステップに進む!
低Na血症のアプローチのポイント
③細胞外液量の評価
病歴・身体所見で『減少』 『正常』 『増加』の評価
診るポイント
Tiltテスト
Skin turgor
Capillary refill time
口腔粘膜の乾燥
腋窩の乾燥
眼の落ちくぼみ
舌の乾燥
舌溝の明瞭化
立位で30/分以上の心拍数増加
収縮期血圧20mmHg以上の低下
成人では診断的価値に乏しい
成人では診断的価値に乏しい
LR+ 2.0
LR+ 2.8
LR+ 3.4
LR+ 2.1
LR+ 2.0
低Na血症のアプローチのポイント
④尿中Na濃度
細胞外液量の変化に腎臓がどのように反応し
ているかの判断材料となる。Volumeが減少して
いる場合、腎臓が適切に作動していれば、
細胞外液量を維持しようとしてNaを最大限に
再吸収する。
尿中Na濃度≧20mEq/ℓ
腎性Na喪失
尿中Na濃度≦10mEq/ℓ
腎外性Na喪失
Na欠乏時の尿中Na濃度
尿中Na濃度< 10mEq/ℓ
腎外性喪失
消化管からの喪失
皮膚・呼吸器からの喪失
3rd spaceへの移動
尿中Na濃度>20mEq/ℓ
既存の腎疾患
利尿薬
浸透圧利尿
低アルドステロン状態
代謝性アルカローシスの一部
腎外性のNa喪失の場合は尿中Na濃度は10mEq/ℓ以下になり、
場合によっては0まで低下する。嘔吐時には代謝性アルカローシス
を伴うためHCO3の尿中排泄も増加するが、NaHCO3の形で排泄される
ため、尿中Na濃度は低下しない。この場合には尿中Na濃度に見合った
尿中Cl排泄がないので鑑別できる。
低Na血症のアプローチのポイント
⑤ABGにてHCO3をチェック
腎性、腎外性でも種々の病変があり、
その鑑別に有効である。
例えば
・腎外性: 下痢⇒ acidosis
嘔吐⇒ alkalosis
・腎性:
低アルドステロン血症
利尿薬
⇒ acidosis
⇒ alkalosis
鑑別
Check 血清浸透圧
Increased
Normal
Decreased
(=hypertonic HypoNa)
glucose/mannnitol/glycine
sorbitol/γglobulin
(=pseudoHypoNa)
Lipids/Protein
=hypotonic HypoNa
Check Uosm
Washington
Manual
Uosm>100mOsm/Kg
細胞外液量のCheck
ECFをcheck
ECF増加
Una<
10mEq/ℓ
Una>
20mEq/ℓ
CHF
肝硬変
ネフローゼ
急性腎不全
慢性腎不全
Uosm<100mOsm/Kg
primary polydipsia
Beer potomania
Malnutrition
Reset osmostat
(本態性低Na血症)
ECF減少
ECF正常
SIADH
Hypothyroidism
Hypo-aldo
副腎不全
Una<10mEq/ℓ
Una>20mEq/ℓ
=extrarenal loss
=renal loss
嘔吐/下痢/発汗
利尿剤
Na喪失性腎症
浸透圧利尿
内因性腎障害
腎性Na喪失
(尿Na>20mEq/ℓ)
血清HCO3(mEq/ℓ)
<24 24~27 >27
腎外性Na喪失
(尿Na<10mEq/ℓ)
血清HCO3(mEq/ℓ)
<24 24~27 >27
acidosis 浸透圧利尿 alkalosis
acidosis
低アルドス
テロン血症
RTA
下痢
小腸ろう
低アルドス
テロン血症
RTA
発汗
alkalosis
嘔吐
胃液吸引
低Na血症の原因薬物
ループ利尿薬
フロセミド
サイアザイド系
トリクロルメチアシド
経口血糖降下剤 トルブタミド(SU剤)
抗腫瘍剤
ビンクリスチン
シクロフォスファミド
癌性疼痛用薬
モルヒネ
抗てんかん薬
フェノバルビタール
抗うつ薬
フルボキサミン(ルボックス)
SIADHの原
因
悪性腫瘍:肺小細胞がん 膵がん
中枢神経系:髄膜炎、脳血管障害、脳腫瘍、外傷
胸腔内疾患:肺炎、陽圧換気
薬物
術後
HIV感染
実践編
① 52歳男性
高血圧で外来フォロー中、意識レベル低下にて
救急室受診。来院時 血圧200/120 mmHg
口腔内乾燥所見あり。頭部CTにて、左視床出血あり。
治療としてマンニトールをIVした。この時のLabは以下
Na
k
Cl
HCO3
120
3.7
78
29
mEq/ℓ
mEq/ℓ
mEq/ℓ
mEq/ℓ
低Naの鑑別は?
Posm 253mOsm/Kg
Uosm 240mOsm/Kg
U-Na 46 mEq/ℓ
実践編
② 60歳男性
肺小細胞がんで入院中。全身倦怠感著明の状態。
理学所見上は特に異常なし。皮膚の乾燥感も見られ
なかった。この時のLabは以下
Na
k
Cl
HCO3
105
4.0
72
21
mEq/ℓ
mEq/ℓ
mEq/ℓ
mEq/ℓ
低Naの鑑別は?
Posm 222mOsm/Kg
Uosm 604mOsm/Kg
U-Na 78 mEq/ℓ
実践編
③ 74歳女性
末梢の浮腫を主訴として来院。
理学所見上は血圧140/80で肺野雑音(-)JVD(-)
体重は60kgで、べハイド1錠処方にて帰宅された。
10日後に倒れて入院。
Na
k
Cl
HCO3
112
2.9
72
28
mEq/ℓ
mEq/ℓ
mEq/ℓ
mEq/ℓ
低Naの鑑別は?
Posm
Uosm
U-Na
U-K
250mOsm/Kg
310mOsm/Kg
44 mEq/ℓ
40 mEq/ℓ
補正の仕方
初期には1~2mEq/ℓのスピードで数時間、
はじめの1日での補正は8mEq/ℓを超えないようにする。
(osmotic demyelinationのriskのため)
次の1日では10mEq/ℓを超えないようにする。
目標は125~130mEq/ℓで数日かけても可。
① total body waterの計算(BW×男60%女50%)
② IVを1ℓ入れてどのくらい補正できるかを計算
Naの予想補正値 = IV中のNa量+K量-血清Na値
予想TBW+1
③Naの補正量と②からIVの量を決める。
(目標Na値)-(血清Na値)
②
④IVのスピードの決定
N/S 154mEq/ℓ
= IV量(ℓ)の決定
3%N/S 513mEq/ℓ
補正の仕方
50歳男性 70kg 176cm
sNa 110mEq/ℓ であった。
最終目標としては125mEq/ℓにしたい。補正スタート!!
① total body waterの計算(BW×男60%女50%)
② IVを1ℓ入れてどのくらい補正できるかを計算
Naの予想補正値 = IV中のNa量+K量-血清Na値
予想TBW+1
③Naの補正量と②からIVの量を決める。
(目標Na値)-(血清Na値)
②
④IVのスピードの決定
= IV量(ℓ)の決定
① 70×0.6=42(ℓ)
② 3%N/Sで補正する
513-110 = 9.37(mEq/ℓ)
42+1
3%N/Sで9.37(mEq/ℓ)増加を予想
③初め24時間は8mEq/ℓまで
118-110 = 0.85ℓ
9.37
(850ml)
④850mlを24時間で入れる
850ml/24h = 35ml/h
中心橋髄鞘融解
(central pontine myelinolysis)