塀の中にある「国際標準」の医療 高松少年鑑別所 医務課 池田正行 法務技官・矯正医官 沼田るり子氏。2007年にセンメルワイス大学医学 部に入学し、2013年卒業。2014年に日本の医師 国試に合格。 圓山晶子氏。2007年にセゲド大学医学部に入学 し、2013年卒業。2014年に日本の医師国試に合 格。 「国際標準」の教育「環境」とは? 単位人口あたりのMRI 日本は OECD平均の 3.5倍 英国の 8 倍 ハンガリーの 15.6倍 塀の中は塀の外の縮図→国際標準 • 高齢化の進行が早い – 高松刑務所:60歳以上の割合 2007年 11.2% →2012年 21.0% • 慢性疾患有病率が高い – C型肝炎・肝硬変・肝がん、アルコール関連疾患、 生活習慣病、結核、HIV • 知的障害、認知症、貧困が犯罪を誘発 • 福祉・医療の必要度が高い • 種々の医療資源の相対的・絶対的不足 塀の外で:機械との対話で失われたもの 医者という商売 対話と共感が「生命線」 患者さんに教えてもらって 助けてもらってなんぼの商売 問診:音声言語で病気の歴史を 診察:非言語性メッセージで体の状態を 患者は「お客様」ではない! なぜなら, 我々は支払い能力により患者を 差別しないから! 患者は医師の教育者である だから医者の仕事は 患者教育! 自分は断じて惨めな病人などで はない 医師の教育者としての自覚と誇りを 患者に「取り戻して」もらう そして病を成長資源として育ってい く誇り高い自分を「取り戻して」もらう 34年前の呪い ー患者による教育の始まりー 「先生はいいですね,若くて健康で」 「あなたは私に同情するばかりで、共感 することができない」 この「攻撃」にどう対処するか? 同情:ああはなりたくない 共感:自分だったらどうするか? 病と死 その「当事者意識」を「取り戻す」 「お前は既に死んでいる」 1983-88 週刊少年ジャンプ連載 1984-88 フジテレビでアニメ化 「北斗の拳」という作品の代名詞となっており、後 年,他作品内のパロディとしてもこの台詞が用いら ることが多く、『「北斗の拳」はよく知らないけど、こ の台詞なら知っている』という人も多い。 病者から医療者への攻撃 • • • • • • あなたは若くて健康でいいですね 病気になった人間は駄目なのですか? 私を元の体に戻して下さい それがあなたの仕事でしょう その約束が果たせなければ 私はあなたを認めません 医療者は病者からの攻撃に弱い • 「病者は駄目な奴」というメッセージを発信 – 病気を治す – 病者を健常者に戻す – 心も体も健康に • 医療者は健康であるべきだ – 病者との共感が生まれない – 「患者様」と呼んで差別 • その結果,「患者様」から攻撃される なぜ患者は医者を攻撃するのか? 先程の絵を巡る夫婦喧嘩 夫 「どうだい,ちょっと値が張ったんだけど,なかなか素敵な絵 だろう.飾るのは客間がいいと思うんだが」 妻 「あなた,なんでまた,こんな気味の悪い絵を買ってきたの」 夫 「この女の子のどこが気味が悪いのさ.後ろ向きで顔が見 えないからのっぺら坊だろうって?全く君ってのはへそ曲が りな見方しかできないんだね.絵に嫉妬してるの?」 妻 「あなたこそ,頭がどうかしちゃったんじゃない.こんな気味 の悪いお婆さんを女の子だなんて」 夫 「へそ曲がりという評価は訂正しよう.滅茶苦茶だ.可愛い 少女をお婆さんだなんて,頭がどうかしたのは君の方だ」 妻 「高いお金を出して気味悪い絵を買ってきただけでも充分な のに,その上にとんでもない嫌がらせをする人なんかと,もう これ以上一緒にいられないわ」 同じ所に立っているのに共感欠如 • 医療者側から – Monster Patient – 刑事裁判 – コンビニ受診 • 患者側から – ドクハラ – 医療過誤 – たらい回し 死にゆく者としての共感形成 すでにその獲得のためのヒントを持っている私たち • • • • • 親しい友人の死 家族・親戚の死 自分の死 ある日突然やってくる(?)最大のリスク その時になって慌てても手遅れ →それこそ、リスクマネジメントでしょう →それこそ、ダメージコントロールでしょう • 生命保険だけでいいの?お金だけ? 対応の基本 共感による「武装解除」 生老病死:誰に出もある基礎控除 • 自分は悩める医療者。神でも魔法使いでもない • 自分も病者と共通点がある – 自分も病んでいる:心・体 – 自分も年を取った – 自分も死に行く者である. • 差別と対立構造を解消し,共感を生み出す 「武装解除」の基本コンセプト 従来型解釈モデル 病 健 同情=病者の否定 より“現実的” 病 健 共感=病者と健常者のつながり 死亡率,あなたも私も100% 僕らはみんな死んでいる.ただし毎日少しずつ そう言ってるのは僕だけじゃない 寺山修司だって言ってる 不完全な死体 昭和十年十二月十日に ぼくは不完全な死体として生まれ 何十年かかゝって 完全な死体となるのである (「懐かしのわが家」 寺山修司1935-83) “死体”を忌み嫌う病気(癌,痴呆)に置き換えてみましょう 生死はデジタルで分けられる? 従来型解釈モデル 死 生 死亡確認の瞬間に100→0 より“現実的” 死 生 毎日少しずつ死んでいく 毎日少しずつ死んでいくことの意義 ー死に行く・病んでいく自分との対話ー • 病者,死者も仲間と捉える –共感,仲間意識の維持と発展 • 死の意義=生の意義を考える • 死に備えることの「楽しみ」 – 肉体は減価償却 – 魂は積み立て貯金→次世代への遺産=教育! – そして目指すは「お払い箱」 私の学生時代 • 偏差値が高いという理由だけで医学部へ • 卒後への不安感で一杯 • 自分は命と金のやりとりなんてやくざな商売 には向いていない • 患者さんの転帰は期待通りに行かない場合 の方が多い • 事故と裁判を恐れていた • 「人助けをしたい」と公言して憚らない医学生 を馬鹿にしていた&羨ましかった • 卒後の進路は病理か法医学と決めていた 人が行きたがらないところ • 競争がないので日々心安らかに働ける • こつこつ働くだけで大切にしてもらえる • 葛藤 (conflict) のストレスが少ない職場 – Conflict Management不要 – 無駄な時間がなく、効率的に働ける • 競争がない→独創性が担保される • じっくり腰を据えて質の高い仕事ができる 人が行きたがらない所ばかり? • • • • • • • • • • • 1982:東京医科歯科大学卒後内科一般研修 1984:NTT東日本関東病院(神経内科) 1986:国立精神神経センター研究所(神経科学) 1988:旭中央病院(神経内科) 1990:グラスゴー大学(神経科学) 1993:埼玉県立嵐山郷(知的障害・自閉症) 1999:国立犀潟病院(自閉症・精神疾患・神経病理) 2003:厚生労働省(新薬承認審査・薬事行政) 2007:国立秩父学園(自閉症・発達障害) 2008:長崎大学(新薬開発・レギュラトリーサイエンス) 2013:現在は思春期・高齢者・医事訟務・臨床研究 25 実際にわが身にどんなことが起きるか、その99%は自力 ではどうにもならない。自分の手で未来を切り開けるという ことはない。(中略)多くの人は誤解しているが、願望達成 の可能性は、努力とも才能とも幸運とも関係がなく、自分の 未来についての開放度の関数なのである。それは「未来を 切り開く」という表現からはきわめて遠い態度である。未来 の未知性に敬意を抱くものはいずれ「宿命」に出会う。未来 を既知の図面に従わせようとするものは決して「宿命」には 出会わない。真に自由な人間だけが宿命に出会うことがで きる。(中略)潜在的願望と現実が合致した人間は、そこに あたかも宿命に導かれてたどりついたような「錯覚」を抱く ことになる。そう、「錯覚」なのである。そして、「錯覚」である にもかかわらず、「錯覚できる人間」と「できない人間」のあ いだには千里の径庭がよこたわっている。(未来の未知性 について 内田 樹) 今やっている診療・臨床研究 ー「願望」の結果ー • 思春期外来 – 気管支喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎 – 性行為感染症 – 発達障害、知的障害、学習障害、てんかん • 高齢者外来 – 認知症、知的障害、意識消失発作、てんかん – Social working – HCV肝炎・肝硬変、生活習慣病 – 熱中症、低体温症 今取り組んでいる問題 ー「宿命」・「独創性」との出会いー • • • • • • • • • • C型肝炎の危険因子の検討・治療薬薬価問題 熱中症におけるナトリウム代謝 警察・法務行政・司法の高齢化社会への対応 医事訟務・法務、医師の法的リテラシー育成 ADHDの過剰診断問題 発達障害療育の普及活動 医薬品小児適応拡大政策の国際比較 道路逆走における認知症タイプ CBNR対抗医薬品開発戦略の日米比較 コンパニオン診断薬の臨床開発 参考サイト・資料 • ただの医者じゃない – メディカル二条河原 – 一般市民としての医師と法 – 医者を辞めずに済む方法 – 発達障害戦略研究所 – 認知行動療法 (CBT) を使いこなす • 氾濫する思考停止のワナ(無料登録で) – 我々は不完全な死体なのです • 食のリスクを問いなおす(筑摩書房電子版) • マッシー池田の神経内科快刀乱麻(DVD)
© Copyright 2024 ExpyDoc